第243話迫真の演技を巻き戻す親子




『あちゃ~、やっちゃったよぉ……』


 私はまた気絶してしまった男たちにリカバリーポーションを使用する。

 正直何でこんな奴らに? 何て思わなくもない。


 それでも使用するのはユーアたちの目が怖かったからだ。


『何か今日は色んな事でユーアを呆れさせてた気がするよ……』


 ログマさんのところ然り、冒険者ギルドに着いてからも。



「それじゃすぐに目を覚ますから、打ち合わせ通りにお願いね」


「う、うむ、わかった努力する」

「う、うんスミカ姉ちゃん」


 私はアマジ親子にそう声を掛けて、また訓練所脇に移動する。


 すると――――


「うう、俺たち、なぜ地べたで寝てるんだぁ?」


「うあ、ああ、俺たちは一体……?」

「痛つっ、あん? どこも痛くねぇなぁ?」

「何だ? 装備が所々破けてやがる……」


 一人が目を覚まし、続いて3人も目を覚ます。

 まるでさっきの巻き戻しのような光景だった。

 因みに起きた時のセリフも一緒だった。


 ただ同じに見えて1点だけ違いがある。


 それは――――


「お、お前らなんで殆ど素っ裸なんだっ!?」

「は、はぁ? そう言うお前だってっ!」

「なぁっ? 何で起きたら装備が無ぇんだっ?」

「うおっ! ズボン以外ほぼ全らになってやがるっ!?」


 私があいつらをぶっ飛ばしたせいで、更に装備がボロボロになっていた事だ。


 そんな些細な違いだった。


「………………」

「スミカお姉ちゃん。ささいなの? あれって?…………」


 隣にいるユーアの視線がまた痛い。

 どうやらまた声に出してしまったようだ。


 そもそもはアマジが悪いっていうのに……

 最初から成功してればこんな事にはならなかったのに。


 あの親子には昨日に続いてかき回されっぱなしだよ。本当に。





「う、うぐぅっ、や、やるなお前らっ! さすが高ランク冒険者だ。くっ」

「お、親父ぃ~っ!」


 男たちが目を覚ますと同時に、アマジが苦痛の表情で片膝を付く。

 そして脇腹を抑えて苦しむ父親に駆け寄る娘のゴマチ。


「は、はぁはぁ、だが俺はまだ倒れん。娘を馬鹿にされたままなっ」

「親父ぃ~っ!!」


「はぁっ!?お前はっ!!」

「何がっ!?」

「こ、これ、もしかして」

「お、俺たちがっ!?」


「う、ぐう。そうだ。お前らは強く、そして速かった……。俺が仕掛けるあっという間にやられていた……気付いたら攻撃を受けていた」


「親父大丈夫かっ!?」


「あ、ああ何とか大丈夫だ。俺もBランク相当と言われた手練れ。まだ戦えるさ。お前を馬鹿にされたままでは引き下がれないからな」


「親父ぃ~」


「ゴマチお前はもう下がれ。巻き込まれるぞっ。こ、これが俺の最後の攻撃だっ! お前たちも死力を尽くしてかかってこいっ!」


 苦し気に男たちに言い終え、立ち上がり構えを取るアマジ。

 気力も体力も限界だ。


 だが男たちを見る鋭い眼光は失われていない。

 アマジはここからの逆転を考えている。

 自身の勝利を信じている。


 誰が見てもそこには死闘の傷跡が残っていた。

 双方ともボロボロで、死力を尽くしたかの後の様な。


 ――――そんな風に見える。



『………………』


 まぁ、見た目は全くの真逆ではあるけれど。

 アマジの高級そうな衣服はピカピカのままだし。



「よし、これなら今回はうまくいきそうだね?ユーア」

「そ、そうですねスミカお姉ちゃんっ!」


 その成り行きを見て何となくだけど断言できる。

 さっきの二人より演技が上手くなっている。


 今度の作戦は今見たとおりに

 アマジたちがって男たちに勘違いさせる作戦。


 そうなれば服装(装備)の事はその結果だろうと、男たちも思うはず。

 そしてお互いが相打ちの末に、一度倒れてしまったものだと。


 その後はアマジが男たちの最後の攻撃を受け大ダメージ。

 それでも何とか男たちに反撃して、満身創痍で辛くも勝利を手にする。


 これで男たちは一般人に手を出したとの更なる既成事実が出来る。

 そんなシナリオだ。


『まぁ、勝利って言ってもアマジは既に一度ぶっ飛ばしてるけどね? 私もあいつらに同じ事してるし。それに既成っていうけど、誰も見てなかったらそれは事実だしね』


 何て誰もが聞いたら呆れそうな自己解釈をしてしまう。

 私もあの男たちの事言えないな? 何て思いながら。

 

