第267話ムツアカの願いとスミカのお願い




 ユーアのお陰もあって話し合いが纏まり、おじ様たちは喜んでいた。


 トロールの代わりに、オークを5体あげる事で話し合いが終わった。

 おじ様たちは総勢10人なので、そちらの割り振りには関与しない。


 みんなで仲良く半分こでもいいし、戦ったおじ様たちでわけてもいい。

 きっとそっちはムツアカが仕切って、上手くやってくれるだろう。



「それでどうする? もう帰る?」


 片手にゴマチ、もう片手でユーアを撫でているロアジムに聞いてみる。

 両手に美幼女なんて、見る人が見たら歯ぎしりするだろう。



 暫く空の景色を楽しみ、それぞれに満喫していたみんな。

 さすがに飽きてきたのか、次第に席に着き始める。


 それを見て、ロアジムに聞いてみた。


「うむ。もう十分に楽しませてもらったなっ!」

「ワシもこんな景色を見られて満足だっ!」


 ロアジムと一緒にいたムツアカも答える。 

 二人ともその言葉の通り堪能したのだろう。


「だが……」

「うん? 何かあるのムツアカ、さん?」


 何やら真剣な面持ちのムツアカに聞いてみる。


「ス、スミカ嬢ぉっ!」

「わっ! な、何?」

「お願いがあるのだっ!」

「お願い?」

「そうだっ! ワシと手合わせしてくれぬかっ! 今度は一対一で」


 そう強く言い放ち、軽く頭を下げるムツアカ。


「どうして? って言っても理由は何となくわかるけど」

「………………」


 頭を下げて目を閉じているムツアカ。


「だったら、地上に降りるからそこでやろうよ。その方がやりやすいし」

「い、いいのか? スミカ嬢っ!」


 「ガバ」と顔を上げるムツアカ。

 私の返答が余程の事だったのか、その目が爛々としていた。


「いいよ。理由はわかるって言ったんだし。それと色々と納得できないところもあったんでしょ? もの足りないとかじゃなく、もっと戦いを楽しみたいとか」


「う、うむ、さすがロアジムさんが認めるスミカ嬢だっ! そんなに幼いのに、何もかもお見通しだとはなっ!」


「別にそんなに褒めなくてもいいよ。知り合いに似た人いるし」


 似た人っていうのは、戦いが好きな何処かのギルド長の話。


「ぐふふ」

「?」

「ぐふふふふ。また英雄の戦いが見れるとはなっ! わしは嬉しいぞっ!」

「………………」


 何やらそれを聞いて、喜ぶ冒険者バカがいたけど無視する。

 今更突っ込んでもどうにもならないし。


 一種の持病みたいなものだよ。

 ロアジムもムツアカも。





 スキルを操作して、ロアジムのお屋敷の裏庭に帰ってくる。


 地上に足を付けたみんなは、何だかフラフラとしているように見えた。

 船酔い? ではなく、単純に疲れたようだった。


 生涯初の空の旅で、羽目を外しまくってたからね。


 そんな中でもムツアカだけはしっかりと地面を踏みつける。

 確かめる様に数度ジャンプしては、腕を「グルン」と振り回す。


 どうやら気力的にも体力的にも問題ないようだ。



 これからの私との手合わせには。




「あ」

「どうしたのだ? スミカ嬢」


 空へ招待する前のように、広場の真ん中でムツアカと対峙する。

 他のみんなはテラスでこちらを見ている。


「あ、そう言えば、私の約束どうなるの? 引き分けの場合」


 5人のおじ様たちに私が勝った場合、私たちの能力の口止めをお願いしていた。

 それが引き分けだった場合の事を考えていなかった。


「何を言っている、スミカ嬢。そんなものワシとロアジムさんで、この街の貴族全員に緘口令を敷いてやるぞっ! 絶対に口外するなとなっ!」


 「ドン」と胸を叩いてそう答える。

 余程自信があるんだろうか?


「それって、破ったらどうなるの?」


「まず破るものはいないと思うが…… それでも何かの場合は一族郎党、この街どころか、この国にはいられぬな。まだ細かい罰則は話しあってはおらぬが」


「そうなんだ。だったらそれに甘えていい? 私だけではどうにもならないから」


「お、おおっ! それではワシとロアジムさんに任せてくれっ!」


 腰に手を当て得意満面で「ガハハ」と笑う。

 この様子なら任せても大丈夫そうだ。


「それで、まだ話っていうか、お願いがあるんだけど」

「おおっ! どんどんワシに頼ってくれっ! 英雄殿っ!」


 お願いと聞いて、またもや得意げな顔になるムツアカ。

 何だろう? 私もユーアみたいに孫みたいな感覚なのだろうか。



「と、思ったけど、戦いながら話そうか? その方がムツアカも――」

「おうっ! それでもいいぞっ! で、ワシがどうした?」

「その方が時間稼げるでしょう? それならムツアカも少し戦えるし」

「………………うん?」

「じゃないと、戦いを楽しむ前にムツアカは負けちゃうからね」


 「ニヤリ」と口元に笑みを浮かべ、ムツアカを見る。


「………………くっ」

「く?」

「…………くくっ」

「………………」

「くっ、あはははははっ!」


 私の挑発を最後まで聞いたムツアカが大声で笑いだす。

 目尻には薄っすらと涙が見える。


 余程私の煽りが意外だったのだろう。



「どう? 少しはやる気になった?」


 少し落ち着いたムツアカに聞いてみる。


「あ、ああっ! さすがはスミカ嬢っ! 弛緩した気持ちが引き締まったぞっ!」

「そう? なら良かったよ。何だか仲良しこよしの関係になってたから」

「そうだなっ! これから手合わせする相手には必要なかったなっ!」

「そういう事。私だってやりずらくなっちゃうんだよ。お願いばかりしてたから」


 私は視覚化した透明壁スキルを装備する。



 ムツアカは身の丈程の大剣。

 だったら私も大剣を模倣する。


 【四角柱+円柱(湾曲+連結操作)=大剣】


 ただし――――


「な、なんだっ! その巨大なものはっ!」

「うん? これは私が生成した魔法の武器だよ?」



 ――ただし、その大きさは私の身長を優に超える。


 否


 屋敷の2階まで届くほどの巨大な大剣だった。



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