第180話ボクの英雄のお姉ちゃん




「では連れて行きますが、あまり私は手加減が得意ではないので抵抗しないで下さい。ケガなどさせたくないのでね。フフッ」


「な、何なんだよっ!?お前のその笑顔はよぉっ!俺の言い方に文句言う前に、お前のその薄気味悪い笑顔を直してからにしろよっ! にしてもよぉ、この子供何処かで……」



「………………」


 ボクに向かって執事さんみたいな怖いおじさんと、元冒険者のちょっとだけ怖いお兄さんが左右に広がって向かってきます。


 ボクを逃がさないように囲むみたいです。



「そう言えば、さっきから手に持っている物は何ですか?武器には見えませんが」

「ああんっ?そんな小さぇ物でどうするつもりだ?ガキンちょよぉ!」


「そ、そんな事はいいからさっさと俺の所に連れてこいっ!」


 ボクがアイテムポーチより取り出した物に気付いて二人が立ち止まります。

 それを見て最初に命令してた男の子が怒っています。


「こ、これは光る筒なんだよ?だからこうやって投げるとね――――」


 ボクは手に持っていたそれを「ポイ」って空に投げます。


「はんっ!何のおもちゃか知らねえが、そんな物光ったって大して――――」

「光る?そんな小さなものが光ってどうするつもりですか――――」



 カッ!



 ボクは光が弾ける前に目をつむりました。

 その効果はスミカお姉ちゃんから聞いていたから。



「あ"あ"あ"ッ!目が眩しくて痛てぇッ!見えねぇッ!?」

「な、何ですとっ!そのような物がこんなにもっ!?」

「があぁぁぁぁっ!眩しいぞっ!何とかしろお前たちっ!!」


『よしっ!』


 目を抑えているボクを連れてこうとした人たちを見て、小さく頷きました。

 そしてもう一回マジックポーチに手を入れます。


 そこにはボクの武器があるから。

 それに新しい種類の矢も、スミカお姉ちゃんに貰ったから。


「――――――っ」




※※※※※※




『っ!! 閃光手榴弾っ!?』



 私はユーアの元に駆け寄る間際に見えた光を見てそう判断する。

 離れていても、あの光の眩さは間違うはずもない。


 それは元の世界で何度も使い、幾度も見てきたからだ。



『ユーアがあれを使ったって事は、何かあったって事だっ!』



 ユーアには今日、護身用に色々なアイテムを渡してある。


 シスターズの護衛だけでは不安だったとか、そう言った事ではない。


 ナジメはもちろん、ハラミもラブナもユーアを必ず守るだろう。

 そしてユーアも何かあったら自身も戦うだろう。


 そういった強さを持っているのは、ナゴタとゴナタと戦った時でわかっている。

 ユーアも日は浅いが、れっきとした冒険者なのだ。


 だが守れるのお互いに近くにいた場合だ。



 目に見える範囲でなければ、いくら頼もしくとも、いくら強くとも助ける事なんて出来るわけがない。それは誰しもがわかっている事。それは私だって一緒だ。


『って事はユーアは一人か、ラブナと二人の可能性が高い。そうするとハラミがいない理由が見当たらないけど』


 私はユーアが一人になる可能性も考えていた。


 過保護だとか、慎重だとかそういった事ではなく。

 小さな幼な子を持つ親のように、



・家の敷居に躓いて大けがしたらどうしよう?

 ――だったら躓く恐れのある段差を埋める。


・何かを飲み込んで窒息したらどうしよう?

 ――手に届く範囲に小さなものは絶対に置かない。


・階段から落ちたらどうしよう?

 ――階段に行けないようにパーテーションを設置する。


・安全だった筈の妹が、あらゆる偶然が重なって何者かに襲われたら?


 

 など、あらゆる可能性を想定して予防策を打つのは保護者の務めだ。

 だから私はユーアにアイテムを渡した。


 だって、良く言うでしょ?

 

 絶対何てこの世に存在しないんだって。

 

Safety安全 device装置 release解除


 シュンッ 


 私は透明鱗粉を付加してユーアの元に急いだ。

 私にかかる負荷はこれくらいなら問題ない。




※※※※



『よしっ!これで――――』



 ボクはマジックポーチに手を入れます。


『ハンドボウガン』と新しい矢を取り出すために。



 だけど――――


 ブンッ!


「うわっ!」


 ボクは危ないと思い、咄嗟に手をすぐに引っ込めます。

 びっくりしちゃったのでハンドボウガンが取れませんでした。


 すると何かがボクの手の近くを掠めて行きました。

 危なかったです。


 それよりも、

 

「な、何で見えるのっ!?」


 ボクは驚いてその人の顔を見ます。


『あれっ!?』


 その人はまだ目をつむったままでした。


「いやいや、まさかあんなアイテムをお持ちだとは思いもよらなかったですよ。ですが私は見えなくとも多少はあなたの位置がわかりますよ?伊達に長年戦場に身を置いていたわけではないですからね」


「っ!!」


「それとまだ色々持ってそうなので、少し手荒になりますがそこはご容赦下さい」


 そう言って、両手に持っている2本の短い棒をボクに振り下ろしてきました。


 ブンッ!

 ブンッ!


「っっ!!!!――――――――ってあれ?」



 ボクはそれでも避けようと、しっかりと2本の棒を見ます。

 けれどもそれは、ボクに振り降ろされることなく途中で止まってしまいました。


「――グググッ!な、何ですかこの力はっ!? 全く動かせないぞォッ!」


「??」


 あれ? もしかしてこれって――――



「――――お待たせユーア」」


「ああっ!」


「大丈夫だった?ごめんねギリギリになっちゃって」


 何もなかったボクの前には、いつの間にか蝶々の羽根が現れました。


 小さくても大きく見えるその背中は――――


「スミカお姉ちゃんっ!!」

「とりあえず色々聞きたいけど、コイツ等をボコるからちょっと待っててね」



 その背中は、この街の英雄のスミカお姉ちゃんです。


「うんっ!!」


 ボクが一番大好きな、ボクにとっても英雄のスミカお姉ちゃんですっ!

 

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