第77話スミカ無双vsナゴタ編




 ザンッ!


 ザザッ


 私は姉のナゴタの高速の攻撃を身を翻して躱す。


 シュパッ!


 スイッ!


「くっ!」


 スパッァ!


 サッ!


「な、なんでっ!」


 続けて、姉のナゴタの高速の攻撃を歩を進めるだけで、何度も躱していく。


 ズバッ!


 スイッ!


「!?ッ」


 スパンッ!


 ひょいっ! 


「はぁ、はぁ、――」


 私は更に続けて、姉のナゴタの高速の攻撃を、数えきれない程躱していく。


 そして――――





「はぁ、はぁ、はぁ、――――」



「そろそろ限界かな? もって10分くらいかな? その能力は」



 息を荒げて、膝に手をついている姉を見ながら、そう声を掛ける。



「な、なんで躱せるのですかっ! 今までだってこんなに、簡単に、そう何度も躱された事なんてっ! ぐ、はぁはぁ……」


「躱せる躱せない以前に、あなたたち姉妹はその力に依存し過ぎなんだよ」


「ど、どういう事ですかっ!? はぁはぁ」


「だって、そうでしょう? 妹は力任せに真正面から殴るだけ。姉のあなたは、その動きで、私の背後を取るだけ。これがある程度の格上の相手までなら通用すると思うけど、それに――――」


「………………」


「それに、私だってその高速移動くらいはできる。もちろん早さは全然あなたほどじゃないけど。でもその真似事くらいはできる。背後を取り、相手の意表を突く『視界外の攻撃』くらいは」


「………………」


「やっぱり信じられないよね? まだ私を魔法使いだと思っている、あなたたちには」


「そうですね。私の能力を簡単に真似できる。なんていきなり言われても」



「そう。だったら、見せてあげるよ」


 そう言って、私は目を閉じ、短く深呼吸をする。


『ふぅ~』


 そして、私は自身の中の『Safety安全 device装置 release解除』する。



 第一層、二層、―― 三層



「それじゃ、いくよっ」


 そう宣言をして「グググ」と後ろ脚に力を入れて、一気に開放する。



 シュ―― ン



「っ!? は、速いっ! でも後ろですっ!!」


 ナゴタは咄嗟に振り向き、その長い両剣を真後ろに振り払う。


 ナゴタは、自分のその能力故に、動体視力も異常なのだろう。

 目の前から消えた私の姿を一瞬で、その視界に捉えていたようだった。


 スカッ!


「なっ!」


 ただ、見えていても当たることはなかった。


 後方に振り向いたナゴタの、、私は移動したのだから。


「よっ!」


 私は無防備のナゴタの背後から、その細いウエストに腕を回し、持ち上げる。

 その際「たゆんたゆん」としたものが、腕に当たるが気にしない。くっ!!



「な、なにをっ!?」



 私はそんなナゴタの驚く声を無視して、そのままブリッジをするように、


「せえのっ!」


 ブオンッ!


 そのまま背後に投げ飛ばす。


「きゃっ!」


 そんな短い悲鳴をあげたナゴタの姿は、そのまま地面と平行に飛んでいき、


 ドゴォ――ンッ!


「がはぁっ!!」


 ゴナタを囲っている、透明壁に激突した。



「ナ、ナゴ姉ちゃんっ!?」


 その後ろでは、妹のゴナタが姉の惨状を見て叫び声をあげる。



「どう、似たような事なら、私にだってできたでしょう?」


 激突により、息が苦し気な姉のナゴタにそう声を掛ける。



「あ、ありえないですっ! わ、私は確かに見えてて、そのあなたに斬り付けたはずなのにっ! どうやって背後にっ!?」


 悔しそうな表情で、私を見上げながら絞り出すように声を出す。



「さっきも、似たような事言ったと思うんだけど、あなたたち姉妹は、その持っている能力が強すぎるから、それに頼りっきりなんだよ。今回はそのあなたの見えすぎる目が逆に仇となった感じかな?」

 

 アイテムボックスより、リカバリーポーションを出してナゴタを回復する。

 ついでに、姉と妹を一緒の透明壁で囲っておく。



「…………それなら一体どうやって、あなたは消えたのですかっ?」


「さすがに全部は教えられないかな? それではあなた達の為にならないし。う~ん、そうだね、でもヒントだけ教えて上げるよ」


 人差し指を立てて、まだ倒れているナゴタに声を掛ける。



「そ、それは?」


「速さの緩急。それと立体動作かな」


「緩急ですか? それはわかるのですが立体と言うのはどういう事?」


「あ、ええと――――」



 私がナゴタの背後を行った移動は。



 まず、全力でナゴタの背後に回り込むようにスピードを出す。


 ナゴタは、その姿を視界に収めて、直ぐに武器を奮う。

 私が移動するだろう先を『見越して』



 この時この『見越して』が重要になる。



 私の動きが速いと悟ったナゴタは、私の移動先を予想して武器を振るう。

 見てから武器を振るったんじゃ、絶対に間に合わないからだ。



 そして、ここで『緩急』を使って速さを抑え、ナゴタの武器が空振るのを誘う。

 ただ、緩急を使うと言っても、普通の人とは次元が違う動きだ。



 一気にトップギアで走り、一気にローギアに入れるのだから、

 一般人ならその負荷に体が耐えられないし、体への負担が半端ないだろう。

 ただそれが出来る存在が、高ランクの人間とここにいる私なんだと思う。


 それじゃ、立体は?


