第276話神さまとお姉さん




「は、初めましてスミ神さまっ! わたしは『シーラ』と言いますっ! 先ほどは勘違いして襲ってしまい申しわけございませんでしたっ!」


「「「申し訳ございませんでしたっ!」」」


「う、うん」


「そ、それと美味しい串焼きも、ありがとうございましたっ!」


「「「ありがとうございましたっ!」」」


「ま、まぁ、あんまり気にしないでいいよ。別に実害があったわけではないし、それに勘違いされても仕方なかった状況だったし、あと、もう少し肩の力を抜いたら?」


 ヒラヒラと手を振って年長者の女の子『シーラ』を宥める。

 ユーアとラブナが抜けた孤児院の子供たちを世話している少女だった。


 聞くところによると、年齢は11歳。

 背丈はユーアの少し上。ユーアは相変わらず小さい。


 服装はチェニック風の亜麻色のワンピース。

 女の子はみんなお揃いで同じ服を着ていた。

 男子はハーフパンツ。


 髪型は青紫のベリーショート。

 元々のくせ毛なのか、所々跳ねている。

 切れ長な目と、薄く結ばれた唇。


 美人と言うよりは、宝塚の男装役が似合いそうな少女だった。

 

 そんな少女が私の前で見てわかる程に緊張している。



「い、いや、でも、神さまに対して、肩の力を抜くというのは畏れ多くて……」

「畏れ多いって。 私どうみても人間でしょ?」


 そう言って、クルリと回転して見せる。


「ね?」

「は、はいっ! まるで花畑を舞う神さまのような蝶でしたっ!」

「あ、いや、それはただの蝶だから」


 何なの? 神様さまみたいな蝶って。


「それと、長い黒髪も、背格好もスラリとしてお美しいですっ!」 

「え? スラリ? …………」


 私は気になる単語に反応して、シーラを見てみる。


『………………Bランク?』


 ま、まぁ、私と同じくらいかな?

 最近の子供は成長速いしねっ! 

 よく知らないけど。



「ど、どうしました、スミ神さま?」


 ある部分を凝視し、固まった私に、おどおどと声を掛けてくるシーラ。


「な、なんでもないよ。それより、そのスミ神さまって呼び方やめない? 見た目私は人間だし、あまり距離を感じたくもないし、ユーアも普通に呼んでるし」


 最後にユーアの名前を出して、やんわりと提案する。

 ユーアを姉さまって呼ぶくらいだから、これで聞いてくれるはずだ。


「そ、そうなんですが、ラブナお姉さまが……」

「ラブナ? ユーアじゃなくて?」


 チラチラとラブナを見るシーラ。

 私も釣られて視線を移す。


「な、なによっ! アタシはシーラたちに、ユーアの女神性と可愛さを、ずっと教えてきただけよっ! そのユーアが崇めるスミ姉は神さまってねっ! ついでに今までの所業もねっ!」


「お、お前かぁ~~~~っ!!」


 「ふふん」とドヤ顔でふんぞり返るラブナ。

 その元凶に突っ込む私。


 ユーアを敬愛するのもラブナの仕業だった。

 そして、神さま言わせてたのも同じ犯人だった。


 それより所業ってのも気になる。

 ガチガチに緊張しているシーラたちと関係あるのだろうか?

 そもそも言い方がおかしいし。



「それより、なんて子供たちに伝えたの? 所業ってなに?」


 何となしにわかってはいるが、一応聞いてみる。


「あ、所業っていうのは言葉のあやねっ! 実際は仕業ねっ!」

「いやいや、それどっちもイメージ悪いからねっ!」

「そう? 何かカッコイイじゃないっ! くわだてたみたいで」 

「それもイメージ悪いから、もういいから続けて」


 いい加減うんざりしながら先を促す。

 ラブナの価値観がイマイチわからない。


「え? さっき言ったのが殆どよっ?」


 キョトンとした顔でそう答える。


「さっきって、ユーアを連れまわして、オークやトロールを討伐した?」

「そう、それよ」


 続けてラブナに聞いてみる。


「ナゴタたちをひん剥いて、何々したとか?」


「そうだわ。それと壁で押しつぶして身動き取れなくして、お尻を大の大人が泣き叫ぶまでぶっ叩いた話とかもだわっ!」


「………………」


「それと、スキンシップって言い訳してユーアの体を――――」


「もうやめて」


 思わずラブナの口をスキルで塞いでやろうと脳裏をよぎった。

 でもそんな事をしたら、今の話の信憑性が増してしまう。

 

『ま、まぁ、その殆どが事実なんだけど、それでも事細かく子供たちに説明する必要性はなかったよねっ! 何か私に恨みでもあるのかなっ! ラブナっ!』


 未だにドヤ顔のラブナを見る。


 目が合った途端に、胸の前で腕を組みふんぞり返る。


「♪♪」


「………………」


 なんだろう?

 なんでそんなに得意げなんだろう。


 ラブナは子供たちに向き直り、更にユーアと私の武勇伝を話し始める。


 ユーアのここが可愛いとか、ここが凄いとか、私とユーアの仲の良さとか、冒険者になってすぐにランクアップの話とか――――


 それをユーアも交えて、嬉々として子供たちに話しをしている。

 手振り身振りでみんなに伝えていく。



 まるで、をするように、無邪気な笑顔で語っている。



『…………まぁ、いいか? ユーアも楽しそうだし』



 それでもシーラたちと子供たちは何度も聞いているのだろう。

 手足をプラプラさせて、ラブナの話を聞いていた。

 ただ、そんなラブナを見る目は非常に優しかった。


 ユーアだけじゃなく、十分ラブナも子供たちに敬愛されてるなと思った。



 そうして、私たちはナジメのお屋敷を後にした。

 孤児院の子供たちが住む、新しい家に向かってみんなで歩いていった。



「うん? そう言えば」


 その前に思い出したことが。


「あ、話を戻すけど、シーラ。子供たちもそうだけど、私の事はスミカお姉さんって呼んでくれる? そうじゃないと世間の目も気になるから」


 立ち止まって、子供たちにそう声を掛ける。

 街中で呼ばれたんじゃ、変な噂になりそうだし。


「は、はいわかりましたスミカお姉さまっ! 不本意ですがっ!」

「「「わかりましたっ! スミカお姉ちゃまっ!」」」


 敬礼でもするかのようにハキハキと答えるシーラと子供たち。

 気になる単語もあったけどいいか。



『さま? は別にいいのかな? ナゴタもお姉さま呼びだし……』


 

 これで良からぬ噂も立たないことだろう。

 私はただのお姉さんなんだから。


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