第274話異世界の新神さま誕生




「ねぇねっ! わしが悪かったのじゃっ! 今度から忘れないのじゃぁっ!」



「ど、どうしたんですかナジメちゃんっ?」

「ナ、ナジメが空中で回転してるって、どういう状況よっ!?」


「あっ! ナジメちゃまがイジメられているっ!」

「きっと、あの黒いお姉ちゃんだっ!」


 お仕置き中のナジメの悲鳴を聞いて、タイミング良く?悪く?なのか

 ユーアたちが子供たちを連れて玄関から出てきた。

 その人数は、凡そ男女合わせて30人くらいだ。


「み、みんな、ナジメちゃまを助けるんだぁっ!」


「「「いくぞぉっ! わ~~~~っ!!」」」


 ナジメの悲鳴により、首謀者が私だと気付いた子供たちが一斉にやってくる。

 みんな一様に拳を振り上げ、私目掛けて駆けてくる。


「ちょ、私が悪者なのっ!?」


 予想外の出来事と、子供たちの剣幕に少し驚く。


「あ、相手は怯んでいるぞっ! みんなで囲んで一気に行くんだぁ~っ!」 


「「「わ~~~~っ!!」」」


 子供たちは砂糖に群がるアリの様に、一斉に私を囲んでいく。


「な、何なのこの団結力はっ! でも透明壁スキルは使えないなっ!」


 なので、私は透明鱗粉を自身に散布して姿を消す。

 そしてそのまま子供たちの間をすり抜けていく。


 あるものを子供たちの口に放り込みながら。


「き、消えたっ! あぐっ!」

「どこに行ったのっ! むぐぅ」

「あれ? 背中に蝶の羽なかった? ふぐぅ!」

「も、もしかして、このお姉ちゃんって? もぐぅ」


「「「もごもぐもぐもぐ――――」」」


 シ――――ン



「よし、これで少しは大人しくなったかな?」


 透明化を解除しながら、後ろに振り向き子供たちを見てみる。

 みんな海鮮串焼きに夢中になっている。


「ス、スミカお姉ちゃんっ!」


 トテテとユーアが私を見つけて駆けてくる。

 その後ろにはラブナもいる。


「うう~、目が回ったのじゃ~っ!」


 そしてスキルを解除したナジメもフラフラとこちらに歩いてくる。



「ユーア、子供たちみんな起きたんだね?」


「そ、そうですけど、みんな勘違いして、スミカお姉ちゃんを――」

「全くっ! ナジメがスミ姉を怒らせたからでしょ? どうせ」

「わ、わしが今度は悪者扱いなのかっ?」


 わーわー言いながら私の元に集まるシスターズ。

 それを子供たちはもぐもぐしながら様子を伺っている。



「まぁ、お仕置きは終わったし、ナジメも反省してるからもういいんだけど。なんか私のイメージが悪くなってない? 会った事ないから元々の好感度は知らないんだけど」


 集団のジト目を受け止めながらユーアたちに聞いてみる。

 無言、無表情で、子供たちに睨まれるのは正直恐い。


「こうかんど? 大丈夫だよ。スミカお姉ちゃんの事は話してるので」


「そうよ。ユーアを連れまわして、オークとトロールを大量虐殺したとか、姉妹をみんなの前でひん剥いて勝っちゃうとか、ナジメを壁に挟めたり、孤児院を魔法で爆散したとか――――」


