第185話男の娘?女の子?
「多分、あなたたちの雇い主だと思うけど、ショックで気絶しちゃったみたいだから、先にあなたたちから色々聞かせて貰うね。その後で開放してあげるから」
倒れ込んだままの、執事服の男とチャラ男を睨みつける。
二人ともリカバリーポーションのお陰で、体の何処にも異常はない。
あるとしたら、それは精神だろう。
小刻みに全身を震わせ、目の焦点も定まっていないのだから。
「あ、あ、ああああ、わ、わかった」
「はぁはぁはぁ………… わ、わかりました」
二人の男は青ざめながらも返事を返す。
「あ、ユーア。その子が起きたら教えてくれる? それと何処もケガしてないよね?」
振り向き、男の子を看ているユーアに声を掛ける。
「はい、スミカお姉ちゃんっ! ただお洋服が汚れているだけで大丈夫です」
「そう、ありがとねユーア」
「うんっ!」
確かに、この二人の雇い主であろう男の子は、泥の汚れだけで外傷はないように見える。泥の汚れは、さっきまで降っていた雨の影響だろう。
『それにしても、随分と気が弱い男の子だね? あの程度で気絶しちゃうなんて』
この正体不明の男の子は、チャラ男の足にスキルを叩きつけた時に気を失って倒れた。すぐさまユーアが駆け寄って看病してくれたけど、未だに目を覚まさない。
この恐怖で慄く男たちを見れば、私が派手で苛烈な事をしたように見えるが、実際はチャラ男に裏拳を当てただけだし、執事服の男は空中にカチあげただけだ。
なので、二人とも大きなケガもない。
寧ろ、私はナイフを投げられたり、ブラックジャックでボコボコにされている。
まあ、こっちは実体分身の私だったけど。
実際には命を脅かす攻撃をされたのは私の方だった。
『ユーアは最後まで見届けてもいつもとかわらないし、ここら辺りが冒険者と一般人の覚悟の違いなのかな?』
タオルで男の子の顔を拭いてあげてるユーアを見てそう思った。
※※※※
「って事だけだっ! こ、これで開放してくれんだろっ!?」
「わ、私たちが知っているのはそれだけです。子供の正体なんて知りませんよっ!」
「本当にそれだけなの?」
「ほ、本当だっ! これ以上何も知らねぇっ! そ、それにお前、あなたは蝶の英雄だろう? そんな奴相手にこれ以上関わりたくねぇんだよぉ!」
「…………蝶の英雄ですか? それは一体」
あらかた話し終えたチャラ男は私の事を知っていたようだ。
そんなチャラ男の言葉に、執事服の男は首を傾げている。
「うん、まぁ一応そうだね。でも昨日の今日なのによく知ってるね? あなたみたいな人間がわざわざ見に来てたとは思えないけど」
「あ、あなたの言う通りだ。俺は実際に見た訳じゃねぇ。元冒険者なのもあって、そういった情報は入ってくるんだよ。情報も金になるからな」
「その割には、思い出すのが遅かったんじゃない」
「あ、当たり前だっ! あんな話を信じるのがおかしいんだよっ! Bランクの『神速の冷笑』と『剛力の嘲笑』の二人に勝っちまって、尚且つ配下に!それに元Aランク『小さな守護者』にも圧勝したのが、蝶の格好した女だなんて誰が信じるんだよっ! 俺はもっと大人で胸が―――― うっ!」
「こ、この少女がそれ程の手練れだったとは…… わ、私はもう……」
私はチャラ男が最後まで言い切る前に鋭く睨んで黙らせる。
執事服の男は、私の正体を聞いて後悔しているようだ。
それよりも気になる事が、
「『神速の冷笑』と『剛力の嘲笑』ってナゴタとゴナタの事?」
この話の流れだと、きっと間違いないだろうが一応聞いてみる。
「あ、ああそうだ。俺が前にぶっ飛ばされたあの双子姉妹の事だっ!」
怒鳴った後で「ブルル」と体を震わせる。
「…………ふーん」
