第275話神さまの武勇伝と姉妹の特権




「「「ありがとうございますっ! スミ神さまっ!」」」



「ど、どうも。 ユーアになんて聞いてるかわからないけど、私、神さまなんて呼ばれるほど、偉くも、尊敬できるとも思わないけど……」


 30人の子供たちの熱い視線を受けながら、恐々と返す。

 だって、無表情のさっきよりも雰囲気が恐いんだもん。

 純粋って言うか、何かを信仰してそうな目をしてるし。



「と、とんでもないですっ!」


「「「うん、うんっ!」」」


 それを聞いて年長者の少女が話し、後ろの子供たちが相槌を打つ。


「ス、スミ神さまはユーア姉さまを、救ってくださったと聞いていますっ!」


「「「うん、うんっ!」」」


「が、崖から落ちたのをお救いになり、そして野盗をも返り討ちっ!」


「「「うん、うんっ!」」」


「ま、街へ帰ると、ユーア姉さまを馬鹿にした男どもをボコボコにっ!」


「「「うん、うんっ!」」」



「う、うん、そうだったね」


 なんかノリが体育会系っぽいけど、何となしに相槌を打つ。

 下手に余計な事を言ったら、幻滅されそうだし。


 

「わ、わたしたちの寄付の為、生活苦だったユーア姉さまに、快適なお家と洋服と、お腹いっぱいのお肉も与えてくれて」


「「「うん、うんっ!」」」



『って、まだ続くのっ』


 相槌に何の反応を示さないまま、まだ話始める年長者の少女。

 そしてその後に続く子供たち。



「な、尚且つ、大豆のお店を救い、私たちの街を救ってくれて、魔物のハラミちゃんとも再び出会えさせて、そしてナジメ領主さまへ、孤児院の再建のお願いをしてくださった」


「「「うん、うんっ!」」」



「う、うん」


 いったいいつまで続くのだろう?

 これまでのあらすじみたくなってるけど。


『でも、今ので最近の話だから、もうネタ切れっぽいね?』


 それにしても、ユーアは意外と細かい詳細を話しているようだね。

 メルウちゃん(大豆屋工房サリュー)の事まで話しているし。



「……わ、わたしたちの面倒を見て下さったユーア姉さま。そんな姉さまをわたしたちは心から感謝し、尊敬していますっ! ラブナ姉さまも、もちろん一緒ですっ!」


「「「うん、うんっ!」」」



「う、うん。そうだね、ラブナもだよね」


 なんか話が終盤に差し掛かってるっぽいね。

 感謝の言葉になってるし。



「そ、そんなユーア姉さまは、わたしたちに言っていましたスミ神さまの事をっ!」

「「「うん、うんっ!」」」


「うん?」


「き、きれいで、カッコ良くて、強くて、優しくて、ボクに何でも与えてくれる、勇気をくれる、大切にしてくれる、守ってくれる、ボクに、そんな――――」


「「「うん、うんっ!」」」


「………………」



「――ボクにそんな『神さまみたいなお姉ちゃんが出来たんだ』て言ってましたっ! 今までで一番嬉しそうに話していましたっ!」


「「「うん、うんっ!」」」


「………………」



「そ、それがスミカお姉さまを神さまと呼ぶ理由なんですっ! わたしたちを見守ってくれたユーア姉さま。それを救ったスミカ姉さまは、わたしたちにとって神さまなんですっ!」


「「「うん、うんっ!」」」


 そう締めくくり、みんなが私を見る。

 ユーアもラブナも、ナジメも子供たちも。



「………………なるほどね、そんな話が聞けて良かったよ」


 ユーアが私をどう思ってたのかを含めて。


「でも、私は神さまって言うほど、何でも出来る訳じゃないし、そんな立派なものでもないよ。ユーアの事は、私が好きでしてるわけだし、孤児院の件に関しては、私一人では何もできなかった。仮に出来たとしても、かなり時間はかかってたはずだから……」


 みんなを見渡しながら、淡々と事実を話す。

 もし、私が神さまだったら、誰の手も借りずに出来てただろうし。


「それでもね、スミカお姉ちゃん?」

「うん?」


 ユーアが私の腕に手を絡める。


「ボクを救ってくれたのは本当なんだよ? ボクのお姉ちゃんになってくれて、美味しい物や、きれいなお洋服、ふかふかなお布団、快適なお家、そしてボクも戦えるようにしてくれた。そんな事があっと言う間に出来るのは――――」


 「きゅ」と私の腕を両手で取り「くり」とした瞳で見上げてくる。


「――――そんな事が出来るのは、ボクは神さましか知らないよ? だからスミカお姉ちゃんは神さまなんだよっ! みんなの神さまなんだよっ!」


 腕に力を入れ、声高に私に訴える様に話すユーア。

 ただその勢いとは裏腹に、表情は非常に柔らかいものだった。

 


「そう、だね、そんな事を出来るのは神さまかもしれないね」

「うんっ! そうだよっ!」


 笑顔のユーアの手を取りながらそう返答する。


「でもね、私は神さまは嫌だなぁ~」

「な、なんでですかっ? だってスミカお姉ちゃんは、ボクの――」

「ユーアは私の妹だよ」

「え?」

「ユーアはこの世界で、一番大事な妹なんだよ」

「うんっ!」


 私は一歩下がりユーアを見る。


「そうしたら、ユーアにとって私は何? 神さまなんて意味の分からない曖昧な存在? 願えばなんでも叶えてくれる、そんな一方的で便利な存在?」


「ち、違いますっ! 違わないけど、なんか違いますっ!」


「そうでしょ? 私だったらユーアが神さまなんて、遠い存在だなんて嫌だもん」


「う、うん、ボクもスミカお姉ちゃんが遠いのは嫌ですっ!」


「そうだよね、なら私がなにかわかるでしょ? ユーアは私の妹。だったら?」


「スミカお姉ちゃんは神さまじゃなくて、ボクの大好きなお姉ちゃんですっ!」


 最後、両手を胸の前に合わせて答えるユーア。


「そう、よくできたね。神さまもいいかもしれないけど、私とユーアは姉妹なんだよ。だからこうやって一緒にいられるし、お風呂にも入れるし、冒険だってできるし、それに――――」


 ガバッ!


「えっ?」


「可愛い妹の成長を、触れて確かめられるのも、お姉ちゃんの特権だからねっ! お? 前よりお肉が付いてきたね? 二の腕も柔らかくなってきたしっ!」


 ふにふに ぷにぷに


 手をワキワキしながら小さい体に抱きつき、全身をくまなく揉んでいく。

 うん。ちっぱいはまだあまり柔らかくないね。



「ちょ、スミカお姉ちゃんっ! みんな見てるよぉっ!」

「お、今日は随分派手な下着なんだね?」


 しゃがんで「ピラッ」とスカートを捲ってみる。


「別に派手じゃないよぉ~。スミカお姉ちゃんと色違いだよぉ~っ!」

「え? あ、ああそうだったね。でもこれでわかったでしょ?」

「うん、わかりましたっ!」

「姉妹が一番楽しくいられるって事にねっ」

「はいっ! スミカお姉ちゃんの言う通りですっ!」



 こうして、私は神さまとしてではなく、姉妹としての仲を確かめ合った。



 因みに他のみんなは、仲の良い姉妹のじゃれ合いを……


「「「~~~~~~っっ」」」


 チラチラと盗み無る様に見ていた。

 仲睦まじい姿を見て、照れてしまったようだ。

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