第57話不穏な空気と急ぐ少女たち




 タタッ


 私は屋根の上から、地面に向けて軽く跳躍する。

 屋根の上のオークたちはあらかた片付いたからだ。


 そんな着地する先に、3体のオーク共が待ち構えていた。


「っと」


 私は透明壁を足場にして空中に留まる。


『ブグォッ』×3


 そして、その3体のオークはいずれも動きを止める。


 私は「ぴょん」と跳躍しながら、足場の透明壁を消す。

 そして痺れるオークを飛び越えながら、3機の円錐で脳天を貫いて絶命させる。


『ガァァッ』×3


 そして、そのまま着地した私は


「ユーア、ありがとうねっ! ナイスタイミングだったよっ!」


 何もない空中を見て感謝の言葉を叫ぶ。


「うん、ボクも初めてスミカお姉ちゃんの役に立てて嬉しいですっ! それにこれ凄いんですっ! 軽くて速くてかっこよくてっ!!」


 すると今度は何もない空中から返事が返ってきた。


 それは透明壁スキルで宙に浮き、尚且つ姿も透明なユーアだ。

 普通の人なら見えないが、私が設置したんだからさすがに見える。


 そもそも本人が見えなかったら、操作できないし自分がぶつかっちゃうしね。



 笑顔のユーアに手を振って、再度索敵モードに切り替える。


 オーク共は、もう殆ど残っていない。


『………………』


 今現在残っている数は11体。


 その残りの11体は、私たちから森に向けての後方。

 多分ルーギル達がいる方向だ。


『あれ?』


 11体?


 それじゃ、離れたところにいた2体はどこに?

 


 位置的には、この後方200メートルほどに11体がいたはず。


『あれ? 今度は9体になった』


 索敵で見えるマーカーが突然2個消滅した。

 きっとルーギル達が数を減らしているんだろう。


 でもあとの2体、小さい反応と大きな反応だったものが消えている。


 さっき見たその2体の反応は、私たちのこの先300メートル程にいたはず。


 ただ、この先はMAPができていないので、正確な地形とか建物のとかまではわからないし、それと深い洞窟までは索敵できない。まぁ村の中に洞窟があるとは思えないけど。


『もしかして逃げた?』


 だったら悔しい。


 私はまだ、私の目的を果たしていない。

 スキルレベルがあがってない。


 それにあの2体はきっと上位種か、レア個体だったんじゃないかと思う。


 オークたちに命令をして、自分たちは状況によっては逃げる為に、あそこから動かなかったんじゃないかと予想する。


 残り9体。


『うん。仕方ない。きっと楽しんでいるであろう、ルーギル達には悪いけど、残りは私がいただいちゃおう。そうしよう』


 早速、私はユーアに一度合流するために索敵を閉じ、ユーアのいる場所に戻るため移動を開始する。2人でルーギル達のところに向かうために。


 それにもうこの辺りには、経験値となるオークがいなくなったから。



 トン、トン、トン、っと、スキルで足場を作ってユーアのいる空中に向かう。


「――――――」


 その際に、ルーギル達がいるであろう方向をみるが、建物が遮って見えない。

 これ以上減ってたら、もう間に合わないかも。と若干諦めながら思った。



『トロールは、それでもなんとかなるかな? ちょっと面倒かもだけど』


 そう考えているうちに、ユーアのもとに到着する。



「ユーア、おつかれさま。初めてにしては、上手だったよっ!」


 可愛い妹に、労いの言葉をかけながら、頭を優しく撫でる。


「うん、スミカお姉ちゃんからもらった、この小さい弓も凄いんだよっ!」


 私に撫でられながら、少し興奮したようにそう話す。


「それにしても命中し過ぎでしょう? 本当に初めてとは思えないよ」


「う、うんっ! ボク、石投げや、石当ても得意だったんだよ? 孤児院では負けた事なかったんだっ!」

「?」


 石投げ? 石当て?

 何それ? 私知らないんだけど。


 私が首を傾げていると、ユーアが簡単に説明してくれた。



 円の中に石を置いて、順番に石を投げて、誰が一番最初にその石を円の外にはじき出すかで、最初に円から出した人が勝ち。これが石投げ。


 石当てが、円の中に石を置いて、ここまでは石投げと一緒だけど、円の中に入れる石は、各プレイヤーの手持ちの石。それをプレイヤーが交互に投げて、一番多く出した人が勝利。みたいな感じ。


 私が子供の頃は、TVゲームばっかりだったからなんか新鮮な感じ。

 って、大人になってからもゲームばっかりだったけど。



 ユーアにそんな話を聞きながら、アイテムボックスよりドリンクレーションを出して、ユーアに渡す。もちろん私も飲む。


「ありがとうスミカお姉ちゃんっ!」

「うん」


 そう言えば、毎回ユーアに渡すのもあれだから、まとめて渡しておこうかなあ?

