第67話突然の襲撃者とスミカのいない朝




 ルーギルと並びでクレハン。

 その後を手を繋いで続くユーアと私。



「ねえ、ルーギル、なるべく広いところを見つけてよ」


「アア、なんでだァ? テントなら何処だって張れんだろ? それに余り見渡しが良すぎても魔物にも見つかり易いだろ。せめて森の手前で水場が確保できるとこがいいんだよなァ」


 クレハンと雑談しているルーギルに要求したらそう返事が返ってきた。



「ん、なら広いだけでいいよ。水場は気にしないでいいから」


「ああんッ、なんでだァ? 水はどうするんだァ?」


 首だけ向けて私に聞いてくる。


「だって、水は私持ってるから、心配しないでいいよ。それに索敵も私とユーアで見れるから、今は泊まる場所探しに専念してよ」


 雑談しながらも二人ともその目は注意深く辺りを見渡していた。


「ははッ、そういえそうだったなッ! よォクレハン、嬢ちゃんたちに任せておけば大丈夫だッ!」


 念入りに索敵をしているクレハンに声を掛ける。


「はい、それでは場所探しに専念します。いやー精神的に楽になりますね。お二人がいると」


 何て言って肩辺りをグルッと回している。


「そうだなァ! 荷物もなんだかんだで、マジックバックに入れてもらったしよォ! こんな楽な旅は無えやなァ! ホント助かるよォ」


 そんな話している二人に気になっていることを聞いてみる。


「あのさぁ、あの村の倒したオークの死体はあのままでいいの? 焼いたりとかするんじゃないの?」


 なんて、ラノベでかじった知識を披露してみる。


「ああ、それなんだがよォ」


 そう言いながら二人は私たちの隣に並んでくる。

 索敵を任したからなのか、随分リラックスが早いな。なんて思ったり。


 ルーギルがユーアと手を繋いでる私の隣。

 ユーアの隣にはクレハンが一緒に歩く。



「本来であれば、オークの肉は非常に美味しいので、持ち帰りたいとこなのですがあの量ですからね。それとやっぱり本来はスミカさんの言う通り、奴らの肉が腐って、そこから疫病なんかが蔓延する事もあるので、焼却するのが普通ですね」


 こちらはクレハン。


 そしてその話の『美味しい肉』の単語に、手を握っているユーアの手が一瞬「ぴくっ」としていたのを私は感じた。


「そうなんだがよォ、いくら嬢ちゃんのマジックバッグでも、俺たちの荷物や食いもの、テント、嬢ちゃんたちの荷物まであったら、いくらなんでも無理だろう? あと、急がなくても、一日二日くらえじゃ腐ったりしねえから帰ったら他の冒険者にでも頼むつもりだァ」


「ねえ、もし、私がその肉を持ち帰れたら私が貰っていいの? もちろんルーギルたちの討伐した分は、キチンと渡すからさあ」


「ああ、別に構わねえが、少しはギルドにも卸してくれると助かる。じゃないと街に流通しねえからよォ。もちろんその分は買い取るぜ」


「ふ~ん。そうなんだ」


 なるほどね。

 それじゃ『ある程度は貰って』いいんだ。


 そう考えてにやにやしてしまう。

 それを喜ぶユーアの顔を思い浮かべて。


 そんなニヤけていた私の顔をルーギルが鋭く見破って、


「まさかあれ全部持ち帰るつもりかァ? あれ全部入んのかァッ!?」

「サ、サアネ、イクラナンデモ、ソレハムリ ダヨッ」


 顔を逸らして「ぷひゅーぷひゅー」と吹けない口笛で上手く躱す。


「本当かァ?」


 なんて言いながら、私の顔を上から覗き込んでくる。


「うわっ、ルーギル! 乙女の秘密を無理やり聞こうだなんて趣味が悪すぎるんじゃなぁい!! もう最悪なんだけどぉっ!!」


「そうですよ、ギルド長。一つや二つ秘密があったっていいじゃないですか?その方が魅力的な方もいるんですから」


「そうですよルーギルさん。スミカお姉ちゃんは、ボクと一緒にお風呂にも入るし、秘密なんてないんだよっ」


 ギャル口調で反論した私に二人が応戦してくれた。


 クレハンの言う事はわかる。

 でもユーアの言ってる事は全く持って的がズレていると思った。


 もしかして……


 『スミカお姉ちゃんの裸はいつも見てるからホクロの位置までわかるもんっ!』


 みたいな、私の事物知り自慢な感じなんだろうか?


