第306話新たな神さま誕生と夢物語




 一度帰ったナゴタとゴナタは、家に戻っていないラブナを迎えに孤児院まできたらしい。今日の予定を知っていたので。



「は、初めましてシーラです」



 一応、孤児院の年長者。そのシーラがナゴタとゴナタに挨拶する。

 初対面で、しかもラブナの師匠でもあるから気を使っての事だろう。


「初めまして、お姉さま率いるバタフライシスターズのナゴタと言います」

「初めまして、シーラちゃんっ! ワタシもメンバーでゴナタっていうんだっ!」


 丁寧な物腰の姉のナゴタと、初対面でもいつもと変わらないゴナタ。

 スラムのボウとホウの双子姉妹とは正反対だ。



「は、はい、お話はユーアお姉さまたちから聞いています。乳神さまっ!」


「え?」

「はいっ?」


「ラ、ラブナお姉さまと一緒に暮らしているんですよねっ? ナゴタさんたちは」


「は、はい。そうですね」

「う、うん」


 何か一瞬おかしな単語が聞こえたけど、何事もなかったように進めるシーラに、首を傾げながら話を合わせる姉妹。



「こ、子供たちも見たいってずっと言っていたんですっ! お噂を聞いた時から」


「え? 見たいですか? 会いたいではなくって?」

「見たい? う~ん、何か変わってるなぁ。 それで満足したのかい?」



 初対面の挨拶の流れとしては、何か不穏なものを感じるナゴタたち。

 周りの子供たちの視線もどこかおかしい。


 ナゴタたちを見ているようで、視線は若干下がっている。



「は、はいっ! 十分に素晴らしいですねっ! 乳神さまの『乳の神』と呼ばれる所以の、その豊満で豪快で伝説級の胸はっ!」


「は、はぁ? シーラあなたは何を言ってっ!?」

「む、胸の事だったのかいっ! 見たいってのはっ!?」


 初対面のナゴタとゴナタにそう言い切ったシーラの目は、姉妹の胸部に釘付けだ。そして周りの子供たちも男女関係なく、下から胸部を凝視している。

そんなみんなの目は『◎ ◎』になっていた。



『こ、これはあれだ、きっとまたラブナの仕業だ。私と同じように、過剰に身内を褒めたたえた結果として、また神さまが誕生したんだ……』


 気が付くと姿が見えないラブナを探して、そう思うのであった。






 ついでだという事もあり、姉妹も含めて今日の出来事と予定を話した。


 ナジメは土地の購入と、レストエリアの工事。


 私はスラムでの魔物の件と、大豆屋工房サリューのへの仕事の斡旋。

 それと孤児院に子供たちが通う事と、お手伝いが増える事。

 最後は商業ギルドに登録した件と、スラムの土地の購入。


 それを聞いた、ナジメ以外のメンバーの反応は……



「ス、スミカお姉ちゃんっ! スミカお姉ちゃんが何でも出来るのは知ってるけど、あまり無理しないで下さいっ! スミカお姉ちゃんの体も心配だから少しは手伝わせてくださいっ!」


 少しお怒り気味なユーア。


「はぁ、能力が高すぎるのも考え物ねっ! 普通の人たちは半日で魔物を倒したり、街の人たちを救出したり、仕事探すなんて出来ないわよっ!」


 呆れながらも、厳しい口調のラブナ。

 若干涙目なのは、ナゴタたちにお仕置きされたからだ。


「さすがはお姉さま、と言いたいですが、私たちの仕事も気に掛けて、しかも小さいながらも一つの集落を救ってしまう。無茶し過ぎです。もう少しご自身とメンバーの事を考えて下さい」


 丁寧ながらも、視線は厳しいナゴタ。


「そうだぞっ! お姉は強くて頭も良くて何でも出来るけど、全部ひとりで解決するのは悪い癖だっ! 今度からはワタシたちも頼ってくれよなっ!」


 思ってる事が素直に言葉に出るゴナタ。


「う、うん……」


 そんなみんなの反応を見て言葉に詰まって、下を向いてしまう。

 かなりの心配をみんなにかけた事が悲しくて。



 私としては、みんなの事も考えて誰もが救われる行動をしたと思ってた。

 だけど、それは押し付けてるだけで、全部私が勝手にした事だった。


 そこに、相手の意志も想いも含まれていない事に気付いた。



『はぁ、これはソロプレイが長かった時の弊害なんだろうなぁ。全部自分で決めて、最速でそれに向かうって行動と思考が……』


 

 以前ならそれで良かった。

 自分の行動には自分で責任取れたから。



『ただ、今はユーアも含めてBシスターズのパーティーのリーダーだ。要は姉妹たちの見本となるべき存在だ。みんなは私を信じて付いてきてくれる。私はそれを信じて道を示す。それなのに……』


