第244話炸裂!見様見真似の真空投げ
「全くよぉ、何やってんだお前らはッ」
「中々見どころがあって面白かったですよ。わたしは」
頭を掻きながら苦笑したルーギルが現れ、
その後ろには微笑んでいるクレハンが付いてきている。
「別に私のせいじゃないし」
「ぷいっ」とそっぽを向いて答える。
その際に、この騒ぎの渦中にいた親子が目に入る。
「………………」
「ううっ…………」
どうやら少しは反省しているようで、気まずそうに目を逸らす。
「あのぉ~、わたしから見ればスミカさんも似たような事をしてるんですが?」
「えっ!?」
クレハンが私にそんな事を言ってくる。
「そ、そうだぞスミカ姉ちゃんも同じだぞっ!」
「そうだな。スミカも同罪だ」
「はぁっ?」
それを聞いて反撃してくるアマジ親子。
「い、いやっ、ちょっとそれはおかしいでしょうっ! だって私はあいつらを治してあげたし、二度もこの親子にチャンスを上げたのに、それを台無しにしたんだよっ? だから私は悪くないよっ! ね、そう思うでしょ? ユーアもっ!」
私は親子の視線と、ギルドの二人の目が訝し気なものに気付く。
なので傍らのユーアに頼って聞いてみた。
「ね? ユーア」
ユーアならきっとわかってくれるはず。
そう思い視線を向けるが
「うっ」
嘘でしょう?
そこには他の4人と同じ目をしたユーアが私を見ていた。
「スミカお姉ちゃん……」
「な、何かな? ユーア」
「ボクはスミカお姉ちゃんの味方でいたいけど、でも……」
「う、うん。でも?」
「でも間違ったら謝らないといけないと思うんだっ」
「………………ごめんなさい。みなさん」
私はユーアの一言を聞いてみんなに頭を下げる。
「お、おおうッ! 何か今日は馬鹿に素直だなッ! スミカ嬢よぉッ!」
「そ、そうですねっ! 少しだけ驚きましたよ。明日は雪でしょうか?」
「ほらなっ! ユーア姉ちゃんの言う通りだぜっ!」
「お前に似ず、妹は常識を知ってるな。感心する」
「くっ!」
謝罪した私をわざわざ小馬鹿にする4人の悪魔たち。
何だって頭を下げたのにこんな思いしなくちゃならないのっ?
でもこれも仕方ない。
私はその全ての悪口を受け止めるよ。
『だって、今日のユーア。なんだか恐いんだもん……』
お姉ちゃんは妹に嫌われるのが一番のお説教なんだから。
だから私はネコを被る。妹の前では。
※※※
「それで結局どうなるの?」
私はいつまでも進まない話の先を促す。
いつ男たちが目を覚ますか分からないから。
「どう? て、何だ? スミカ嬢よォ」
「はぁ? ルーギルあなた忘れたの? この馬鹿な冒険者が何かしでかすからって、私たちとアマジたちが一芝居打って頑張ったのに?」
私は呆れたようにそう問い返す。
忘れてるとは思わないけど、何だかスッキリしない返答だったから。
「ああ、実はそれなんだがよォ。おいッ! ワナイ」
ルーギルは返事の代わりなのか、誰かの名前を呼ぶ。
「ワナイって?」
確かこの街の警備兵の人だよね?
私のパンツ露出報告人で
ナゴタたち姉妹との模擬戦で大勢の見物人を集めてくれた。
「よおっ、スミカ一昨日ぶりだなぁ」
「そうだね、あの時は人集めてくれてありがとうね」
ギルド建屋の陰からワナイが姿を現す。
そして一人の男を連れている。
「ま、まさか、また?」
私は咄嗟にスカートを抑え込む。
何やらワナイが私をジロジロと見ているから。
「ああ、違うぞ。あれから報告は来ていない。ただお前の姿が珍しかったんでな。それで見惚れてたってわけだ」
「あ、ああなる程ね。ワナイも若い女の子が好きって訳だ」
「いや、お前は色々若すぎる。もう少しあちこち成長してからだな」
「あちこちって?………………」
「…………それで俺が今ここにいるのはな――――」
私から目を逸らし、後ろに連れている男を引っ張り前に出す。
連れられた男はロープで両手首を拘束されていた。
「あ、この男って」
Cランクパーティーの残りの男だ。ナイフ使いの。
ここに来る前に、ユーアが痺れさせて私が捕まえた。
「お、お前はっ!!」
「っ!?」
「え?」
その男は私とユーアを視界に入れた途端動き出した。
縛られていたロープは切られていた。
そして口にはナイフが咥えられていた。
恐らくは口内に隠し持っていた小型のナイフだろう。
それで拘束を解き、動けるようにしたのだろう。
「お、お前のせいで俺は警備兵に捕まったんだっ!」
ダッ――
「えっ?」
「っ!?」
口に咥えたナイフを両手に持ち替え、ユーアに向かって突進してくる。
その動きはCランクらしく、瞬きの間でユーアとの間合いを詰める。
だがその男の凶刃はユーアに届く事はない。
私がそんな凶行を見過ごすわけがないからだ。
「はっ? なっ!?」
男の体はユーアに一歩踏み出した瞬間に宙に舞う。
短い悲鳴を上げながら、10メートル程上空に。
だが、その男にダメージはない。
私の投げの効果で、ただ宙に浮いただけ。
もちろんそれだけでは済まさない。
ユーアを狙って無傷なんてあり得ない。
「んっ」
タンッ
私は落下を始めた男の背中に飛び乗る。
そしてノドに後ろから手を回し、もう片手で両足をロックする。
そうして空中で身動きも、声を発せない男は地面に向かって落下するだけ。
「ユーアに手を出したらこうなるから、次からは本気出すからそのつもりで」
「ウ"ウ"ッ!?」
私は男の耳元でそう話し、そのまま躊躇なく地面に叩きつけた。
「ウ"ウ"ウ"ッ――――ッ!!」
ドォゴォォ――ンッ!!
「グガァッ!!」
そうして最後の男も気を失い、残りの4人も合わせて拘束された。
※※
「それで結局どうなってるの? 何となく想像できるけど」
私はワナイとルーギルたちを睨む。
「いや、お前がどうなってんだッ! なんでナイフ男は飛んでったんだッ!」
「そ、そうですよっ! 動いたと思ったらすぐさま宙に舞ってましたよっ!?」
ルーギルとクレハンは私の質問は無視して、興奮したように詰め寄る。
「あれは『空気投げ』と呼ばれるものだろう? スミカ」
「え? アマジは知ってるんだ。どこかで見たの?」
アマジがルーギルと私の話に加わってくる。
「ああ、投影幻視を取得した国で見た事がある。だがあそこまで、相手が飛ばされたのは初めて目にしたがな」
「でも私のは見様見真似の自己流だから、本物じゃないんだよ」
「ああ、それでもあれは見事だった」
「スミカお姉ちゃんカッコよかったですっ!」
「スミカ姉ちゃん本当に凄げぇなっ!!」
アマジは「うんうん」と顎に手を当てながら頷いている。
何やら感動しているようだ。
その後ろではちびっ娘組がキラキラした目をしていた。
これで私の株も持ち直しただろうか?
「て、今はそんな解説してる場合じゃない。ルーギルっ! 説明してよね」
私は何やらアマジと一緒に頷いているルーギルに声を掛ける。
ワナイがいるから、何となく予想は付くけど一応ね。
きっとアマジ親子とワナイは一部しか分からないと思うから
それの答え合わせだ。
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