第65話ずっとずっと私たちのターン?
オークの巨体は2軒もの建物を貫いて3軒目の壁でその威力を止める。
そのパワーアップしたスキルを見て
「よしっ!」
私は小さくガッツポーズをする。
恐らくスキルのレベルが今までの「LV.3」だったなら
ここまでの威力にはならなかっただろう。
何故なら今までの透明壁スキルは、私自身の能力にその威力が依存していたからだ。
簡単に言うならば、私自身の筋力で殴っていたことになる。
それだと今回のような大型の魔物や超重量の魔物に私は相性が悪かった。
生物である以上倒せないということはないが、非常に時間が掛かってしまう。
『ならなぜ、威力が上がった?』
実はスキルが「LV.4」になっても威力自体は上がってない。
私の筋力は元々固定だからだ。
『それじゃ。どうして?』
もの凄く単純。
ただ単にそこに『重さが加わった』だけだから。
細かい詳細は後から確認するとして――
そう言うわけでこんなバカげた威力になったわけだ。
因みにこれでも全力の1/5ほど。
更にそこに、私の『
「じょ、嬢ちゃんッ! なんだったんだァ、あの威力はッ! 今までは手を抜いてたのかァ!?」
20メートル以上も壁を貫きながら吹っ飛んで、やっと止まったその巨体を見ながら、ルーギルは興奮したように声を掛けてくる。
「違うよ。私だって成長しているんだよ。色々とねっ!」
グッと力こぶを作って見せるが、そこには山が出来なかった。
「ふ~ん、
ルーギルは私の全身を見てから、ある部分で視線が止まる。
「ちょ、またルーギルっ! あんたねぇっ!」
その嫌らしい視線から逃れるように、両手で体を抱いて隠す。
色々頑張ってるんだからっ!
それにユーアやメルウよりは――――
「そろそろ起き上がってくるようですよ。二人とも」
「…………」
「っ!?」
ガラガラガラッ
『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!!!』
クレハンの言葉通り、体の上の瓦礫をも全く気にせず立ち上がり、大きな咆哮を響かせる巨大オーク。
「くるよっ!」
「オウッ! 今度は俺に任せてくれやッ!!」
その巨大オークは私たちを視界に収めるとズンッズンッズンッと、その巨体に似合わない速度で接近し、その巨大な鉈を振り上げる。
「ルーギルっ!」
「まあ、見てろってッ!!」
そう叫びルーギルは、オークに向かって地面を蹴る。
タタッ タタタタタッッッ!!
その速さは今までの2割増し。
いや恐らく5割増しになっている。
巨大オークは地面を駆け接近するルーギルに、巨大鉈を振り下ろさんと頭上に大きく振り上げる。
私はそれを見て念の為にスキルの準備をする。
「おっ!」
だがそれは必要なかったようだ。
なぜなら――
「させませんっ!」
頭上に振り上げられたオークの手首には、深々とナイフが刺さっており、その攻撃で振り上げた腕が何かに引っ張られるように後方に逸らしたからだ。
『グオッ!?』
その衝撃にオークは一瞬動きを止める。
「よしッ! ナイスだクレハンッ! これでも喰らえやァッ――!」
ルーギルはブーストアップしたその異常な脚力な速さと勢いのまま「タンッ」と空中で横回転し、その二つの遠心力と、そのアップした腕力でオークの脇腹に双剣を叩きつける。
「オラァッッ!!」
ザシュシュッ!!
ルーギルの双剣は、オークの強靭な肉体の脇腹を1/3中ばまで抉る。
それでもルーギルの攻撃は止まらない。
その深々と刺さった双剣を力任せに引き抜き、
「ガアァァァァッッッッ!!」
ザシュッザシュッザシュッ!!
ザシュッザシュッザシュッ!!
雄叫びを上げながら、巨大オークの固く太い足を双剣で滅多切りにしていく。
『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!!!』
さすがのオークもその苛烈な攻撃に絶叫をあげ、足元のルーギルを振り払うように鉈を振り回すがそれもルーギルに当たることはない。
なぜなら、
「今だよっ! ルーギルさんっ!」
の鋭い声とともに、巨大オークの体は、
『ブグッ!?』
ユーアのスタンボーガンの狙撃で動きを止めていたからだ。
しかも難易度が高い5射出(5矢同時射出)の全てを命中させている。
5本同時ならば、さすがにあの巨体でも効果があるようだ。
「みなさんっ! ユーアさんの痺れ効果が切れるタイミングで、次は『閃光手榴弾』を使いますから気を付けて下さいっ!」
「おうよォ! オラオラオラァッ――!!」
「はい、クレハンさんっ!」
オークは徐々にその三人の連携に深いダメージを重ねていく。
「う~ん、これって私の出番ないんじゃない?」
私はその惨状を見て、一人寂しく呟く。
※※※※
巨大オークとの戦闘が始まってからすでに5分ほど経過していた。
いくつものダメージを重ねた巨大オークは徐々にその動きを鈍らせていった。
それでもこちらの攻撃の手は緩める事はない。
「はぁ、はぁ、さっきは随分とわたしを痛めつけてくれましたねっ!!」
ザシュ ザシュッ!
クレハンも最前線に加わり、その手持ちの短剣で切り付けていく。
「ルーギルっ! 一旦後ろに下がって血糊を拭いて! クレハンは私がルーギルとチェンジするからレーションでスタミナ回復してっ! その間は私が抑えるから」
私はその二人の状態を確認してそう指示を出す。
「オウッ! 済まねえッ!」
「は、はい、お願いしますっ!」
「スミカお姉ちゃんっ! 今だよっ!」
「うん、ありがとうっ! ユーアっ!」
私はユーアの合図で、動きを止められたオークを前にスキル展開する。
その形は全長10メートル程の円柱。電信柱に近い大きさだった。
それを、
「んんんっ!」
武器を持っているオークの片腕に叩きつける。
ブォンッ!
グキィッ!!
『ブオォォォォッッ!!』
その威力にオークは巨大な鉈を手放し、ダメージにより絶叫する。
武器を手放したオークの腕は外側に変形していた。
完全に折れている。
それでもオークは、残った拳を私に向けて振り下ろす。
だがスタン効果の残っているその攻撃は、ゆらゆらと非常に遅い。
「動けるのは凄い、けど遅いっ!」
ガッ
その動きの鈍った腕を取り、肩に背負う。
「んっ!」
更にスキルをオークの真下から突き上げるように展開する。
それによりオークの両足は、空に向けて急速に打ちあがる。
『グォッ!?』
そしてそのまま、
「せえのぉぉっっ――――!!」
宙に浮いたオークの体を、一本背負いの要領で地面に叩きつける。
ドォゴォォォォンンッッ!!
『ブグオォッ!!』
巨体を叩きつけた影響で、辺りには粉塵が舞う。
そして私は一歩下がり、次の指示を出す。
「ルーギルっ! 今だよっ!」
「よッしゃァッ――――!!」
舞い上がる粉塵を切り裂いて、一旦下がっていたルーギルが姿を現し、倒れ込んでいるオークの腹筋に双剣を深く突き刺す。
『ブグォォォッッ!!』
オークは防ぐ事も出来ずに、大ダメージを負い、絶叫を上げる。
「スミカさんっ! わたしの合図でオークを魔法で囲んで下さいっ!」
「いつでもいいよっ!」
まだ倒れて立ち上がれないオークに何かを投合するクレハン。
回復は既に完了したようだ。
「今ですっ! スミカさんっ!!」
「はいよっ!」
クレハンの合図で、オークを透明壁スキルで囲む。
その瞬間に――――
ドッガァァ――――ンッッ!!!
透明壁の内部が大爆発する。
その爆発はオークの村に入る前に渡していた、
『ハンドグレネード【リモート式】』の効果だった。
「スミカさんから頂いたのを奮発して、5個使っちゃいましたっ!」
「てへっ!」なんて擬音が聞こえそうなくらいに、クレハンはちょっとお茶目な感じで言ってくるが、その攻撃方法はえげつない物だった。
だって、それはそうだろう。
爆発のエネルギーが外に逃げることなく、
全てスキルの内部にその威力が集中するからだ。
えげつないを通り越して、もはや卑怯とさえ言える。
オークを囲んでいたスキルの内部は、爆発で視認できないくらいに煙が充満している。
「さすがにこれで終わりだろうよォ!」
「そうですね、さすがにあの爆発の中では生きてはいないでしょう」
とどめの
「ちょ、それ、言っちゃダメなやつ、フラグっ――――」
私はそれを聞いて、慌てて口を挟むが、
「そうだね、もう大丈夫だよねっ!」
そこに空中にいるユーアまで加わる。
私は諦めて、透明スキルの煙が晴れるのを待つ。
そしてその真上に、念のため巨大なハンマーのようなスキルを展開しておく。
重さ『5t』で。
「…………」
「オ、オッ?」
「あっ!」
「見えてきたよっ!」
徐々に内部の煙が落ち着いていき、オークのシルエットが見えてくる。
『ああ、これは完璧に死んでるね』
私は先に、索敵モードに切り替えて確認した。
それを見て、オークを囲んでいたスキルを解除する。
ついでにユーアも地上に降ろして解除する。
もう大丈夫だ。
どうやら心配したフラグは立たなかったようだ。
スキルを解除したオークの周りの煙が風で四散していく。
そして全く動かない巨大オークの姿を現れる。
「!!ッ」
「ッ!!」
「きゃっ!」
ボロボロなオークの姿を見た三人は短い悲鳴を上げる。
そこには原型のない、オークだった物があるだけだった。
「みんなもう安心していいよ? このオークは私たちが倒したから」
未だにビビッて固まっている、三人にそう宣言する。
すると、
ルーギルは双剣を手放し、両手の拳をギュッと握る。
クレハンは胸に手を置いて「フゥ」と息を吐く。
ユーアはトテテッと駆けてきて、私に抱き着いてくる。
「よッしゃァッ――――――!」
「やりましたねっ! わたしたちっ!」
「スミカお姉ちゃんっ! みんなでやっつけたよっ!」
一息遅れて、ほぼ絶叫にも似た歓喜の声を三人はあげる。
「そうだね、ユーアもルーギルもクレハンも、みんな良く頑張ったねっ!」
ユーアの頭を撫でながら、三人に労いの言葉を掛ける。
本当に頑張ってくれた。
「オウッ! スミカ嬢のお陰だッ!」
「はいっ! スミカさんのおかげでした!」
「うんっ! スミカお姉ちゃんのせいだよっ!」
『やっぱりたまにはパーティー組むのもいいよねっ!』
そんな三人の笑顔を見て私は心からそう思った。
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