第485話ノーパソ疑惑と脱出方法




 ※スミカ視点です。


 シクロ湿原にて、フーナの氷結魔法フリージングによって、周りの空間ごと透明壁スキルの中に閉じ込められたスミカの続きです。




「あれれ? 蝶のお姉さんが凍ってないっ!?………… あ、もしかしてまた魔法の壁で防いだの? でもそんなの意味ないよ~、だってそこから出れないもん。それに――――」


「くっ…………」


 ピキ、ピキキ、ピキ――――


「それにその壁の魔法を解除したら、凍り付けになっちゃうからね~っ! ぐふふ~」


 小躍りしながら上機嫌で、私の周囲をグルグルと回り始める。

 透明スキルごと私を閉じ込めて、気味の悪い笑みを浮かべ、はしゃいでいる。


「はぁ…………」


 確かにフーナの言う通り。


 今は透明壁スキルのおかげで、凍結魔法の侵食をき止めてはいるが、スキルを解除したら一気に私になだれ込み、それこそ瞬間冷凍されてしまう。

 

「ぬっふふ~ん」


 そしてその状況を楽しんでいるフーナ。

 粘着質のある、嫌らしい笑みを浮かべている。



「うっふふ~っ! どうしようかなぁ~? このまま持ち帰って寝室に飾ろっかなぁ~、それとも玄関がいいかな~? あっ!」


 今は半径1メートルほどに凍結を縮小し、中の私をニヤニヤと眺めている。

 そして何かに気付いた様子で、小さく声を上げる。


 今の私は氷という、極寒の鳥かごに閉じ込められている状態。

 脱出できないどころか、反撃するのもままならない。



『ん~、この距離ならスキルで攻撃は可能。なんだけど、フーナにはから、時間を稼ぐだけしか出来ないな。それに抜け出せたとしても決定打を与えられないから、結局イタチごっこにしかならないんだよね……』


 今までの経験が無意味だったとさえ思わせる、規格外過ぎるフーナの存在。

 いかなる攻撃を仕掛けても、意味のないものだと錯覚してしまう。



「う~ん…… はっ! って何やってるのっ!?」


 ババッ!


 私は慌てて内股になり、急いでスカートを抑える。

 フーナの姿が見えないと思ったら、真下に移動していたからだ。



「じゅる…… え? 何って、英雄のお姉さんのおパンツを拝見したくて」


「なんでっ!」


「なんでって、それは当たり前じゃん?」


「?」


「そこに美少女がいたら、その中身を確認するのは乙女のたしなみだよね? それに英雄って呼ばれてるんだもん、尚更見たいよね? ニヤリ……」


「いやいやっ! そんな世の女性の常識みたいに言われたって私は知らないよっ! そもそも女性同士で見るものでもないでしょっ!」


 首を傾げてニヤけて答えるフーナに突っ込む。

 同性の下着を見て何が楽しいんだと。 

 

 まぁそういう私も、ユーアのスカート捲って、たまに同じ顔になるけど……

 でもあれは姉妹のスキンシップの一部だからノーカンだけどね。


 

「あっ! 見えたっ! 今日の色は…… って履いて――――」

「っ!?」


 ドガンッ!


「うぎゃっ!」

「え? 当たった?」


 余計な事を口走りそうになる、フーナにスキルが当たった事に驚く。


「?」

「な、なんでお姉さん昼間なのに? もう一度確認を――――」


 ブンッ!


 また覗こうとするフーナを、再度スキルで攻撃する。


 ドゴンッ!


「ぷぎゃっ!」


 またもやヒットして、錐揉みしながら落下していく。が、


 ヒュンッ


「あ、あのね――――」


 速攻で戻ってきては、私の真下に陣取り、またまた下半身を覗き込んでくる。



『?』


 なんで今度も当たったの?

 この姿になったフーナには、視認できないに限らず、見切られていた筈なのに。


『はっ! ま、まさか…………』


 ある推測がふと頭に浮かんで、思わず絶句する。

 今のフーナとさっきのフーナとの違いに気付いて。



「あ、あのさ、良く見えなかったから、もう一度確認したいんだっ! じゅる」


 そしてまた懲りずにスカートを凝視してくる。

 相変わらずダメージを受けた様子はないけど。



『う~ん、何となく弱点と言うか、攻撃が当たる法則だけはわかった気がする。けどこれを実行するとなると、かなりの覚悟がいるよ……』


 心底やりたくない。

 やってしまえば、私の中の何かが失われそうで怖い。

 人としての尊厳とか、女としてのプライドとか、そんなものが無くなりそうで。


『…………でも仕方ない。このままでは埒が明かないし、光明が見えたならそこを突くのが戦術だしね。これで違ってたら最悪だけど、とりあえず今は行くしかない。うん』


 心の中で一人頷き、無理やりに覚悟を決める。

 ニヤケた顔で涎を垂らす、全世界の女性の敵(特に幼女)の姿を見て。  

 

『あとそれと、盛大な勘違いもしてそうだから、そっちを解決しながら確かめてみるか? おかしな思い違いされたままでも、この先嫌だからね』


 何気にこっちの話も大事だったりする。

 恐らくフーナはあるを持って、私の中身を確かめに来ている。



「もういい加減にしなよっ! それ以上口を開けたらフーナの秘密をばらすからねっ! Aランクの凄腕冒険者が幼い子を好きで、更に美少女の下着を覗き見る変態だって言いふらすからねっ!」


