第242話「72cm」は異世界でもステータス?




「うん、ここは?……ああっ! お、お前はっ!?」


 目を覚ましそれぞれが周りを見渡し状況を確認する中

 その中の一人がアマジに気が付く。


「よ、よくもぶっ飛ばしてくれやがったなっ!」

「あっ! そうだっ!こいつ俺らが油断している間にっ!」

「ク、クソガキもろとも金を巻き上げてやらぁッ!!」


 それを聞いて残りの4人もアマジに気付き牙をむく。


「な、何を言ってるのかな君たち。お、俺はまだ何もしてないぞぉ?」

「………………」


 アマジは両手を上げておどけて見せる。

 「ぼくやってないよ?」のアピールだろうか?

 その隣には無言のゴマチがいる。


「ああんっ? 現に俺たちの武器が破壊され、そして……ん?あれ?」


「武器なら、ほら手元に転がってるだろ?」

「………………」


 アマジはいきり立つ男に武器のありかを示す。

 それを聞いて男たちが各々の武器を眺める。


 因みにゴマチはまだアマジの隣で無言、無表情だった。

 ただその口元が微妙に、にやけてるのは父親の演技のせいだろう。



「ぷっ! くくくっ!君たちだってぇっ!!」

「ス、スミカお姉ちゃん笑っちゃダメだよぉ~! くふふっ」


 だってそれを見て私たちも笑いを我慢しているのだから。

 余りにも酷いアマジの大根役者ぶりに。


『武器の扱いは器用だったみたいだけど、演技はまだまだだねっ』




「武器だとぉ? あるにはあるがこれは俺のじゃねえっ!」

「あ?」

「俺の槍(模擬専用)が大剣に変わってっぞぉっ?」

「は?」

「あんっ? 俺の武器も斧じゃなくなってるぜっ!?」

「うっ」

「お、おいっ! それは俺の槍だぜ? こっち寄越せよっ!」


 男たちは各々の武器が違う事に気付き大騒ぎしている。

 どうやらアマジは男たちの武器を間違えて用意したらしい。


「…………」

「親父さぁ……」

 

 そんな父親をジト目で突っ込む愛娘のゴマチ。



「くくっ。わははははっ! むぐぅっ!?」

「ちょっと、スミカお姉ちゃんっ!」


 そしてそれを見て爆笑する私の口を塞ぐユーア。


 あんなの見たら誰だってガマンできないでしょう?

 アマジを多少でも知る者だったら。


 現に私の後ろからも――――


『ぎゃはははははっ!』

『ギ、ギルド長っ! 向こうまで聞こえちゃいますよっ! くふふっ』


 二人のギルドの重鎮が笑っていたのだから。




「ぶ、武器は…………」

「ああんっ?」

「武器はどうでもいいだろう?」

「ど、どうでもいいわけあるかっ! 入れ替わってんだぞっ!」

「それよりも何処もケガをしてないだろう? 俺にやられたみたいに言ってた割には……」

「はぁ?」


 そう言い、アマジは男たち4人を眺める。


「おっ? 本当だ。装備はボロボロだけど」

「あ、ああ確かに何処も痛くねぇ? 服は破けてっけど」

「うん? そうだな。だがあちこち埃まみれだけどよぉ?」


「………………」

「お、親父…………」


 お互いが体に異常がない事に男たちは気付いたが、それでも異常のある個所に気付いてしまう。そして訝し気な視線をアマジ親子に送る。



「スミカお姉ちゃんっ?」

「う~ん、やはり無理だったかぁ」


 まぁ、半ばそう思ってたけど。


 さすがに服までは直せないからね? 

 効果の高いポーションでも。


「ん?」

 

 ここで私はゴマチがこっちを見ていることに気付く。

 そして口を小さく動かして何かを必死に訴えている。


 その口の動きは?


 『タ』『ス』『ケ』『テ』 だった。


「…………まぁ、そうだよね」


 どうやらあの親子では対処できなかったようだ。


「ふぅ~、仕方ない。ユーア助けに行こうか?」

「はい、スミカお姉ちゃんっ!」


 私はユーアを連れて再度訓練所中央に向かう。

 そこではまだアマジの苦しい言い訳が続いていた。



「ふ、服装は…………」

「あん? 何言ってっか聞こえねぇなぁ?」


「きゃあっ! その乱れ具合かっこいいよねっ!」

「そ、そうですね! 汚くて、す、素敵ですっ!」


 私とユーアは付いて早々に、アマジの助っ人に入る。

 ゴマチにはウインクをして「任せて」と伝えてある。


「ああんっ? いきなり現れて誰だお前は?」

「ああっ!そいつはいきなり現れて変な動きでいなくなった奴だっ!」


 4人は今度は私とユーアに注目する。


 それにしても――――


『こいつら私とユーアの事忘れてんの? つい先日ボコられたくせに』


 前回会ったのはつい1週間前くらいだ。

 それなのに忘れてるとかありえるの?


