SS双子姉妹の追想
第78話双子姉妹が目指したもの
※今回は、双子姉妹のナゴタとゴナタの過去のお話になります。
姉妹が、冒険者になった理由、弱い冒険者たちを嫌う訳。
その理由が徐々に明らかになります。
全3話(1/3)
■■
「そうだなぁ? 今夜は冒険者が魔物を討伐する別の意味。なんてのをお話しようか?」
今夜も冒険者のお父さんの楽しいお話が始まります。
「はいっ!」
「うんっ!」
わたしたちのお父さんとお母さんも冒険者です。
それと、お父さんのお父さん? ううん、おじいちゃんも元冒険者だったそうです。
みんな冒険者が大好きなのでしょうか?
お父さんたちがお仕事から帰ってきた夜は、いつも冒険者の話をしてくれます。
なので、お父さんたちが帰ってきた夜はいつも楽しみです。
冒険者への心構えとか、お仕事の種類と依頼人との関係。
もっと難しいお話になると、魔物の種類とか生息地、弱点、素材、など、たくさんのお話をしてくれます。
でも難しい話はすぐに眠くなるので、ちょっとだけ苦手です。
それでもわたしたちは我慢します。
お話するお父さんが、いつも楽しそうにお話してくれるから。
「いいか? 冒険者の仕事はな、ただ魔物を狩って稼いで生活するだけじゃないんだ」
今夜もお父さんは、わたしたちを膝の上に乗せてお話をしてくれます。
「ふーんそうなんですか?」
「そうじゃないのか?」
「でもまあ、確かに高ランクになればなるほど、依頼の内容によっては普通の村人が生涯稼ぐ額を、数年で稼ぐ事もできる」
お父さんは笑顔で得意げに話します。
「凄いんですね、冒険者って」
「うん、凄いっ!」
冒険者はお金持ち?
「ははっ、そうだなっ凄いなっ!」
そう言って、まだまだお父さんのお話が続きます。
「それにな、冒険者は増えすぎてしまった魔物を間引いたり、街の近くに住み着いた魔物を討伐したり、攻めてきた魔物を殲滅したり、街道に寄り付かないように退治したりと、ただ魔物を倒すだけじゃなく、その倒した魔物にも色んな意味が、使い方が沢山あるんだ。二人ともわかるか?」
突然お話の途中から、お父さんはわたしたちに質問してきました。
魔物を倒す他の意味? 使い方?
「………………??」
前にもお父さんが教えてくれたような??
う~~ん。 あっ!
「あっ! それじゃ魔物の素材とかですか?」
「ああ、肉とか、骨とかか?」
わたしと妹のゴナタは手を挙げて答えました。
合ってるかな?
どきどき
「良くできたなっ!」
そう言って、お父さんは膝の上の私と妹のゴナタの頭をクシャクシャと撫でてくれます。その大きくて、ゴツゴツした手で。
「うふふっ」
「んふふっ」
撫でてくれるお父さんのお手て、やっぱり大きいな。そして気持ちいい。
お顔はおでこに大きな傷があるけど、それでも笑顔が優しいし。
「そうだな、そういった素材はな、色々なものに使われるんだ。武器、防具、食料、薬、服飾、燃料など、他にもあるが大雑把にいうとこのくらいだな」
「へえっ! そうなんですね!」
「たくさんあるんだなっ!」
わたしのこの皮の靴もお誕生日に買ってもらったもの。
だったらゴナタとお揃いの帽子もそうなのかな?
「それにな、冒険者は街を魔物から防いだり、護衛者を野盗や魔物から守ったり、大規模な討伐だと騎士団と一緒に戦って、魔物の襲来から大勢の人たちを守る事だってあるんだ」
「冒険者って、いっぱい守ってるんだなっ!」
妹のゴナタは感心したように、ブンブンと手を挙げて喜んでいる。
「でも、それじゃ、冒険者は誰が守ってくれるんですか?」
お父さんのお話を聞くと、冒険者の人たちは、たくさんの人たちの生活や命を守って頑張っています。
でもそんな冒険者の人たちは、誰に守ってもらえばいいのでしょうか?