 サッとしゃがみ込み、中身を隠しながら、フーナをギンと睨む。 

 見られても減るもんじゃないけど、今日だけは絶対に見られたくない。



「それって、もしかして………… 脅し?」


 目をぱちくりさせながら、聞き返される。


「そうだよっ! そんな噂が広まったらあなただって困るでしょ? 依頼だって来なくなるし、仲間のメドだって迷惑するでしょっ!」


「え?」


「え? 違うの?」


 何故かキョトンとした顔になるフーナ。

 真っすぐに私を見ながら小首を傾げる。


「うん、そんなのみんな知ってるもんっ!」


「………………へ?」


 予想外の答えに、間抜けな声が出る。


「だって私は何十年も冒険者してるんだよ? 最初は隠してたけど、気が付いたらみんなに知られちゃったんだよね。だから色々とやりづらくなって困ってるんだよ。私を警戒する親御さんもいるし。はぁ~」


「…………マジかっ!」


 フーナの返答を聞いて、更に愕然とする。


 おいっ! 冒険者ギルドっ!

 こんな変態のさばらせたままでいいのかっ!

 魔物の方より、こっちの方が危険生物なんじゃないの?



「マジだよっ! その話はみんな知ってて当然だから、私の弱みにはならないからねっ! そんな訳でお姉さんの秘密をこの暴露するよっ! この英雄さまは――――」


「な、なんでこんな流れにっ!? ヤ、ヤバいっ、このっ!」


 ブンッ!


「おっとっ!」


「ちっ! 今は避けられた」


「よし、今だっ!」


 口外される前にスキルで攻撃するが、今度は難なく躱されてしまった。


 そしてその隙をついて、



「「蝶の英雄さまは、ノーパンだぁ――――――っ!!」」


 ノトリの街がある方角に向かって、大絶叫で暴露されてしまった。 


 ((さまはノーパンだぁ――――っ!))

 ((ノーパンだぁ――っ!))

 ((パンだぁ―っ!))


 そんなフーナの叫びは山彦となって、彼方の山々で木霊する。

  


「ああっ――――! って、誰もいないから…… いいのか?」


 索敵してみたが、この付近には誰もいなくて安心した。

 内容が内容だけに、異性問わず、誰一人として知られたくないから。



 それにしても、やはり、


「誤解する言い方止めてっ! 私は履いてるってっ!」


 そんな疑惑を晴らすために、フーナに詰め寄る。

 そうは言ってもまだ氷の中なので、スキルに密着しながら反論する。



「え? だってお尻しか見えなかったよ? 小さくて白い可愛いお尻しかっ! むふっ!」

「くっ!」


 この変態めっ!

 あの一瞬でどこまで見てるんだっ!


「それなのに履いてるっておかしいよ~っ! でも別に恥ずかしがる事じゃないからね? 私も前に忘れてバッチリ見られちゃったこともあるもんっ!」


「いやいや、私はフーナみたいにドジっ子キャラじゃないからねっ! パンツを履き忘れた事なんてないんだよっ! ってか、すぐに気付くよっ!」


 フーナなりの同情なんだろうけど、同類にはされたくない。


「でも現に忘れてるじゃんっ! それとも透明なパンツとかってオチ? なら見られても恥ずかしくないよね? だって履いてるんだもんっ! だからもっと見せてよぉっ!」


「………………バック」


 これ以上は不毛な言い争いになりそうなので、小声でバラす。


「え? バック? それって『T』が前に付くやつ? ど、どれ?」


 フーナはどもりながら、また私の下半身を凝視する。

 私はその視線を遮るようにギュッと足を閉じガードする。



「み、見えないっ! け、けど、本当に?」


「…………うん」


「えっち」


「ムカッ!?」


「なんでそんな大人のパンツ履いてるの? もしかして背伸びしたいお年頃かなぁ~? 今の私みたいに立派な大人になりたいのかなぁ~?」


 小馬鹿にするようにクネクネと体を揺する。

 大人と豪語しながら、身長以外は全くの子供だけど。


 だけどその視線は、相変わらず私の下半身に集中したままだった。



「ち、違うよっ! ただ単に私のパーティーメンバーに貰っただけで、それで履かないのも悪いからって履いてきただけだよっ!」


 これを渡されたナゴタ本人を思い出して、早口に説明する。

 長旅には何枚でもあった方がいいと言われて、受け取ったことを。


 ただしそれがTバックだったとは知らなかったけどね。

 でも旅先では体以外にも、心も冒険したいのは、誰にでもあるよね?



「そ、そうなんだぁ~ お姉さんって見た目ちょっときつそうだけど、結構優しいんだね? ならその優しさを私にも分けて、もっと見てみたいなぁ~」


 中身を知った途端、わかりやすい猫撫で声を上げるド変態。

 手を合わせ、潤んだ瞳で懇願してくる。



 チラ


「……………」


 私は無言のままで、ちょこっとだけスカートを捲る。


「うひゃっ!」


 そして涎を垂らし、素っ頓狂な声を上げるフーナにスキルで攻撃してみる。


 ブンッ!

 ドゴンッ!


「ぎゃんっ!」


 ひゅ――――――ん


 それはいとも簡単にヒットし、三度、地面に向かって墜落していく。



『………………うん』


 これで確信が持てた。


 フーナに攻撃が当たる法則と、それと同時に私の周りの魔法が弱まってきた事から、ようやく攻略法を見つけた。


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