第181話お土産話と怒りの英雄




「ユーアごめんね?遅くなって。コイツ等をボコってから色々聞こうかな思ったんだけど、別に今でもいいよね?」


 私は透明鱗粉を解いて、背中にいるユーアに聞いてみる。


「え、今ですかスミカお姉ちゃん?」

「グ、グググッ、な、何なんですかあなたはっ!」


 執事服の髭のおじさんの武器は、両手で防いだままだけど。



「うんそう。だって別にもう安全でしょ?私がいるんだから」


「ッッ!?」


 私は首を捻って、すぐ後ろのユーアに声を掛ける。


「へ?それはそうですけど……」


「あ、あなたたちは何を言ってっ!」


「今日さ、ナゴタたちをニスマジの店に連れて行ったらさ――――」

「ええ、ボクたちの衣装とかをっ!」

「そうそう。それがあまりにも酷いから破っちゃって」

「う、うん、それはやり過ぎだと思うよ?スミカお姉ちゃん……」


 うう、ちょっとユーアのジト目が怖い。

 さすがに試作品を破壊した話はまずかったかな?


「って、いい加減にッ!」



「その後で、ログマさんのお店にも行ったんだけどね。あ、それとユーアにも服買ってきたから後で着てみてね?私とお揃いのもあるから」


 私は両手で抑えている武器2本を、片手に収めてユーアの頭を撫でる。


「お、お揃いですかスミカお姉ちゃんとっ!やったぁっ!!」

「あ、でね、ログマさんとカジカさんもシスターズの格好でね――――」

「うう、それは聞きたくなかったです。ログマさんがラブナちゃんに」

「しかもカジカさんはナジメの格好だったんだよ。最初に会った時の」

「へ?カジカさんがナジメちゃんの? あ、あはは」


 ああ、 ちょっとだけユーアが遠い目をしている。

 さすがにあの二人がそこまでするとは思ってなかったんだろう。


 私も実際想定外だったし。



「で、その後はメルウちゃんのところに行って。あ、屋台で新しい串焼きとか、海の食べ物も買ってきたから後でみんなで食べようよ。たくさん買ってきたからね」


「あ、ありがとうスミカお姉ちゃんっ!お肉の新しいのもあるの?」

「あったよ。と言うかそればっかり買ってきたんだけどね」

「えっ!?」


 私は目をキラキラさせているユーアに1本串焼きを渡してあげる。


「うわっ!ありがとうスミカお姉ちゃんっ!おいしいっ!」

「ふふ。良かったね」


 ユーアは渡された串焼きに直ぐにかぶりつき、その味に微笑んでいる。



「痛つつっ、やっと収まったぜっ!」

「もうっ!何だったんだよあの光はっ!」


 私とユーアがのんびり話をしている間に、視力が回復した二人が騒ぎ出す。


 冒険者風な若い男は両手に短剣を。

 ユーアと同じくらいの男の子は、私を睨みつけている。


 そして、私に武器を抑えられている執事風の男は、


「うふふ。随分と余裕をかましていましたね。その間抜けな行動で私も視力を回復しましたよ。あなたが何処の誰かは知りませんが邪魔をするなら後悔しますよ」


 と短い木の棒を手放して、次なる武器を懐から取り出す。


『………………』


 男が取り出した武器は先が短い鞭のようなもの。

 ただ握りの先の鞭の部分が「ブラン」と垂れ下がっている。


 それを2本。ブンブンと振り回している。

 その音から察するに重みがあるものが中に入っているんだと分かる。


『――――ブラックジャック? かな』


 私はその形状と特徴を見てそう判断する。


 外傷よりも、内部の破壊を目的とした暗殺に最適な武器だ。



「さあこれで、2対1になりましたよ。それでもその子の持っているアイテムが分からない以上、警戒しなくてはならないですが」


 と、私と、その隣のユーアを睨む。


「それと、いきなり姿を現したのはあなたの能力ですか?いささか驚きましたが、タネが分かれば私には通じませんよ?気配であなたの位置はわかりますからね。フフフ」


 と、今度は私に挑発するように口角を上げる。


「おいっ!いつまで話してんだよっ!依頼主がお怒りなんだからさっさと片付けちまおうぜっ!そんな変な格好の子供なんて二人がかりなら楽勝だろっ!」


 私と執事風な男のやり取りに、業を煮やした冒険者風の男が怒鳴り声を上げる。


「はぁ、だそうなので、あなたには退場していただきます。それにしても随分と馬鹿げた行動をしましたね?私たちの視力が回復する前に攻撃しなかった事を後悔しますよ」


「………………」


 それを聞いて私は――――



「―――――――ってたんだよ」


「何ですか?いまさら後悔の言葉ですか?」

「ああんっ?何だってっ?」


「――――はぁ、お前らが回復するのをわざと待ってたんだよ」


 とため息交じりに答える。


「………………それは何故ですか」

「はぁっ?待ってただぁっ!!」



「何故ってそんなの決まってるでしょう?私のユーアに手を出したことをあなた達に見せびらかすために決まってるじゃない。だって視力が回復しないうちに倒されたら何も感じないでしょ?だから――――」



「なっ!?」

「はっ!!」


 私はそう言い放ち両手を広げる。


 ここから絶対に逃がさないとの意思表示だ。



「――――だから私の怒りをその目と脳に焼き付けなよ。後悔なんて生易しいものじゃない。私とユーアを思い出すたびに往来でも懺悔したくなるような恐怖を植え付けてやるから――――」



 そう言って私は奴らを鋭く睨みつけた。



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