 そう言う私もユーアの体を洗って上げてるから、隅々まで知ってるつもりだけどね。なんせユーアのお尻にまだ〇〇〇が――――何て秘密も。




「オウッ着いたぞォ。ここなら若干森に被ってるし、いくらかは広いだろォ」

「そうですね、ここならある程度広さもあって、見通しもそこまで悪くはないですね」


「え?」

「はいっ!」


 ユーアの小さなお尻のある部分を思い出していると

 そんなルーギルたちの声で我に返る。



 そこはサロマ村より南西にぐるっと回って、ビワの森の麓の手前の拓けたところ。


 遠目にビワの森が広がり、視線を上げると中央に木々が茂った小高い山が見える。

 あの辺りが今回の討伐対象のトロールの群れがいるところだろう。



 『う~~ん、索敵の範囲外かぁ。まあ私だけだったら、上から行けば時間はそう掛からないけど――――』


 視線の先の高い山を見上げてそう思う。



「スミカさん、わたしたちの荷物を出してもらっていいですか?」

「あ、そうすると出し入れに二度手間になるから、ちょっと待ってて」

「え? はい、わかりました」


 私のその返答にクレハンは不思議そうな表情になっていた。



 アイテムボックスより私は同じ大きさの『レストエリア』を二つ並びで出現させる。片方は、私とユーアが普段住んでいるレストエリアと、もう片方はこの世界では初めて使うものだ。


「あれ?スミカおねえちゃん、お家出したの?」


 レストエリアを出した私にユーアがトテテっと駆けてくる。


「うん、やっぱり住み慣れた家が安心できてゆっくり寝られるからね」


 傍に来たユーアの頭をほわほわしながら返事する。


「もう一個のは?」


「ああそっちは、ルーギルたちに使ってもらうから出したの。やっぱり異性とは別にしないとね」


 そう。


 今はこの姿だけど、元はれっきとしたレディなのだから。


「そうなんですか?ボクはどっちでもいいですけど。孤児院ではみんな一緒だったから」


「いや、そこは気にしようよ。ユーアはまだ子供だけれども、そろそろ女性として少し自覚しないとダメだよ。ユーアは可愛いから、変な事考える輩もいるんだから」


 と、ここにいる、二人の男どもに警戒の視線を向ける。 


「………………」

「………………」



「変な事ですか? それってどんな事?」


 私に頭を撫でられながら、そんな意表を突いた質問をしてくる。


「へっ? そ、それは、あれだよっ!ほら、ユーアを、た、食べちゃうぞっみたいなっ!」


 私は、しどろもどろになってそう答える。


「え、食べられちゃう、ですか?それってどういう事?」

「えっ!? そ、それは――――」


 何故か更にユーアの質問は続く。

 「ずい」と私に近寄って来て。


「う、ううん~~とねっ!」

「はいっ!」


 正直非常に答えずらい。


 ああっ余計な事言うんじゃなかったっ!

 怖いよこの子。色々純粋過ぎて逆に怖いよぉっ!


 それでも。


『こ、ここは年上の姉の私が何も知らない妹にしっかり教えて行かないと、きっとダメなんだよ? でも私だってそんな経験なんて……いや、そんなこと言ってる場合じゃ』


 そう心の中で葛藤してユーアに伝えようと覚悟を決める。

 多少なら知識だって持ち合わせている。



「そ、それはねっ!ユーアの体をね、見たり、触ったり、撫でたり、さ、あちこち揉んだりしてねっ――――」


 なぜか教えている私が「カァ~ッ」と赤くなってきてしまう。


 それでも今は私しかユーアに教えられる人はいない。

 だから恥ずかしがってる場合じゃない。


 ちゃんと、教えないとダメなんだっ!!


