第305話結局集合するシスターズ




「結構遅くなっちゃったけど、ユーアたちは先にご飯食べててくれたかな? 一応帰りが遅い時は食べてていいって伝えたけどどうだろう?」



 すっかり陽が沈んだ、街の民家の屋根を走りながら呟く。


 大豆屋工房サリューの店主とその娘、マズナさんとメルウちゃんとは、あの後細かい予定を決めて別れた。そしてルーギルにもその内容を話した。


 マズナさんたちの方は、数日後に孤児院の子供たちを連れていく話をした。

 それと、スラム街から数名の人間を連れてくることも。


 ルーギルの方には、大豆の製法を、ある程度でも知ってる冒険者がいないか探してもらうように頼んだ。


 後は子供たちだけでの店番だと危険があるかもなので、ボディーガードとして数名の冒険者を用意してもらう事にした。依頼として。


 ただこれに関して、ルーギルが言うには


『この街の英雄さまのお前が絡んでるんだから、おいそれとその店にちょっかい出す奴はいねぇだろッ。あんま心配するなッ』


 だった。


 ただ、それでもマズナさんが店を離れたら子供たちだけになる。

 私もそうだけど、マズナさんだって心配になるだろう。娘を残して。


 本当にルーギルの言う通り、何もないかもしれない。

 それでも何かしらの予防策を打つのは私の性分だ。


 それこそ、何もしない事こそ後悔をするんだから。




「あれ? ナジメじゃない?」


 屋根の上を駆けている最中、見知った小さな背中の衣装の人物を見つける。


 冒険者ギルドに指導に行っていたナゴタたちは、さっきいなかった。

 恐らく、私がメルウちゃんのところで片付けしてる間に帰ったんだろう。



「お~い、ナジメぇ~」


 ちょこちょこと夜道を歩くナジメに声を掛ける。


「ん? なんじゃ、ねぇねも今帰りなのか?」


 上を見上げて、私に気付くナジメ。

 気のせいか疲れている様に見える。


 トンッ


「そういうナジメも随分と遅かったんだね?」


 ナジメの前に降りながらそう返事をする。


「う、うむぅ。あの後マスメアにお替りをされてな……」

「お替り?」

「うむ、ねぇねの代わりという訳じゃな」


 「はぁ」と短く溜息をついて答えるナジメ。


「あ、もしかして、私の代わりって――――」


 その一言で、ふと思い出す。

 ナジメが私を変態から救ってくれたことに。


 『変態』の能力の効力を知らずに使い、胸とお尻以外の肌を露出をしてしまった私に、マスメアが抱きついてきたのを、ナジメのある一言で助かったんだ。


 『わしが後で相手するから、ねぇねから離れてくれんか?』


 の自己犠牲による一言で。


 それでナジメは今の時間まで、マスメアに可愛がられていたんだろう。

 だからお疲れ気味な表情なのだと察する。



「…………お疲れさま」


「う、うむ。あまり気にせんでも良いのじゃ? わしは晩飯まで馳走になったからのぅ。ただし、マスメアに食べさせてもらったのはキツかったのじゃがなぁ、その後も体を……」


 最後、呟くように話したナジメは遠い目をしていた。

 そして、その髪は微かに濡れていた。まるでお風呂上がりの様に。


 なのでその光景を思い出さないように頑張っているんだろう。


 中身106歳なのに、幼児の様な扱いをされたことを。

 


「……………………」

「……………………」


 私とナジメの視線がぶつかる。


「………………コク」

「………………コク」


 そして無言で頷き合い、この話をやめにする。


 これ以上私に知られて、心に傷を負う必要はない。

 なのでお互いに何も聞かないし、詮索もしない。


 今は、ナジメがナジメのままで、無事に帰ってきた事だけを喜ぼう。



※※



 ナジメと二人、レストエリアの孤児院にユーアとラブナを迎えに行く。


「ただいま…… じゃなくて、お邪魔します」

「お邪魔しますなのじゃっ!」


 私のレストエリアと同じで、靴を脱いで中に入る。

 床には少し柔らかいカーペットが敷いてある。



「あ、スミ神さまがきたよっ! ユーアお姉ちゃんっ!」



 入ってすぐ 小さな女の子が私たちに気付き「トテテ」と奥に駆けていく。

 その様子から、ユーアたちはどこか別の部屋にいるんだろうとわかる。


 大型のレストエリアは、廊下を挟み、入ってすぐに大広間になっている。


 その広間には、みんなで座れる大きな丸テーブルが置いてあり、部屋の隅には、ちょっとした寝転べるスペースがある。


 そしてそれを中心として、広間の脇には廊下を挟み、キッチンやお風呂、トイレやクローゼットなどがある。他にはお手伝いさんの部屋や、応接間のような部屋もある。

 