「それは、上下の動きの事だよ。その動きだって速ければ、視界から見えなくなるでしょ? まぁそれは一瞬だけだけどね」


 そう説明する。


「……………………」



 今回の私の場合は、透明壁をナゴタの上に展開し、そのまま空中に跳躍して、スキルの壁を三角飛びの要領で蹴って、ナゴタの背後を取っただけ。


 それでもさすがにそこまでのネタバレは教えられない。


 まあ、ナゴタだったら、武器を使って急停止したり

 上に飛ぶことは出来ると思うけど。



「あとね、単純なんだよ攻撃が。だから避けられるんだよ」


 続いてその戦い方を指摘する。



「た、単純って、そんな次元の速さではないでしょ、私の攻撃はっ!」


「まあ、それはそうかもしれないけど、私にはどこから攻撃が来るのか。どのタイミングでくるのかが大体わかっちゃうんだから仕方ないよ。それと、わざと隙を見せて、私への攻撃箇所の誘導もしてたし」


 姉の疑問に対して、私はそう答える。


「……………………」



 確かに姉のナゴタの攻撃は、この世界ではきっと最高峰のスピードだろう。

 一瞬でも気を抜いたら確実にやられる。



 なら、私はその鋭い攻撃を躱し続けられたのか?



 簡単に言えば、誰しもが普段何気なくやっている『予測』をしただけ。


 『予測』と言うのは、予想や予知の様な、曖昧で、自分主観のものとはまるで違う。データや経験則などからくる、もっと確かなものだ。



 ただその『予測』の精度が、私は段違いだったという話だ。



 経験なら十数万以上のトッププレイヤーだった頃の戦闘経験が、

 データなら、私は相手に与えて、それを収拾し精査し終えている。

 私の動きが、相手の動きに繋がるように、データを集めながらだ。


 その他にも相手の感情や、体調、利き腕、武器、環境。

 など膨大にあるが、今は割愛する。



 そんなわけで――――



「一体あなたは何者なのですか? ただの冒険者ではないはずですっ!」


「通りすがりのただの冒険者だよ。何者って言うけど、あなた達姉妹も、充分その何者に分類する強さだと思うよ? それなりだったし」



「それなりって、一体私たちが、どれ程の経験をしているとっ!」


 今度は私の言葉に鋭い視線を向けてくる。


 だたその憎む様な鋭い視線を私は受け止める。


「さあ? それなりは、それなりだよ。経験? あなた達姉妹がどれほどの戦闘を経験したかわからないけど、恐らくその経験だけは、私の方が数万倍は上だと思うよ」



 そう事実を告げる。


 事実と言っても、この世界の話ではないけど、戦闘、戦場の経験は確かに私の中にある。それだけは間違いない。だから私はそう告げた。



「言うに事欠いて、数万ですか、信じられると思いますか? 私たちとそんなに年が変わらないあなたがそんな事を言っても」


「んん、別にいいよ。疑われるのは、あなたの言う通りだと思うし。それに別に自慢したいわけでもないし。だからこの話は聞かなかった事にしていいよ」


「はぁ、あなたみたいに若くて強い冒険者もいて良かったわ。なら、もうこれで終わりにしましょう? あなたの実力は十分わかったから、それでいいでしょ?」


 勝手に話を纏めようと口を開く。


 そんな、ナゴタ姉に私は――


「まだ終わってないよ。勝手に納得されても困る」


 睨むように短く告げる。


「はいっ? だってもうその必要は。ゴナちゃんも納得してるはずですよっ!」


 わかりやすく焦ったように目を見開いてそう叫ぶ。


「それは、あなたたち姉妹の事情でしょう? 私は別に納得してないし」



 そう。


 この姉妹は勝手に襲ってきておいて、それで負けたから、はい終わり。

 なんて許せるわけがない。


 それにこの姉妹は、ユーアに危険を及ぼす可能性がある存在なのだ。

 このまま終わりになんかさせないし、私にはそのつもりもない。



「そ、それはそうですけど、理由は? それに負けた私たちに何をすると?」


「ああ、ワタシも負けを認めた。だからこの壁をどけてくれないか?」


 姉のナゴタは、私のその態度に少し怯えたように。

 妹のゴナタは、まだよく状況がわかってはいないみたいだった。



「あなたたち姉妹は敗北から、私の『強さ』を認めただけ。私の存在を認めた訳じゃない。だから、これから、あなたたちには、私の存在を知ってもらう。その精神と身体に私の存在を教えてあげる」


「「っ!!」」



 そう言い放ち、透明壁の中にいる双子姉妹に向かって足を進める。


 きっとこの姉妹はこのままでも、暫くはちょっかいを出しては来ないだろう。



 でも仮に、この姉妹がこれから強くなって自信を付けたら?

 他に強い仲間を揃えて、また襲ってきたら?



 そうならない為にも、私は強さだけじゃなく、を、この姉妹に「絶対に勝てない」「絶対に逆らわない」「この人には、何に置いても絶対に敵わない」と認識させることだ。



 だから、私は二人に向かって歩いていく。

 ユーアとの生活の障害の可能性を取り除くために。



 『さあ、これからはお仕置きの時間だよ』


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