第79話大好きだった両親への報告に


 ※今回も、ナゴナタ姉妹の過去の話です。



 冒険者の両親が亡くなってしまった、その後の二人。


 大好きだった両親の後を追って冒険者になりました。

 そこにはどんな想いがあったのでしょうか?


 全3話 (2/3)




■■ 




「ゴナちゃん大丈夫っ?」


「うん、ナゴ姉ちゃん、こっちは任せてくれよっ!」




 私たちが冒険者になってから、もう2年もたっていました。


 そして今は、ギルドからの要請の討伐依頼の仕事の為森の中。

 魔物たちを掃討している最中。



「ナゴ姉ちゃんっ! あの新人冒険者たちはちゃんと逃げたかなっ?」


 ガンッ!と、そのハンマーを魔物に叩きつけて、妹のゴナタが私に聞いてきます。

 新人。と言っても私たち姉妹よりはずいぶん年上だったけれど。


 ゴナタが言う、あの冒険者とは、私たちが来た時に魔物に囲まれてた3人の冒険者の事だろう。



 ザシュッ!


 私はゴナちゃんの後ろに回り込んだ魔物を両剣で切り落とす。



「ええ、きっと無事に逃げられたと思うわよ? 逃げた方向は魔物のテリトリー外だから」



 そんなゴナちゃんの質問に、私たちが逃がした冒険者が行った方向を、チラっと確認しながらそう告げる。


 あっちはもう森の外だ。

 ならきっと大丈夫だろうと。



「そっかぁ、無事だったらいいなっ! ナゴ姉ちゃんが言うんだったら、大丈夫だ、なっ!」


 ブフォンッ!


「だから心配しないで、私たちは私たちの敵を片付けちゃいま、しょっ!」


 ズバンッ!


「そうだなっ!帰ったらCランクだもん、なっ!」


 ガガガッ!!


「そうよ、これでやっと追いつけるのよっ!」


 ザシュシュッ!!


「「お父さんとお母さんにっ」」



 そう、ここにいる魔物を倒せば依頼完了で晴れてCランクになれる。

 亡くなった、お父さんお母さんと同じCランクに。




「よしっ! これで全滅できたなっ!」


 妹のゴナタは、大きなハンマーを肩に担いで周りを見渡します。


「ええ、これで全部だわ。後はギルドに報告して終わりね」


 私も周囲を確認して、そう返事をします。





 私たち姉妹は、この年齢の割には稀に見るほどの昇格の早さだった。


 それは、両親にも、おじいちゃんにも、内緒だった『特殊スキル』の能力の効果が大きかった。


 私は誰にも負けない『敏捷』を。

 ゴナタは何者にも撃ち負けない『膂力』を。


 それぞれ小さいころから持っていた。



 その能力の使い方は、両親から冒険者の話を聞いた時から二人で練習してきた。

 お父さんとお母さんと私たち姉妹の4人で、一緒に冒険することを夢見て。



 でも、もうそれは叶わない。

 一緒に冒険をする事は一生叶わない。



 それでも私たちが、冒険者を目指したのは、いつも笑顔で、楽しそうに冒険者の事を話してくれた、お父さんとお母さんがいたからだ。


 そしてなりたいと思った『冒険者を守る冒険者』に。



 私たち双子姉妹は、


 そんな両親に憧れていたのだから――――――



――――



 ただそれはいつから狂ったんだろう?



 私たちのささやかに行っていた『冒険者を守る活動』は途中から歪み始める。

 ある冒険者たちとの邂逅によって。



 その冒険者たちは、私たちの想いを壊したばかりか、私たちの人生までをも狂わせた。


 そして、私たちはこの街を出て行くことになる。

 長年過ごした両親が眠るこの街を。



 あの時、あの冒険者の、あの言葉を聞いた時、私たちの何かが壊れた。



 それからは噛み合わない歯車のまま、私たち姉妹は無理やり進んで行った。


 そのズレている歯車に、二人とも気付かないままに――――




※※





「ナゴタさんゴナタさんっ! 依頼達成とそしてCランク昇格おめでとうございますっ!」



 ギルドに着いた私たちを待っていたのはお祝いの言葉だった。



「はい、ありがとうございます」

「おう、ありがとうなっ!」


「いやぁ、その年でCランクなんて、このギルド開設して以来、最速の昇格ですよっ! 受けられる依頼も危険なものが増えてきますが、これからも頑張って下さいねっ!」


「はい、これからも頑張ります」

「今度は、Bランク目指して頑張るぞぉ!」


「それと、ギルド長からも、後日お話があると思いますので、次に来た時は職員に声を掛けてください。今日は本当にお疲れ様でした。今夜はゆっくり休んで下さいね」


「はい、ありがとうございます。そうします」

「おう、ありがとうなっ!」


 私たち姉妹は、職員の人にお礼を言ってギルドを後にしました。




「ナゴ姉ちゃんっ! どこかで、昇格のお祝いをしようよっ! 美味しいものいっぱい食べてさっ!」


 妹のゴナタはギルドを出てすぐに、そう提案してきました。


 でも――――


「うん、それもいいんだけど、ゴナちゃん。お父さんとお母さん、それにおじいちゃんにも報告してからにしましょう?」



 そう。まずはお父さんとお母さんに報告をしたかった。

 私たち姉妹は、お父さんとお母さんに追いついたんだよって。



 それと、去年無くなったおじいちゃんにも報告をしたかった。



 私たちを引き取ってくれた、おじいちゃんは、お父さんが亡くなってから、その心労の為か、高齢の為か、体調を崩す事が多くなり、去年、息を引き取ってしまった。


 そんな体調でもおじいちゃんは、小さい私たちの世話と、冒険者としての訓練をしてくれた。とてもいい、おじいちゃんでした。



「…………ごめんなナゴ姉ちゃん、そんな大事な事忘れちゃって。うん、先に報告に行こうっ! お父さんもお母さんも、おじいちゃんも、喜んでくれるかなっ?」


「ふふ、きっと喜んでくれるわよ。私が立派になったのを見て」


「ええっ!ナゴ姉ちゃんだけっ!? ワタシはぁ?」


「ふふ、冗談よ。ゴナちゃんがいなかったら、私だけで、Cランクになんてなれなかったんだから」


「それは、ワタシも一緒だよっ! ナゴ姉ちゃんがいなかったら今でもきっとFランクだっ!」


「いや、それは言い過ぎでしょ? でもまあ、二人でなれたのは私たち二人のちからだけじゃこんなに早くはなれなかったわ。色んなことを教えてくれた、お父さんとお母さん、それにおじいちゃんのお陰なんだからね」


「…………そうだなっ! ワタシたち二人だけじゃないんだな」


「うん、きっとそう。絶対にそう。だから報告とお礼に行きましょうね。今までありがとうってね」


「うんっ! わかったナゴ姉ちゃんっ! それじゃ、お墓まで競争だっ!」


 そう言って、ゴナタは我一番と先に走り出す。



「別にいいけど、競争なら、私の圧勝になるわよっ?」



 そう答えて、もう見えなくなりそうな、妹の背中を追っていくのだった。



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