 下を向いていた視線を上げる。

 みんなに過ちを赦してもらうべく口を開く。



「あ、あの私、また勝手な事ばかりして、ごめんね。ただみんなを蔑ろにするつもりもなかったんだよ。ただ助けたいと思って、ただみんなの為だと思って、ただそれも――――」


 出てくる言葉は「ただ、ただ」と言い訳がましく聞こえる。

 ただ、それでも伝えたいと思った。


 みんなの想いを聞いた後でも、私の想いも聞いて欲しいと。



「スミカお姉ちゃんは、ボクたちの英雄さまだけれども、街の英雄さまでもあるもんねっ! だからスミカお姉ちゃんは困った人を助けちゃうし、その後も見捨てない。だからみんなも大好きなんだよっ!」


「え? ユーア?」


「そうね、ユーアの言う通りだわ。アタシたちが心配したって、スミ姉は動いちゃうのよ。だって行動そのものが英雄さまに相応しいからね」


「ラブナ?」


「お姉さまは、私たちの頼りになるリーダーですけども、それだけじゃ収まらない器だと思います。なので、これからもお姉さまの思い通りに行動してください。そこに最善の結果が必ず付いてきますから」


「ナ、ナゴタも?」


「まぁ、大体はみんなに言われちゃったけど、結局お姉ぇは好きにやっていいんだって事だっ! お姉ぇのやる事に間違いないし、ワタシたちも不満はないんだっ! ただみんなを心配する中に、お姉ぇ自信を含めて欲しいってことなんだっ!」


「う、うん、ありがとう、ゴナタも……」


 そう話し終えたみんなの表情は柔らかかった。

 暖かい笑みを浮かべて、私を見つめていた。


 みんなは私に、私らしい行動をしろと言っている。


 ただそれを心配するみんなの気持ちも知って欲しいって意味で、あんな風に厳しくそれぞれが言ってくれたんだろう。

 それに対して文句の一つも言わせて欲しいって。



「ねぇね。お主はいい仲間を持ったのぅっ! それぞれがねぇねを心配しておるが、それでも好きに行動していいと言っておるっ! ねぇねの思うままに、みんなの英雄のねぇねが、正しいと思う事をしろと言っておるのじゃっ!」


 満面の笑みで八重歯を見せながら、最後にナジメが締めてくれる。



「……………うん、そうだね、きっと私はこれからも自分の思うままに動くと思う。それでも信じてくれるなら私は迷わない。その時は背中を預けるかもしれない。自分勝手にみんなに頼るかもしれない。それでも信じて欲しいんだ。だって私のやりたい事は――――」


「スミカお姉ちゃん…………」

「スミカ姉…………」

「お姉さま…………」

「お姉ぇ…………」

「ねぇね…………」



 みんなの顔を見渡して、たどたどしく想いを綴る。

 これから話す事、きっとそれが私の目標と夢だから。



 それは――――



「――――それは、ユーアやみんな、それに関わる全てを守る事が、私の生きる意味。そしてこの先、みんなで楽しい街を、国を、そして世界を創る事が、私の目標だから」



 みんなに見守られる中、今まで伏せていた胸中をハッキリとそう告げた。



「スミカお姉ちゃん、それって…………」


「「「――――――――」」」



『………………』


 楽しい国や世界だなんて、きっと幼稚な絵空事と思われただろう。

 それでも私は考え、そう動いていくと前から決めていた。



 そしていつの日か、なんのしがらみかせもない、私たちだけの自由な国を――――


 

「す、凄いですっ! スミカお姉ちゃんが街を作っちゃうなんてっ!?」

「そ、そうすると、スミ姉が領主になるのねっ!」

「何を言ってるのですか? 女王さまですよ。お姉さまは国を作るのですから」

「そうだぞラブナっ! スミ姉ぇが本気になれば、すぐ国も出来るんだぞっ!」

「じゃったら、わしはねぇねの国の名前でも考えておくのじゃっ!」


 私のそんな突飛な目標を聞いて、ワイワイとおしゃべりを始めるみんな。



「さ、さすがスミ神さまですっ! おっしゃることが神々しいですっ!」


「スミ神さまっ! お国を作っちゃうのっ!?」

「神さまだもん、それぐらい当たり前だよっ!」

「ボクもそこに住みたいなぁ。楽しそうだもんっ!」

「わ、わたしが手伝ってあげてもいいわよっ! 面白そうだしっ!」


 そこにシーラや子供たちも混ざって、更に広がる夢物語。



 聞く人が聞けば、こんな話は骨董無形なおとぎ話だと笑い飛ばすだろう。

 たかが小さな街の英雄が話す、ただの戯言とだと思われるだろう。



『だけど、みんなを見てると、それも出来そうに思えるよね――――』


 私は夢中で語り合うみんなを見てそう思った。



 だってここには既に、みんなが笑顔の小さな世界が出来てるんだから。


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