第264話「美少女魔法使いのスカイツアーズ」へようこそ




「ふわ~」


 欠伸をしながら待つこと、更に30分。

 しかも5機のスキルは宙に浮いたままだったりする。



 おじ様たちと一緒に空の旅に案内したみんなは、せわしなく動き回り、

 あれは何処?あそこは何?あっちは? などなど。

 年齢も身分も関係なく談笑している。



『それはいいんだけど、何で私は放置されてるの?』



 それは下を見れば明らかだった。

 私は面倒で実態分身に寝たふりさせているからだ。


 なので寝ている私に気遣って誰も声を掛けてこない。


 それでも、たまに「チラ」と見る人もいるし、私の体にはタオルケットが一枚掛けられている。何やら気を使わせているようだった。


 その中でもユーアだけは、時折上空を見上げて

 「にこぉ」と微笑んではくれるけど。



『ん~、これって、もしかして商売に出来ないかな?』



 下界の景色を楽しむみんなの顔を見てそう思った。



――――



 『美少女豊乳魔法使いのスカイツアーズ(仮)』


 1時間5,000円ポッキリ。

 延長は10分につき1,000円。


 案内の女の子をご指名ならば+2,000円。

 みなさまのニーズにお答えできるよう、色々と個性的な女の子をご用意いたしております。


 『AAランク』一番人気のユー〇。

「ボ、ボクを指名してくれてありがとうっ。一生懸命頑張るねっ!」


 『Cランク』毒舌ツンデレ少女ラ〇ナ。

「アタシを指名出来るのは本当はユーアだけだわ! でも今日は特別だからねっ!」


 『Gランク』神速の冷笑ナゴ〇。

「ふふふ。一体どこを見て指名されたのですか? 教えてください」


 『Gランク』剛力の嘲笑ゴ〇タ。

「指名してくれてありがとなっ! 上手にできないけどよろしくなっ!」


 『AAAランク』のじゃロリフラット幼女ナジ〇。

「わしも一緒に楽しむのじゃっ! 指名してくれてありがとなのじゃっ!」


 『???ランク』ペロペロ魔獣ハ〇ミ。

『わうっ!』



 ※ただしおさわりはNGです。

  違反した場合は、即バンジーで強制的に退場していただきます。


 その他軽食もご用意できます。

 持ち込みもOKです。





 みたいな感じで。



――――



「……何て現実逃避はやめよう。いい加減止めないと目的忘れそうだから」



 実態分身が起き上がり「う~ん」と伸びをする。

 それにいち早く気付き、こちらを見るおじ様たち。


 どうやら私の動き次第で、見物の終了する頃合いを見ていたようだった。



「ふわ~、待たせちゃってごめんね。それで景色は堪能できた?」


 私が起きた事により、弛緩した空気が少しだけ引き締まる。

 武器を持つ手に力が入ったのがわかる。


「おうっ! スミカ嬢のお陰で世界への見識が広がった気がするぞっ!」


「昔見た大陸が見えて嬉しかったぞっ!」

「鳥よりも上空を歩いてるなんて初めてじゃっ!」

「街を上から見たのも新鮮で良かったぞっ!」

「わしゃが逝く時も、空を飛ぶんだろうかぁ?」 


 ムツアカに始まって、他の4人のおじ様も感想を述べている。

 最後の杖のおじ様は、何か不吉な事を言っていたけど。


『それにしても、このおじ様たちは寝込みを攻撃する事なかったな』


 それはやろうと思えば出来たはず。

 特に休戦しようとか提案した訳ではないし。


『私だったら迷わなかった。きっとその隙を逃さなかったけどな』


 過去に、どういった戦闘や戦場を経験してきたかは分からない。

 それでも、絶好の機会を見逃すのは悪手だと思う。


 もし、仮に寝込みを襲われたとしても、私は文句を言わない。

 恐らくそれが正しいとわかっているから。


『まぁ、元々ゲームみたいなものって思ってるからなんだけどね。それでも勝負である以上は勝ちにこだわって欲しかったなぁ』


 それぞれに、スキルと相対し始めたおじ様たちを見てそう思う。

 そしてそれを見て、少しだけいたずら心が芽生えてしまう。


「何なら少しだけ刺激を与えといた方が良いかな? 特に杖のおじさんは、いつボケてもおかしくないからね?」


 私はそっとスキルを操作する。



 スゥ――


「な、何だ? 気のせいか回転していないか?」


 無手のおじ様が違和感に気付き、周りを見渡す。


「ま、回ってるぞっ! こ、これは一体どうした事だっ?」


 キョロキョロと上下左右を見渡して、叫ぶ小剣のおじ様。


「うわっ! しかも少しづつ速くなってないか?」

「わ、僅かだが景色の流れが速いぞっ!」


 そして他のおじ様たちも騒ぎ出す。



「スミカ嬢っ! 今度は何をしてるんだっ!」


 それを見て、慌てて声を掛けてくるムツアカ。


「何って、そのまま回転させてるんだよ」

「それはわかるっ! そうではなくて、このままだとどうなるのだっ?」

「回転数を上げてるから遠心力が加わっていって――」

「う、うむ」

「落ちるけど」

「お、落ちる? だとっ!」

「そう。だから早く私に到達してね。じゃないと――」

「じゃ、じゃないと?」

「落ちるから」

「さっきと何も変わらないではないかっ!」

「それはそうだよ。だってそれしか言えないもん」


 呆れた表情のムツアカにウインクしながらそう告げる。

 この新しいゲームの意味を知ってもらう為に。


「う、うむ。わかったのだっ! だったらワシたちは全力を尽くそうっ! みんなを守るために戦ってやろうっ! そして平和を取り戻すのだっ!」


 そう広場に叫び、気合を入れ直すムツアカ。

 それを聞き、他の面々はさっきよりも締まった表情になる。


「それじゃ、今度はこっちからも仕掛けるからもっと頑張ってねっ! 昔みたいにガムシャラに戦って見なよっ!」


 私もムツアカに続いて、おじ様たちに声援を送る。


「「「おおっ――――っ!!!!」」」


 ガギィ ガギィ バキッ ポコ


 それを雄叫びと、力いっぱいスキルに攻撃することで答えるおじ様たち。

 徐々に重さもスピードもキレを増してきている。

 


『ふむふむ。私はキツクなったけど、まだまだおじ様たちは行けそうだね』


 一心不乱に武器を振り上げるおじ様たちを見てそう思った。


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