第261話おじ様バトルと開始の合図




「スミ姉だったら、あんな爺さんたちなんて楽勝じゃないのよっ!」

「そうですよね? でもあのおじさんたちも強そうだよ?」


 広場に向かう直前にラブナとユーアが声を掛けてくる。


「どうだろうね? 確かに圧倒できるとは思うけど、それでも昔は腕に自信があった人たちみたいだから、気を抜かないようにはするよ」


 どうやら準備が終わったおじ様たちを見て、ユーアたちにそう返す。


「それに今回は、ただ勝つことが目的じゃないんだよ」


 さらに二人にはそう付け足して話す。


「そうなんですか? スミカお姉ちゃん」

「ああ、さっきの賭け事みたいな話よね? スミ姉が魔法の武器5個だけ使って、5人を相手に一歩も動かないで戦うってやつ」


 すぐさまラブナが説明してくれる。


「そう。でも攻撃以外の魔法は使えるよ。後は誰かが一撃でも私に入れたらあっちの勝ち。で、向こうが参ったしたら私の勝ち。因みに私に勝った賞品はトロール1体なんだけどね」


 指を立てて二人にそう説明する。


「あっ! 何か難しいお話してた時にトロールって聞こえてきたのはそれなの? スミカお姉ちゃんっトロールあげちゃうのっ? あんなに美味しいのに?」


「あっ!」


 失敗した。

 ユーアに何も説明してなかった。

 トロールって聞いて過敏に反応してしまった。


 それを聞いたユーアは瞳を潤ませて、私を見ている。

 うるうるモードが発動してしまった。


「あ、そ、そうなんだけど、その代わり――――」


「何言ってるのよユーア。スミ姉が負けた時の賞品なんだから、実質誰にも渡るわけないでしょ? ただ単に取引に使ったってだけよっ」


「あ、そうだよねラブナちゃんっ! スミカお姉ちゃんが負けるわけないもんねっ! ボク、トロールをあげるって聞いてびっくりしちゃったよぉ」


「そうよユーアっ! スミ姉を信じてアタシたちは応援してればいいのよっ!」


「うん、わかったよラブナちゃんっ! スミカお姉ちゃん頑張ってねっ!」


 そうしてユーアに笑顔が戻った。

 ラブナの説得が功を奏したようで良かった。


「それじゃそんなわけだから適当に見ててね」


 私はそう告げて、おじ様たちが待つ中央に集まる。


『さて、それじゃ楽しんでもらおうかな? おじ様たち』



※※



「ごめんね、ユーアたちと話してて遅れちゃって」


 着いてすぐさま頭を下げる。

 元々は私が待つ予定だったのに、逆に待たせてしまったから。

 そこには各々に武器を持って、僅かに強張った表情のおじ様たちがいた。


「全然気にしないでいいぞっ! ワシらは挑戦者の身分じゃからなっ!」

「それなら安心したよ。で、開始の合図とかあるの?」


 私はキョロキョロと周りを見渡す。

 こういう場合、号令をかける担当がいそうだったから。


「あ、それはゴマチの出番なんだなっ!」

「うううっ…………じいちゃん……」


 そう声を掛けて出てきたのはゴマチだった。

 じゃなくて、ゴマチを肩車しているのロアジムだった。


「え、ゴマチがやるの? 別に合図だけだから誰でもいいんだけど」

「ううう、スミカ姉ちゃん、俺、超恥ずかしいんだけど……」


 どうやらゴマチがやるみたいだけど、何やら顔を赤くしている。

 ロアジムの頭にしがみついて、顔を伏せている。



「あ、ゴマチちゃんっ! ボクも手伝うよっ!」


 トテテテっとユーアがゴマチの元に駆け寄る。

 ユーアもラブナみたいに、お姉ちゃん風を吹かせたいのだろうか?


「おおっ! そうかユーアちゃんも手伝ってくれるかっ!」

「うんっ! ボクもお手伝いできるからっ!」 


 ロアジムは笑顔でゴマチをユーアの脇に降ろす。


「ユーア姉ちゃん、ごめんな、俺がウジウジしてたから」

「ううん、そんなんじゃないよ? ボクも何かしなきゃって思ったんだ」

「それでもありがとうな、ユーア姉ちゃんっ!」

「うん、それじゃ二人で頑張ろうねっ!」

「うんっ!」

「あ、そうしたらボクが最初に……」

「うん、うん」


 どうやらユーアのお陰でゴマチは緊張がほぐれたようだった。


 まだぎこちないけど、笑顔が浮かんでいる。

 元々人見知りが激しい子供だから、そこは仕方ないけど。


『さすがユーアはラブナと違って純粋だねっ』


 なんて、手を繋ぎ、何やら相談を始めた二人を見てそう思った。

 そして広場向こうには、薄く微笑んでいるアマジが見えた。



「せ~の」


「「おじちゃんたちと、英雄さまの、もぎせん開始ぃ~っ!!」」


 掛け声とともに、幼女の二人が繋いだ手を振り下ろす。

 それが合図となった。


「「「~~~~~~」」」


 ただそんな号令がかかっても、誰一人動きださない。

 二人が広場脇に移動しないと、戦いに巻き込まれて危険だからだ。


 なんて、そんな大層な理由は無かったりする。


 その理由は――――



「良かったよぉ~、ボクも緊張しちゃったよぉっ!」

「俺もドキドキしたっ! でもユーア姉ちゃんいたから平気だったっ!」

「ボクもだよっ! ゴマチちゃんっ!」

「またやってもいいかもなっ!」

「それじゃ今度練習しようねっ! もっと上手に出来る様にっ!」

「うん、ユーア姉ちゃんっ!」

「あ、それとね、今度みんなとね――――」

「えっ! いいなぁ、俺も親父に頼んで――――」


 みんな揃ってユーアたちがキャッキャと下がっていくのを見てたからだ。だらしなく、とは言い過ぎだけど、二人をにこやかに見送っていた。


 そうして二人は和気あいあいと手を繋ぎながら、他の貴族のおじ様がいるテーブルに戻っていた。そこにはラブナも手を振って待っていた。



「さて、それじゃ始めようかっ!」


 緩んだ空気の中、私が開始の合図をする。


 『なんか号令の意味がなかったけど』

 

 なんて、口には出さない。


 これは行ってみればゲームみたいなもの。

 だからそこまでかしこまる必要もない。


「おうっ! 楽しんでいくぞみんなっ!」


「「「おお~~~~っ!!!!」」」


 ムツアカが叫ぶと他のおじ様たちも叫ぶ。


 音頭を取っているところを見ると、ムツアカは立場が上なんだろう。


「よし」


 私はさっきみせた円柱のスキルを黒色で5機展開する。

 それを見て、おじ様たち5人は、私を囲むように広がる。


 それぞれに得意な武器を構えて。 


『ムツアカはそのまま大剣で、後は小剣が2人と、無手が1人。最後は長杖っと。ん、杖って事は魔法を使えるって事? 変わった装飾が付いてるけど』


 遠距離は要注意


 それと多人数だから死角にも気を付ける。


 私は5人をグルっと見渡してそう心に決めた。


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