第63話チートアイテムでパワーアップ!?
『いや~、それにしても』
パーティープレイなんて久し振りだよ。
清美がいた時を別にすれば、殆どソロプレイだったしね。
まぁそれでも一人でクリア出来ないクエストは、さすがにパーティーに入れてもらってはいたけど、私は目立たないように行動していたつもりが気付いたらなぜか、陣頭指揮を任せられたりしてた事もあった。
一応私はソロではトッププレイヤーだったから、それもあって任せられたんだと思うけどね。でも、なかなか楽しかったと思う。
一人とは違うスリルもあったし、協力プレイでしか味わえない達成感もあった。
それを今回は――
私・ユーア・ルーギル・クレハンの4人。
それでパーティーを組んで巨大オークを討伐するんだ。
「なんか、楽しくなってきたかも」
私はこの状況下で不謹慎ながらもそう思ってしまった。
ただ忘れちゃいけないのは、ここは『ゲームの世界ではない』し、ユーア達にとっては『現実の世界』の中にいる事。
ここに住む人たちは、餓死もするし、病死もするし、老衰も、事故死も、そしてもちろん、魔物に致死のダメージを受けたら即死することも。
それを忘れてはいけない。
「それじゃ、早速だけど、言われた通りに動いてもらうよっ!」
「はい、スミカおねえちゃんっ!」
「おうッ!何でも言ってくれッ!」
「スミカさん、お願いします」
「よし」
大丈夫。
みんな固くなっていない。
この世界の中では、かなりの化け物を相手するというのに、臆した様子も緊張もみられない。ルーギルやクレハンはともかく、ユーアも随分と肝が据わってきたようだ。
なら私がやる事は魔物をただ倒すだけじゃない。
全員生き残る。 ――でもない。
全員無事に。 ――でもない。
大怪我を負わずに。 ――でもない、
『誰一人、かすり傷さえ追わずに戦いを終わらせる』
3人の仲間を見て、私の中のルールをそう決めた。
私にはそれが出来る。
「よし、それじゃ、ユーアは私と一緒に戦った時みたいに、空中から狙撃してアイツの動きを止めて。ただ、スタンの効果はあの巨体には効きずらいか、かなり効果時間が短いと思う。それと、私以外に当たったら、巨大オークの格好の的になっちゃうから気を付けて」
「はいっ! スミカおねえちゃんっ!」
「次にルーギル」
「おうッ!」
ルーギルは気合が入った様に一歩前に出て、私の言葉に注視する。
「好きに動いていいからね」
端的にそう告げる。
そんな私の指示の内容に、
「ハァッ!?」
ガクッっと体勢を崩す。
どうやら拍子抜けだったみたいだ。
「じょ、嬢ちゃん、そんなんでいいのかァ? それって指示っていうのかァ!?」
「大まかには、それでいいんだよ。細かい指示は戦いながらするから。それにルーギルもあれこれ言われて戦うより、自分で戦いたいでしょう?」
「まァ、できればそうしてえところだがよォ。さすがにそれじゃスミカ嬢の足を引っ張っちまうだけになんねえかァ? それに多分俺はアイツの攻撃を一撃でもまともに喰らったら戦闘不能になるぜ。それこそ邪魔になっちまう」
「………………」
『う~ん。ルーギルも戦闘狂の割に意外と細かいこと気にしてんだね?』
こういう気遣いも周りに慕われる魅力のひとつになってるんだろうか。
「ルーギル。アイツの攻撃とかは別に気にしなくていいよ。私が絶対にアイツの攻撃を当てさせないから。だからある程度はルーギルの好きにしていいよ」
「オ、オウッ! そこまで言うなら嬢ちゃんに任すぜッ! よろしく頼むッ!」
心底嬉しそうな顔で「グッ」と拳を握る。
「最後は、クレハン」
「はい。なんでもおっしゃって下さい」
「あなたはオークの牽制、兼、陽動、兼、万が一の時の回復、兼、ユーアの護衛ね。それと他にも敵が現れないかの索敵もね。こっちはそこまで気が回らないかもしれないから」
「ちょッ! なんでクレハンだけそんなに――――」
何やら不満顔のルーギル。
「は、はいっ! でもギルド長と比べて随分多いですね?」
クレハンは、私の指示の多さに少しだけ驚いている。
そんなクレハンの言葉はほっといて、
「あとは、これを渡しておくから」
アイテムボックスから『閃光手榴弾』と『スペツナズ・ナイフ∞』を渡す。
「ス、スミカさん、こ、これって!?」
「これは『閃光手榴弾』て言って、このボタンを押して、5秒後に光が爆発して、視界を一時的に麻痺させるから。だから使うときは一言声を掛けてね? 味方は目を塞げばやり過ごせるから」
「えっ!? えっ?」
「それと、このナイフは『スペツナズ・ナイフ∞』て言って、グリップの上のボタンを押すと、ナイフの先を射出できるから。あとナイフの刃は射出したら、無限にオートで補充されるけど、ターゲットに刺さった刃は無くなるからね。その分連射はできないから気を付けて」
「ええっ! 刃が勝手に戻ってくるんですか!? それも無限に!?」
そんな私の説明に、クレハンは目を見開き驚いている。
「ちょッ! なんでクレハンだけッそんなによォ――――」
それを見て、またルーギルが騒ぎ出す。
取り敢えずまだ説明の途中なので無視する。
「戻ってくるのとは、ちょっと違うかな? 刺さったものは消えちゃうし。どういう仕組みかは、私もよくわからない。ただ実際の刃は一本だから―― あれ? 戻ってくるのに近いのかな。ごめん、細かい事は私もわからないや」
「………………」
「あ、あともう一つ。そのナイフは普通に切り付ける事もできるけど、射出は主に牽制用だから、威力はあまり期待しないでね?」
「………………」
「クレハンどうしたの?」
突然黙り込んでしまったクレハンに声を掛ける。
「はっ!? すいませんっ! 少し動揺してました。スミカさんの説明はよくわかりました。けれど、こんな見た事もない高度な、それこそ国宝級や伝説級と言ってもいい程のマジックアイテムをわたしに託していいんですかっ?」
「良くはないよ。終わったら返してね」
何やら興奮気味なクレハンに素っ気なく返事をする。
「えええっ!? あ、ああ、は、はい…… そ、そうですよね、こんな高価な。それも金額も想像できないようなマジックアイテムですものね。そうですよね………… 仕方ないですよね…… あはは」
「………………」
なんか、アイテムを強く抱きしめたままブツブツ言ってる。
大丈夫かな? 終わったら返してくれるのかな?
