第55話姉と妹二人の初めての共闘
「ユーア、それは手首に近づけてみて? 自動でベルトが締まるから」
「え、こうですか? あっ」
「シュッ」とした音とともに、それはユーアの手首に巻き付き固定される。
「角度は自分の使いやすいように回転させて。そう、それで大丈夫。後はね――」
「は、はい、わかりました。えっと、これは何ですか?」
「ああ、それはね、こうやるんだよ。それで――」
「はい、こ、こうですか? 後は――」
私は、ユーアに渡した武器の使い方をレクチャーする。
――――――
ユーアにアイテムボックス内の武器を渡す少し前。
透明スキルの階段を二人で昇りながら、ここに来る間もずっと気になってた事をユーアに聞いてみた。
「ユーア、大丈夫? 怖くない? 私が無理やり連れてきて、今更こんな事聞くのもおかしいんだけど……」
今回の同行は、ユーアの為だとは思っている。
でもやっぱりその気持ちは気になってしまう。
無理やりに、危険な討伐に同行させたことを。
そんなユーアは――
「……ちょっと怖いです。でも、スミカお姉ちゃんと一緒にいれなくなる方がもっと怖いです……」
「な、なんでっ! 私はユーアとずっと一緒にいるつもりだよっ!」
たった数日過ごしただけでも、私はユーアと離れたくないと思っている。
この世界での、私が生きる意義はユーアの存在が不可欠だ。
でも、ユーアは私といれなくなるみたいな話をしている。
「ボクだって、スミカお姉ちゃんと一緒にいたいですっ! でも、
自分の意志を、たどたどしいながらも必死に伝えるユーア。
「うん、うん、わかったよユーア。それじゃ、お姉ちゃんの私がユーアを戦えるようにしてあげる」
そう言って私はユーアを優しく抱きしめる。
「ス、スミカお姉ちゃんお願いしますっ! ボク頑張るからっ!」
「うんっ!」
真剣なユーアの目を見て力強く頷き返す。
『ああ、そういう事なんだね。良かったよ……』
小さいユーアを抱きながら胸を撫で下ろした。
ユーアが言いたかったのは、私のランクが高い事から、自身がついて行けないと思ったからだった。
ユーアは私と一緒にいたいし、一緒に冒険者をする事を強く望んでいる。
でも私は、ユーアがどうであろうと絶対に守るし、連れて行きたいと思う。
だけど、ユーアはそれを望まない。
守られるだけでは、嫌だと。
ユーアの中で、それは
だから強くなりたいと願う。
私と同じ位置で、私の隣で、一緒に冒険者をする為に。
少し心配したけど、それが私にとっての理想だし、
そしてユーアにとってもいい傾向だと思う。
だから私は、ユーアの望みを叶える為に尽力を尽くすだけだ。
だってそれがお姉ちゃんの役目だから。
※※
「それじゃ、ユーアは
「で、でも、ボク大丈夫かな? 間違ってスミカお姉ちゃんを…………」
ついさっきまで、あれほど強い意志をみせていたのに、今は自信なさげ。
でも、それもユーアらしいと言えばユーアらしい。
そんな妹分に私は、
「ユーア、私は大丈夫。もし私に当たっても平気だから。だから心配しないでいいんだよ。それにユーアには、
ほわほわした髪を軽く撫でながら話す。
「は、はいっ!」
「それに、いきなりユーアに全て任せるわけじゃなく、私もユーアに指示を出すから、そんなに固くならないで。ね?」
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
「それじゃ、私は行って来るから、気楽にやりなよ」
私はそう言い残して、透明壁の足場から下を確認する。
その下には2メートル以上の巨躯の魔物。
粗末ながらも、様々な武器や防具を装備しているオークがうようよいる。
そう。
もうここはオーク共が多く集まる中心部の上なのだ。
「よし、それじゃ経験値稼いでくるかっ!」
一人気合を入れ、透明壁から身を翻して飛び降りる。
その際、降りる途中にも足場を展開して、村の広い通りに着地する。
トンッ
死角となる様な壊れた家々があるが、索敵モードにして位置を確かめる。
この辺りには30体のオーク共が歩いていたり、家の中にいたりする。
手始めに、残っている4機の内1つを透明スキルで展開する。
その形状は円柱。おおよそ電信柱ほどの大きさものだ。
私は展開したスキルを両手で掴む。
そしてオーク共の中心で回転するようにフルスイングする。
オーク共はまだ、透明鱗粉を纏った私を認識していない。
「せぇのっ!!」
ブフォンッ! ――
そんな凶悪な風切り音を鳴らした、私の攻撃に巻き込まれたオーク共は、
ゴッ!!
『グガッァ!!』 1体目。
後頭部に直撃し、兜らしきものごと頭蓋を砕き地面に叩きつけられ絶命する。
ガッ!!
『ゴファッ!?』 2体目。
胸辺りを横殴りで豪打し、歪な形に陥没して絶命する。
グジャ!!
『ブフッ!?』 3体目。
防具を付けてない顔面を潰し、液体をまき散らしながら絶命する。
ドゴッ!!
『オガァッ!?』
4体目。
後ろを向けていた背中に強打し、5メートル先の石壁に突っ込み絶命する。
ガンッ!!