そんな疑問が頭をよぎります。
すると、お父さんは私たちの頭から手を離して、
「それは命と稼ぎを天秤にかけた結果、本人たちが冒険者を選んだのだから、自分の身は自分で守るのが当たり前だな」
ちょっとだけ悲しい表情で言いました。
「うん、やっぱり自分の身は自分で守るっ! だなっ」
「……………………」
妹のゴナタは、それで納得したみたいだけど、
「あ、あのお父さんっ! わたしは――――」
なんかもやもやしちゃって、大きな声が出ちゃいました。
だって、わたしは――――
するとお父さんは、
「それでも、冒険者を守る………… そんな冒険者がいてもいいんじゃないか?」
わたしたち姉妹を膝から降ろして、そう優しく微笑んで言いました。
「え、なんだそれ?」
「な、何を守るのっ!?」
続けてお父さんは、優しく楽しそうに、きらきらした目で話を続けます。
まるで、おとうさんの夢を語るように。
まるでわたしたちに聞かせたかったように。
「うん、守るって言ってもな、何もそれは命がかかった事だけじゃない。新人冒険者の獲得や教育。荒くれものの多い冒険者への風評被害のフォロー。依頼内容がランクに見合っているかの確認。他にも色々あるが、冒険者たちの立場とかも守っていく。そんな冒険者がいてもいいんじゃないか?」
「そうお父さんは思うんだ。どうだ?」と最後に付け足して、わたしたち二人の顔を見つめながら聞いてきました。
「冒険者を守る、冒険者ですか?」
「ああ、そうだ」
「冒険はしなくなるのか?」
「もちろん冒険はする。冒険者だからな」
「なんでお父さんはそんな事思ったのですか?」
「そうだ、そうだ、もしかして父ちゃんと母ちゃんも冒険者だから?」
「そうだな、それも話しておくか。お前たちが生まれる前の話だけどな――――」
ガチャ
「あら? あなた。なんのお話しをているのですか? そろそろ遅い時間ですから、程々にしてくださいね」
お話をしているわたしたちの部屋に、お母さんが入ってきました。
「ああ、すまんすまん、つい熱くなってしまってな。それじゃ、ベッドに入りながらでも話の続きをするか?」
「あなた、それでも一緒だと思うのですが……」
お父さんの言葉に、お母さんは少し呆れたような顔をしました。
「違う違うっ! 子守歌の代わりみたいなものだっ! だったらいいだろっ! なっ?」
そんなお母さんの指摘に、お父さんは慌てて言い訳をしていました。
「お父さん、わたしたち子守歌なくても二人で寝られるよ?」
「そうだっ! もう子供じゃないんだよ、ワタシたちっ」
子供扱いされたお父さんの言葉に、妹のゴナタもちょっと怒って反抗します。
「いや、まだまだ子供だろっ! お前たちっ!」
「どっから、どう見ても子供よ? あなたたち」
「………………」
「……うう、夜も一人で、おトイレ行けるのに」
妹の反抗は、お父さんとお母さんに、逆に反抗されていました。
「よしよし、それでなんのお話だったんですか?」
ちょっと泣きべそをかいている、妹のゴナタを撫でながら、お母さんはお父さんに聞いています。
「ああ、これから俺たちが助けられた冒険者の話をしようと思ってたんだ」
「あ、あの素晴らしい冒険者さんの話ですか? それじゃ私たちは明日から討伐の依頼で留守になるから、今夜は特別にお話しましょうか。為になると思うし。それにお父さんもお話したくて、我慢出来ないみたいだから、ね?」
「うっ、まあそれはそうなんだが、それじゃちょっとだけなっ! 俺たちも明日は早いからなっ」
お父さんはちょっと照れたような感じでした。
「ふふっ、それじゃ4人でベッドに入りながらお話しましょう。眠くなったらすぐに寝れるから」
「はい、お母さん!」
「うん、母さんっ!」
それから私たち親子4人は、一つのお布団で、眠くなるまでお父さんとお母さんのお話を聞きました。
お父さんとお母さんを何度も助けてくれた。
冒険者さんの話を――――
※※
そして、お父さんたちが冒険者のお仕事に行ってから5日が経ちました。
『冒険者を守る、そんな冒険者がいてもいいんじゃないか』
そう嬉しそうにお話してくれた、
冒険者のお父さんたちは帰ってきませんでした。
魔物の討伐の依頼中に戦死したと、おじいちゃんが教えてくれました。
なんでも、ギルドから報告を受けたそうです。
「お前たちの父と母は、立派な冒険者じゃった。冒険者を守って戦死したそうじゃ。誰にでも出来る事じゃない。お前たちの両親は誇れることをしたんじゃ。だからお前たちも両親のように強くなれ、ワ、ワシも、協力してやる…… だ、だから、泣くなっ」
「ううっ………………」
「ぐすっ………………」
「……でも、今日だけは、泣いたっていいんじゃ、今日だけはな、だからいっぱい泣くんじゃ、今のうちに泣けるだけ泣いておくんじゃ――――ううっ」
そう言っておじいちゃんは、私たち二人を抱きしめてくれました。
「うわぁぁんっ! お父さんっ! お母さんっ! ううぁぁぁっ!」
「うううわぁっ! なんでぇっ! お父さん、お母さんっ! ああぁっ!」
――――――
「ゴナちゃん、準備できた?」
いつも忘れ物が多い、妹のゴナタを心配して声を掛けます。
「うん、完璧だよっ! ナゴ姉ちゃんっ!」
背負ったリュックを見せるように、くるっと周る妹。
「ナイフは? 採取袋は? 水袋は? 薬草は? 包帯は? 替えの着替えは? ええと、それから――――」
「ちょっとナゴ姉ちゃんっ! もうワタシも子供じゃないんだぜっ! 大丈夫だってっ!」
「うう、だって仕方ないでしょ? 初めての事なんだから」
「そうだなっ! 姉ちゃんでも緊張するんだな!」
「ええ、そうね。だってやっとなれるんだものっ!」
「そうだな、やっとなれるんだなっ!」
「長かったわねっ!」
「うん、長かったっ!」
「でも、今日やっとなれるのよお父さんと一緒の――――」
「うん、今日なれるんだっ! お母さんと一緒の――――」
「「冒険者にっ!!」」
今日私たちは12歳になりました。
だから妹のゴナタと一緒に、冒険者の登録をしました。
お父さんとお母さんが好きだった冒険者に。
お父さんとお母さんが目指した『冒険者を守る冒険者』にっ!
その為に私たち姉妹は、冒険者になりました。
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