第245話全ては最初から決まってた?



「それで、何でワナイが食い逃げナイフの男を捕まえてきてるの?」


 私は拘束された男たちを眺めてルーギルに尋ねる。

 そんなルーギルは後頭部を掻きながら口を開く。


「んあッ、それはスミカ嬢から食い逃げした仲間の事を聞いた時に、他の冒険者に事実確認に行かせたんだよッ」


「それで?」


「それで報告を受けたのがついさっきって訳だァ。ここからは――」

「どうせクレハンでしょ?」


 私はすぐさまルーギルに突っ込む。

 どうせ小難しい話とか、長い話は頭脳担当の副ギルド長に出番だと。


「そうですね、ここからは私が説明させていただきますね」


 みんなを見渡しながらクレハンの説明が始まった。



――――――



 その話をまとめて時系列で言うと……


・アマジが絡まれているのを目撃する。そこに私とユーアがたまたまいた。

・それを見て、何とかこの場面を利用できないかと考える。

・食い逃げの話を聞いて、すぐさま他の冒険者へ事実確認へ行かせる。

・屋台のおじさんに、ワナイを呼び連行されたことを聞く。

・そしてその道中で見付けてここまでくる。


 簡単に説明するとこんな感じだった。



「あれ? でもこれって何か抜けてない?」

「ああ、そうだな。俺たちが絡まれた男たちの事が含まれていない」


 クレハンの話だけ聞くと、食い逃げナイフの男の事実確認だけ取れれば、OKな内容に聞こえる。絡まれた男の話は殆ど入ってない。


 私がルーギルに食い逃げの事を話をしたのが、切っ掛けぽくなっている。

 はなからそれだけで良かったんじゃないかと思う程に。


「そこんとこはどうなってるの? ルーギル」


 私は微妙に予想と違う話に困惑する。


 食い逃げと、4人の男たちの両方の事を知ってるはずなのに

 その話が余り関係ないみたいな感じだった。


「あ、ああそれはよォ、クレハンの奴がな――――」

「ちょ、ちょっとそれはギルド長が先に言い出したんですよぉっ!」

「いや、お前だってッ! 見たいとか言い出したんじゃねえかッ!」


「………………」

「………………」


 私とアマジを置いて、何やら二人で言い争いが始まった。


「でも先に面白そうだって言いだしたのはギルド長ですよぉ!」

「でも考えたのはクレハンだろうォ?」

「実行に移したのはギルド長、あなたですよっ!」

「ああんッ? クレハンお前裏切るのかァッ!!」


「はぁ、もういいよ」


 私は醜い二人の言い争いを止める。


「要するに、あななたちは私たちをけしかけてそれを面白がってたって事?」


 要約すると多分これで合っている。


 それは戦闘好きな二人が、私とアマジが絡まれて

 どう男たちをボコすのかを見たかった事。


 恐らくこれで間違いない。二人の話の流れ的に。


「あ、ああ。それとあいつらには、元々釘を刺しておいたんだよッ」

「なんて?」

「次に仲間内で何かやらかした場合は、お前らの冒険者登録を解除するとなッ」

「それで、その次ってのが食い逃げした男の話だって事?」

「そうだッ。その確認が取れたから実際は後の4人も、もう終わりだったんだッ」


「………………ふ~ん」


 ここで私は一度考える。


 これってやはりアマジも私も関係ないよね?

 だった私がルーギルに報告した時点で、本当は終わっていた話だもん。

 あの4人の男たちと戦う必要性はなかったよね?



「そ、それでも確認が取れたのがついさっきなので、決して無駄ではなかったんですよっ? アマジさんのあの素晴らしい演技も、スミカさんのあのも」


「そ、そうだぜッ! お前らがを打つのも見れたかんなッ!」


「………………」

「………………」


 何やら二人とも説明じゃなく、途中から言い訳がましくなってきている。

 全ての理由は分かったけど、これで得したのは冒険者ギルドだけだろう。 


 私たちはただ単に、ルーギルたちの退屈しのぎに利用されただけだろう。

 二人の話を聞いてそう思った。



「………アマジ。こいつらどうする? 私たちで遊んでただけだよ」

「そうだな。俺も空気投げを練習してみたいのだが」


「はぁッ!?」

「えっ!?」


「それはこの状況だとちょっと難しいから、違う投げ技教えてあげる」

「ああ、スミカよろしく頼む」


「なァッ!?」

「あ、あああっ!!」


「それじゃ二人まとめてやってみるよっ!」

「ああ」


 私は予告して二人の懐に一足飛びで潜り込む。


「よっと」


 ガシィ


 そして手首を取り一瞬で――



 ヒュ~~~~ン



 と、二人のギルド長コンビを空中に放り投げる。



「うおぉ――――ッッ!!」

「わあぁ――――っっ!!」 


 そうして私は何度も「浮かせ技」をアマジに披露したのだった。

 それは二人が吐くまで続けられた。



――――――



「それじゃ、もう帰ろうか? ユーア」

「はい、スミカお姉ちゃん」


 ルーギルもクレハンも仕事に戻り、ワナイも騒ぎの男たちを連行していった。

 元々の予定だった、オークとトロールの報奨金と分配も終わった。


 報奨金についてはかなり色を付けてくれた。当分生活費には困らなそう。

 それにまだまだアイテムも討伐した魔物もあるからね。


 なので今ここにいるのは私たちと、アマジ親子だけ。


「なら俺たちも用事が済んだのでな。一緒に歩くとしよう。それにお前のその格好だと、まだまだ絡まれそうだからな」


 私とユーアのやり取りを聞いていたアマジがそんな事を言い出す。


「え? 何それ。今度は白昼堂々とお持ち帰り宣言?」

「は? お持ち帰りとは?」

「家に女の子をだまして連れ帰るって事だよ」

「はぁ? なぜ俺がお前みたいな幼児体――――」

「いいって別に言い訳しなくても。どうせ私のイメチェンした姿を見て見惚れてたんでしょう? だってたまに目が合ったもんね?」

「い、いや、だから俺は子供には。それに目が合うぐらい誰でも――」


「親父…………」

「ゴマチちゃんのお父さん……」


「うううっ」


「ホラね。子供たちだって引いてるよ? いい年した大人が若い娘を家に連れ込もうとするから。しかも娘の目の前でさ」


「はぁ、もういい。ゴマチ俺はそんな事しないぞ」


「まぁ、全部冗談だけどね。それじゃ行こうか」

 

 そう言ってユーアに手を出しながら歩き出す。


「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」


 私の手を笑顔で握り返しながら4人で帰路につく。


 ユーアを真ん中に私とゴマチが手を繋ぐ。

 その後ろではアマジがとぼとぼと歩いてくる。


 こうして私の蝶を脱いだ休日は、終わりを告げたのだった。



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