『あ、そうかっ!!』


 私は心の中で手を鳴らす。

 恐らく私の今の格好が原因だろうと。


『きっと、今の私がユーアとお揃いで大人っぽいから、それで認識できてないんだ。ユーアなんてあの時よりふっくらしてるし、身だしなみだってかなりきれいになってるからね』


 私は私で、街の人にも殆ど正体をバレなかったし、ユーアに関しては服装もそうだけど、汚れた顔や体や手足が見違えるほどにきれいになっている。


 それに毎日トリートメントしているシルバーの髪も断然あの時とは違う。


 そんな訳で誰が見ても、より美幼女に磨きがかかっている。

 アキ〇を歩けば大きなお友達がわんさか撮影するくらいに。



『そういう事なら、こいつらだって私がユーアより更に大人な女性に見えてるって事だよね? だったら意外と誤魔化すのは簡単。だってそれは――――』


 ――元大人の私の出番だからね。


 ちょっと褒めればイチコロだよ。

 服装がどうのこうの何て、すぐ解決できる。



「何か服装がどうこう言ってたけど、それ私の好みだからね~ん?」

「はぁ? お前何言って――――」


 私は両腕を頭の後ろに回して「クネクネ」と歩きながら男たちを褒める。

 因みにこれはニスマジの真似だ。


「あなたもその破けた胸元がセクシーに見えるよぉ~ん?」

「せ、せくしぃ? こ、こいつ頭がおかしいんじゃ?――――」

「あと、そのズボンだって見ようによってはワイルドさが際立って見えるしぃ」

「わるいど? こいつさっきから訳の分からない事ばっか――――」

「それにぃ~」


 私はここでポーズングを変える。

 きっと、いや恐らくもう少しで陥落するだろうと。


 最終奥義の極めつけのポーズを男たちに魅せる。


「それにぃ~~。あなたたち薄汚れてても、臭くても素敵だよぉ」


 両腕を胸の前で「むぎゅ」て締めて、前屈みで甘い声を出す。

 上目遣いも忘れずに。


 男だったらこれに抗う事は絶対不可能。 なはずだ。


「スミカお姉ちゃん……」

「スミカ姉ちゃん……」

「スミカ…………」


 そんな私を味方の3人が薄い目で見てるが気にしない。

 お子さまや、子連れにはこの魅力には気が付かない。


「な、何だこの子供っ!? いきなり変なポーズしやがってっ!」

「あ、ああ、何だってこのちっこいのはイキがってんだぁっ!?」

「後ろにいるガキどもと変わんねえくせして、何大人ぶってやがんだぁ!」

「俺は幼児に興味がないってのによぉっ!」


「え?」 嘘でしょう!?


 私は男たちの反応を見て更に「むぎゅ」してみる。

 そして更に前屈みに。


 それは端から見ると、腰をほぼ直角に曲げたおばあさんのようだった。


「こ、怖えぇ! まな板が余計に潰れて見えるぜっ!」

「そもそも何だってこの壁女はさっきから強調してくんだぁ!?」

「洗濯板は何やっても変わらねぇってのによぉっ!」

「ああ、そうだぜっ!つるぺったん何か興味ねえよなぁっ!」


 そんな私を見て口々に罵る男たち。


「う………………」

「スミカお姉ちゃん?」


「あ………………」

「スミカ姉ちゃん?」


「お………………」

「スミカ?」


「ははっ! 本当の事言われて落ち込んじちまったぜっ?」

「お―お―。可哀想になぁ。図星突かれて下向いちまってるぜ」


「「わっ ははははは――――――っ!!!!」


 ブチッ!


「うがぁぁぁ――――――っ!!!!」


 ドゴォォ―――――ンッ!!


「「「ぎゃはぁぁぁっ!!!!」」」


 そんな私の雄叫びと共に男たちが吹っ飛んでいった。


「あっ!? しまったついっ!!」


「あああっ! スミカお姉ちゃん何でっ!」

「スミカ姉ちゃんっ!?」

「スミカお前って奴はっ!!」


 それに驚愕するユーアとアマジ親子たち。


「………………」


 そうして私は再度リカバリーポーションを使用する羽目になった。

 あとこの奥義が使えるのはきっとナゴタとゴナタが最適なんだと気付いた。


 はあ、また巻き戻し作業だよ。


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