 そう決死の覚悟を決める。


 決めるのだが――――



「うん。揉むの?マッサージみたくですか?」

「そ、そうっ!マッサージみたくっ!」

「それで?食べちゃうんですか?」

「そう。揉んで、柔らかくして食べちゃうの」

「それって、お肉みたいだね?」

「や、柔らかいお肉、ユ、ユーアも好きだもんねっ!!」

「はいっ!大好きですっ!!」


「そ、それじゃ、急いでご飯の用意するから、お、お肉パーティーの準備をしようかっ!ユーアもお願いねっ!!」



 いそいそと大豆工房の売り込みで使った大型のコンロを出す。

 ついでに、野外用に買ったテーブルセットも設置する。

 そしてその脇に、ログマさんの所で購入した肉の塊を出しておく。



「はい、スミカお姉ちゃんっ!ボクも手伝いますねっ!!」

「う、うんお願いねっ」


 ユーアは早速お肉の解体に取り掛かっている。


 それを見て私は、


『ふう、なんとかうまくお肉に誘導できた。これで暫くは、大丈夫かな?』


 息を吐き出し胸をなで降ろす。


『ユーアの教育は、もう少し成長してからでいいよねっ! 今はそんな場合じゃないし。それに私の知識とこの世界の違いもわからないしっ!』


 横目でユーアを見ながら、そんな自分に言い訳をする私がいた。



「オ、オイッ!、スミカ嬢ッ!! なんだこれはッ!!」

「スミカさん、一体これはッ!」


 慌てたような感じのルーギルたちの呼ぶ声が聞こえる。



「なんだって、これは肉を焼く大型コンロだよ。ルーギルも一度見てるよね」


 そう。あの大豆工房の手伝いの時は、ルーギルもクレハンもきていた。

 だから知らないはずはないと思う。


「いやいや、違げえよッ!そうじゃねえよォ!この家みてえな建物のことだよォ!!」


「あっ」


 そういえばユーアと変な話をしていてルーギル達に伝えるのを忘れていた。


「こっちが、私とユーアが泊まる家でそっちはルーギルとクレハンで使っていいから」


 簡単に説明する。

 ユーアに下準備を全部任せっきりだから私も手伝わないと。



「いやッ!そうじゃ無くてよォッ!!」

 

「ギルド長。もう諦めましょう。わたしたちはこれからもスミカさんたちと付き合う以上、慣れないといけないのですから」


 私の説明に、まだ何か不満そうだったルーギルを「ふるふる」と首を振ってクレハンが宥めていた。


「………………」


 なんか微妙に、失礼な事を言ってない?

 と思って聞いていたがそれよりもユーアが大変そうだ。


「細かい説明は後でするから、ユーアの手伝いを頼んでもいい?私も一緒にやるから」

 

 二人にお肉パーティーの準備を進めてもらうようにお願いする。


「あ、ああ。よしクレハンッ! 俺たちも手伝うぞォ!」

「はい、ギルド長」


 それから私たちは一応スキルの透明壁をレストエリアを囲むように展開して、ユーアが楽しみにしていた、お肉パーティーを開いた。




※※※


 ここからユーア視点です。



「美味しかったね、スミカお姉ちゃんっ!」


 ボクは体をぼでぃしゃんぷーで洗ってくれるスミカお姉ちゃんに、さっきみんなで食べた、たくさんのお肉を思い出しながら、スミカお姉ちゃんに話しかけました。


「うんそうだね。たまには、外で料理して食べるのもいいね。でも、ユーアはあんなに一杯食べたから、お腹がすごい事になってるよ」


 そう言ってスミカお姉ちゃんは、ボクのお腹をポンポンと叩いてきます。


「ちょっと、スミカお姉ちゃんくすぐったいよぉっ!」

 

 ボクも振り向いてスミカお姉ちゃんのお腹をさわさわします。

 とってもすべすべで、細くてきれいでした。



「それじゃユーア。今日は初めての戦闘で頑張って疲れたでしょう? ゆっくり休みなさい」



 お風呂から上がり一緒のお布団に入ってボクの頭を優しく撫でてくれます。

 そんなスミカお姉ちゃんの手が気持ち良くなって眠くなりました。


「お休みなさいユーア」


「う、ううん、スミカお姉ちゃん―――――」


 おやすみなさい、また明日。




※※



「う~~んっ」


 ボクは目を覚ましました。


 窓を見るとお外が少し明るくなってきています。

 

 いつもの起きる時間ぐらいかな?


 両手を挙げてもう一度「んんん――っ」と伸びをします。

 スミカお姉ちゃんを起こさないと。と、隣のお布団をみます。


 ボクの日課だもんねっ!



「スミカお姉ちゃん、朝だよっ」


 まずはいつもの様に寝ているスミカお姉ちゃんに声を掛けます。


「あれ?」


 でもそこにはスミカお姉ちゃんはいませんでした。



「お風呂かな?」


 なんて思っているとお外から、



 『なんで、お前らがァ、ここにいるんだよッ!!』


 『一体どうやって、きたんですか? 普通は入れませんよっ!』


 ルーギルさんとクレハンさんの大きな声が聞こえます。


 何かあったのかな?



 パジャマのままだったけど気になったのでお外に出てみます。


「ルーギルさん、どうしたんですか?」


 お外にいたルーギルさんとクレハンさんに声を掛けました。



「どうやって、ここに入ってきたッ、答えろ!『ナゴタ』『ゴナタ』姉妹ッ!!」


「!?っ」


 ルーギルさんがその名前を呼んだ時、ボクはガクガクと怖くなって、立っているのが辛くなりました。


「な、なんで――――――」


 だってその名前は、最近ルーギルさんから聞いた名前だったから。



 その二人の女の人は、弱い冒険者を絶対に認めない、極端に実力主義の、コムケ街出身Bランク冒険者。


 『ナゴタ』『ゴナタ』の双子の姉妹の名前だったから。



 なんで、この人はここにいるの?

 どうやってここに入って来たのっ。

 なんでスミカお姉ちゃんはいないの?



 それでもボクは、家の中に一度戻ります。


「い、いそがないとっ!」


 スミカお姉ちゃんに貰った、を取りに行くために。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る