第312話模擬戦決着と魔王の片鱗




 やっと、てな感じで決着がついた模擬戦。


 そうは言っても実際にかかった時間は5分だけ。


 私には有意義で、でもちょっとだけ物足りなかった5分間だったけど、アオとウオの双子の兄弟はかなり長く感じたみたいだ。


 それは――


「はぁ、はぁ、ウオ、俺たちは負けたな」

「はぁ、はぁ、アオ、英雄はさすがだった」


 そう話す、二人の様子を見れば良く分かった。


 そもそも、投影幻視って能力を駆使し私の隙を探しながら、尚且つ飛び回る大鉄球を躱し続けていたのだから、疲労困憊になるのは当たり前。


 それだけ体力も精神も削って戦っていたのだから。



「はい、これあげる」


 なので労いの意味も込めて、ドリンクレーションをそれぞれに差し出す。


「む、これは? あの時の」「回復アイテムか?」


 アオとウオの両方に練乳味を手渡しする。


 違う味でも良かったんだけど、なんか喧嘩しそうだから同じのにした。

 双子とか、兄弟って、昔からそう言うのあるじゃない。



「しかし、英雄さまは」「相変わらずのデタラメな強さだったな」


 体力だけは回復した二人が、訓練場を離れようとした私に声を掛けてくる。


「そう? それでもアオとウオも十分に強かったよ。これならナゴタとゴナタが苦戦したってのも頷けるよ」


「そうなのか?」「俺たちが何もできなかったのにか?」


「うん、それは間違いないよ。実際二人同時だったら、アマジにだって勝てちゃうんじゃないの? それぐらいの強さだと思うよ?」


 幾分驚いている二人にそう説明する。


「いや、アマジさんには」「俺達でもまだ敵わない」


「そうなの?」


「ああ、アマジさんはまだ」「色んな武器と能力―― と、ここまでにする」


「ふ~ん、武器ねぇ」


 慌てて口をつぐんだところを見ると、まだアマジには隠し玉があるんだろう。

 私との模擬戦で見せていなかった武器か、限定的な何かを。



『まぁ、確かにそうかもしれないね、アマジは私との戦いの時はあくまでも使からね。もしかしたら暗器とか、模擬戦武器ではないものがありそうだよね』


 二人の会話から、そう勝手に解釈する。

 反則級の何かを隠し持ってる可能性がある事も。



「それで最初のお願いの他に、もう一つ聞いてくれる? こっちはアオとウオの為にもなるはずだから」 


 訓練場脇に着く前にもう一つ提案する。


「なんだ? もうこの際だから」「聞けることはきくぞ」


「あのね、ナゴタとゴナタにね、時間ある時に、ごにょごにょ――――」


 私は他に聞こえないように二人の耳元でそう話す。


「あ、ああ、了解した」「出来るだけ善処する」


「うん、ありがとう。でも本当に時間ある時でいいから」


 ここまでを話し終え、みんなが待つところへ戻ってきた。






「ん? どうしたのみんな」


「お疲れなのじゃっ! ねぇねっ! カッコよかったのじゃっ!」 

「スミカちゃんっ! 完勝を通り越して、圧勝だったなぁっ!」

「ス、スミカ姉ちゃんっ! 何だったんだあの丸いのはっ!」


 すぐに私の元に駆けてきて、称賛してくれるナジメとロアジムとゴマチ。

 

 だけど冒険者のみんなは、少しだけ唖然とした表情。

 そしてルーギルとアマジはニヤニヤしながら、また私を見ている。


「………………イラ」 



 バシュッ



「おわッ! 目がぁッ ス、スミカ嬢ッ! またあん時みたいにッ!」

「うぐっ! お前は何がしたいんだっ! く、また目をっ!」


「いや、何か私の事イヤらしい目で見てなかった? また」


「は、はぁ? なんで俺がお前みたいな、ちんちくりんをッ!?」

「く、そうだっ! ギルド長の言う通りだっ! なぜ俺たちが子供などをっ!」


『ムカっ!』


 そんな二人は手で目を覆いながら、今度は余計な事まで口走る。



「……………ふ~ん、言いたい事はそれだけ? だったらもう二度と目を開けられないようにするよ? そんな変質者のような目で見られたらみんな迷惑するから。特に純粋なユーアなんか」