 なので入ってすぐにある程度は中を見渡すことが出来る。

 そこにユーアとラブナが見えない事から、どこかの部屋に入っているとわかる。



「あ、スミカお姉ちゃんっ! お帰りなさいっ!」


 さっき呼びに行った女の子とユーアが一緒に部屋から出てきた。

 その扉から、湯気が立っているところを見ると、


「ほら、ユーア。いくら快適お家でも裸だったら風邪引いちゃうよ?」


 ユーアを呼びに行ってくれた女の子を撫でながら、ユーアにタオルを渡す。

 急いできてくれたとはいえ、さすがに濡れた体で全裸では体に良くないだろう。



「ありがとうスミカお姉ちゃんっ!」


「あれ? もしかしてお風呂の最中だった?」 


 濡れている髪と、色々と平らな体を見て聞いてみる。


「うん、みんなに使い方を教えながら入ってるんだよっ!」

「あれ? ちょっとタイミングが悪かったね。それじゃラブナは?」

「ラブナちゃんは男の子を入れてるよ? 少しづつだけど」

「それじゃシーラも一緒なんだ」

「うん、シーラちゃんもボクと一緒で女の子担当なの、今日は」

「あ~、だったら帰ってからでも………… ん? どうしたの?」


 グイグイと私とナジメの背中を押してくる、数名の男の子と女の子たち。

 みんな微かにいい匂いがするから、お風呂を終えた後だろう。



「スミ神さま、中に入ろうよっ」

「中でナジメちゃんともお話しようよぉっ!」

「ボクが飲み物持ってきますっ!」

「さ、さっさと入りなさいよっ! みんな待ってるんだからねっ!」


 振り向いた私を見上げて、笑顔でそう言ってくれる子供たち。


 なんかユーアとラブナみたいな口調の女の子がいるのは、きっと真似をしてるんだろう。世話をしてくれる二人のお姉さんに憧れて。


『こうやって、シーラも含めて次の世代の子供たちに繋がってくるんだね。ユーアが面倒を見てた子供たちが真似をして』


 色は違うが、ユーアと似たような髪型の小さな女の子。

 小さなウサギのぬいぐるみを持った、仁王立ちの女の子。


 そんな真似をする二人を見て、憧れの二人のお姉さんを誇りに思うし、誰かに自慢したいと思う。そして、私も真似されるような、憧れの人間になれればと思った。



「うん、それじゃ落ち着くまで中でおもてなしを受けようかな?」

「うむ、わしは今日は色々あったので、少し子供と遊んで気を晴らすのじゃっ」



 子供たちに盛大に出迎えられ、お風呂が終わるまで寛ぐことにした。





 子供たちはユーアもラブナも含め、晩ご飯を済ませたらしい。

 なので、この中で食べていないのは私だけだった。


 それを聞いた子供たちが、すぐにお盆に乗せた晩ご飯を用意してくれた。

 作ったのは子供たちではなく、ナジメのとこの二人のメイドさんだった。

 当初の予定通りに、夕方に来てくれたそうだ。


 レストエリアの入場制限をアンロックにしといて正解だった。

 じゃなきゃ、私が来るまで外でずっと待ちぼうけだっただろう。



「スミカお姉ちゃん、お待たせしましたっ!」

「スミ姉とナジメ、今終わったわよっ!」

「あ、スミ神さまとナジメさま、こ、こんばんはっ!」

『がうっ!』


 笑顔の子供たちに見守られて、晩ご飯を美味しくいただいた後、食後のお茶を飲んでいるとユーアとラブナとシーラのお姉さん3人が、子供たちに囲まれてお風呂から戻ってきた。



「お疲れさま、ユーアとラブナとシーラ、って、ハラミも入ってたのっ!」 

「うむ、お疲れなのじゃっ! 三人ともっ!」

『わうっ!』


 子供たちだけだと思ったら、ハラミが後ろから姿を現す。

 そう言えば姿が見えないなとは思ってたけど。


『だから時間がかかってたんだね。ハラミの毛を乾かすのは時間かかるからね』


 ふさふさの白い毛並みを撫でながらハラミを見た。



「それじゃユーアも来たし、そろそろ帰ろうか? ナジメは今晩どうするの?」

「うむ、わしは今夜ここに――――」


 ピンポーン!


「あ、誰か来たみたいです。スミカさまとナジメさま」


 話の途中で、メイドさんがチャイムに気付き玄関に向かう。


 すると――――



「お姉さま。そしてユーアちゃん、ナジメもラブナもこんばんはです」

「お姉ぇたちっ! こんばんはだなっ!」 



 今日はすれ違いばかりで、結局会えずじまいだった、ナゴタとゴナタを連れてメイドさんが戻ってきた。


 何だかんだで、バタフライシスターズが勢ぞろいした瞬間であった。


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