第194話意外と強敵なの!?


※この物語は作者の創作の世界になります。


 他の作品の設定や、現実の倫理観とは

 異なる場合がありますので予めご了承ください。





 


「なぁっ、もしスミカ姉ちゃんたちが負けたら、そのぉ……謝るだけ?」

「うん、一応その約束だけど。立会人もいるから反故には出来ないと思うけど」

「う、うん。それならいいんだけど……」


 ゴマチは私たちの敗北した時の内容を確認して、言葉を濁らす。

 実際はそれだけでは済まないが、今はそれを伏せておく。


 冒険者ではないゴマチには、今はね。



「何でまた?」

「……ナジメは別として、スミカ姉ちゃんと姉妹の二人は、親父たちに勝てないかもしれないからさ……」


 そう言いゴマチは下を向き目を伏せてしまう。

 言った事に対して申し訳ないといった感じだ。


「何言ってるの?ゴマチちゃん。スミカお姉ちゃんは負けたことないんだよ?きれいで、強くて、優しくて、ボクの英雄なんだよ?ボクたちのリーダーなんだよっ!絶対に負けないよっ?」


「そうですよゴマチさんっ!そんな事言うのは無意味です」

「そうだぞゴマチちゃんっ!お姉ぇは最高なんだぞっ!」

「そうよゴマチっ!スミ姉が負けるって、馬鹿な事言わないでよっ!」


「…………ゴマチよ。その訳を話してはくれぬか?何かあるのじゃろ?」


 ナジメを抜いた、私たちの敗北の可能性を聞いてユーアたちが一気に捲し立てる。特にユーアが珍しく声を荒げていた。そしてナジメだけは冷静にゴマチに聞き返していた。


「……そんなに強いの?あなたのお父さんと、その取り巻きの3人」


 私はまだ下を向いているゴマチに聞いてみる。

 知ってるなら少しでも情報を集めるために。



「……親父たちが腕っぷしだけで偉くなろうとしてるのは――」

「うん、知ってる、そんで家にもあまり帰ってこないって」

「う、うん。親父たちは冒険者で言うところの、全員Bランクくらいの強さらしいんだよ。これはじいちゃんが言ってたんだけど……」

「Bランク……だったらナゴタとゴナタのコンビ戦なら勝てるんじゃないの?もし私が負けてもナゴタとゴナタとナジメがいるんだから」


 と、客観的に言ってみる。


 シスターズが何か言いたそうにしてるけど、それは視線で抑え込む。

 口を開くとまた騒ぎになるから。


 単純にランクだけの話ならば、ナジメは圧勝。

 そしてコンビのナゴタとゴナタなら辛勝。

 最後の私はそれで言うと何もできずに惨敗。そんな感じ。


 戦績だけで言えば、これで2勝1敗。冒険者チームの勝ち。

 最終的にはそんな予想になる筈だ。


「まぁ、そうなんだけど、親父たちの仲間に双子がいるんだよ。もの凄く息が合って強いらしいんだ。それに何か変な力を使うみたいだし……」


 変な力?


「なら、尚更ナゴタとゴナタの勝ちは揺るがないよ。二人は12歳からコンビで冒険者をしてるんだから。こっちだって負けてないよ」


「うん、これもじいちゃんから聞いた話なんだけど『アオ』と『ウオ』っていうんだけどその双子は。一人でもBランクの強さなんだけど、二人で戦うとAランクにも引けを取らないって言うんだ。それぐらい強いって言ってたんだよ。だからさ……」


 『勝てないかも……でも俺は…』とゴマチは呟き皆を見渡す。

 その顔は泣きそうでも、それでも何かに堪えてるのと複雑な表情だった。


 そんなゴマチに声を掛けようと口を開くが、


「あのね、ゴマチ――」


 ガバッ


「はぁっ!?バカじゃないゴマチっ!あんたはスミ姉とナゴ師匠たちの戦いを見たことないから、そんな事言えるのよっ!絶対に負ける訳ないじゃない?だからそんな暗い顔しないでよねっ!いちいち辛気臭いのよっ!」