 腕を組み、私たちの天敵の二人をジト目で見る。

 乙女に対して子供扱いする男共を早めに何とかしないと。



 なんて冗談で睨んでいると、そんな私に――



「ね、ねぇねっ! それぐらいで許してくれなのじゃっ! ルーギルはわしの数少ない友達なのじゃっ!」


「ス、スミカ姉ちゃんっ! 親父を許してやってくれよっ! せっかく仲良くなれたんだからさっ!」


 腰に二人の幼女が泣きべそをかきながら抱きついてくる。

 どうやら私の迫真の演技にナジメもゴマチも本気だと思ったようだ。



「スミカちゃんっ! わしからも頼むっ!」

「蝶の英雄よっ!」「アマジさんたちを許してやってくれっ!」


「………………」


 幼女だけだと思ったら、ロアジムもアオとウオも駆け寄って制止しようと懇願する。必死に懸命に夢中で訴える。


「………………」


『…………う~ん、一体私を何だと思ってんだろ? 軽口に対して、本気で制裁を加える極悪非道な美少女に見えるんだろうか? それはいくらなんでも、ねぇ?』


 

 必死に頭を下げるみんなを見てちょっと不安になった。




 だが私はこの時気付いていなかった。


 アオとウオの模擬戦を見て、私への認識が変わったことに。


 私にとってはあっという間の5分間だったけど、周りの人たちが感じた5分間は、私の存在を今まで以上に認識させてしまったことに。


 その影響と戦いの余韻が、まるで私が悪の魔王のようにみんなに視えている事に。




 その後、雇い主のロアジムと、私が借りるアオとウオを混ぜて、簡単に二人の予定を組んでもらった。


 二人は近いうちにマズナさんを訪ねて話を聞く予定で、その後に工房とスラムを回り、現場と環境と人員を確認する予定だ。


 ルーギルの方は、引き続きアオとウオのような、大豆関連に知識のある冒険者と、お店の子供たちの護衛を探してもらうように頼んでみんなとは別れた。




「それじゃ、ナジメ行こうか?」

「うむ」


 冒険者ギルドを後にして、ナジメと二人でスラムに向けて歩き出す。


 

「ねぇねよ。何やら双子にお願いをしとった様じゃが、何をお願いしておったのじゃ? 大豆屋の話以外に」 


 一般地区に入ったところで私を見上げ、ナジメが聞いてくる。


「ん? あれ聞こえてたんだ。みんなのとこに戻る前に話してたのに」

「わしは、と言うか。冒険者全般、魔物を警戒する場面もあるから耳がいいのじゃ。特にわしは一人が多かったから余計じゃな、ほれ?」


 髪をかき上げ、深緑の髪に隠れている小さく尖った耳を見せてくれる。


「ふ~ん、なるほどねぇ」


 耳を見ただけで、聴覚がいいとか分からないけど軽く頷く。

 何だか微妙に得意げな顔をしていたから。



「で、結局なにをお願いしたのじゃ?」


 クリッとして目で見上げて話を戻す。


「う~ん、それはちょっとここでは言えないって言うか、きっとナゴタたちも秘密にしたいと思うんだよね? 私の予想だと」


 何となしに、二人の性格を思い浮かべてそう答える。


「ん、そうなのか? ならあ奴らが言い出すまでわしも知らぬ事にしよう」

「うん、それでよろしく。別に危ないとか変な事じゃないからさ」

「それは心配しておらぬのじゃ、ねぇねがする事じゃからなっ!」


 最後「にかっ」と八重歯を見せて笑顔で答えるナジメ。


「ふふっ ありがとうね、ナジメ――」


 そんなナジメを撫でようと手を伸ばすと……



「お~いっ! スミカぁっ!!」


「ん?」

「何じゃ?」


 背中から見知った声に呼びかけられる。


「なに? どうしたのワナイ。この前ぶりだね。こんにちは」


 小走りで駆けてきた、この街の警備兵のワナイに挨拶をする。



「ああ、こんにちは。この前ぶりって、お前適当だな。ナジメさまもこんにちは。お呼び止めしてしまい申し訳ございません」


「うむ。こんにちはなのじゃ。して、ねぇねに何かようかのぅ?」


 頭を下げるワナイにナジメが尋ねる。



「ねぇね? は、はい、実はこのスミカが、昨日またやらかしたとの通報が数件、住民たちから入りまして、それで警告しようと探していたんです」


「ううむ、やらかすとは、あまりいい雰囲気ではないのう、してその内容とは?」


 この街の領主を前に緊張気味に話すワナイ。

 それを聞いて私を心配してか、代わりに説明を求めるナジメ。

 


「…………………」


 私はそんな二人を見て無言になる。


 もの凄く思い当たる節があったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る