第268話大剣vs(偽)超大剣
「な、それが武器だとぉっ! そんなものが振れるのかっ!?」
私が出したなんちゃって大剣を見て、驚愕するムツアカ。
口を半開きにして、巨大なスキル武器を眺めている。
「もちろん振れるよ。じゃないと武器にならないでしょ?」
「だ、だが、重さはどうなっておるのだ、スミカ嬢っ!」
「重さはある程度魔法で調整できるよ。じゃないと吹っ飛ぶからね」
私はそう言い、片手で立てている武器を振り下ろす。
ブォンッ!
「うおっ!?」
なんて風切り音って言うか、デカい
そして大量の埃を巻き上げる。
「ね?」
「………………う、むぅ」
確かにムツアカが心配する意味も分かる。
マンガやゲームなんかで、自身よりも巨大な鉄の塊を軽々「ブンブン」振り回す主人公などがよくみられる。
大きな剣ってだけで見栄えもいいし、強そうに見える。
しかし実際はどんなに怪力の持ち主でも、自身の体重を大幅に超えたものは振ることは出来ない。
そんな重量の武器を振った時点で、自分も一緒に吹っ飛ぶからだ。
『まぁ、そうは言っても、ここは異世界だし、何らかの魔法や能力で解決できるかもしれない。現にゴナタだって超重量なハンマーを振り回してるからね』
ただそうは言っても、私のスキル武器の大きさは次元が違う。
その巨大さから、対人武器ってよりは、攻城兵器って感じだし。
もしこれが金属だとしたら、その重さは半トンを軽く超えるだろう。
ムツアカもそれを懸念して、扱えるか聞いてきたのだろう。
※
「よし、やろうか」
「う、うむ。」
ムツアカにそう声を掛けたはいいが腰が引けている。
自分の握る大剣と、私の大剣を見比べている。
『あれ? もしかしてやり過ぎた?』
ムツアカの大剣は凡そ1.5メートル。
私の大剣(偽)は5メートル。
幅はムツアカの体格を超える。
『やっぱり人間て、自身より巨大なものには畏怖を感じるんだよね……』
ナゴタとゴナタの胸部ランクを思い浮かべて「ブルッ」と身震いした。
「ムツアカさん、この武器持ってみなよ?」
「うえっ?」
いつまでも動かないムツアカにスキル武器を差し出す。
「きょ、巨大過ぎるぞっ! こんなもの…… うっ! 軽いぞっ!?」
恐々と、両手で受け取ったスキル武器を持ち、その重量に驚愕するムツアカ。
それはそうだろう。
見た目とは反して、重さは5キロしかないのだから。
色々と法則を無視してるし。
「ね? それなら武器同士で問題なく戦えるでしょ?」
「う、うむ。だがいくら軽くとも、こんな巨大なもので――――」
「それはもういいから、さっさと始めるよ?」
「う、うむ。わかった。スミカ嬢」
何かを言いかけ、微妙な反応を無視して話を進める。
ムツアカが何が言いたいかはわかる。
『せっかく一対一で戦える機会が出来たのにっ! いくら軽くても、こんな大きさと頑丈さだけが取り柄のハリボテで、戦えるわけがないぞっ!』
そう思っているはずだ。
『まぁ、そう思うのは自由だけどさ。でもそんな常識に囚われた考え方じゃきっと後悔するよ? その年齢での見識の狭さと、柔軟な思考を持っていないことに対して、ね?』
さっきよりも気落ちしているムツアカを見てそう思った。
※
「ではいくぞスミカ嬢っ! いやスミカっ!」
「スミカ? て、何故にいきなり呼び捨てに? ああ、仲良しこよしの件かぁ」
ダダダ――
大剣を右脇に振りかぶり、間合いを詰めてくるムツアカ。
それに対し、なんちゃって大剣をムツアカの上段目掛けて振り下ろす。
「よっ」
ブンッ
「ぬ?」
ガンッ
それを難なく受け止め、剣をずらすことでやり過ごす。
その捌きで、なんちゃって大剣は地面を打ち付ける。
「よし、ここだっ!」
それを好機と見たのか、無防備な私に突きを放ってくる。
ガンッ
「うがぁっ!」
だが攻撃を受けたのは、突きを仕掛けた本人。
私は逸らされ、地面に付いたスキルを手首で返し、そのまま振り抜いたからだ。
いくら外したからと言っても、その重さから直ぐに反撃できる。
『それに、武器から私へのストロークが長い分、掻い潜ってきても余裕あるしね』
これが見た目通りの超重武器だったら、こうもいかなかっただろう。
これで長すぎる武器の欠点の一つは関係ない、と。
「うぐぅ、やはりやるなっ! スミカ」
「そう? やるのは今からだけど」
私は距離が離れたムツアカに大剣もどきを叩きつける。
ブンッ
ガンッ
「あ、甘いぞっ!」
それを先ほどと同じように受け止め威力を軽減し、いなすムツアカ。
「そんなムキムキな体型な割に、結構細かい技術使ってくるね」
「スミカほど、見た目で言われたくないのだっ!」
「なら、これならどうかな?」
「むっ!?」
ブンッ
ガンッ
「なんのこれしきっ!」
ブンブンブンブンッ!
ガンガンガンガンッ!
「うおっ!」
私は更にスピードを上げて、手数を増やしていく。
ブブブブブブブブブブンッ――――
「う、うおぉぉぉぉ――――――っ!!!!」
ガガガガガガガガガガンッ――――
上下左右、打ち下ろし、袈裟斬り、突き。
フェンシングのように、片手で連撃を加えていく。
「ぐ、があぁぁぁぁっ!!」
それを大剣と体術を駆使して防いでいくムツアカ。
端から見たら、5メートルの巨大な鉄の塊を片手で振り回す近付きたくない女子。
それよりも――
「へぇ」
私は感嘆の声を上げる。
ムツアカの姿を見て。
単純に上手い。
正直、その技量に驚く。
武器の特性、体重移動、剣筋を見る動体視力、弾かなくては防げない場面、避けなくても大丈夫な攻撃。無視してもダメージが低い攻撃。
それらを瞬時に判断し、深刻なダメージを防いでいる。
ここまでの技量はアマジと同等か、若干下だと判別する。
『まぁ、それでもアマジほど驚異も昂揚感も感じないんだけど、大したものだよ』
必死に攻撃に喰らいついてくるムツアカ。
ほぼ被弾もしなければ、ダメージも低い。
「そう言えば、話があるって言ったけど大丈夫?」
絶え間なく打ち鳴らす剣戟を聞きながら聞いてみる。
「ぐ、あ、ああ、なんなのだ? スミカっ!」
それを歯を食いしばり、やり過ごしながら返答するムツアカ。
「あのさ、ここにいるおじ様たちって、みんな戦闘職だったの?」
「ぐ、ぐう、あ、ああそうだぞっ! それがどうしたのだっ!」
「杖のおじ様も?」
「杖の? あ、ああそうだっ!」
「え? あれで?」
マジ?
体の使い方も、武器の扱いも、全てが一般人レベルだったけど。
もしかして演技で成り上がる職業とかあるの?
「あ、あ奴は前線ではなく、指揮官に付く参謀だったのだっ!」
「さんぼう? ああ、参謀か」
「そ、そうだっ! 戦術や、戦略を立てる知謀家だっ!」
「ちぼうか?…… ふ~ん、なるほどね」
戦国時代で言えば軍師みたいなものか。
だったら、あの私が一杯食わされた作戦も杖のおじ様が考えたのだろう。
「でさ、おじ様たちは普段みんな何やってるの? 仕事してるの?」
「う、うぐっ し、しておるものいれば、そうでない者もおるぞっ!」
「そうなんだ。だったらさ――――」
3桁を超えそうな剣戟を打ち合う中、ムツアカの雰囲気が変わる。
「『豪・三連強斬』!!」
ガガガッ!
そう叫んだムツアカの攻撃は、大剣スキルを強烈に打ち付ける。
刹那の間に3撃。
「わっ!?」
私は大剣を上に強く弾かれた事により、後方に仰け反りたたらを踏む。
「では、これで一撃貰ったぞっ! スミカぁっ!」
ダダダ―
「っ! これじゃ、武器を引き戻しても間に合わないね、だったら」
スキルを引き戻して、振り下ろしてたのでは間に合わない。
ムツアカは、もう間合いの中に入ってきている。
「よっ!」
私は手首を内側に曲げて、なんちゃって大剣を引き戻す。
って、言うか真下にズリ降ろす。
だって大剣の柄を持って振り被ってたんじゃ間に合わないから。
そして降りてきた、持ち手ではない部分を掴んで突きを放つ。
「な、なぁっ!? 刃の部分をっ!!」
ガィンッ
「あれ? 驚いたて割に見事に防いだね。意表をついたつもりだったのに」
なんちゃって大剣の刃の部分を引き戻しながらそう話す。
ムツアカは大剣をスキルに振り下ろす事で躱していた。
「ス、スミカ嬢っ! 手は何ともないのかっ!?」
そんな行動を見て、心配してくれるムツアカ。
「嬢」呼びに戻ったのはご愛敬だろう。
「手? ああ、元々刃は鋭利にしてないから大丈夫だよ」
「そ、そうなのかっ?」
刃の部分を握りながら上下にブンブンと振って、手の平を開いて見せる。
「ね? だから心配しないで大丈夫だよ」
「う、うむ。確かにきれいな手だな。しかもこんな小さな手で巨大な武器を……」
マジマジと開いた手の平を見つめるムツアカ。
思ったより心配かけてしまったようだ。
て、言うか、今はそんな無駄な事いらないのに……
「…………それじゃ、仕切り直しするよ」
「お、おうっ! いつでもかかってこいっ! スミカっ!」
ムツアカは安堵した表情で大剣を構え直すのであった。
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