第313話パ〇ツ報告人リターンズ
「うぬっ、やらかしたとは、あまりいい響きではないのぅ。して、その通報とやらはどんな内容なのじゃ? ねぇねが人様に迷惑を掛けるとは思えないのじゃが」
黙りこくってる私を心配して、代わりにナジメが聞いてくれる。
「実はですね、以前にもあったんですが、スミカは急いでる時に、子供を抱いて屋根の上を走る傾向があるらしいんですよ」
「………………」
「あ、それで危険じゃからと、近隣から通報をされたという事かのぅ?」
ナジメは合点がいったと風に手の平を叩く。
「はい、その通りです。それが今回は、身なりのあまり良くない見知らぬ子供を抱き、屋根を駆け回ってた姿を見られてたってわけです」
「う~む。なる程なのじゃ」
そこまで話が終えると、ナジメとワナイが私に視線を向ける。
「………………ごめんなさい」
ヒョイと短く手を挙げ二人に謝る。
ワナイの話を聞いて、思い当たる節があったからだ。しかも数回。
但し今回は昨日の事。
身なりの良くない見知らぬ子供。
それはスラムから来た女の子、ボウの事だろう。
それで私の姿を見たのは、ボウを抱いてスラムに向かう時とその帰り。
確実にその時だろうと思った。
なのですぐさま罪を認めて自供した。
だけど何やら話が続いている……
「――――それでですね、今度は『真っ赤』だって言うんですよ」
「ぬ? 『真っ赤』とはどういった事じゃ? もしや血まみれ?」
「あっ!!」
ワナイの一言である事も思い出す。
それは――――
この街にはパンツ報告人のワナイと、中身を報告する謎の住民の存在がいた事を。
「違います。それはスミカのスカートの中身ですよ。もちろん」
『くっ!』
当然とでもいうように、人差し指を立ててパンツの色を報告するワナイ。
「はえっ? なぜパンツの色がそこで出てくるのじゃっ!?」
『うっ!』
それに対し、意味が分からないと言った様相で聞き返すナジメ。
「屋根の上を派手に駆けてますからね、下から見えてしまうものかと。それと中身の色は、毎回通報してくる住民がいるんですよ。『その色が証拠になるから』と言って。なので一応伝えてるんです」
「うむぅ、その住人が正しいかどうか別として、ねぇねは昨日、通報にあったように真っ赤な下着を身に着けておったのか?」
「へ?」
「もしそうじゃなかったら、その住人の見間違いなのじゃ。そしてねぇねは無罪なのじゃ。それで実際はどうなのじゃ? ねぇねは真っ赤なパンツじゃったのか?」
「ちょ、なんで自供したのに、自分から色を言わなきゃならないのっ!」
突然のおかしな話の流れに異を唱え絶叫する。
「そうだぞ、ナジメさまのおっしゃる通りだ。濡れ衣の可能性もあるんだぞ」
そこにワナイも割って入り、ナジメを援護する。
「は、はぁっ?」
何? ワナイは私の自供より、領主としてのナジメの肩を持つのっ!?
この殆ど街に来なかった、ポンコツ領主の?
「いやいやっ! そもそも私の衣装で判断できたでしょうっ! 前はそれで判断してたよね? 色は関係なかったよねっ!?」
二人の嫌な視線を下半身に感じながら捲し立てる。
「そうは言うが、ねぇねよ。その以前とは状況が変わっているのじゃよ? ねぇねは色々と有名になっておるから、真似をするものが現れてもおかしくないのじゃ」
「そうだぞ、スミカっ! ナジメさまの言う通りだ。衣装もそうだが、屋根の上を駆けるぐらい冒険者でも訳ないからな。もしかしてスミカを妬んでの事かもしれんぞ?」
真剣な顔つきでそう説明するナジメ。
どうしても私の潔白を証明したらしい。
そしてそんなナジメに乗っかるだけのワナイ。
完全に権力に屈している。
「ちっ!」
所詮公務員は身分に抗えないのか……
「どうなのじゃ? ねぇねよ」
「どうなんだ? スミカ」
「くっ!」
一体何なのこれっ!
なんで異性の前で、昨日身に着けた下着の色を暴露しなくちゃいけないのっ!
しかも人気の多い街の中でだよっ!
この場合「はい」か「いいえ」どっち選んでもハズレだよねっ!
「どうなのじゃ、昨日は「真っ赤」を履いていたのか? その下に」
「スミカ、どうなのだ? 昨日のパンツの色は」
唇を噛んで俯いている私に更に追及する二人。
「なんだ? 英雄さまがワナイに捕まってるぞっ!」
「しかもナジメさんも一緒だっ! 一体何が?」
「また何かやるのか? スミカさんが」
「いや、そうじゃなくパンツって聞こえたぞ。色がどうとか」
「はぁ? なんで英雄さまのそんな話になってんだぁ?」
『いいいっ!?』
そんな騒ぎを聞きつけ、多くの街の人たちが気になり集まってくる。
しかもなぜか男たちばっかり。
「ねぇね、もう吐いた方がいいのじゃっ! それがねぇねの為にもなるし、何かあったらわしが英雄さまを助けるのじゃっ! だから一気に言って楽になるのじゃっ!」
「そうだぞスミカ。その方が自分の為でもあるんだぞっ!」
その注目具合に触発されたのか、ナジメが胸を張り得意げに熱く語りだす。
そしてそれにまた乗っかるだけの、国家権力の犬の糞のワナイ。
「わ、私は、昨日、ユーアと一緒の……」
みんなの視線を前に、観念して私はポツリと口を開く。
と言うか、いい加減心が折れそうだった。
誰も私の気持ちを察してくれなくて。
「うん? 昨日はユーアと一緒じゃったのか? ねぇねは」
「ユーアもお前と一緒で真っ赤だったのか?」
「あっ! ち、違うっ! ユーアは関係ないっ!」
聞き返す二人に「ぶんぶん」と手を振り、慌てて訂正する。
し、しまったぁっ!
流れでユーアの中身まで暴露しちゃうとこだったっ!
そんな事をしたら、あらぬ姿を想像する変態が現れる可能性がっ!
『も、もうこうなったら――――』
最後の緊急脱出の手段を使うしかない。
「あっ! 屋根の上に爆乳姉妹のナゴタとゴナタがスッポンポンで走ってるっ!」
そう叫び、適当な方向を指さす。
「「「な、なんだってぇっ!!!!」」」
それに反応して、一気に私への注意が無くなる。
さすがお色気担当の二人の効果は抜群だ。
『よし、いまだっ!』
ガバッ
「んなっ!? ねぇね?」
みんなの視線が屋根に集中している内に、ナジメを抱き透明化する。
『よっ!』
そしてそのまま屋根の上に出てスラムに向けて走り出す。
誰も私には気付かずに抜け出すことが出来た。
タタタタタ――――
「ふぅ、危なかったぁ」
これでユーアの平和が守られた。
今後も男どもの変な視線に怯える事もないだろう。
「…………ねぇねよ。お主はいつもこんな事をやっておるのか? 迷わず屋根を上がったところをみると、どうやら犯人はねぇねで間違いなさそうじゃなぁ…………」
どこか呆れたような口調で話す、腕の中のナジメ。
「それとナゴタとゴナタには謝っておくのじゃな。ダシに使ったあ奴らが、変質者だと思われても可哀想じゃからな」
「………………うう」
ユーアは男たちの変な視線から守ることが出来たけど、
「じ~~~~」
『うっ』
私を見上げるナジメの視線だけが痛かった。
そんなこんなで街とスラムを分ける境界線に着いた。
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