第92話チート級の自己再生能力vs3人の少女たち+1匹
「すぐ来るよっ、みんなっ!」
私は索敵モードで、位置を確認し、
もう目前まで迫っていることをみんなに伝える。
「はいっスミカお姉さまっ!」
「うんっスミカ姉っ!」
『がうっ!』
二人は、愛用の長柄、超重力の武器を構え、一匹は先ほど見せたように、3本の氷柱を自身の周りに発生させる。
そして、その視線は鋭く、いずれも洞窟の出口に向けられる。
『しかしなんだって、こんな小さな森になんてトロールを配置するの? 目的は何? どうやってここまで、それに―――― おっと、お出ましだねっ!』
私はそこで、一旦思考を切り替える。
ズンッズンッズンッとその巨体が、洞窟より姿を現したからだ。
その体長は最初に洞窟内より出てきた個体よりも、明らかに巨大だった。
15メートル程の、筋肉質の黄土色した巨体で、片手には巨大な石斧。
そしてその太い手首には、同じデザインの、あの腕輪が嵌まっていた。
『グォ』
その姿を現した、異様な程の巨体のトロールは、短く喉を震わせた後、
「………………?」
「……………………」
「……………………」
『……………………』
『グオオオオオォォォッッ――――!!!!』
大気が震えるほどの、私たちを威嚇しての雄叫びなのか、咆哮なのか、怒りなのか、そんな絶叫を私たちに浴びせる。
「う、うるさいっ!」
「こ、これはっ――――」
「な、なんだこいつっ!?」
『がるるるるっ!』
私たちに向けられたその絶叫に、思わず顔をしかめてしまう。
途端に、その巨体が、
「っ!? 消えたっ!」
その咆哮の後、巨体は洞窟の入口から消えていた。
「スミカお姉さまっ! 後ろですっ!!」
「うん、わかってるっ!!」
ブフォンッッ!!!!
ガギィッンッ!!
私は咄嗟に、横薙ぎされた石斧の直撃を透明壁を展開して防ぐが、
「っとっ!!」
衝撃を抑えきれずに、地面と平行に森に向かって飛ばされる。
「スミカお姉さまっ!」
「スミカ姉っ!」
「大丈夫っ!」
叫ぶ二人に返事をしながら、すぐさま、透明壁を飛ばされた方向に設置する。
ダンッ!
飛ばされた私は、空中で態勢を整えて、透明壁の足場に着地し、
タンッ!
「お返しだっ!」
その着地した足場を蹴ってトロールに跳んで行き、
ブンッ!
ガンッ!
「っとぉっ!」
だが私の円柱スキルは、難なく巨大な石斧でガードされてしまった。
が、今はこれでいい。
なぜなら、
ドゴォォォンッッ!!
『グオォォッッッ!!』
「よしっ! 直撃だぁっ!」
私の攻撃を頭上で止め、ガラ空きの脇腹には、ゴナタが石斧にも負けない巨大なハンマーを打ち付けていたからだ。
私は素早いアイツの動きを止める為、攻撃を囮に切り替え、わざとガードさせていた。
『グガァ――――ッ!!』
ゴナタの超重武器の攻撃で、その巨体が真横に吹き飛ぶ。
相変わらずの、その威力に「やるねっ!」と感嘆の声を短く上げる。
だが、私たちの攻撃はこれだけでは終わっていなかった。
トロールが飛んでいった先には、
シュッ!
グサッ!!
『グガァ――――ッ!』
ナゴタが俊敏の能力で先回りをし、トロールに追撃をしていたからだ。
背後から攻撃を喰らった巨体の胸からは、ナゴタの両剣の刃先が突き出していた。
「スミカお姉さま、ゴナちゃん、ありがとうございますっ!」
後ろからは、ナゴタの弾むような返事が帰ってくる。
だが更に、私たちの攻撃は続く
『がうっ!』
グサ、グサ、グサッ!
次いで、止めとばかりにシルバーウルフの氷柱3本が胴体に突き刺さる。
『グォォォッッ!!』
そんな私たちのコンボを喰らっても尚、トロールは雄たけびを上げ、両剣を突き刺したままのナゴタに振り向き、石斧を振るう。
シュ ―ン
「やはり普通ではないのですね? あのトロールは」
「やっぱり普通とは違うの? あのトロールは」
トロールの一撃を難なく回避し、合流したナゴタに聞いてみる。
「はい。まず大きさがあり得ないですね。普通の個体は大きくても10メートル前後です。それに、トロールは自己再生能力を持っていますが、私たちから見たらさほど脅威ではないです。そこまでの能力ではないので、ただ、あのトロールは――――」
ここまで告げて、視線をトロールに移す。
「―――ただあのトロールは、私やナゴちゃんが付けた傷と、シルバーウルフの氷柱の傷も既に塞がっています。私が突き刺したのは心臓です。それでも即死する前に再生してしまったあの能力は異常過ぎますね」
鋭い視線を浴びせながら、油断なく武器を構え直す。
「あと、あの異常な速さだよなっ! ナゴ姉ちゃんほどじゃないけどさっ!」
次いで、妹のゴナタも付け加える。
あの異様とも言える、トロールの能力について。
タッ ――
「っ!!」
そんな話をしているうちに、トロールはまたもや姿を消す。
あの巨体ではあり得ない動きだ。
「そこぉっ!」
今度はゴナタの後ろに現れたトロールに、20メートルで展開したスキルで、巨体を真横からぶん殴る。
重さは1機の最大の5tにしてだ。
ドゴォォ――ンッッ!!
