第262話おじ様貴族たちとの模擬戦開始 




 私を中心に、武器を持った男たち5人は、ジリジリと距離を詰める。


 視覚化した武器を5機展開して、一人一人に割り振る。

 これでスキル1機につき、おじ様一人の構図が出来上がる。


「それじゃ私はこの円から出ないから――――」


 そう言いながら、片足で回りながら、コンパスの要領で円を描く。


「――私がこの円から出ちゃったり、私に一撃を与えたらおじ様たちの勝ち。私がおじ様たちを負かせたら、私の勝ちって事で」


 グルリと一周して説明を終える。


「よしっ! それじゃ皆の者っ! 遊戯みたいな模擬戦だが、ワシたち老兵の底力を見せてやろうぞっ! ロアジムさん推しの英雄さまにひとあわ吹かせてやろうぞぉっ!」


「「「おお――――――っ!!!!」」」


 ムツアカが武器を振り上げ、他のおじ様たちを鼓舞する。

 それに答える様に、他の4人おじ様たちも武器を空に掲げる。


『ふふっ』


 どうやらおじ様たちは、かなり気合が入っているようだ。



※※




「アマジよ。お前さんから見てスミカちゃんはどう戦うと思うのだ? わしは戦いに関しては素人だからな。お前やバサが説明してくれると助かるのじゃ」


 残りのおじ様たち5人の別のテーブルでは、この屋敷の主の、ロアジムと、その息子のアマジ。そして孫娘のゴマチとバサが同じテーブルについている。


「そうだな。正直俺は魔法使いではないのだが、5人に囲まれて身動きも取れない。しかも相手は過去の歴戦の猛者だった者たちだ。簡単にはいかぬだろうな――――」


「うむ。確かにお前は魔法使いではないが、十分強者の位置に値する実力だろう。そのお前から見ても、スミカちゃんが劣勢になる恐れがあるということだな、ううむぅ」


 アマジの意見を聞いて、ロアジムは腕を組み考え込む。

 しかしその目は真剣、と言うよりは、緩んでいてどこか楽しげに見える。


「そうよねぇ、あの英雄さまはいくら強くても、5人同時で、何処からくるともわからない攻撃を防ぐのは並大抵じゃないわぁ。後ろにも目がない限りは簡単じゃないわよ、ロアジムさん」


 バサも答えながら、その目はしっかりと広場を見ている。

 ただその目は、ロアジムとは対照的に真剣なものだった。


 その目はアマジと同じで、一度敗北を期した相手の、更なる力を見極めようとジッと見つめている。一つの動作も見逃さないように。



「ただ、あいつは、スミカは何かをやらかすだろうな」


 ボソと前を向いたままでアマジが小さく呟く。


「何でなのだ? アマジよ」


 それを耳に入れたロアジムが問い掛ける。


「それはだな、あいつが俺と戦った時の顔をしているからだ。俺が幾度も武器を持ち替えた時にも、あいつはあんな顔をして、難なく俺と戦っていたからな」


 ロアジムにそう伝えて、視線を広場に戻す。

 その目は鋭かったが、口元は僅かに緩んでいた。


『あいつほど、いや、スミカほど、戦いを戦いとは思わない奴も珍しい。いや、戦いだとはわかっているのだが、何か理由と、何かしらの意味が隠されている戦いをする』


 恐らく今回も無意味ではないのだろう。

 前回の戦いで、俺たち家族は救われた。


『ふふっ、お前を見てると心が騒めく。俺も何かしたいと心が逸る。ゴマチや仲間を連れて、何かを成し遂げたいとさえ思う。冒険って奴をしたくなる』


 先日謝罪に行った、冒険者ギルドの重鎮二人も言っていた。


 ルーギルとクレハン。


 二人はスミカと冒険をした仲間同士だ。

 その二人の言っていた意味が、今なら良く分かる。


 スミカを見てると俺も――――




※※



「く、中々に重い攻撃だっ! だがまだまだ――っ!」

「棒切れ何かに負けて堪るかっ!」

「鋭いっ! でもこっちの攻撃も当たるぞっ!」

「本体に一撃でも入れればワシたちの勝ちだっ!」

「こっちは、速いっ! 一度に5人を相手にしてるとは思えぬっ!」


「………………」


 おじ様たちは私のスキルと戦いながら、捌き、流し、躱し、打ち付け、弾き、避けて、隙あらば円の中に突っ立っているだけの私に、一撃加えんと虎視眈々と狙っている。


 その動きを見る限り、この街の冒険者と同等かそれ以上の強さだ。

 年齢と実践から離れた期間を考えれば、十二分に驚異と言えるだろう。



「うん。やはりムツアカさんが突出して動きがいいね」


 他のおじ様もスキル相手に鋭い攻撃を加えたり、重い一撃で弾こうとしている。

 その中でも別格で、重さも速さも、そしてフェイントも織り交ぜて連撃を繰り出し、互角以上の戦いを繰り広げている。


「これだったら、重さを追加した方が喜ぶかも?」


 私は呟き重さを他の4機の倍にする。



「うぐっ! 何だ? いきなりズシリとっ! でも負けんぞっ!」


 倍の重さに一瞬だけ押されたが、直ぐに持ち直し、気合を入れて弾く。


「とりあえずは、これで様子見かな? あとは――――」


 小剣の二人のおじ様は、手数で頑張っている。

 弾いたところを抜きに掛かるが、スキルが回り込みそれは出来ない。


「うん、少し実直過ぎる剣筋だけど、十分スキルの動きについていっているね」


 無手のおじ様は、拳打や蹴りを駆使して相対している。

 素早い動きで翻弄しようとするが、それもスキルが遮る。


「構えから近接格闘だと思ってたけどその通りだった。でもいい動きをしてるね」


 最後の長杖のおじ様は杖を振り回している。

 何度かスキルを叩きつけるだけで、たたらを踏んでしまう。


「う~ん。杖持ってるのに、魔法を撃たないね。魔法は温存してる感じかな? でもあのままだと先に体力が尽きそうだけど」 


 一人だけ背格好も体力もなさそうなおじ様が一人。

 派手な杖を持ってる割には鈍器として使っている。


「でも飛び道具があるから、一番要注意だね。後はそこそこ楽しんでそう」


 それぞれに持てる力を出して健闘している。

 気を付けて操作していないと、危うい場面もあった。


 私はそんなおじ様たちの活躍を――――



 10メートル上空から見ていた。



 そのお陰で、空中から俯瞰して見られるので、5人の攻撃に対処できていた。

 因みに円の中の私は実態分身を置いてきている。


 そして私は透明鱗粉でその真上から見ているって訳だ。

 透明壁スキルを足場にして。


「さすがの私でも動けない状況で、一度に5人はきついからね。別にルール違反じゃないからいいよね? 正確には円から出てないし、分身に攻撃を当てるってのは一緒だし。それじゃ次は何をしようかな」


 真下で欠伸をしている実態分身を見ながら、何か妙案がないかと腕を組む。



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