第266話引き分けと半分このお話




「それじゃ『引き分け』て言った訳を話すよ」



 ジロジロと見られている実態分身を消しながら話し出す。


「先ずは…… て、ユーアどうしたの?」


 ガバッ


 にこにこと駆けてくるユーアを受け止める。

 

「うん、やっぱりこっちのスミカお姉ちゃんだねっ!」


 胸の中で顔を上げ満面の笑みでそう答える。


「え? あ、ああ、本物がいいって事?」

「うんっ!」

「そうだね、私も本物がいいもんね、だってこうやってユーアを――――」

「えっ! ちょっとスミカお姉ちゃんっ!?」

「――――堪能できるかんねっ!」


 私は胸に抱きついたままのユーアの腰に腕を回しロックする。

 そして首筋に「かぷっ」と甘噛みする。


「あっ! く、くふふっ、ス、スミカお姉ちゃんっ」

「♪」


 かぷかぷ


「く、くぅっ、も、もうやめてよぉ~~っ!」

「♪♪」


 かぷぷ


「わ、わははははは――――っ!!」

「むふふ、これでユーア成分補充完了っと」


 耐え切れずにユーアが笑い出したところで止める。

 加減を間違えると、後が恐いからね。



「ちょ、スミ姉っ、な、何やってるのよぉっ!」


 ハラミの上のラブナは、それを見て顔を赤くしていた。

 他のおじ様たちはにこやかに見守ってくれていた。





「で、何の話だっけ?」


 ユーアを脇に置きながらみんなを見渡す。


「お前が『引き分け』と言った理由だろう? その続きだ」


 アマジが、ゴマチと手を繋ぎやってくる。

 その後ろにはロアジムもいる。


「ス、スミカ姉ちゃん、さっき、ユーア姉ちゃんにしてたのって?」


 言いずらそうに、少しモジモジしながらゴマチが聞いてくる。


「さっき? ああ、あれは私なりの充電だよ。何だかんだで疲れたからね」

「じゅ、じゅうでん?」

「そう、充電。要はユーアで気力を補充したって感じかな?」

「そ、それって、だ、誰でも、いい、の、か、い? ごにょごにょ……」

「うん? 誰でも?」

「あ、いや、何だもないんだっ!」


 そう言ってゴマチは顔を伏せてアマジの後ろに隠れる。

 見間違いでなければ耳が赤くなっていたような?


 まぁ、姉妹の仲睦まじい姿を見て、照れちゃったんだろうね?



