第50話オークのいるサロマ村に到着しました
一時間後に街の門で待ち合わせ。
私とユーアは冒険者ギルドを出て街の出口に向かって歩いている。
「……スミカお姉ちゃん、そ、そのぉ、ボクが行っても大丈夫なの?」
「うん?」
そう話すユーアは、不安気な表情を浮かべていた。
その様子から言いたい事はわかる。
ユーアは今回の討伐依頼に、
『自分が付いて行っても大丈夫なの?』
を懸念しての事だろう。
私が今回討伐に行く条件に『ユーアの同行』も含まれていた。
ユーアからすれば、討伐経験もない自分が「なぜ?」と思うだろう。
そして「足手まといになる」とも考えてもいるだろう。
私はユーアの『姉』兼『保護者』だと思っている。
本来ならば、同行させるべきではないと思うのが一般的だと思う。
ならなぜ?
私はユーアを立派な冒険者だと思ってるし
冒険者の『パートナー』だとも思っている。
これからも危険な依頼のたびにユーアを街に残してきては、いつまで経ってもユーアの成長の機会はないだろう。
過保護にして、ユーアの成長を妨げるのは間違っていると思う。
それに今回こそ同行させないと、今後も同じことで遠慮するだろう。
『ボクは足手纏いだから、行かない方がいいんだ』てね。
なら、私のやることは決まっている。
ユーアが出来る事を見つけてやるだけだ。
私にとって、
そう自信を持って、ユーア自ら同行を求めるようになってもらうつもりだ。
それに、ユーアの事で
まあ、後は単純に私がユーアと冒険したいってのもあるんだけどね。
ムサイ男ばっかの冒険じゃ流石に気が滅入ってしまう。
ユーアのような癒しも必要なんだよ。冒険には。
いや、私には? かな本当は。
「スミカお姉ちゃん、ボク…………」
「ねえ、ユーアは、私と冒険したくないの?」
自信なさげに下を向いてしまったユーアにそう問いかける。
「…………したいです」
「え、なに? 聞こえないよ。もう一度大きな声で言って」
「ボ、ボクはスミカお姉ちゃんと一緒に冒険がしたいですっ!! 一緒にずっと冒険がしたいですっ!!」
タタッ
ギュッ!
そう言ってユーアは私に強く抱き着いてくる。
「なら、それでいいでしょう? 私と一緒にいこうよ。ユーア」
小さい背中に手を回して、耳元でユーアにそう伝える。
「スミカお姉ちゃん…………」
「それに――――」
「?」
「それに、ユーアが嫌だって行っても、私が無理やり連れて行っちゃうよ。だからユーアの心配は意味ないよぉ~!」
そのまま背中に回した手で脇の下をくすぐる。
「ちょ、スミカお姉ちゃんっ!? くふふふふっ、あはははははっ! や、やめて下さいっ!!ボク、脇はぁっ――――」
そして出発の時間になり、私とユーアは街の出入り口の門に到着した。
全ての不安を取り除けた訳じゃないけど、今はこれでいいんだ。
この依頼で、可愛い妹が成長する姿を見るのも、姉の楽しみだからだ。
※
「オウッ! 嬢ちゃんたちッ! こっちだァ!!」
私たちより先に着いていたルーギルとクレハンは、門兵と何かを話していたようだが、私たちに気付いて手を挙げて、私たちを迎える。
「あれ? まだ時間あったよね。準備終わったの?」
「お待たせしました。ルーギルさんとクレハンさん」
そういう私たちも若干早くは着いている。
それは特に準備がなかったからだ。
でもルーギル達は――――
『うん、大丈夫だね』
どうやらルーギルもクレハンも準備万端のようだった。
二人とも、ユーアが屈んで入れそうなほどのリュックにポーチ。
腕と膝下は皮のグローブにグリーブ。
上半身は胸元だけを覆うような皮ベルトを巻き
表面の急所の部分には金属のプレートがはめ込んである。
意外と軽微な、機動性に趣を置いた装備のようだ。
ただ帯刀している武器は、双剣を使うルーギルは長剣といった類の剣を腰に2本、斥候だったクレハンは短剣を同じく腰に2本差している。
「そう言う、嬢ちゃんたちだって、ちょっと早いんじゃねえかァ! どうしたァ、緊張してんのかァ?」
「――――――」
私たちを迎え入れたルーギルはニヤニヤしながら話しかけてくる。
『はぁ、なんでいちいち煽ってくるのかな? ルーギルは』
「スミカさんたちは、準備の方は大丈夫なんですか? 見たところ手ぶらですが」
クレハンは私たちの姿を見て心配で声を掛けてくる。
ほら、こういう気遣いとかクレハンを見習って欲しいよ。