『ブフォッ!!』
ズザザ――
トロールは、重さを最大にした透明壁の一撃で、全身を打ち付けられ飛んでいくが、途中で倒れることなく踏ん張り、鋭い視線で私たちを見据える。
『って、これでも回復するんだ。今の一撃で最大なんだよ?』
全身の骨を砕いたはずが、即座に回復したようだ。
ブンブンと腕を振り回し、石斧を構えてこちらを伺っている。
『…………やっぱり、あの腕輪の特殊な力で、全体的に能力が底上げされてるってわけかぁ。厄介なのはあの自己再生の速さと、あの巨体での俊敏性かな。馬鹿力は当たらなければ怖くないし――――』
「うおぉ~っ! 今度こそぶっ飛べっ!」
ゴナタが、回復したばかりのトロールに間髪入れず攻撃を仕掛ける。
だが、その攻撃は素早い動きで躱され、逆に背後を取られる。
「見えてますよっ!」
ただしその現れた先にはナゴタが回り込んでいた。
そして演舞のような攻撃で両剣を振り回し、トロールを切り刻んでいく。
『グガァ――――っ!!!!』
ナゴタの苛烈な攻撃に、トロールは防御が間に合わず、速度でかく乱しようとするが、その後ろにもナゴタは回り込み「ザシュザシュ」と肉や血飛沫を撒き散らせる。
『グゴァ――――っ!!!!』
それでもトロールは倒れない。
切り刻まれた傷口を、泡状の物が覆った時には、すぐさま回復していた。
「ナゴ姉ちゃんっ! 足を狙ってくれっ!」
「うん、わかったわっ!!」
そのゴナタの掛け声で、ナゴタは足に攻撃を集める。
ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ!
『グガォ――――ッ!』
巨体を支える野太い脚に、ナゴタの斬撃が集中する。
またもや肉片が飛び散り、血飛沫が舞い、辺り一面を血の色に染める。
その執拗で壮絶なナゴタの連撃に、遂に、
グラッ
トロールも態勢を崩す。
ナゴタの攻撃が、回復速度を一瞬だけ上回ったようだ。
「ありがとっ! ナゴ姉ちゃんっ!」
ダダダッ
動きを止めたトロールに向かって、ゴナタが地を蹴る
「ゴナタっ! トロールの頭を狙ってっ! そこまでの足場は私が用意するからっ! ナゴタはそのまま、足に攻撃を集中させておいてっ!」
私はトロールに向かうゴナタにそう指示を出し、視覚化したスキルを展開する。
「それに乗って飛んでっ!」
「うんっ! わかったぞっ!」
妹のゴナタは、巨大武器を構えたまま、私のスキルを足場にして跳躍し、
「んんんっ ――――」
グルングルンと空中で、コマのように回転する。
「いっ、くぞぉ~っ!――――」
回転による遠心力と超重の武器、それにゴナタの人外の膂力が加わった、重く鋭く速く、凶悪で理不尽な、その一撃は――――
ボゴォ――――ンッ!
グジャァ――――ッ!
巨大トロールの首を木っ端みじんに吹き飛ばしていた。
すると首を無くした巨体は、次第に傾き地面に倒れ込む。
ズズゥ――――ン
「はぁはぁ、やったぞっ! ナゴ姉ちゃん!」
「ハァハァ、お見事ね、ゴナちゃんっ!」
二人は息を切らせながら、お互いを健闘し合っている。
それでもその目は、首のない倒れ込んだトロールから目を離さない。
こんな状況でも油断せず、事の成り行きを見守っている。
『さすがだね、二人とも。あのトロールを殺しきるなんて』
そんな二人に視線を移し、心の中で賛辞を贈る。
ナゴタの回復を上回る連撃と、首を吹き飛ばすゴナタの最後の一撃に。
ただ――――
『ただ、あのトロールが普通のトロールだったら、終わってたんだけどね』
索敵モードを見ながら「はぁ」と短くため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます