第273話領主との会談とお仕置き
「お昼寝ですか? もぐもぐ、ナジメちゃん」
「もぐ、そうね、確かにそんな時間だわっ!」
「そう、もぐ、じゃろ? だから、もぐもぐもぐ」
「いいから食べ終わってから話しなよ。串焼きはまだたくさんあるから」
ユーア、ラブナ、ナジメの順で話し始めたが、みんな海鮮串焼きを頬張りながらでわかりずらい。特にナジメは両手に持ってかぶりついているので、一層聞き取れない。
「それじゃぁ、わたしは帰るわねぇ。この後も予定あるしぃ」
ニスマジは、中庭でメイドさんに荷物を渡し終えてサインをもらっている。
どうやら、このままロアジムのところに行くようだ。
「もぐ、うむ、ご苦労、もぐ、じゃったな、ニスマジ、もぐもぐ」
「だからいい加減、食べ終わってからにしなよ、ナジメ」
配達を終えたニスマジに労いの言葉を掛けるナジメ。
そのだらしなさに突っ込む私。
「あ、そう言えばぁ、さっきナジメさまから聞いたんだけどぉ、ナジメさまもバタフライシスターズに入ったんだってぇ?」
行儀の悪いナジメを気にした風もなく、私に聞いてくる。
「あれ? 知らなかったんだっけ? そうだよ、ナジメも仲間になってくれたんだよ。ただ立場もあるから、あまり一緒に活動は出来ないかもだけど」
そうニスマジに告げる。
「あらぁん、だったらナジメさまの衣装も真似しなきゃだわねぇ?」
「それはやめて」
私は変態の意見をすぐさま寸断する。
だって、スク水衣装のガチムキ男なんて見たくないから。
「な、なぜじゃっ! ねぇねよっ!」
ニスマジとのやり取りを聞いて、ナジメがべそをかき、口を挟む。
「なぜって、わかるでしょう? ニスマジたちがあの格好をするんだよ?」
下手したら通報されるよ? ワナイ警備兵来ちゃうよ?
そんなの見たら、発狂するよね?
「う、うむ。それでもわしは、自慢の装備を広めたいのじゃっ!」
「正気なのっ!?」
「あらぁ、だったら急いで準備しなきゃだわぁっ!」
「絶対にやめてっ!」
なぜか、頑ななナジメと、更に商売意欲の出てしまったニスマジを止める。
あんなものが世に出たら、きっとこの世界は終わりだろう。色んな意味で。
そうしてニスマジはナジメの屋敷を後にした。
去り際の表情は、何やら含みのある笑顔だったけど
※
私たちもお昼ご飯を食べて、今はのんびりとお茶をしている。
未だに孤児院の子供たちは、お昼寝タイム中だ。
ユーアとラブナは子供たちの様子を見に。
私とナジメは外のウッドデッキ風なテラスで寛いでいる。
「それにしても大きなお屋敷だよね? これ殆ど使ってなかったんでしょ?」
メイドさんの一人に淹れてもらった紅茶を含みながら話す。
紅茶は普段あまり飲まないけど、いい天気と景色で美味しく感じる。
「そうじゃな、あまりコムケの街にはこれなかったのでな。その代わり、ロアジムとわしの女中が留守を見てくれてたので助かったのじゃ」
そんなナジメも、屋敷に目を向けては嬉しそうにそう話す。
因みに飲んでいるのは、紅茶ではなく白い液体。何かの乳製品だろうか。
「あ、ロアジムで思い出した。私たちが遅れた理由なんだけど……」
「うむ、何となくはわかる気がするが、何があったのじゃ?」
私は掻い摘んで、ロアジムの屋敷での出来事を話した。
「ほう。ユーアとラブナがバサに一泡吹かせたとなっ!」
ユーアたちとバサとの模擬戦の結果を聞いて驚くナジメ。
「そうなんだよ。肝心なところは見れなかったんだけどね……」
私は溜息交じりにそう答える。
「わしは、ユーアとラブナの事については殆ど知らぬが、それでもねぇねが選んだ者だから、何かの力があるとは思っておったのじゃが、まさかそこまでとは」
「ユーアの能力に関しては、多分本人もだけど、私も掴み切れてないんだよ。でもラブナは戦ったことがあるから、勝敗を聞いて驚いたんだよ。勝ち目なんてないって思ってたから」
「ううむ、で、ねぇねはどうするのじゃ?」
「…………まだ決められないかな? でも修行パートが終わってから決めるよ」
ナジメが言う「どう?」とは大会の話だ。
危険が伴うチーム戦へ、年少組が出場するかの。
「そうじゃな、決めるにはまだ早々やも知れぬ。じゃがわしは期待しているのじゃ」
「……私は正直出て欲しくないかな?」
ナジメの話を聞いてポツリと呟く。
「まぁ、ねぇねはユーアを過保護にしているからのぅ」
「別にそういう訳じゃないんだよ。ユーアには自分の意志で決めて欲しいから」
「え? ねぇねは自分で過保護だと自覚しておらぬのか?」
私の返しに、異を唱えるナジメ。
「何で? 私はユーアの好きにさせたいし、欲しいものは買ってあげたいし、望むものは叶えてあげたいし、お腹いっぱい食べさせてあげたいし、悩みを解決してあげたいし――――」
「も、もういいのじゃっ! わしが悪かったのじゃっ! ねぇねは自覚うんぬんよりも、過保護の意味がわからないのじゃっ!」
短い両手を高く上げ「参った」するナジメ。
「む………………」
別に意味が分からないわけではない。
もちろん、過保護なのも何となく自覚している。
私がさっき言ったのは、ユーアにしてあげたい私の願望。
だけど、その殆どをユーアにはしてあげれてない。
だから過保護だというには、些か間違っている気がする。
そもそもユーアからお願いされた事なんて、あまりないからだ。
「あ、そう言えば、さっきのロアジムの話の時に思い出したんだけど」
「何じゃ? ねぇね」
「ナジメさ、ロアジムから何か聞いてなかった?」
「何かとは何じゃ?」
「新しい孤児院が出来る時期」
「新しい孤児院の時期? それは確か1ヵ月くらい先じゃろう?」
「それ、ロアジムから、私に伝える様に頼まれてなかった?」
「えっ?」
「それと、ロアジムのところで、私が手合わせをする件」
「う、うぐぅ、さて、どうだったじゃろぅ……」
あちこちに視線を移して、しどろもどろで答えるナジメ。
その様子を見ている限り、今思い出したんだろうとわかる。
「あ、ねぇねよっ! わしの屋敷を案内するのじゃっ!」
「あっ! こらナジメっ!」
そう言って立ち上がり、そそくさと逃げる様に玄関に向かう。
ところが
「うがぁっ! 見えない壁で囲まれたのじゃっ!」
玄関の数メートル手前で、私の透明壁スキルに捕まる。
「もう、何で逃げるかな? 言伝を忘れた事に関しては、私、怒ってないよ? わざわざ慣れない私服に着替えて行ったのに、すぐさま、またいつもの装備に着替えさせられて、戦わされて、しかもオークまであげちゃったし」
「うひぃ~! なんだかねぇねが恐いのじゃぁ~っ! 怒っておるのじゃっ!」
透明壁の中の震えているナジメの前まで歩いていく。
そんなナジメはこれから起こる未知のお仕置きにビクビクしている模様。
「だから、怒ってないって。ここに来るのが遅れたのも、そもそもそれが原因だったし。なのに、そんな私たちに怒鳴ったナジメがおかしいだなんて思ってないし」
「うぎゃぁ~っ! ねぇね、言ってる事と表情が真逆なのだっ!」
「そう? でもそれも仕方ないよ。私だけじゃなく、ユーアたちも怒鳴られたからね。それに、今考えると理不尽だったなんて思っちゃうし」
そうナジメに話し、私はスキルを操作する。
今ナジメがいるのは透明な球体の中。
何かに似ているよね?
「おわぁ~っ! 勝手に転がりだしたのじゃっ! わしも走らないと、わしが転がってしまうのじゃっ!」
騒ぎながら球体の中でジタバタと走り始めるナジメ。
その姿はまるでハムスターのようだった。
「ナジメ。何か言う事はない?」
「わ、わ、わしがっ! 悪かった、あっ!」
「コテン」と動き回る透明な球体の中で転ぶナジメ。
スキルのスピードを出し過ぎて、ナジメが追いつけなかったようだ。
「うわわわぁっ! 目が回るのじゃっ! ねぇね、わしが悪かったのじゃっ!」
遠心力で、球体の内部に張り付きグルグル回るナジメ。
その状態のまま必死に謝っている。
「もう今度からは忘れないで、大事な事はキチンと教えてよナジメ」
「わ、わかったのじゃっ! だから止めるのじゃぁ~っ!」
どうやらこの街の領主も少しは反省したみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます