第64話蝶の少女の誓いと挫折と懺悔?




 戦闘前に決めたマイルール。


 『



 を念頭に置いて、巨大オークの透明壁のスキルを解除する。


 ユーアに透明壁のスキルは2個使っている。

 なので今の私の手持ちは『  』機。


 この残った『  』機と、私自身の培ってきたプレイヤースキルで、全員を完璧に守り切ってこの巨大オークを全員が無傷で封殺してやる。



「よし、解除したよっ! みんな警戒してっ!!」


 私はすぐさま、3機を円の形にして展開する。

 まずは防御して力量を図ろう。



 『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!』



 巨大オークは、やっと解放された喜びなのか、それとも怒りなのか、空気がビリビリと震えるような雄叫びを私たちに浴びせる。


 まあ、絶対に後者だろうけど。



 その瞬間。私の後方より――


「う、う、なんだこれはァァッ!!!!」

「うぐぐぐっ!!」

「ク、クレハンさんっ!!」


 苦しみと痛み、そして悲鳴を上げる声に、私は即座に反応して振り返る。



 私は一番近くの苦しそうに呻いているルーギルを見る。そして口を押えているユーア。更に持ち場にうずくまって、肩を抑えているクレハンを見つける。


「ちょ、ちょっとどうしたの、みんなっ! なにかに攻撃されたのっ!?」


 そんな三人の様子に、私は慌てて声を掛ける。



 私には何も影響なかったけど見えない何かの攻撃があった!?

 あの叫び声に何かの攻撃が含まれていたっ!?


 私はみんなを透明壁で覆ってその様子を見る。


 その際にアイテムボックスより『リカバリーポーションL』を取り出しておく。

 死なない限り何があっても大丈夫なように。



「じょ、嬢ちゃんッ!」

「ど、どうしたのっ! ルーギルっ!」


「スミカお姉ちゃんっ!」

「ユーアっ!」


 は、よく見たら空中の透明壁で大丈夫そう。


「ス、スミカさんっ!」

「ク、クレハンっ!」


「ふ、二人とも一体どうしたのっ!?」


 体を抱いて苦しんでいるルーギル。そして肩を抑えて蹲っているクレハンに、悲鳴にも似た声でそう問いかける。


 絶対に守るって決めていたのに。


 なんだって開始早々こんな事に――――



「じょ、嬢ちゃんに貰った薬が、か、体がァ、チカラがァ、抑えきれねえッ!」

「へっ!?」

「ス、スミカさんに借りた武器を使ったら、か、肩が外れましたぁ!」

「はぁっ!?」



 えええええっ――――!!



『そ、それって…………』


 ルーギルは「ブーストアップα」が予想以上に効きすぎた?

 クレハンは「スペツナズ・ナイフ∞」の射出のリフト反動で肩が外れた?



 『誰一人かすり傷さえ追わずに戦いを終わらせる』



 その光景は私が決めたそんな『マイルール』が、

 敵と戦ってもいないのに一瞬で破られた瞬間だった。



 これって私が悪いのぉ!?



「………………終わった」


 そう言って私は力なく地面に膝をつく。



『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!』


 ガンッガンガンガンッ!



 何やら自由になった巨大オークが、私たちを覆っている透明壁を攻撃しているが、そんなものは気にならない。


 この世界で、ある意味初陣に近いパーティープレイは、私がフラグを立てたせいで、最悪の始まりとなってしまった。


 私は守る事が出来なかったのだ。


『うううっ…………』


 二人のメンバーを。



 そんな下を向き、落ち込む私に…………



 『スミカお姉ちゃんっ! 立ってっ! 立ち上がって戦ってっ! ボクがまだいるからっ! ルーギルさんたちの為にも戦おうよっ!』


「えっ?」


 肩を落として地面ににうずくまって『の』の字を書いている私に、空中から私を奮い立たせようとするユーアの力強い声援が聞こえる。



 だけどユーア、私は――――



「だってユーア。私は誓ったんだよっ! メンバー全員が無傷で戦闘を終わらせられるように私が守るってっ! そ、それなのに、どうしたらっ! 二人はもう帰って…… ごめん二人ともっ!」


 縋るようにユーアを見上げて、私の想いを伝えそして懺悔する。


 (ってオイィッ!俺らまだ――――)

 (ええっ!わたしまだ戦え――――)


『スミカお姉ちゃん。この世に絶対はないんだよっ! それよりも今はっ』


 そう言ってユーアは立ち上がる。

 そしてその小さい拳を握り一歩片足を前に出す。


『二人の仇を討つのが、今のボクたちの使命なんだよっ!』


「えっ? ユーア?」


 そう力強く言い切った。

 その姿の後ろには、眩しいほどの光が射していた。


 そう。

 その姿まるで――――


「わ、わかったよ使ユーアさまっ! 私はまだ戦えるっ! そして二人の為にっ!」


 私は地面に書いていたたくさんの『の』の字を消す。


 そして立ち上がり未だに透明壁を殴っている巨大オークを睨みつける。

 その憎い仇を倒すために。


「そこで待ってろっ! 巨大オークっ! 今私がお前を滅殺してやるっ! それを二人の手向けにするんだっ! それでこの戦いはお終いだっ!!」


 そう。

 私の手で全てを終わらせるんだ。



「ってオイッ! さっきから何をブツブツ言ってんだァ? 嬢ちゃんよォ」

「スミカさん、どうしたんですか? 突然しゃがみ込んで地面に何か書いてましたが」

「ねえ、スミカお姉ちゃん。あのオークもの凄く怒ってるみたいだよ?」


「…………ああ。ごめんね。ちょっと落ち込んでいたんだ」


 私は衣服に付いた汚れを払って立ち上がり三人を見る。


 因みに汚れは付いていない。

 装備のお陰でいつでも新品同様だ。


 さっきのあれは、現実逃避した私が見た幻覚だろう。



「ま、まあ、それはいいんだがよォ。俺たちが死んだみたいに言ってなかったかァ?」

「そ、そうですよね、なんかそう聞こえましたよ」

「ボクなんか、天使になってたよぉ」


「………………」


 なんか三人の視線が痛い。


 私はそんな三人の視線から逃げるように、


「そ、そんな事はいいから、早くアイツを倒しちゃおうッ!………… あれ? ルーギルはもう大丈夫なの? それとクレハンも?」


 早口で捲し立てて二人の様子を確認する。


「ああ。 なんか少したったら落ち着いたぜッ。それにしてもスゲエなァ! この薬はよォ!」


「ええ。わたしはスミカさんから貰った回復薬を飲みましたから。次からナイフを射出する時は、もう少しきちんと構える事にしますよ」


「そ、そう。それなら良かった」


 よしっ! これなら二人とも大丈夫だ。



『ブグォォォォォォッッッッッ!!!!!!』


 ガンッガンガンガンッ!



 そんな私たちの近くでは、巨大オークが透明壁を叩き、その存在をアピールしてくる。

 まぁ、こんな寸劇を目の前で見せられたら、誰だって我慢できないもんね。



「それじゃ、今度こそ奴と戦うから気合入れてねっ! 解除するよっ!」


「オウッ!」

「はい」

「うんっ!」


「なんだけど、その前に――――」


 私は透明壁をしつこく殴打する巨大オークを睨む。



「そこにいると邪魔だからぶっ飛ばすっ! あといい加減しつこいっ!」


 そう言い放ち、スキルのレベルの上がった透明壁をオークに叩きつける。


「ふんっ!」


 ドッゴォ――――ンッッ!!!!


『グゴァッ!!』


 一撃をまともに喰らった巨大オークは、短い悲鳴を上げて真横に飛んでいく。 



 ドガンッ ドガンッ!

 

 と廃屋であった、家1軒分の壁をぶち抜き。



 ゴガンッゴガンッ!


 更に2軒目もぶち抜き。



 ドゴォォ――――ンッ!!



『ブグォ――――ッ!?』



 真横に吹き飛んだその巨体は、3軒目の壁の激突でその動きを止めていた。



 それを間近で見ていた三人は、


「なあッ!!」

「はぁっ?」

「えええ――――っ!!」


 その光景を目の当たりにし、驚愕の表情で、オークの飛んでいった方向を目で追い駆ける。



「よしっ!」


 私はその威力に、小さくガッツポーズをする。


 予想してたように私のスキルは大幅にパワーアップしたようだ。

 なんせ今回はレベルアップにかなり苦労したからねっ!


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