 それとここで大事だったのが、男たちが先に攻撃を仕掛けた事実。

 なのでアマジは『前に』とか『先に』と強調していた。


 そうじゃないとアマジが罪に問われてしまう恐れがあるから。

 なので最終的にあの男たちは3度もぶっ飛ばされることになる。


『ご愁傷さまだね? 悪どい事してるから仕方ないね?』


 私は武器を振り上げる男たちを見て、心の中で合掌した。





「よ、よしアイツは立ってるのがやっとだっ!」

「お、俺たち4人があのBランクの強さに勝てるぜぇっ!」

「い、今だっ! 一気にかかれっ!」


「「「うおぉぉぉ――――っ!!!!」」」


 男たちもアマジ親子の演技に騙されたのか。はたまたそんな空気に乗ってしまったのかは分からない。だが男たちは何の疑いもせず、一気に攻撃を仕掛ける。


 未だに痛みに苦しむ(振り)のアマジに向かって――


「く、来るかっ!」


 ドガガガガンッ!!


 男たちの強力な一撃は避ける事の出来ないアマジの体を強打する。


 大剣×2 長槍×1 大斧×1


 男たち4人の最後の攻撃をその身にモロに直撃を受けるアマジ。


「ど、どうだっ!これが俺たちの渾身の一撃だっ!」

「いくらお前がBランク相当だっていってもなぁっ!

「俺たち4人の攻撃を受けたんだっ!」

「さっさとくたばって有り金置いていきやがれぇっ!」


 いくらアマジが強くとも冒険者の一撃を受けてタダで済む訳が無い。

 それもCランクの人外の強さを持つ4人同時の攻撃をだ。


「親父ぃ~~~~っ!!!!」


 その苛烈な状況を見て堪らず叫びだす娘のゴマチ。

 アマジはそんな男たちの攻撃を受けて微動だにしない。

 いや、出来なかった。


 四方から攻撃を受けた体は、倒れる事が許されない。

 男たちが武器を引かなければ、楽に地面に倒れる事さえ出来ない。



「この男も俺たち4人の一撃でくたばりやがったかぁっ!」

「ああ、立ったまま気絶してやがらぁっ!」

「しかもこれで俺たち4人の株も上がったぜっ!」

「なんせBランク相当の手練れ自称だったからなっ!」


 男たちはアマジが気を失ったものと判断して、各々の武器を収める。


「………………」


 そこには無表情のアマジが直立姿勢で立っていた。


「………………弱い」


 そして一言発し


「はぁっ?」

「えっ?」

「なんだっ?」

「あんっ?」


 ズバァァ――――ンッ!!!!


 男たち4人をまとめてぶっ飛ばした。


「「「「うがぁぁ~~~~っ!!!!」」」」


 そして男たちはこの日、3度目の制裁を受けたのであった。




「えっ えええええっ!!」

「ああああああっ!!」


 それを見て、私とユーアは絶叫を上げる。

 アマジの予想外の攻撃を見て。


 あ、あれ? 作戦どうなってんの?

 瀕死で反撃する筋書きはっ?


「ちょっとアマジっ! 何でやられた振りしないでボコってんのぉっ!」


 タタタッ――


 慌ててユーアと中央に駆けていき、険しい表情のアマジに声を掛ける。


「ス、スミカかっ?」


 私に気付き慌てて表情を崩すが、ちょっとお怒りの様子。


「そうだよ。それよりあれ、どうなってんの? 起きたら騒ぎ出すよ」


 アマジの周囲に伸びている男たちを見る。


「あ、ああ、それなんだがな……」

「うん」

「あそこまで弱いとは思わず、反射的に反撃してしまったのだ……。俺は念のために全開で魔力で防御力底上げしてたのにな……はぁ」


 私から視線を逸らして、気まずそうにそっぽを向く。

 しかも最後に小さな溜息まで吐いていた。


 もしかしなくても、この男はCランクに期待をしていたんだろう。


 娘のゴマチが馬鹿にされた件については、一度ボコって溜飲が下がっていた。

 なので今度は純粋に男たちの強さを見たかったのだろう。


 それが期待外れで、思わず手が出たって話だ。



「あんたねぇ………………」

「ゴマチちゃんのお父さん……」

「親父……」


「う、うぐ。すまん……」


 3人の子供に呆れた目で見られて肩を落とすアマジだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る