「ス、スミカ嬢ッ! い、いやッ、スミカちゃんっ! 俺にもなんかないのかッ? ユーアやクレハンばっかり珍しいアイテムを上げてよォ。俺にもなんか頼むぜッ! な、いいだろうッ!」
クレハンにだけ渡したのが羨ましかったのだろう。
ルーギルが発情期の犬の様に物欲しそうに訴えてくる。
「う、うう」
な、何だろう? もの凄く気持ち悪い。
そもそも『ちゃん』て誉め言葉でも、おべっかに使う言葉でもなんでもないよね?
「な、いいだろうッ? なんかあるだろう? 俺向きの奴がよォッ!」
「な、ないよっ!」
ちょっと逃げ腰になりながらルーギルに返答する。
そもそも武器はこの衣装のせいで装備出来ないから、主武装の武器関係は殆どルーム内のストレージボックスの中にある。ルーギルが使う剣なんて尚更持っていない。
「な、無いのかァ…………」
それを聞いてガックリと項垂れるルーギル。
『う~ん………… あれなら』
私はちょっと考えて、ルーギルにあるものを手渡しする。
このまま拗ねられても、士気に関わるからね。
「はい、ならこれあげるよ。私はルーギルみたいに、メーンの武器とか持ってないから、ひとまずはこれでいい?」
「うん? なんだこれはッ? 回復薬? じゃねえなァ?」
ルーギルは私に渡された小瓶をもの珍しそうに見ている。
「それは『ブーストアップα』ていって、身体能力を10分間増大するポーションだよ」
「は? はぁっ!?」
首を傾げるルーギルにそう説明する。
『ブーストアップα』
身体能力を10分間10%上昇させる。
効果が切れたら10分間のクールタイム(CT)が必要。
副作用はないが、CT前に服用すると動くたびにHPが減少。
たかだか、10%の効果だけど、私の勘ではこの世界の人たちには効果が上昇すると思う。
リカバリーポーションS、しかり、レーション関係もそうだったからね。
予想では、倍の20パーセントくらいは上がると思う。
因みに『αアルファ』以外にも、
上位の『βベータ』『γガンマ』『Σシグマ』などもある。
「マジかッ! そんなものまで持ってたのかッ! 凄げぇッ! ありがたく使わせてもらうぜッ!」
落ち込んでいた様子から一転して嬉しそうなルーギル。
「あ、ルーギル。一度使ったら10分は時間置いてよ。じゃないと体に負担が掛かって、動けなくなるからね。そこだけは注意して。あと、2本使ったからって、効果が2倍にはならないからね」
はしゃぐルーギルにそう注意点を伝える。
「オウッ! 了解したぜッ!!」
※
私たちは透明壁の中で身動きの出来ないでいる巨大オークの前までやってくる。
「それじゃ、オークの魔法を解除するよ。みんな大丈夫?」
振り向いて、皆のいる後方を見て声を掛ける。
「はい、スミカお姉ちゃん、ボクはいつでも大丈夫ですっ!」
この可愛い声は、すでに私のスキルで10メートル程の空中で待機しているユーア。
その手には『ハンドボーガン』が握られている。
透明壁は足場分とバリケードに前面として既に設置してある。
念のために透明の鱗粉も身に纏っている。
「オウッ! いつでもいいぜッ!」
こっちは私の右後方の『ブーストアップα』を片手に待つルーギル。
「はい、こちらもいつでもOKです。一番手はわたしに任せて下さい」
最後は後方にいて『スペツナズ・ナイフ∞』を構えているクレハン。
『うん、これなら』
私はみんなの状態を確認し、問題ないと判断する。
気負いどころか、逆に笑顔を浮かべている。
中々に頼もしい仲間たちだ。
「それじゃ、行くよっ! みんな無理はしないでねっ!」
「オウッ!」
「はい、スミカお姉ちゃんっ!」
「はいっ!」
そして私たちは最後の一匹の巨大オークに立ち向かうのだった。
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