第66話ティータイムでの駆け引き戦




「みんな、凄かったね。いくらアイテムがあったからって、あそこまで圧倒出来るとは私も思わなかったよ。ユーアもルーギルもクレハンも、即席パーティーだったのに本当に驚いたよっ!」


 未だ喜んでいる三人に素直な気持ちを伝える。



「オ、オウッ! ありがとなスミカ嬢ッ! お前にべた褒めされるとなんか調子狂うけどなッ!」


 頭の後ろをガシガシと掻きながら返すルーギル。


「何言ってるの? 私は心からそう思って言ってるんだよ。三人とも本当に見事な戦いだったよっ!」


 若干照れているルーギルを含めて、再度皆に賛辞の言葉を贈る。



「まあ、そのあれだァ、お前が俺たちを絶対に守るって言ってくれただろう? それで、後先考えずに突っ込んで戦えたんだよッ」


「そうですね、アイテムの効果も、もちろん大きかったのですが、それよりもパーティーでのスミカさんの存在そのものが、わたしたちが力を存分に奮える事が出来た、その結果だとわたしは思います」


「うんっ! スミカお姉ちゃんがいると安心するよねっ! なんか何でもできそうだもんっ!」


「ふふっ、ありがとね。みんな」


 三人の、私へ向けられた賛辞に素直に嬉しく思った。 

 こういうのもパーティープレイの醍醐味だろう。

 ソロでは絶対に味わえない事だ。



「はいそれじゃ、みんなの戦いを労って、今夜は私がご飯をごちそうするから楽しみにしててね」


 笑顔のままの三人にそう告げる。


 その言葉に、いち早く反応したのはもちろん――――


「スミカお姉ちゃんっ! 約束のお肉ですよねっ! お肉パーティーですよねっ! やったぁぁぁっっっ――――!!」


 お肉大好きボクっ娘少女のユーアだ。



「オウッ! 悪い、嬢ちゃん。馳走っになるぜッ! てか、お前料理とか出来んのかァ?」


 疑惑の眼差しで私を見るルーギル。



「はぁ? 何言ってんの。味付けはユーアにやってもらうよ。ね? ユーア」

「うんっ! スミカお姉ちゃんボクに任せてっ!」


 両手を挙げて元気に返答する。

 そんな私とユーアのやり取りに、


「それって、ご馳走するって言うのかァ?」


 なんて、野暮なことを言い出す。


『はぁ~』

 いちいち細かいな、もう。



「なるに決まってるじゃない。私が材料を出すんだよ?」


 そんなKYなルーギルに抗議する。


「んんっ、なんかァ合ってるような、違ってるようなァ?…………」

『むかっ!』


 私の返答に首を捻って、考え込むルーギル。

 その態度にちょっとだけムカつく。 



「とりあえず、喉が渇いたでしょう? これ飲んでから動こうよ」

「ん?」


 三人に手渡しでドリンクレーションを渡していく。



『いちいちうるさいから、これで黙らせてやる。くふふっ』

 なんて、心の中で企んでみる。



「ありがとう、スミカお姉ちゃんっ!」

「ありがとうございます。毎回こんな高価なものを」


「ジ~~~~」


 ユーアとクレハンは素直に喜んで受け取っていたが、肝心のルーギルだけは顎に手を当て、用心深く眺めている。



 そしてあろうことか――



「ユーア、俺のと交換しようぜッ!」

「? いいですよっ!」


 なぜかユーアと交換する。


 そんな二人のやり取りを見て私は焦る。



「ちょ、ちょっとルーギルっ! なんでわざわざ交換するの? 意地汚いよ小さい子供の物を欲しがるなんてサイテーだよっ!」


 そんなルーギルの行動に文句を言うが、


「ははッ! お前がいつも俺だけに不味いの渡すから念のためだッ!」


 半ば無理やり交換して、ユーアとクレハンを繁々と見ている。



「今回のはちょっと酸っぱくて美味しいねっ!」

「わたしのは、爽やかな風味で、これも美味しいですっ!」

「…………?」


 ユーアとクレハンは笑顔でそれぞれに感想を言っていた。


 そんな二人を見てルーギルは「あれ?」て顔をしながら、安心したようにゴクゴクと喉を鳴らし飲み込んでいく。



「よしっ!」

 かかったねっ!



「マ、マズイィッ~! って言うか、生臭えぇッ! なんだこれはッ!」


 ペッペッっとすぐさま吐き出し、顔をしかめる。



「ちょっとっ! 汚いしもったいないよルーギルっ! 一応ユーアの前なんだから気を付けてよねっ! 教育にも悪いし。真似したらどうするのっ!」


 そんなルーギルに抗議する。


「ってか、おま、俺の考え読んでやがったなァッ!」

「ねえ、スミカお姉ちゃん。ボクは真似しないよ? 本当だよっ!」

「えっ?」


 ルーギルとのやり取りを聞いていたユーアが近寄ってそう訴える。

 その目はちょっとだけ潤んでいた。



 そんなユーアの頭を撫でながら、


「よしよし、そうだよね。ユーアは、あんな大人になんてならないものね」

「うん、ボクは残さずなんでも、食べるもんっ!」


 「そうだよね~」なんてユーアとじゃれつく。

 確かにユーアは良い子だから、吐き出す真似なんてしないし。



「お、お前らなァ…… で、結局これは何なんだァ?」

「え? イカ墨味だよ」

「はぁっ? イカ墨って…… あのイカの吐く奴かァッ!?」

「うん、多分それで大丈夫。と言うかイカを知ってるんだね?」


 ここら辺りは、海なんて見えないから知らないもんだと思ってた。



「俺の場合は冒険者時代に港町にも行ってるからよォ。そん時にだな」

「そうですね、わたしも数少ないですが、行ったことあります。そもそもそんなに遠くないですしね」


 クレハンも会話に加わる。


「スミカお姉ちゃん。お魚とか街の市場にも売っていましたよ? 屋台にもあったし」

「え、そうだっけ? んん――――」


 ユーアにそう言われて少し屋台の風景を思い出す。


「あ――っ! 確かにあったねっ!」


 手をポンと叩いて思い出す。



 屋台の並びに、串に刺した焼き魚とか、貝の壺焼きがあったのを思い出した。

 因みに魚介類は私のアイテムボックスには入っていない。



「ねえ。ユーアはお魚とかも好きなの?」


 ユーアが欲しいならば購入したいと思って、そう聞いてみる。


「え、もちろん、お魚『も』好きだ…… よっ?」

『――――――ん?』


 そう返事をするユーアに、私はデジャブを覚えた。



『ああ~、これって……』


 初めてユーアと買い物に行った時にもあったことだ。

 あの時は、私がユーアに『一番好きな食べ物は?』て聞いたんだっけ。


 そしたらあの時のユーアは、


 『え、そ、そうですね、果物が好きです…… よ?』


 お肉が一番なのを恥ずかしくて隠していたんだっけ。

 何気に女の子してたんだよね。



 そんな事を思い出しながら、またいたずら心が芽生えてしまう。



「へえ~ ユーアはお魚『も』好きなんだね。 でも一番好きなのは、な・あ・に~~っ! お姉ちゃんに教えてっ?」


 ユーアにまた聞いてみる。

 あの時の暴露した時のユーアが可愛かったからねっ!



「ボクはもちろん、お魚『も』好きだけど――――」

「うん、うん」


 よしよし、引っ掛かった。引っ掛かったっ!

 その続きを言ってごらん?



「一番好きなのは、ヒ…… あっ! むぐぅ~!」


 そこまで言い掛けて、慌てて口を押える。


「え?」


 ひ?

 『ひ』って何?



「スミカお姉ちゃんっ! またボクに言わせようとしたでしょうっ!」


 なんて腰に手を当てて頬を膨らませている。

 どうやらいたずらがバレてしまったようだ。


「う、うん、ごめんね。ちょっとからかってみただけだから」


 ちょっと動揺を抑えながら、ぷんぷんモードのユーアに謝る。


「もぉ~っ! スミカお姉ちゃん。ボクは何でも好きなんだからねっ!」

「………………」


 遂には「ぷいっ」てそっぽを向いてしまう。




「オ――イッ! 明るいうちにそろそろ野営できるとこ探そうぜッ!」


 ルーギルとクレハンは街の外に向けて歩いていく。


「うん、わかった。私たちも行くよ」


 そう返しながら、私は非常に思い悩んでいた。



『う~ん……』

 ユーアが最後に言い掛けてた『ひ』て一体何?


 なにかのお肉の名前なの?

 それとも部位の名前だったの?



『その事を聞いてみたいけど、聞いたらまたヘソを曲げられそう……』


 そんな予想を反したユーアの返答に、

 一人モヤモヤしながら小さい後ろ姿を眺める私。



『あ、そういえば、巨大オークの腕輪回収するのも忘れてたよ』


 爆破で多分埋まっているだろう腕輪を思い出しながら、後を付いて行く。



 残るはトロール討伐だけだ。



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