 ユーアもマジックポーチ持っているしね。


 そしたらユーアも好きな時に飲める。


『ん? 待てよ。毎回渡してお礼を言われるのも嬉しいんだよねっ!』


 私がそんな事を考えていると、


「…………スミカお姉ちゃん、なんか増えてるかもです」 


 ユーアが言い出す。


「ん? 増えてるって何が?」

「オークの数が、増えてるんですっ!」

「え?」


 



 ユーアの言葉を確かめようと、私はMAPと索敵モードに切り替える。

 そこに映る数は2体。


 ユーアに合流する前は9体だったから――――



「ユーア、さっきより減ってるよ? さっき9体だったけど、今は2体だから」


 私は確認して、そうユーアに告げる。


「スミカお姉ちゃん、違うんです。さっき一度全部いなくなったんです。でも急に増えたんですっ!?」

「へっ?」


『えっ!? もしかして――――』


 私は再度、索敵モードに切り替える。



 その数は2体。それは変わらない。

 ただ変わらないけどその内の1体はマーカーが大きかった。


『はぁっ? なんでっ!?』


「ユーア、ちょっと急ごうっ。その2体のところにいるのはルーギル達だからっ! 私の背中に乗ってっ!」

「はい、わかりました、スミカおねえちゃんっ!」


 ユーアを背負い、透明壁の足場から飛び降りて、直ぐに解除する。


『……………………』


 迂闊だったかも。



 多分私が、ユーアとのんびりしている時にルーギル達は全てを討伐したんだろう。


 そして、その後に2体が後から現れた。

 私と、ユーアの探知を切り抜けて。


 その2体は、私が逃げたと思った2体だろう。

 上位種もしくはレア個体だと予想した。


 私の索敵は、360度全てを索敵できるわけではない。


 私の視界に映るのはだからだ。これが、地下、地上、空、などが映った場合私が処理できないし、情報が多すぎて逆に混乱する。


 かといって、360度が全くダメな訳ではない。

 屋根の上も地下でも見える。ただそれにも死角がある。


 それは『極端に離れている』場合だ。

 

 多分その2体は、上空か地下深くからきたのだろう。


 ただ、そこまでユーアが視えなかったのが気になる。

 ユーアの能力にも何か、制限か限度か条件とかがあるのだろうか?


 今はとりあえず、二人の安否が気になる。



「ユーア、少し急ぐから、しっかりつかまっててっ!」

「はい、スミカおねえちゃん!」


 私は、ギュッと強くしがみ付いてくるユーアを確認して

 スピードを上げるのだった。




※※※※※




 時間は少し戻って、その頃のルーギル達は。



「よっしゃァッ! 4体目ェ! しっかし手応えねえなァ!!」


 俺は、オークに刺さった剣を抜き取り振るって血糊を払う。

 ビジャッとその体液が地面を濡らす。残りは9体。

 俺の周りには6体で、屋根の上のクレハンの所には3体だ。


 クレハンはオーク3体に善戦しているが、少しもたついてるように見える。 


 まぁ相手はオークとはいえ、飛び道具もっているからなァ。

 アイツの事だから慎重になってるんだろう。


「なら、さっさと、こっちは片付けちまうかァ!」


 俺は、切り掛かってくるオークの1体の攻撃を。そしてもう一体も、ここぞとばかりに、その後ろから大振りな大剣がくる、それをもう片方の剣でこれも受け止める。


 さすがに2体のを受け止めきれずに、俺は建屋の壁に押し込まれる。

 そして、その後ろにも4体のオーク共が押し寄せる。


 どおォれ、嬢ちゃんから貰った「あれ」試してみっかなァッ!


「グググググッ――――ダリャアァァァッッ!!!!」


 俺はわざと受け止めていた、オーク2体の攻撃を力一杯弾き飛ばす。そしてそのまま建屋の壊れた窓から中に転がり込む。


 筒状の『グレネード』は、飛び込む前に奴らの足元に置いてきてある。

 そして、俺は嬢ちゃんから貰った「りもこん」とやらのボタンを押す。



 ドゴォォ――――ッッッン!!



 途端に壁が破裂した。


「ウオォッ!!」


 俺はその強力な爆風により、反対側の壁まで飛ばされる。

 そして「ガンッ」としたたか背中を打ち付ける。


「あだァッ!!」


 パラパラと、爆風により飛ばされた細かい瓦礫が落ちてくる。「イデデッ」と一緒にぶつけたであろう頭を押さえながら立ち上がり、埃が舞う中俺は苦笑いを浮かべる。


「さすがに、一度に2個は、やり過ぎだったかァッ! ってかあり得ねえだろォ、この威力はよォッ!!」


 建屋の壁が半壊どころか、縦横一面そして地面には大穴が開いていた。

 建屋はほぼ全壊していた。


 「スミカ嬢よォ、威力は1個で5人くらいつってたからよ、2個にしたんだぜッ? なんせオーク共は人間よりも頑丈だからよォッ! それなのに――――」


 そこにはオーク6体分の肉片どころか、全てが吹き飛ばされいた。


「オオッ怖えッ!!」


 俺は、建屋が崩れる前に外に出ようと立ち上がり、光の方へ走り出す。


 予想以上の威力の、あり得ないそのアイテムに俺は――


「ったくよォ、アイツは元々んだよォ、1個でも十分だったぜ」


 一人愚痴りながら、クレハンの元へ急ぐのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る