第484話発進?ナジメドラゴン




「そんなものでどうするつもり? まさか我のこの姿に対抗しようと?」


 20メートルを超える土の竜を見上げながら、エンドは術者であるナジメに鋭い視線を向ける。


「ふふん、当たり前じゃろ? その為に作ったのじゃから」


 苛立っているエンドとは逆に、鼻を鳴らして上機嫌で答えるナジメ。


「はぁ~、そんな意思も持たない木偶の棒で、我と戦えるわけないわ。いくらあなたが優れた土魔法使いでも、その大きさを自在に動かすなんて不可能よ」


「そうじゃな、確かにこのままではお主の言う通りに難しいじゃろう。恐らく動けても鈍重な動きのままじゃろうな。じゃがわしが直接操作をしたらどうなる?」


 意味深に答えながら、トコトコと土の竜の足元に辿り着く。


「も、もしや、あなたが中に入って、直接――――」


 ガシィッ!


「そう、そのじゃっ! うぬ? ちょっと痛いのじゃ――――っ!」


「はあっ!?」


 土の竜がナジメをガッと握り、ポイと巨大な口の中に放り込む。

 その際に力加減を間違えて、悲鳴を上げたまま体内に消えていった。


 そして、


 ((むぐぐ、出口はどこじゃっ! 暗くて何も見えないのじゃ~っ!))


 そして竜の体内で迷子になり、またもや悲鳴を上げるナジメ。

 自身で造ったはずなのに、思い通りに動かせないでいた。



「もう馬鹿らしくて、いい加減付き合ってられないわっ! そのガラクタをさっさと破壊して、後悔させてやるわっ!」


 巨大化したままの拳を握り、未だ動けない土の竜に向かって、怒りの形相で拳を振り上げる。 


「ラブナちゃん、お願いっ!」

「わかってるわっ! こっちはもう準備オッケーよっ! 『炎上円柱』」


 ゴオォォォォ――――――――ッ!!


「くっ!?」


 エンドの拳が土の竜に届く瞬間に、地面より燃え盛る柱が目前に現れ、その攻撃を防ぐ。


「わ、我が炎で熱さをっ!?」


 ヤケド、とまではいかないが、人間の魔法で熱を感じた事に驚愕する。


「次はこれよっ! 土よ風よアタシの敵を貫く矢となれっ! 『旋風の矢楔やくさび』」


 続けて唱えたラブナの魔法。

 それは土の魔法でできた、50センチ程のドリルの様なものだった。


 そして追加で風の魔法を纏わせ、


 ギュルンッ!


「いっけ――――っ!!」


 更に回転と貫通力、そして速度を爆上げし、エンドに向かって発射する。


 キュ ン――――

 

 空気の壁さえも難なくぶち抜き、超音速で放たれた石のくさび

 尋常ではない速度と貫通力を内包し、閃光のように突き進む。



「こ、この魔法はっ!?――――」 


 魔法の特性を感じ取ったエンドは、避ける事に全力を尽くす。   

 巨大化した腕を縮小し、フライの魔法で緊急回避する。


 ヒュンッ


「さ、避けられたわっ! これはいけると思ったのに~っ!」

「もう少しだったよっ!」


 ギリギリで躱されて、悔しがるラブナとユーア。 

 渾身で放ったくさびの魔法は、エンドの足元をすり抜けていった。


 キュ ン――――――


「ふぅ、かなり驚いたけれど、我に当てるのなら、もう少し――――」


「あっ! ヤバいわっ!」

「うわわっ! 危ないっ!」


 エンドの話の最中、急に騒ぎ始める二人。

 その視線はエンドの背後に注がれていた。


 ドガンッ!