『ブギャッ!!』 5体目。
先の4体でズレた軌道を上げて、真上から頭頂部を打ち付け、地面に埋没させ絶命する。
そして透明化から解けて姿を現す。
「ふぅ~」
そこまですれば不意をつかれたとはいえ、オーク共は一斉に私を視界に映す。
そして一斉に頭上を向き―――――
『『ブギュォォォ――――ッ!!!!』』
雄たけびなのか、怒りなのか、威嚇なのか、見える範囲のオーク共は空に向かって咆哮する。その目の前に、敵の私がいるというのに。
『『ブギュォォォ――――ッ!!!!』』
『『ブギュォォォ――――ッ!!!!』』
「う、うるさいっ! なんなの一体っ!?」
その叫びは、村中を反響するかのように山彦となって広がっていく。
途端、
ザザザ――――
「えっ? 囲まれた?」
屋根の上。壊れた家の窓。建屋の影。通りという通り。
その至るところから魔物が姿を現した。
それは50体以上もの武装したオーク共だった。
そして、その中心には私がいる。
どこもかしこも見渡す限りが敵だった。
「なるほど…… さっきの鳴き声は仲間を呼ぶためだったのか」
私は今の状況を見て、そう解釈をする。
その為の咆哮なんだと。
「さて、次はどう戦おうかな」
そんな状況でも「ゲーム内で似たような状況が数えきれない程あったなぁ」なんて思い出し、舌なめずりをし、自然と笑みが浮かんでくる。
なのでこのぐらいなら特に気にする状況でもない。
私はここで周りを警戒しながら、頭上を指さし合図を出す。
そしてすぐに、後方のユーアの真上、
その上空に赤い閃光とともに、破裂音が聞こえる。
パァ~ンッ!
『よし』
それを確認した後で、円柱の透明スキルを解除し、再度展開する。
今度は円錐形▲を4機。
(片方の先が尖った円柱のような形)
その内の2機は全体的に細くし、二刀持ちで装備する。
残り2機は、巨大な三角ポールの様な形で頭の左右に待機させる。
いずれも先端は鋭利に尖っている形状だ。
『『ブギュォァ――――ッ!!!!』』
私を囲んでいた50体のオークは、雄叫びのような声を上げながら、なだれ込むように一気に襲い掛かってくる。
「きたっ!」
タンッ
持っていた2機を強く握り、囲みが薄い箇所のオーク目掛けて、一足飛びにその間合いに入り込む。
『ブオッ!?』
私の速さに、驚愕の声を上げるオークに、握っていたスキルを顔面に突き刺す。
シュッ
『グギャッ!』
すぐさま、横からくる他のオークの棍棒の攻撃を、もう一機で下からカチ上げ、頭上に待機させていた巨大な円錐で、心臓ごと貫いて大穴を開ける。
『グガャッ!』
そして後ろを振り向かずに頭上のもう一機を操作し、オーク共2体を纏めて貫いて、首から上を破壊する。
『『ギャッ!』』
そうして薄くなった囲いを抜けて、私はオーク共の後ろに出る。
そんな私を追走しようと、オーク数体が武器を振りかぶり接近してくる。
私は透明スキルを一度解除し、叫びながら追ってくる奴らの足元に1機、もう3機は巨大な三角柱を横向きに並びで展開させる。
『『『グガッ!?』』』
ドガガッ――――
オーク共は、足元に設置した透明壁に気付かずに転倒を繰り返す。
その後方から走ってくるオーク共も巻き込まれる形で、次々に転倒して行く。
私はその上に浮かべていた巨大な三角柱(10メートル×3)を転倒している奴らの上に、ギロチンの様に振り下ろす。
グジャッ!!
『ブギャアッッァ!!』
「よしっ!」
数体を纏めて肉片に変えた私は、次に細く鋭い10メートル程の長いポールの形態で展開する。
そしてこちらに駆けてくるオーク共の群れに、投げ槍の要領で投擲する。
「んんっ!」
シュ― ンッ!
その空気を切り裂くような鋭い音で、
1投目で4体。
2投目で3体。
3投目で6体。
4投目で3体。
まとめて貫いて絶命させる。
「ユーアっ! お願いっ!」
「は、はいっ!」
次に、空中で待機しているユーアに声を掛ける。
すぐにその辺りの空間が、小さく瞬き光が飛び出す。
私はそれを確認した後で、家屋の屋根目掛けて跳躍する。
するとその家屋の上には、弓をつがえたまま硬直する4体のオークがいた。
すぐさま私は4機の投げ槍の円錐を操作して一斉に貫く。
そしてその跳躍のまま、屋根の上に着地をし、その後方で「ブグゥッ!」と短い悲鳴を上げて、
「ユーア、ありがとうねっ! 助かるよその調子ねっ!」
「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
手持ちの透明スキルの1つを、ユーアの前面に壁のように展開させる。
今のやり取りでユーアの位置がオーク共に露呈してしまったからだ。
姿は未だ透明ではあるが、万が一を考えての事だ。
「まだ、これで3分の一くらいかな?」
索敵モードを視界に映して曖昧に数えてみる。
「さあ、ユーアも頑張ってるし、まだまだ張り切っちゃおうかなっ!」
体力回復の為ではなく喉を潤すだけに、ドリンクレーション(洋梨味)を咥えながら、そう気合を入れなおした。
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