二人にそんな異名?二つ名?みたいなのがあったんだ……
『ナゴタの冷笑って、きっと背筋も凍るような笑顔で、あの両剣を振り回してたって事だよね?そしてゴナタの嘲笑は、弱い者をあざ笑いながらハンマーを振り回してたって事かな?』
確かに、私と会った時の二人はそんな感じだった。
何となくあの時の姉妹に当てはまる二つ名だ。
と、そんな事を考えていると、もう一人の執事服の男が話し始める。
「わ、私も軍を抜けた後は、ここで冒険者を一時生業としてましたが、その時にあ、あの姉妹と会いましてね、それで今の稼業になった訳ですが…… もうお終いですかね」
『………………』
どうやら二人とも、昔のナゴタとゴナタの被害者らしい。
過去に冒険者狩りをしていた、荒んだ時代の。
「今の稼業っていうのは?」
「は、はい、いわゆる裏稼業の何でも屋みたいなものです。お金さえ頂ければ非合法の内容の依頼でもお受けする。さすがに殺しまではお受けしませんが…………」
「ふ――ん」
なるほど。
冒険者を辞めた後、って言うか、ナゴタとゴナタに狩られた後は、続ける自信が無くなったって事か、それか恐くなったか。て話。
『それで職替えした先が危ない仕事って、いかにも人生破滅に向かっている感じだよね? それだけ姉妹の件がトラウマだったかもしれないけど…… そういった状況を判断できなかった程に』
全部を話し終えても、震える男たちを見てそう思う。
ただ、それでも、
「わかったよ。それであなたたちは、いつもどこにいるの?」
「へっ?」
「は、はいっ?」
それでも野放しは出来ないため、その根城を聞き出す。
後はこの街の警備兵に伝える為に。
※※※※※※
そんなこんなで、私とユーアは家の中に入る。
この騒動の主犯と思われる男の子は、私のスキルに乗せて今はお風呂場に運んでいる。
着ていた冒険者風の衣装もそうだが、髪やらその中も泥で汚れてしまったからだ。
それでも見える部分はユーアがタオルで拭いてはくれていたが。
私はそっと気絶したままの男の子をゆっくりお風呂場の床に降ろす。
「ユーア服脱がせておいてくれない? 洗濯機に入れちゃうから」
「はい、わかりましたっ!」
ユーアにそう声を掛けて、私は脱衣所に戻り衣装を脱ぐ。
いくら子供とはいえ、一人で脱力している人間を洗うのは大変だろうからだ。
ついでに私のアンダーを洗濯機にほおり投げる。もちろん下着もだ。
『それにしても、ラブナとハラミの帰り遅くない?』
ユーアの話だと、忘れ物を届けにナジメのお屋敷に戻ったらしい。
それで戻ってまた、子供たちの世話が始まってしまったんだろうと。
「ス、スミカお姉ちゃんっ! 大変だよっ!」
「へ、な、何ユーアっ!?」
お風呂場から聞こえたユーアの叫びに、すぐさまお風呂場に戻る。
「こ、この子、つ、ついてないよっ!」
「って、何だまだ気を失ってるじゃない」
ホッとしながらユーアと男の子見る。
もしかして起きだしてユーアに何かしたのかと思ったけど、それは杞憂だった。
男の子はズボンをだけ脱がされて、下半身だけが裸だった。
上半身は重くてユーア一人ではきっと脱がしにくかったのだろう。
「ん、何がないって? ユーア」
脱がした下半身を凝視するユーアに聞いてみる。
何かついてないって、言ってたような?
「おちんち〇が付いてないよぉっ! この子ぉっ!」
「へっ? おちん―――― って、何もないっ!?」
横たわる子供の局部を見て、口には出さないが驚く。
どうやら男の子だと思っていた子供は、女の子だったらしい。
確かにユーアの言う通り下半身に何も付いてなかったから。
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