 それは、ゴマチに向かい仁王立ちで叫ぶラブナに遮られる。

 背を丸くするゴマチへの、ラブナなりの気遣いなのだろう。


「まぁ、ラブナの言う事も最もなんだけど、それに私も結構強いよ?一応ナジメにも勝ってるし。仮にも英雄なんて呼ばれてるし」


 ラブナの言葉に付随してそんな事を言ってみる。


「へっ、ナジメが負けっ!? ほ、本当かっ?ナジメっ!!」


 それを聞いたゴマチは顔を上げナジメに向かって声を荒げる。


「うむ。本当じゃ、と言うか、昨日の話なんじゃがゴマチは見てなか――ああ、貴族街までは話題が行かなかったのかのう?冒険者の話じゃったからか?」


「ほ、本当にっ!?」


「ああ、本当じゃ。わしはねぇねに手も足も出なかった。そしてねぇねのパーティーにも頭を下げて入れて貰ったのじゃ。さっきもユーアが言っていたが、ねぇねはこのパーティーのリーダーじゃ。もちろんわしも認めてるし、ナゴタとゴナタも異論はなかったそうだ。それが当たり前じゃからな」


「こ、この蝶の姉ちゃんそんなに凄いのっ!?あ、スミカ姉ちゃんだった」


「うん、だってボクの自慢のお姉ちゃんだもんっ!!」

「だからさっきからワタシそう言ってるじゃないっ!信じなさいよねっ!」

「そうですよゴマチさん。お姉ぇさまは最高なんですっ!」

「あっ!それはワタシがさっき言った事だよナゴ姉ちゃんっ!!」

『わう~~~~っ!!』


 ナジメに続き、ユーアたちも私の言葉に後押しをしてくれた。

 どうやら今の騒ぎでハラミも起きてしまったようだ。


「そういう訳だから、そんなに自分を責めなくていいよ。私たちは絶対に負けないから、ゴマチももっと気を楽にしなよ」


 と、ゴマチの肩に手を置き声を掛ける。

 少しでも罪悪感を取り除いてあげる為に。

 ちょっとでも心を軽くしてあげる為に。


 だったんだけど、


「わ、わかりましたスミカっ!あなたが何者でも信じますっ!もう絶対に疑いませんっ!!」


 そこには体も言葉もガチガチになっているが、目だけはやたらキラキラさせているゴマチがいた。



『あれ?』


 逆効果だったの?


『それでも思い詰めるよりはいいのかな? それに――――』


 それに私はゴマチの父親アマジに聞いて確かめたいことがある。

 あの怨念にも似た冒険者に対しての想いは何かおかしい。


『……それとゴマチの背中のあの傷跡も』


 ゴマチは場所が場所だけに気付いてるかどうか分からないが、最初にユーアとゴマチを洗い流した時に、大きな古傷があるのが目に入った。


 あれ程のケガなら父親のアマジが知っていてもおかしくはない。

 それと複雑な親子の関係も気になる。


 その為には勝利してその権利を手に入れる。

 それで有無を言わさず問い詰める。


『あと、ゴマチには言わなかったけど、この戦いって結構重要なんだよね』


 この戦いで、もし私たちが負けたらアマジは更に増長するだろう。

 この街の冒険者は弱く、英雄も大したことないって。


 Aランク?Bランク? 

 何それ、子供でも簡単になれるんじゃないって。


 そんな弱小ギルドがこの街に必要なのか?

 冒険者の制度そのものがおかしいんじゃない? みたいな。


 そうは言っても国絡みの事なのでアマジ個人に何かできるとは思わない。

 余程の権力や何かの力を持ってない限りは。


 ただ、そう言った疑念や疑惑が出る可能性は大いにあるだろう。

 そうなると冒険者全体の信用問題にも発展する恐れもある。


『だから、私たちの為でもあるけど、冒険者の存在そのものに関わる話になるかもしれないんだよね。後々は』


 それとこれが一番の念頭にある事、


『後は、姉妹の二人を馬鹿にしたこと、そしてユーアを侮辱した事は許すことは出来ないだから――――』


 絶対に泣いて土下座させてやる。


 これが今回の一番の目的だ。



 そしてその後も話し合いは続いたが、ゴマチを含む、年少組がウトウトし始めたのでお開きにした。



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