第182話蝶の英雄vsチャラ男




「ユーア、ちょとだけ危ないから後ろに下がってて。それとやり過ぎると思うけど、止めないでいてくれる? 大丈夫だよ。ちゃんと最後には治すからね」


「う、うん、わかりましたスミカお姉ちゃん。でも気を付けてね? それとあの子あんまり悪い子じゃないかも、その大人の人も……」


「え、そうなの? う~~ん、わかったよ。その話は後でね」

「はい、スミカお姉ちゃん」


 と、私を見上げて不安な顔を見せるユーアの頭を軽く撫でてあげる。



 そして、ユーアを襲った男たちに振り向き私は口を開く。



「――――後悔なんて生易しいものじゃない。私とユーアを思い出すたびに往来でも懺悔したくなるような恐怖を植え付けてやるから――――」



 私はそう言い放ち、大きく両手を広げる。


 ここから絶対に逃がさないとの意思表示だ。



「ほほう。まだお若いのに中々の威圧ですね」

「はははっ! こりゃ面白えぜっ! じゃ俺からやらせてもらうぜっ!」


 そう言って若い冒険者風の男が前に出る。

 執事服の男は武器を両手に持ったまま一歩下がる。


「そっちのチャラいのから先に来るの? さっき二人でって言ってなかった?」


 私はその位置取りを見てそう声を掛ける。

 冒険者風の男は腰のナイフに指を掛けている。



「ちゃらい? まぁ、そう言うこった。先ずは俺から行かせてもらうぜっ! 子供の相手なんざ俺一人で充分だからよっ!」


 ヒュッ


 鋭く空を切り裂く音と共に、男の手からナイフが投げられる。

 その向かう先は、正確に私の眉間を突き刺そうと向かって来る。


「………………」


 どうやら投げナイフを得意とする戦い方なようだ。

 その男のベルトにはかなりのナイフが収納されていた。


 パシシッ


 それを手を前に出して指の間で挟み、ついでにもう1本も私に届く前に同じようにして止める。その数は2本だった。


『あれ? このナイフって……』



「はぁっ!? な、何で2本投げたってわかったっ! これを初見で見切れた奴なんざ殆どいなかったぜッ!?」 


 チャラ男は私の行動に、目を見開き驚いている。


「見切るも何も、最初から2本持ってたでしょ。1本は指の間に、もう1本は手首のベルトに隠してあったし。それに音だって2本分聞こえたからわかるでしょ? 誰でも」


 見聞きしたまんまチャラ男に答える。


「こ、こいつは…… ならこれでどうだっ!」


 一度腕を上げ、その次に両手を振り下ろす。


 ヒュヒュン


 聞こえてくる音は2本。


 それは時間差ではなく2本同時に私に向かって来る。


「はぁ」


 先ほどと同じように指の間で受け止める。


「ははっ! かかったなっ! さっきのでお前が強えのはわかったっ! だからちょっとしたトラップを仕掛けさせて貰ったぜっ! 血みどろになっても恨むなよなっ!」


 チャラ男は何かを確信したかのように、その顔がにやける。

 もしかしてこんな曲芸で勝ったとか思っているんだろうか?


「はぁ」


 再度短くため息をついて、持っているナイフを頭上に投げる。


 ヒュン

 キキンッ!


 すると、金属同士の弾ける音がし、地面に4本のナイフがバラバラと落ちて来る。


 チャラ男は2本と見せかけて、最初に頭上に上げた腕で2本を私の真上から狙い、そしてもう2本を目くらましとして使ったんだろう。



「なっ!? ま、またしてもこいつはっ!」


 そう叫ぶチャラ男の手には、8本のナイフを構えている。

 手首に隠してある物を含めると10本を一度に投擲するようだ。


 この数を時間さも含めて投げられると、多少は厄介な攻撃だ。

 それに避けてからを見計らって、後出しも出来る。



「さあっ! これで串刺しは免れねえぜっ! ひゃっはぁーっ!」


 チャラ男をは今度こそ攻撃が届くと思ったのか、先程より間抜けな声を上げる。


 だが、


「――――って投げる前に、オ、俺の、ナ、ナイフが消えちまったっ!?」


 目を見開き、驚愕の表情で自分の両手を見る。



「消えてないよ。私が持ってるだけだから」

「なっ! い、いつの間にっ!?」


 キョロキョロと落ち着きのない、チャラ男の後ろから声を掛ける。

 そして両手から奪ったナイフを地面に落とす。



 私はチャラ男が投げる前に、透明化してすれ違いざまに両手のナイフを奪っていた。

 もちろん、手首のベルトの隠しナイフまでも。


「お、お前のその強さは一体何なんだっ! それにそんな変な――――あ、やっと思い出したっ!  お前は今話題のっ! それとやっぱあのガキンちょはっ! グハァッ!!」


 男は最後まで言い切る前に、鼻血を盛大に噴出して吹っ飛ぶ。

 振り返ると同時に、その顔に裏拳を叩きこんだからだ。



「ガ、ハァッ! 痛でぇッ! は、鼻が折れッ!?」


 そして雨が上がったぬかるんだ地面で「バシャバシャ」と暴れている。


「ウ、ガァッ! い、痛でぇッ! チ、チクショオッ!!」

「うるさいな。元々はあんたらが悪いんだよ」


 両手を真っ赤に染めて、鼻を押さえる男を黙らせるために近付く。


『…………っ』


 コイツ等はユーアにも同じことをしようとしたんだ。

 だからこれだけで済ます考えなんて、私の中にはなかった。



「……それじゃ両手足を一本ずつ壊していくけど、これ以上騒ぐんだったら真っ先に喉を潰すから。それが嫌なら大人しく我慢するんだね」


「ガハァッ、ゴホホォッ! ウググッ」


 私は泥の中で、痛みに藻搔く男に冷たく言い放つ。

 男は鼻を押さえている血まみれの手の隙間から私を見ている。


「~~~~~~ヒィッ!?」


 ガクガクと全身を震わせ声にならない悲鳴を上げる。


 その目は恐怖を知った目だ。


『――――――』

 

 私は視覚化し「連結」した透明スキルを頭上に振り上げる。



 『細い円柱+太い円柱』



 それはただの巨大なハンマーだった。

 ただ単に巨大で、ただ単に単純で、そして無骨な物だった。


 ゴナタが持っているウォーハンマーみたいな装飾なんて必要ない。


 なぜなら――――



「――――それじゃ、右足から行くから死ぬ気で我慢するんだよ」


「ヒィッ~~~~ッッッッ!!!!!!」



 武器の見た目なんて、ただ潰すだけなら意味ないからだ。


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