第183話蝶の英雄vs執事服の男




「――――それじゃ右足から潰すから、死ぬ気で我慢するんだよ?」


「~~~~ヒィッ!? ア、アッアアアッ!!」


 恐怖で奇声を上げるだけの男に、巨大なハンマーを振り下ろす。


 その全長は5メートル程。

 ハンマーの部分に至ってはドラム缶の約3倍。

 重さは10t。


 それを無抵抗の男に叩きつける。


 ブフォンッ!


「や、やめてくれぇっ――――!!」



 ピタ。



「へっ?」


 が、それは男に振り下ろされる前に止まる。


 なぜなら、


「さっきは右足からって言っちゃったんだけど、よく考えたら武器の面積が大きすぎて片足だけ狙えないんだよ? だから先に謝っておく」


 スキルを一度肩に担ぎ、ガチガチと恐怖で震えているチャラ男に告げる。


「な、何を、あ、謝るって?……」

「両足からいく事にしたからだよ。だからゴメンね」

「ヒッヒィィッッ―― や、やめっ!?」



 ドゴォォォォォ――――ンッ!!!!



「ギャアァァッ!! ――――……………」ガク



 ハンマー型のスキルを両足に叩きつけられたチャラ男は、絶叫を上げた後で脱力したように意識を失う。


 その顔は白目を剥き、鼻血以外の涙や唾液などの液体で盛大に汚れていた。

 正直見るに堪えない。



「…………もういいかな? これで。じゃ次は執事さんの番だね」


「………………ッ!!」


 スキルを消して首だけで振り向き、ずっと無言だった執事服の男を睨みつける。



「な、何なんですかっ! あなたのその強さはっ!? 本当にあなたは見かけ通りの子供なのですかっ!? それと何でそこまであの子供の事をっ?」


「さぁ? 私の正体については、あなたに言う義理もないし言うつもりもない。ユーアの事に関しては、私は姉だし保護者なんだから守るのは当たり前でしょ? それともあなたは家族が危険な目に合ってるのに見て向ぬふりする人間なの?」


 男の質問に体を向き合い、答えるついでに質問する。



「そ、それは詭弁ですっ! 家族を守るって言ったって限度がありますっ! 自分の手に負えない相手だったり、家族を助けても自分が死ぬ可能性が高かったら、そんな考えは捨てるべきだっ!!」


 執事服の男は、私の答えに余程納得がいかなかったのだろう。

 唾を撒き散らし、大声で喚きなが怒鳴り返す。



「はぁ。仕方ないのかな? 別に私の考えを押し付けるつもりもないから」


 執事服の男に歩み寄り、溜息交じりにそう告げる。

 

「な、何がですかっ!? あっ!」


 私が近付いた事により、執事服の男はジリジリと後ろに下がる。

 そして私の透明壁スキルにぶつかる。逃がすつもりはない。



「何がって、それは覚悟の話だよ」


「か、覚悟っ?」


「そう、覚悟。あなたはさっき限度やら可能性とか言ってたよね? 家族を守る話なのにそんな訳わかんない事をさ」


「そ、それが?」


「わからないの? あなたには覚悟が足りないって話だよ。相手も見ていないのに限度とか可能性とか考えたって仕方ないって事。それよりも―――― ああ、結局押し付けみたくなるからここでやめとくよ。あなたに言っても意味ないし」


「……………………クッ」


「ただこれだけは言っておくよ」


「な、何をっ!?」



「『覚悟』がないのなら最初からユーアに手を出すな。家族を守る強大な存在がいる『可能性』も考えろ。それができないなら自分の出来る『限度』を知れ」


 ギュッ


 執事服の男の胸倉を掴み、殺気と皮肉を込めてそう言い放つ。


 それを聞いた執事服の男は、



「ウ、ウワァ――――ァァッッ!!」

「っ!?」


 狂ったような雄叫びを上げ、持っている武器を至近距離で私に振るう。

 現代で言う、ブラックジャックによく似た武器を。


 ガスッ

 ガスッ


 その攻撃は私の両肩を激しく打ち付け、


「っ!!」


 その痛みに思わず両肩を押さえて地面に蹲る。


「は、はははっ!」

「っ!!」


「た、大層な事言ってた割には私の攻撃一発で終わりですか? 所詮は経験不足の子供だったって事ですかっ! 不用意に近付くなんて、愚か者のする事ですよっ!」


 執事服の男は、私が痛みに堪えて蹲るのを見て盛大に歓喜の声をあげる。

 そして、その両手の武器を幾度も私に振るっていく。


 蹲る私の背中に向かって……


 ガスッガスッガスッガスッ!!


「わははははっ! さっきまでの威張り腐った態度は何処に行ったのですかっ! 私を見下したあの目はもうお終いですかっ! 消えるなら消えてみなさいっ! 魔法を使うなら使ってみなさいっ! この状況で使えるものでしたらねぇっ!!」


 ガスッガスッガスッガスッ!!


 反撃できない私に執事服の男は、愉悦の表情を浮かべながら幾度も振り下ろす。


 そして、


「ふうっふうっふうっ………… は、はははっ、わはははははっ!!」


 息を荒げ、動けない私を見ながら高笑いを上げる。


 更に続けて、


「わはははっ! あはははっ!」


 ドスッ!ドスッ!


 今度はピクリとも動かない私を足蹴にする。


 さっきまで恐怖で歪んでいた顔は、今は醜い笑顔を浮かべていた。



 私は――――



「……………………」


 私はその光景を、男の数メートル上の空中から見ていた。


 そして横たわる実体分身の私を解除する。


「な、き、消えたっ!? い、一体なぜっ!!」


 執事服の男はキョロキョロと慌てて辺りを見渡す。

 私が消えた事により、愉悦の表情から一転して強張らせる。


 その醜い笑顔のまま、その表情が固まる。



「随分とご機嫌だね。何か楽しい事でもあったの?」


 醜い笑顔で、体ごと固まる男に声を掛ける。


「なっ!?」


 足場にしていた透明スキルから「トン」と飛び降りる。



 この男にも恐怖を植え付ける為に。


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