第265話無双少女の初敗北?




 息を切らせ、襲い掛かるスキル相手に奮闘するおじ様たち。


 ガンッ!


「よ、よし、おおよその癖はわかったぞっ!」


 ガキィッ!


「ぶ、武器同士が合わさった時に一度押してから、引く時があるぞっ!」


 ブンッ!


「ふぅ、それと武器を避けるときは右側が多いっ!」


 ゴンッ!


「上段の次は、フェイントを入れる事が4割あるなっ! はぁはぁ」


 パキッ!


「わ、わしゃはなんも気付かなんだ、く、すまん……」




『……………中々やるね』



 息が乱れる中、打ち合う事十数合。


 そのおじ様たちの動きや連携に驚く。

 杖のおじ様は良く分からないけど。


 こっちからも仕掛けた攻撃は、いつの間にか攻略されかかっていた。

 私のパターンや癖を読み取り、それを横展開していく。


 空から俯瞰で操作をしているとはいえ、5人同時の相手は少々厳しい。

 これ以上、打ち合う時間が長くなれば、更に追い詰められるだろう。



『これでおじ様たちは、鈍っていた戦闘の感も取り戻せたって感じかな?』



 そうは言っても、全盛期に比べたら腕力も瞬発力も持久力も劣っているだろう。

 こと戦闘力に関しては恐らく5割もないと思う。


 ただそれでも、劣らないものもあり、逆に強くなるものもある。


 それは、今まで蓄積してきた経験と、歳を重ねた事による狡猾さだ。

 衰えた部分を指し引いても、今でも十二分に通用する力だ。





「みんな一か所に集まるんだっ!」


「「「おおっ!!」」」


 グルグルと景色が流れる中、ムツアカの号令と共に集合する。

 お互いに背を向け合いスキルと対峙する。



「何なに、 何が始まるの?」



 固まったおじ様たちを興味深く空から覗く。

 ついでにスキルの回転は止める。


 よく見ると、号令をかけたムツアカに背を向けて、4人が囲んでいた。

 それは、全方向からムツアカを守るような布陣にも見えた。



「よし、今だっ!」


 ムツアカの掛け声とともに、囲んでいた4人は一斉に腰を落ろす。



「うん?」



 そうなると必然的にムツアカ一人が丸出しになる。

 


「て、それにどんな意味があるの?」



 私はムツアカに注視する。

 

 そのムツアカは、大剣を後ろ手に握り「ググッ」と腰を落としている。

 まるで弓を限界まで引き絞っているような、そんな重圧を感じる。



「いくぞっ!『豪龍巻円斬』」


 ブゥンッ!!


 ガガガガガッ――


 何かの技名を叫んだムツアカの大剣は5機のスキルに命中する。

 円を描くように放たれた斬撃は、スキルを上空に弾き飛ばす。



「え? 何で真上に飛ばされるのっ!?」



「今だぞっ!」


「「「おおっ!!」」」


 ダダッ!


 屈んでいたおじ様4人が、猛然と疾走する。

 目指すはもちろん、無防備の実態分身の私。



「て、杖のおじ様だけ遅いし、他より息上がってるし、転んでるしっ!」



 しかも倒れ込んだまま動かない。


 魔法も打たないし、絶好のこの場面でも足を引っ張る。

 一体何故このメンバーに選ばれたのかがわからない。


 もしかして、くじ引きとか、じゃんけんだったかもしれない……

 


「いや、それよりもスキルを守りに回さないとっ」



 倒れ込んでいる杖のおじ様から目を離す。

 目前までおじ様3人が迫ってきているからだ。


 ダダダッ――


「それ、あと数メートルで、わしらの勝利なのだっ!」


 ブンッ!

 ガガガッ! 


「よし、ギリ間に合ったっ!」


 スキル5機を操作して、約1メートル前で、おじ様たちの攻撃を防ぐ。


「くっ! これでもダメかっ!」


 攻撃をスキルに塞がれ、おじ様たちが悔しがる。

 膝を曲げ、頭を垂れているところを見ると体力の限界が近いとわかる。



「ふぅ。危うく負けるところだったよ」



 私は膝に手を付き、息が上がっているおじ様たちを見て安堵する。

 まさかスキルをカチ上げ、一気に攻めてくるとは予想外だった。


 これで仕切り直しが出来る。

 もう少し遊戯と接待が出来る。



「よし、次は隣の街とか? 行ってみる?」



 何て次の予定を立てていると、



「うん、雨? 向こうは晴れてるのに?」



 実態分身の上空で、本体の私の頬に雨粒が当たる。

 よく見ると、何処も曇ってはいない。


「変 ……なの?」



「がははっ! さすがに引っ掛かったようだな、スミカ嬢っ!」


 他のおじ様たちと同じく、膝を付いていたムツアカが叫びだす。



「引っ掛かったって、何が? あ、ああああ――っ!!」



 私は慌ててスキルを操作し、実態分身の真上で回転させる。

 その回転で、体に届きそうな「水の魔法」を全て弾いていく。



 ギュルルル ――――


 パシパシパシパシッ ――――



「なっ! まさか全ての水滴をも弾き飛ばすとはっ!」


 そう驚いているのは、折れた杖を握ったまま倒れている老齢の男。


「あ、危なかったぁっ! まさか最後の攻撃が魔法だったなんて」


 何とか間に合った事に安堵し、胸をなでおろす。


「く、あ、当たらなければ意味がないっ! くそぉ!」


 それとは対照的に、絞り出すような声で悔しがる杖のおじ様。 


 その表情は今までの飄々としたものではなく、

 他のおじ様たちの様に険しいものだった。



「ま、まさか最初から演技してたって訳?」



 杖のおじ様は、倒れ込んだまま、悔いた表情で顔だけあげている。


 手元の杖は、何やら先の部分が無くなっていた。

 恐らく雨を降らすマジックアイテムだったのだろう。



「ま、まさか、杖のおじ様自体が切り札だったなんて」



 今までのボケ老人も、魔法が使えない振りか、温存してたのも

 私を油断させ、最後の攻撃を仕掛ける為の布石だった。

 


「はぁ、はぁ、スミカ嬢、ワシたちはもう降さん――――」


 ムツアカが立ち上がり、息を整えながら話しかけてくる。

 さすがに他のおじ様も限界だろう。

 

『………………』


 ルール上では、私に攻撃を当てたらおじ様たちの勝ち。

 それが水滴だって、飛び道具だって、拳だって同じ事。


 だけど、おじ様たちは、ターゲットの実態分身に一撃も与えられなかった。

 なのでこの勝負は、ムツアカたちが降参したらここで終わり。



『――――なんだけど、勝った気にはならないなぁ?』


 私は頬に付いた水滴を拭いながらそう思った。


 なので、


「この勝負は引き分けにしようよ?」


 息を整え始めているおじ様たちの顔を見て、そう提案する。


「はぁ? それは一体何故だ? ワシたちは一撃も――――」

「ちょっと種明かしするから待ってて」


 何か言いたげなおじ様たちを前に、実態分身を消して足場から飛び降りる。

 ついでに落下の途中で透明化も解除する。


 タンッ


「な、消えたと思ったら上からっ!?」


 一瞬で消えて、すぐさま現れた私に驚く。


「実は、今の私が本物で、ここよりも上空から魔法を操作してたんだよ。さすがに5人は厳しいから。それでこっちが偽物の私」


 おじ様たちを見渡しながら、すぐ隣に実態分身の私を出す。


「な、なんだとぉっ! スミカ嬢が二人だとぉっ!」


 即座に反応して、驚愕の声を上げるムツアカ。

 それに続いて、他のおじ様たちも、


「おおっ! 姿かたちだけではなく、何故か気配もだと?」

「一緒だっ! 流れる黒髪も、その胸の平原も瓜二つだぁっ!」

「な、なんだ、これは? 感触だって本物の人間のようだぞぉっ!」

「おおおっ! 確かに本物だぁっ! 婆さんよりぷにぷにしておるぞっ!」


 おじ様4人が、双子よりも似ている実態分身に夢中になっている。


「あのさ、どさくさに紛れて、あちこち触らないで欲しいんだけど?」


 ジト目といつもより低い声で釘を刺す。

 それに何か変な事言ってたよねっ! 平原って何よっ?



「それでスミカ嬢。引き分けって話は一体どんな理由なのだ?」


 ムツアカが、黒に染まりそうな私に聞いてくる。


「あ、それは今から説明するよ」


 私は果実水をおじ様たちに渡しながら、そう答えた。


 だって、この場合は仕方ないよね?

 私が一本取られるなんて、老練とはよく言ったものだ。



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