「ん? 何の音かしら?」


 自身の背後から聞こえた異音に首を傾げる。


「あ、ああああああ――――っ!」

「わ――――っ!」


 そして今度は大声で喚き散らすラブナとユーア。    

 二人とも両手で目を覆い、ブルブルと頭を振っている。


「もう、一体何なのよ。この二人は」


 急変した態度が気になり、二人が見ていた背後に振り向く。


 すると、そこには――――



「……………………はぁ?」


 避けられた魔法の流れ弾によって、大穴を開けたナジメ竜が立っていた。

 ちょうど首元の辺りを貫通し、向こう側の景色が見えていた。



「く、くくく、わ、我が手を出さずとも、仲間同士で自爆するなんて愚か者たちね。さっさとその出来損ないを片付けなさい。く、くふふ」 


 無様に空いたナジメ竜を見て、微かに肩を揺らすエンド。

 動き出す前に、しかも仲間にやられたその姿に、必死に笑いを堪える。



「ご、ごめんナジメっ! わざとじゃないのよっ! あいつが急に避けたのが悪いんだからねっ! アタシのは間違ってないからねっ!」


「ナ、ナジメちゃん、大丈夫かな……」


 棒立ちのナジメ竜に駆け寄るラブナとユーア。

 ラブナは言い訳を、ユーアは心配そうに声をかける。



「うぬ、確かにラブナの狙いは間違ってないのじゃっ! 風通しが良くなったせいで出口が見つかったのじゃっ! 視界良好なのじゃっ!」


 不安げに見上げる二人の頭上から、甲高いナジメの声が聞こえる。

 そんなナジメは穴の開いた部分から、ヒョコと顔を出して笑みを浮かべていた。



「あっ! ナジメっ!」

「ナジメちゃん、無事だったんだねっ!」


「うむ、頭の上に風穴が空いた時は一瞬ヒヤッとしたが、こうして出れたのじゃから結果的には僥倖じゃったなっ! ほれ、そのおかげでわしと竜は繋がったのじゃ」


 ブンブンと両の手足と尻尾を動かし、自在に操れることをアピールする。


「うわ~っ! さすがナジメねっ! アタシには無理だわっ!」

「凄いよナジメちゃんっ!」


「そうじゃろ、そうじゃろっ! わし凄いじゃろっ!」


 年少組二人に称賛されて、得意げになる最年長者のナジメ。

 土の竜を操ったままで、盛大に胸を張る。


 だが、その自慢の時間も束の間、


 ブンッ!

 ゴガンッ!


「ああ~っ!」

「あっ! 顔がなくなっちゃったっ!?」


「んなっ!?」


 すぐさま竜の顔が弾け飛び、ナジメの驚く顔が露になる。


 その犯人は言うまでもなく、腕を巨大化したエンドだった。


「はぁ~、そんな木偶の棒でどうにかなるわけないでしょ? たった一撃で顔が吹っ飛んだじゃない。早くそんなものから降りて、普通に戦った方がいいのじゃなくて?」


 顔が丸出しのまま、唖然としているナジメに忠告する。


「…………まだ、じゃ――――」


 俯きながらポツリと零す。


「なに? よく聞こえないわ」


「まだ終わらんよっ! ここからがナジメ竜の本領発揮なのじゃからなっ!」


 バッと顔を上げ、盛大に啖呵を切り、エンドを睨む。

 それと同時に破壊された顔がみるみる再生した。



「はっ! そんなものまた破壊すれば済むだけよっ! 復活しても何度でも破壊してやるわっ! あなたの魔力だって無限じゃないでしょっ!」


 ナジメの態度が癇に障ったのか、両腕を巨大化して、交互に振り抜く。

 頭を一撃で吹き飛ばした拳が、今度はナジメのいる首元と胴体に迫る。


「ナジメっ!」

「ナジメちゃんっ!」


 そのさまを見て、悲鳴をあげるラブナとユーア。


「大丈夫じゃっ! わしはそう簡単にやられないのじゃっ! 『土鉄壁』更に『小さな守護者(Litttle Guardian)』発動じゃっ!」 


 ゴガ――――ンッ!! ×2


「は? まさか我の攻撃を耐えたというのっ!?」


 両の拳を叩き付けたまま固まるエンド。

 破壊するどころか、ヒビの一つも入らなかった事実に驚愕する。



「さすがのお主でも、わしの防御魔法と能力の合わせたこの体には通じなかったようじゃな。何せ、鉄の硬度の魔法を幾重にもかけ、それとわしの特殊能力をプラスしておるのじゃから、無理もないじゃろ」


「特殊能力? さっきの小さな守護者がどうとか言ってたのが?」


「そうじゃ、わしは元々体が頑丈なのじゃ。それを能力で上げられるのじゃよ」


「は? それはあなた自身に掛ける能力のはずでしょっ! その土の竜が硬くなるのはおかしいわっ!」


 ここまではエンドの言う通り。

 ナジメ自身の防御が上がっても、土の竜までもが硬くなる理由にはならない。


「うむ。確かにお主の言ってることは正しい。じゃが気付いてしまったのじゃ。蝶の英雄と言う豪傑と対峙してから、わしの能力にはもっと上がある事に。じゃから更に使いこなせるようにと鍛錬したのじゃ」


「上? それは――――」


「それはわしが触れている魔法にも、この能力を付与することが出来たのじゃ。じゃからこの竜は、土鉄壁の硬度とわしの能力が複合したものなのじゃ」



 

 ナジメの特殊能力


『小さな守護者(Litttle Guardian)』


 弓をも難なく弾く鉄壁の体。

 持ち前の体の頑強さを、更に一時的に上昇できる能力。


 追加:触れている自身の魔法にも伝達できる。




「さぁ、わしの能力の種明かしをしたところで、そろそろお主の方も明かしてもいいのではないか? いつまでその姿のままなのじゃ?」


 そう言ってナジメは鋭い視線を向ける。

 無言で話を聞きながら、薄く笑みを浮かべるエンドを。


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