第186話ガクブル少女
※この物語は作者の創作の世界になります。
他の作品の設定や、現実の倫理観とは
異なる場合がありますので予めご了承ください。
「中々起きないね?スミカお姉ちゃん……」
「う~~ん。そうだね……」
私とユーアは謎の男の子――――
だと思っていたら、実は女の子だった横たわる子供を眺めている。
Rポーションを使って無理やり目を覚まさせようと一瞬脳裏をよぎったが、その考えは実行には移さなかった。
これが大人ならまだしも、恐らく相手はユーアよりも幼い女の子だ。
そんな幼い子供を無理やり覚醒させたら、よからぬ影響が出る可能性もある。
目を覚ました時の行動も予想できない。
なので今は、女の子が自然に目覚めるのを待っている状況だ。
その女の子はお風呂場で軽く汚れを流して、着ていた冒険者風な服は洗濯を済ませ、そして今は体も服も綺麗になっている。ただ今はユーアのパジャマを着せて寝かせている。
さすがに外出で着用していた服装では寝ずらいだろうし。
『………………』
私はこの少女を見ながら、ユーアを襲った二人から聞きだした話を思い出す。
『…………この少女の依頼って話だったけど、結局ユーアを連れ帰る依頼ってだけしか聞き出せなかった』
あのチャラ男と執事服の男は、この少女の目的までは知らなかった。
ターゲットが抵抗したら、ある程度力ずくで連れて行くってだけで。
『まぁ、お金さえ貰えれば何でもってな話だったし、少女の目的や素性なんかは必要ないって言えばそうなんだよね?あの二人の仕事には』
あの二人はほぼ裏稼業に身を置いて仕事をしている。
依頼人の目的や素性なんか、特に闇的な内容が多いだろうから、それを知ったところで逆にマズい事もあるだろう。仕事内容によっては顔も合わさずに済ます事もあるだろうし。
それと、あの二人はユーアも私も傷付ける意思はあまりなかった。
それは依頼人からそういう契約だったのと、男たちの武器もそんな感じだった。
『あのチャラ男は全部先が丸いナイフだったし、執事服の男は最初ただの木の棒2本だったし』
それでもケガをしないって訳じゃないけど殺傷力は段違いに下がる。
それに執事服の男は、実体分身の私を攻撃した時、怒りと恐怖で我を忘れるぐらいでの状況でも体の固い背中だけに攻撃を集中させていた。
『そうは言っても、途中から二人とも私に本気で攻撃してた気もするけどね』
それはおそらく、命の危険を感じた時の防衛本能みたいなものだろう。
それでも過剰な気もするけど。
ただそれも、元は戦いを生業の一部としていた影響も大きかったんだろう。
と、先程のやり取りに思考を割いてるうちに、
「う、う~~ん…………」
「スミカお姉ちゃん。この子起きそうだよ?」
「えっ!?」
ユーアの私を呼ぶ声と、呻き声でふと我に返る。
「ねえ君大丈夫?ボクの事さっき――――」
「あ、あれ俺は一体……そしてここ――わっ!」
ゴロゴロゴロッ!!
目覚めた女の子はユーア、そして私を見て悲鳴とともにゴロゴロと床を転がる。
まるで、私を見て逃げるように距離を取ったような……
ゴンッ
「痛てぇっ!!」
とレストエリアの壁にぶつかり、今度は痛みに悲鳴を上げる。
「ちょ、あなた大丈夫っ?」
「お、お、お前はっ!――――きゃあああああっ!!!!」
「………………」
声を掛けた私を見て、また悲鳴を上げる謎の女の子。
両腕で、頭を抱えて蹲ってしまった。
『………………』
なんか地味に傷付くんだけど……
お化け屋敷でお化けに遭遇した女子みたいな反応で。
「あ、あのさぁ、私何も――――」
ってかなんでこの子はこんなに怯えてるの?
私まだ何もしてないよね?
「ひ、ひぃっ!俺の足を潰さないでくれぇっ!!殴らないでくれぇっ!」
「………………」
うん。納得した。
そう言えばこの子はチャラ男の両足を潰された時に気を失ったんだ。
まぁ、実際あれはスキルの上を叩いただけなんだけど。
それを思い出して私の事を怖がっているんだろう。
『う~~ん、恐怖を植え付けるのは、あのチャラ男と執事服の男の二人だけで充分だったのに。これは参ったね。話聞けるかな?』
私は「う~ん」と首を傾げながら怯える女の子を眺める。
するとそれを見ていたユーアが、
「あ、あの、君大丈夫?」
「っ!」
「ゴロゴロしてぶつかったよね?」
「~~~~っ」
「あ、君のお名前何て言うの?」
「………………」
俯く女の子に見かねて声を掛けるが、相変わらず膝を抱えて怯えている。
「あ、ボクはユーアだよ?君は?」
「………………知ってるよ」
「え、ボクの事なんで知ってるのっ?」
「………………」
やっと返答が帰って来た女の子の言葉に驚くユーア。
『………………』
それはそうだろう。
突発的にユーアをさらおうとしたなら別だが、この謎の女の子はあの二人を雇っていたんだ。ユーアの名前くらいはさすがに知っているだろう。
「あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけどいい?」
「………………いやだっ!」
「………………」
「………………」
と、私も声を掛けてみるが即座に拒絶された。
取り付く島もない。
「ど、何処か痛くない?」
「…………うん、大丈夫だ」
「あの、なんでボクの事知ってたの?」
「…………じいちゃんに聞いた」
「おじいちゃん?」
「そうだ」
『……………………』
この感じだとユーアにだけは心を開いたようだ。
私はきっと怖いお姉さんだと思われているんだろう。
元冒険者を軽くぶっ飛ばし、悲鳴を上げる男の両足を、
無残にも潰した冷酷非道なお姉さんと。
『うん。きっとそういう認識だよね……普通は』
そんな訳でこの女の子はユーアに任せて一先ず傍観する事にした。
私が口を挟むとまた怯えるだろうからね。
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