第260話スミカの策略と提案
念入りに準備体操や、素振りをしている貴族の5人を見る。
いずれも年齢は50歳前後。
それぞれに武器を振る姿を見て、中々にサマになってると思う。
これなら昔は腕に自信があったてのも頷ける。
普通の貴族なのか、それとも武功を上げて成り上がったのかはわからない。
それでも私から見ても、今でも十分に現役でいけそうな体つきをしている。
武器の構え方、足運び、身のこなし、いずれも冒険者と比べて遜色ない。
『うん、ルーギルよりは劣るけど、それでも遥かに一般人より強いよ』
そんな輩が5人。
それが今から私と戦う相手だ。
ただし、その中でもムツアカと呼ばれた、色黒ガチムキおじさんは別格。
ゴツイ図体の割に、武器を振るう速さも重さも音も、他の4人とは違っていた。
「スミカ嬢っ! さっきの小さいシスターズたちの戦いは見事だったぞっ」
「え、あ、う、うん、ありがとう、ございます」
戦う予定の貴族のおじ様たちを見ていると、ムツアカが声を掛けてくる。
「なんだ、ワシもロアジムさんみたく砕けた口調でいいぞ? ワシ自身も礼儀とかは苦手だしなっ!」
「そ、そうですか、なら、そうする、よ? 私もこの姿の割には礼儀とか苦手だし、むしろ私以外のメンバーの方がしっかりしてるしね」
せっかくの貴族さまからお許しが出たので、直ぐにタメ口で話す。
「その姿の意味が、礼儀に繋がるかはワシは知らんがそれでいいぞっ!」
「あ、それで結局どうするの? 模擬戦? 手合わせ? の仕方とか」
当初の話に戻してムツアカに尋ねる。
「それなんだが、普通にやっても面白くないと、他の奴が言い出してな、実はまだ決まってないんだ。恐らくシスターズの活躍に触発されたんだろうな」
柔軟や素振りをひたすら行っている、他のおじ様たちを見る。
「そうなんだ。だったら私に提案があるんだけど」
「おお、どんなものか聞かせてくれっ!」
「私、一応魔法使いなんだよ」
「うむ、それはロアジムさんから聞いてるぞ。変わった魔法を使うとなっ」
「それで、私決まった範囲から動かずに、5人を同時に魔法だけで相手するよ」
私はそう言って、黒に視覚化した透明壁スキルを頭上に5機展開する。
形状はいずれも1メートルくらいの棒状のもの。
「おおっ! これがスミカ嬢の魔法かっ!」
フワフワと浮いている黒の棒を見て、歓喜の声を上げる。
「それで、この5個を掻い潜って、中心にいる私に1発入れたらムツアカさんたちの勝ち。で、誰も辿り着けず、負けを宣言したら私の勝ちっていうルールなんだけど」
簡単に説明を終えて「どう?」とムツアカの顔を見る。
どうも何も、今のムツアカの表情を見ればわかるんだけど。
「面白い事を考えるな、スミカ嬢はっ! 一見すれば、ただの棒相手に負けるわけないと思うのだが、英雄さまの得意の魔法なのだから、そんな事はないはずだ。いや実際は歯が立たぬと言ったところが真実だろう」
「うん」
「だが5人同時なのと、動かないスミカ嬢に一発入れるってだけで、難易度がグッと下がる。何とかなるんじゃないかってくらいにな、まるで遊戯の様になっ!」
「そんな感じだよ、でも良く分かったね? むしろ怒るかと思ったけど」
普通の貴族ならきっと憤慨していた事だろう。
小娘が腕に覚えのある大人に対して、手を抜いているように見えるのだから。
いくら英雄と呼ばれているからって、それでも自尊心が傷つけられるだろう。
「気にしなくてもいいぞ? スミカ嬢。ワシらはもう現役を退いてしばらくたつ。そんな輩が現役の、しかもあの巨体をあんなに見事に討伐した冒険者に敵う訳が無いからなっ!」
「わははっ」と笑いながら、未だに直立したままの物体を見る。
それは手土産に私が出した10メートル級のトロールだった。
「あと言い忘れたけど、私の武器はその魔法だけなんだけど、それ以外の用途には他の魔法使うから、攻撃も防御もしないけどいい?」
「それでも構わないぞっ! それが勝敗に関係ないのであればなっ」
追加した条件だけど、すぐさま可決されてしまった。
「あ、それと更に遊戯っぽくしてみない? 賭け事の部類だけど」
「まだ何か面白くするルールがあるのかっ! いいぞ早く聞かせてくれっ!」
そんな私の新たな提案に嬉々として急かしてくる。
「実はさ、あのトロールは他にもまだ持ってるんだよ。なんで、私に勝てた人にあげちゃおうかと思って」
「おおっ! さすが英雄は太っ腹というか、豪胆というか、あんな高級食材を惜しげもなく賭け事に使うとはなっ! して、ワシたちが敵わなかった場合は?」
「それはね、ロアジムにも後でお願いするけど、私たちの情報をあまり外部に漏らさないで欲しいんだよ。情報は武器にもなるけど、逆に知られたら威力は半減しちゃうからさ」
「ねっ、お願い」と付け加え、胸の前で手を合わせながらウィンクしてみる。
「なるほどそれは重要だな。それだったらワシが責任を持って口止めしておくぞっ! それとロアジムさんにも伝えておくからなっ!」
「そう、それなら安心――――」
「なんじゃ? ワシの名前が聞こえたが一体どうしたんだい?」
ユーアとゴマチの手を繋ぎながら満面の笑みのロアジムが口を挟む。
「ちょうどいいや、ああ、それはね――――」
私は今の話を掻い摘んでロアジムにも話した。
※
「なんだ、そんなこと心配しなくとも、わしたちは口外せぬぞ?」
「うん、多分そうだとは思うけど、やっぱり無条件で約束されるのは落ち着かないっていうか、納得できないって言うか」
「うむ。ワシはスミカ嬢の言いたい事がわかるぞ、ロアジムさん。簡単に言えば、お互いに対等の立ち位置にしたいって事だろう。英雄や貴族うんぬんの話より、約束事としてな」
「うん、大体ムツアカの言う通りだよ」
「そうか、ならスミカちゃんの好きにしたらいいさ。わしに異論はないぞ」
「ワシもだなっ!」
そう言って、笑顔で頷いてる二人。
「うん、二人ともありがとうねっ!」
私はそれを見て笑顔で答えるのであった。
内心では「うししっ」とほくそ笑んでいたけど。
※
でもこれで私たちの情報が漏洩する可能性は減った。
ラブナの魔法も、ハラミの特殊性も知ってる人が限られる。
何かあっても出所を探るのは容易い事だろう。
『で、次は私が上手に接待すれば万事うまくいく。って事だよね?』
あとはおじ様たちに十分に満足してもらうだけ。
適度に戦って汗をかけば恐らくそれで十分。
「それじゃ、私も準備あるから先に行ってるよ」
「わかったぞっ! スミカちゃん」
「スミカ嬢、準備出来たらすぐにそちらに行くぞっ! ああ楽しみだっ!」
先に広場中央に陣取り、私も準備をする。
おじ様たちを満足させる演出を考える。
私の今回の役割は「キャスト」
おじ様たちは「ゲスト」
だったら、今日のお客さまを楽しませるために全力を尽くそう。
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