第10蝶 とある親子の和解編

第179話ユーアに迫る危機


 今回のお話は、


 前半はスミカ視点。

 後半はユーア視点。


 のお話になっています。





『あんまりいい雰囲気じゃないね?お友達でもなさそうだし』



 私とユーアの住むレストエリアを隠している雑木林の向こう。

 そこから誰かが捲し立てる話し声が聞こえてくる。


 それも一方的に何かを怒鳴っているようだ。


 聞こえたのはユーアの声と、聞いた覚えのない高く子供らしい声。

 癇癪を起したような、その金切り声は決してユーアのものではない。


 それと威圧的な男の声も聞こえてくる。

 


 だとしたら――――


「ユーアっ」


 私はユーアの身に迫る危険を感じて、急いでレストエリアに向かうのであった。




◆◆◆◆◆




「あれ?ラブナちゃん、それ持ってきちゃったの?」

「え?何ユーア」


 ボクとラブナちゃんはナジメちゃんのお屋敷に行った帰り道です。


 孤児院の子はみんなナジメちゃんのお屋敷に驚いていたけど、ボクとラブナちゃんが行ったら喜んでくれました。


 本当はお迎えに行ったんだけど、ナジメちゃんのメイドさんが子供たちの生活に必要な物を揃えてくれるのにお時間が掛かるので、もう少し待ってねって言われちゃいました。


 ナジメちゃんが買ってくれるみたいです。


 お洋服とか、家具とか、お布団とかも。



 帰りも貴族さまが住んでいる地区はちょっと緊張しちゃったけど、ナジメちゃんが一般地区まで送ってくれました。


 ナジメちゃんは知り合いの貴族の方と、それと色々とお仕事があるって戻って行きました。きっと孤児院の事だと思います。



 なので今はボクとラブナちゃんとハラミで、お家に帰る途中です。

 もうここは見慣れたいつもの景色なので安心です。


 さっきまで降っていた雨も止んでいて良かったです。



「え、何の事?ユーア」

「うん、これなんだけど」


 とボクはラブナちゃんのコートのポケットから見えるそれを取ります。

 それは小さなウサギさんのぬいぐるみでした。手作りの。


「あっ!なんだってそんな物入ってるのよ!?」

「みんなで遊んでいる時に入っちゃたんだと思うよ?」


 ボクはラブナちゃんにぬいぐるみを渡しながら言いました。


「………………これはマズいわね」

「う、うん。ラブナちゃんとお揃いで大切にしてたもんね」

「か、返しに戻るわよっ!あの子失くしたのに気付いたら泣きそうだもんっ!」


 この小さなぬいぐるみはラブナちゃんを大好きな年少の女の子の。

 お揃いだって作って喜んでたもんね。

 なくなっちゃったら、きっと悲しむもんね。



「うん、そうだねっ! だったらボクは先に帰るね。スミカお姉ちゃんが出してくれたお家見てみたいから。ハラミはラブナちゃんを乗せて上げてね?」


『わうっ!』


 といってボクはハラミから降ります。

 ハラミはちょっとしゃがんでくれました。


「それじゃハラミよろしくねっ!それとユーアも気を付けて帰るのよっ!って、もう貴族の地区抜けたから大丈夫よねっ!」


「うん、わかったよラブナちゃん。それじゃお家で待ってるよ」

「わかったわよっ!」


 とラブナちゃんを乗せたハラミは、ナジメちゃんのお屋敷に戻って行きました。 



 ボクは一人でお家に帰る道を歩いて行きます。

 ちょっとお空が暗くなってきたので、少し早歩きをしながら。



『うーん、誰か付いてきているよね?』


 ボクは何となくだけどそう思って、スミカお姉ちゃんが出してくれた孤児院を見に行かないで、スミカお姉ちゃんとボクの住むお家の方に歩いて行きます。


 あまり強くないけど、ちょっとだけ嫌な感じがしたから。



 ザザッ


「お、おいっ、そこのお、お前っ!!」


 と、大きな声で後ろから掛けられました。


 ちょっと怖いです。


「ボクの事?」


 ボクは振り返って声を掛けてきた人を見ます。


「そ、そうだっ!お前しかいないだろっ!ここには」


 そこには、ボクと同じくらいに見える子がいました。

格好はちょっとだけ冒険者が着る様な軽い皮の上着を着ていました。


 ボクより短いけど、綺麗なさらっとした金色の髪と大きな目。

それとちょっとだけボクより背が大きかったです。男の子だよね?


「な、何?ボクに何か――――」

「オ、オレと一緒に来いっ!」

「な、なんでっ?」

「い、いいから俺についてこいよっ!」


 ずんずんと近付いてきて、ボクの手を取ろうとします。

 無理やりに連れて行くようです。


 なのでボクは手を後ろに隠します。


「なっ?お前俺の言うことが、き、聞けないのかっ?」


 今度はさっきより怖い顔でボクを睨んできます。


「だ、だって、ボクあなたの事知らないし、それにスミカお姉ちゃんにも、ラブナちゃんにも言われてるもん、知らない人に付いてかないでって。だからボクは行かないよっ」


 ボクははっきり目を見て男の子に言いました。

 お肉があっても絶対に知らない人には付いて行かないでっていっぱい言われたから。


「な、なんだとっ!おい、お前ら、つ、捕まえろ!」


 と、男の子が大きな声で叫びました。

すると林の中から二人の大人の人が出てきました。


 それもボクの後ろから。


「はいはい、わかりましたよ。に、してもこのガキ何処かで……」

「あまり私は気が進みませんね。こういったやり方は……」


 元々ボクを囲んでいたみたいでした。


「………………っ」


 一人は冒険者風の軽そうな鉄の付いた胸当てとブーツ。

 腰の周りには沢山のナイフがベルトに巻かれてました。

 お顔はちょっとだけ悪そうですけど、あまり怖くはありません。


 もう一人の男の人は、真っ黒なお洋服。

 クレハンさんが着ているような執事?みたいな高そうな服でした。

 それと白いお髭があるので、クレハンさんよりはずっと年上な筈です。

 ただボクを見る目は少し怖いですが。



「オラ、さっさと行くぞ!抵抗しても、逃げようとしても無駄だぜ?俺たちは元冒険者だ。ただの子供が敵う訳がねえからなっ!ケガしたくなかったら大人しく付いてくるんだなっ!」


「はぁ、あなたはこんな小さな子供にそんな言い方しかできないのですか?それに私は冒険者ではなく、王都の軍の出身です。お嬢さんどうか大人しく付いてきてください。その方が私もケガをさせなくて済みますので」


「~~~~っ」


 その二人の大人の人はボクに向かってゆっくりと歩いてきます。


 ボクは気づかれないようにマジックポーチに手を伸ばします。


 そこにはボクでも戦える色々な物が入っているから。



 大好きなスミカお姉ちゃんに貰ったアイテムが。



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