第263話おじ様たちの実力とは?




「ねぇ、結構時間たつけど大丈夫?」


 現代の時間で言えば、模擬戦開始から30分程経っていた。

 その間、私のスキルを突破したものはいない。


「ふぅ、そっちは随分と余裕そうだな、スミカ嬢よっ!」

「そう?」


 息を若干切らせながら、回転を上げ続けるムツアカが答える。

 それを私は寝転びながら返答する。


 確かにムツアカたちからしたら余裕に見えるだろう。

 横になって欠伸をしている実態分身だけを見ていれば。


 ただ実際の私は10メートル空から5機のスキルを操っている。

 実態分身の私ほどの余裕はなかったりする。



『結構鋭い動きをしてくる時があるんだよね。油断してると突破されそうな時もあったし。何か、どんどん動きが良くなってきてるような気がするよ』


 暫く打ち合えば疲労で降参するものだと思っていた。

 そうなった時に、いい具合に接戦を演出しようと思っていた。


 なのに裏を返せば動きも表情も生き生きとしている。

 まるで全盛期を取り戻すかのように。


「ま、まだまだだぁっ!」

「もう少しで突破できるぞぉっ!」

「お、おしいっ! ただ今の引っ掛けに一瞬釣られたぞっ!」

「意外と下からの攻撃に弱いぞっ!」


 他のおじ様たちも動きが良くなってきている。

 しかも何気に弱点を見付け、情報交換している。

 そんな訳で、開始から徐々にスキルの制御が大変になってきている。


「このおじ様たち、まだ現役でいけるんじゃないの?」


 そう思う程にどんどんと強さが増してきている。

 動きに無駄が無くなってきている。


 額の汗も気にせずに、ひたすらに突破しようと奮闘している。

 ひたむきに目の前の敵を排除しようと奮戦している。


 それぞれが僅かに笑顔を浮かべて善戦している。



※※



「ね、ねぇっ! スミ姉目を閉じてるわよね? ユーアっ!」

「う~ん、ボクには視えるけど、目は開けてると思うよ?」


 そんな不思議な会話をするのは、ユーアとラブナの最年少コンビ。

 今は貴族たちのテーブルから離れ、最前列でハラミの上で戦いを見ている。


 ラブナの言っている、目を閉じているのは実態分身の私。

 ユーアの言っているのは上空の本物の私。


 端から聞けば噛み合わない二人の会話だったりする。

 因みにユーアは上を向いて、ラブナは正面を見ている。


 そんなチグハグな二人を見たら、余計におかしく映る事だろう。



※※



「くく、あいつはよくそんな事を思いつく」


 ロアジムファミリーの中で、いち早くスミカの奇策に気付いたアマジ。

 その口元は僅かに緩んでいた。


「うぬ? アマジよ。スミカちゃんが何をしているのかわかるのか? なぜ目を閉じたまま戦えるのじゃ。しかも5人同時になんてなっ」


「親父? スミカ姉ちゃん何かしてるって知ってるのかっ!?」


 それを目ざとく見つけて、直ぐさま問いただすロアジムとゴマチ。


「バサはあれがわかるか?」


 二人を手で制し、先にバサに問い掛けるアマジ。


「俺には実際に目を閉じているように見えるけど、あれって、あれよねぇ?」


 バサはアマジの問いかけに曖昧に答える。

 それでも、その正体には見当をつけている答えだ。


「うぬっ! バサよっ! あれって何なのだっ!」

「親父とバサさん、あれって何だよっ!」


 バサの要領を得ない答えに憤慨するロアジムと、その孫娘。


「ゴマチも親父も、俺とスミカの戦いを見てたならわかるはずだ。今、何が起きてるのかをな。それに簡単に答えを教えたらつまらないだろう? タネを知った手品ほどつまらない物はないからな」


 次いで「くくっ」と小さく微笑み、口を閉ざす。

 これ以上は本当に話すつもりがないらしい。


 しかし――――


「お、お父さま、俺に、わ、わたくしには教えて下さいますよね? わ、わたくしの大好きなお父さまなら、そんな意地悪はしない、しませんわよねぇ?」


 娘のゴマチがアマジの腕に甘えながら抱きつく。

 そのたどたどしいお嬢さま言葉を披露しながら。


「そ、そうだな。それじゃゴマチには教えてやるか」

「う、うん、ありがとう、ございます。お父さまぁ」


 そう言ってゴマチの耳に口を近づけて内緒話を始める。


「…………………」

「…………………」


 それを無言で見つめる、ロアジムとバサ。

 そんな二人のジト目に気付かないままに。


 そして二人は揃って心の中でこう思った。


『『こ、この親バカがぁ~』』 と。

 


※※



「よし、そろそろみんな飽きてきたみたいだね?」


 それはそうだろう。


 本体まで辿り着けるかと思いきや、何度も塞がれて元に戻る。

 それは数回も繰り返してたら、飽きるだけならまだいいが諦められても困る。


 ここら辺りで何か趣向を変えないと、退屈なゲーム(遊戯)になってしまう。


「う~ん、だったら少し刺激を与えてみようかな?」


 絶え間なく剣戟が聞こえる真下を見ながらそう独り言を呟く。


「え~と、おじ様たちに5機使ってて、私の足元に1機。合計6機かぁ」


 現在のレベルでの、透明壁スキルの最大展開数は10機。

 なので、残りは4機。


「だったら2機使えば十分足りるね? この広さだと」


 広場と、その周辺の大きさを見てそう判断する。

 これだったら全員が乗れる大きさに出来るはず。



「よし、それじゃ、空の旅へご招待しちゃおうか」


 私はここにいる全員の足元にスキルを展開して操作する。



「な、なんだっ! ワシたちが浮いているぞっ!!」


「わわっ! しかもどんどん上昇していくぞぉっ!!」

「し、しかも床が透明だぞっ! いったいどうなっておるんだっ!」

「だ、だが、足元はしっかりとしているぞっ! それでも恐ろしいっ!」

「と、とうとう、わしゃにもお迎えが来てしまったのか、婆さん今行くぞ」


 私と戦っていたおじ様たちは、突然の事で驚き取り乱している。

 それにしても、最後の杖のおじ様は大丈夫だろうか?



「あれ? スミカお姉ちゃん。お空に連れてってくれるんだっ!」

「こ、これ、やっぱりスミ姉の仕業なのね? こんなに飛んだの初めてだわっ!」

『ば、ばうっ!』


 ユーアたちシスターズは、特に驚きも混乱もなく何やら楽しんでいる。

 よく見たらハラミとラブナはそうでもなかったけど。



「おわっ! これもスミカちゃんの魔法かっ! 素晴らしいぞぉっ!」

「わわわわ、こ、こんなに高いの恐いってっ! スミカ姉ちゃんっ!」

「はぁ、あの英雄さまは何処まで規格外なのよぉ。あり得ないわよ、こんなの」


「くく、あははははっ! やはりあいつは面白いっ。スミカ、お前は何なのだっ」


 ロアジム、ゴマチ、バサ、アマジの順で、それぞれ感想を述べる。

 そのどれもが驚愕の表情を浮かべながらも、楽しげに見えた。



 ヒュオォォ――――



「皆さま、空の旅へようこそ。今私たちがいるのは上空100メートル程です。某テレビ局の大観覧車くらいの高さです。どうぞ空の旅を楽しんで行ってください」


 私(実態分身)は様々な表情を浮かべるみんなを見渡して

 にこやかにそう告げたのだった。

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