「ちょっと待ってラブナ。それだけ聞くと、超が付く極悪人なんだけど、私」


 ラブナがそのまま説明してたら、子供たちは恐くて近づけない。

 いやそれどころか、今度は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑うだろう。


「ちょっと、ラブナちゃんっ! そんな変な事みんなに教えてないよぉっ! ちょっとだけだよぉっ! だから心配しないでスミカお姉ちゃんっ!」


 ラブナのドヤ顔の説明に、必死に弁明するユーア。

 ちょっとだけってのが気になるけど。


「ユーアがそういうなら心配ないけど。それにしてもナジメは好かれてるんだね?」


 スキルの中で、叫び声をあげるナジメを助けようとした子供たち。

 それを思い出して聞いてみる。


「うむぅ。わしもなんだか慕われて、むず痒いんじゃが。会った時からみんないい子じゃったのじゃ。恐らくユーアとラブナが話をしてくれてたのだろう?」


 ユーアとラブナにナジメが聞いている。


「うん。この街の偉い人って事と、お屋敷を貸してくれた人、それと新しい孤児院や、お洋服をくれた人って話してあるよ」


「アタシも大体似たような事を子供たちに伝えたわっ!」


 ユーアはいいとして、ラブナは正直何も言わないで欲しい。

 勝手に悪者にされそうだから。


「洋服? だからみんなキレイな格好なんだね?」


 子供たちを見ると、みんな身なりがいい。

 高級って程ではないけど、何処に出ても恥ずかしくない身なりだ。

 どこかのお金持ちの、坊っちゃんとか、お嬢さまみたいな。


 ユーアなんて最初ただの布切れ一枚だったのに。

 しかも下着も替えがなく、ノーパンだった時期もあったのに。


 なんて、最近の事なのに思いを馳せる。



「そうなんです。だからみんなナジメちゃんを大好きなんですっ!」


 ユーアが子供たちを見ながら、嬉々として話す。


「うん、そうだね。ユーア」


 そんな笑顔のユーアの頭を撫でる。


 ちょっとだけ、過去のナジメの素行を思い出したが、ここでそれを言うのは野暮ってものだ。これからは以前より、もっと過ごしやすい環境が出来上がるんだから。


『……そう考えると、ナジメの力は大きいよね。権力も繋がりも、私が持ってなかったものだし。そもそもユーアの生活を守るだけで精一杯だったし』


 ちょっとだけ寂しく思う。


 ユーアが守りたいものが、私だけではどうにもならなかった事に。

 そしてユーアも子供たちもナジメを恩人って思っているって事にも。


『いや、いや、何を心が狭い事考えてるんだろ。良い方向に向かえば、それは私じゃなくてもいいんだよ。私はユーアにずっと笑顔でいて欲しいんだから』



 でも、私はユーアにどう思われてるんだろう。


 私はユーアに救われたし、ユーアがいないと生きてても意味がない。

 この世界での生涯の願いがユーアの為に生きる事。

 それは願望ではなく、誓約。

 一生を賭して果たすべき役割。


 だって、私はユーアのお姉ちゃんだからね。



「どうしたんですか? スミカお姉ちゃん?」


 「クリ」とした目で、心配そうに聞いてくるユーア。


「なんでもないよ、ユーア。それよりみんなこっちに来るみたいだけど」


「「「………………」」」


 口元を拭きながらトコトコと子供たちが歩いてくる。

 相変わらずの能面な表情で恐い。


 そして私たちの前に横並びになる。

 みんな真剣な表情で、私たちを見ている。


『うん? 私たちって言うか。みんな私を見て――――』


 その中の年長者の少女だろうか。

 真摯な表情のまま一歩前に出て――――



「は、初めましてっ! スミ神さまっ!」


「へ?」


「わたしたちと、ユーア姉さまを救って下さりありがとうございましたっ!」


「「「ありがとうございましたっ! スミ神さまっ!!」」」


 年長者の少女に続き、一斉に私に向かって頭を下げてきた。


「いいいっ! わ、私の事、その、神さまってっ?」


 しどろもどろになりながら聞いてみる。


「そうですっ! スミ神さまですっ!」

「「「はいっ! スミ神さまっ!!」」」


「…………………」


 き、聞き間違いじゃない。

 私、神さま扱いされてるっぽい。


『い、一体ユーアは私の事を何て説明してるのっ! 子供たちにっ』


 ニコニコ顔のユーアと、上気した表情の子供たちを見てそう思った。


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