「それでだが、結局どうなんだ?」

「どうって、誰でもいいわけないでしょ?」

「は? 一体何の話だ」


 何やらアマジが絡んでくる。


「私だって、選ぶ権利があるんだよ」

「お、お前はさっきから何を言っているんだ?」

「何って? アマジに何て甘噛みしないから」

「は、はぁ? 俺が何故お前にっ!」

「そういう嫌がる振りはいいから。いい加減ゴマチが睨んでるよ?」

「はっ!」


 ゴマチが後ろから顔を出し、アマジを見上げている。


「お、親父………」

「くっ、いいから先を続けろ、スミカ」


 ゴマチのジト目を振り切って、険しい顔で先を促すアマジ。

 どうやらからかい過ぎたようだ。


「それじゃ簡単に説明するよ」


 気付くと私の回りに全員が集まっていた。

 その顔を見渡して口を開く。





「と、まぁ、こんな感じかな? 引き分けって言った詳細は」


 話を終え、みんなの反応を見る。


 おじ様たちは、困惑しながらも話し合いが始まった。

 アマジとロアジムは、首を捻り何やら私を見ている。



 今回の模擬戦で話した『引き分け』の内容はこうだった。


 簡単に言うと――


 「私が攻撃を受けた」 


 以上。


 これを正直に話した。



 ルール上であれば、実態分身の私に攻撃が当たってないから問題なし。

 受けたのはターゲットではない本物の私。だからセーフだと断言できる。


 実際それが普通だと思うが、そもそも最初から攻撃を喰らうつもりはなかった。それが本物の私だろうが、偽物の私だろうが関係ない。


 私はおじ様たちに、遊戯でも実戦の様に戦って欲しいと望んでいた。

 その理由は、今は割愛するとしてそう思っていた。


 それなのに、私だけその望みをないがしろにするわけにはいかない。

 実戦だったら、私が敗北していたわけだから。杖のおじ様の魔法を受けて。


 なので、本来であれば私の「負け」が通説だろう。

 だけど、それを言ったらおじ様たちは反論する。


 『対象に攻撃を当ててはいない。だからこちらの負け』


 だって。


 だから私は『引き分け』という結果を宣言した。

 その方が、双方にとっても受け入れ易いだろうと思っての事。


『まぁ、それでも不服だったら、私の負けでもいいけどね』


 何やらざわざわと審議が盛り上がってきた、おじ様たちを見てそう思った。




「うーむ、わしはスミカちゃんの勝ちでいい気がするのだがなぁ? 元々有利な条件だったムツアカたちだし、逆にスミカちゃんは難易度が高かったからなぁ?」


 腕を組みながら、唸るロアジム。


「ユーアはどう思う?」


 それを見て、隣のユーアにも聞いてみる。


「スミカお姉ちゃんが思ってる事が正しいですっ!」

 

 「シュタッ」と元気に手を上げて答えるユーア。


「何だか答えじゃないような? でもそれだとトロールのお肉あげちゃうよ?」

「えっ?」

「多分、半分こだけど」

「は、半分もっ?」

「うん、引き分けだから、そのくらいはあげないとね?」

「は、半分、半分、…… 半分あれば……」

「?」


 何やら下を向きブツブツと呟き始める。


「だ、だったらっ!」

「うん?」

「だったらオークのお肉でもいいんじゃないですかっ?」

「オーク?」

「うん、オークならいっぱいありますよねっ?」

「まぁ、あるけど、それは向こうに話してみないと――」

「だったら、ボクが話してきますっ!」

「え? あ、ちょっと、ユーアっ!」


 ヒュン―― 


 一瞬で駆け出し、ムツアカたちおじ様に声を掛け始めるユーア。

 それに気付き、笑顔で話し合いに入れてくれるおじ様たち。


 やっぱりユーアはおじさん達には大人気だった。



「スミカ嬢。こっちの話はまとまったぞっ!」


 ムツアカが晴れ晴れとした表情で話しかけてくる。

 どうやら納得できる話し合いが出来たようだ。


「で、引き分けでもいいの?」


「おうっ! ワシたちはそれでいいぞっ! なぁ、みんなっ!」


「ああっ! こんな不思議体験初めてだし、楽しかったぞっ!」

「また昔みたいに、何かの為に戦いたいもんじゃっ!」

「英雄の強さの一端も見れたし、それにオークを一体だなんてなっ!」

「婆さんに、いい土産が出来たぞ、新鮮なオークを一体だってな」


 戦ったおじ様たちは、それぞれ笑顔で答えてくれた。

 どうやらユーアも加わって、うまく纏めてくれたみたいだ。


 それにしても、オークってみんなに分けるの?

 話を聞いているとそんな流れになっている。


「ねぇ、ユーア。一人一体ってなってるの? オークは」


 ユーアを引き寄せ、耳元で直接聞いてみる。


「は、はいそうですっ! ボクの分からも引いてください」

「引く?」

「スミカお姉ちゃん、この前ボクの分もあるって言ってたので」

「ああ、そういう事ね」


 オークの討伐はユーアの貢献も大きかったので、取り分として別にあるって、前に話してたんだよね。その分からあげたいって事だ。


「別にユーアの分からじゃなくていいよ。今回は私の模擬戦だったしね」


 軽く頭を撫でながら、そう伝える。

 殆ど個人的な話だったし、引き分けも私のせいだったし。


「うん、でもわがまま言ったのはボクだし、気にしないでください」

「だったら半分こしようか? 二人仲良く半分こ」

「仲良くですか?」

「そう、仲良く半分こ」

「わ、わかりましたっ! 半分こしますっ!」

「うん、ありがとうね。ユーア」


 そういう事で、私とユーアも引き分けとして、半分ずつ分ける事にした。


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