「さっきも言ったと思うけど、ユーアも私もマジックバッグに近いもの持ってるから大丈夫だよ」
「そうですよね、それは安心しました」
「オラァ、話は道中できるだろォ。さっさと街を出るぞォ」
「はい、お願いします!ルーギルさんとクレハンさん!」
そうして私たち討伐隊の4人は、門兵に挨拶を済まして街の外に出るのだった。
※※
「いやァ、こういっちゃなんだがァ、お前たちと冒険? じゃなかったな。戦いに行くのが楽しみだったんだよなァ! こんな事はアイツらには言えねえがァよォ。不謹慎って奴だァ!!」
「………………」
先頭を歩くルーギルが、なんか一人だけテンションが高い。
「クレハン、武器以外の荷物を一度降ろしてもらえる?」
「はいわかりました。ここでいいですか?」
クレハンは言う通り、背負っていた荷物を全部地面に置いていく。
(でよォ、俺が冒険者だった頃だけどよォ――――)
「うん、ありがとう」
私はクレハンの荷物をアイテムボックスに収納する。
「こ、これは…………随分と容量の大きそうなバッグですね」
(ログマの奴がよォ、あん時に――――)
クレハンの荷物を収納した私は、今度はスキルで視覚化した2畳くらいの平面体を地面100センチ程空中に展開する。
「そしたら、ユーアとクレハンはこれに乗って。私が走っていくから」
「え、スミカお姉ちゃんは走って行くの?」
大丈夫なの? と心配そうに私を見ている。
「大丈夫だよ、ユーア。疲れたら休むから。それにその方が早いでしょ?」
多分、森までは、多くても7~10キロくらいだろう。
ユーアの足で歩いて大体2時間くらいだったはずだ。
なら問題ないだろう。
(そしたら、カジカの奴までもよォ――――)
「スミカさん、本当に大丈夫なんですか? あまりにも疲弊してからの戦闘になったら…………」
「ああ、大丈夫。もしもの時は私が持ってるアイテムを使うから」
「……なるほど。それは心強いですね。色々と」
(でもよォ、俺が間に入らなかったら――――)
そう、アイテムボックスにはまだ大量のレーションが残っている。
回復(小)よりも効果が上位の物も。
「よし、それじゃ、
「え、あ、スミカお姉ちゃんっ! ルーギルさんは――」
「スミカさん、ギルド長が――」
透明壁スキルを操作して並走するように猛然と疾走する。
そして先頭を何か話しながら歩いているルーギルを
今の私は装甲車並みのスピードだっ!
「あっ!? ちょっ!お前らァッ――――――!!」
今の身体能力なら、ペースを落としても10分くらいで着くだろう。
「ね、ねえっ! スミカお姉ちゃんっ! ルーギルさんも連れてってあげようよぉ~!」
「ス、スミカさん、流石にギルド長を置いてけぼりなんて」
疾走する私に、後ろの二人から声が掛かる。
「はぁ」
仕方ないなぁ。
私は街道を外れてグルッと回って土煙を上げながらUターンする。
さながら暴走車のようだった。
ズザザザザ――ッ!!
若干怒り気味な呆れ気味のルーギルの前に到着する。
「お、お前らァ、俺を置いて行く――――」
「いいから早く乗って、その方が早いから」
ルーギルの文句を聞かずに「早くして」とクイっと親指を動かして促す。
「お、おう、悪いなァ! それじゃ、乗らせてもらうぞォ」
ルーギルは確かめるように、恐々と足を乗せていく。
「あ、因みにルーギルはお金取るから」
「ハァッ! なんでだよォ!!」
「スミカお姉ちゃん…………」
「スミカさん、それは…………」
よし、これでさっき煽ってきた
私は視覚化した透明壁(緑)を操作しながら並走する。
タタタタタタッ――――
「それで、どっちの魔物を先に叩くの?」
嫌におとなしく透明壁に乗っているルーギルに聞いてみる。
「お、おうッ、そうだなァ、俺的には『サロマ村』のオーク共を先にやるつもりだァ」
「ふーん、なんで?」
「それはな、ビワの森のトロールが群れてなけりゃァ、先に着くビワでも良かったんだが、それが10体以上群れてとなると、正直キツイ! あんなのは1体だけでも普通は脅威なんだぜ? そんなのに囲まれたらどうしようもねえぞォ」
「ふーん『トロール』ってそんなに強いんだ。でもルーギルなら一人でも倒せるんでしょう?」
そう、ルーギルは現役のCランク冒険者にも勝てるほどの強さを持っている。
それは、私が初日にギルドでCランク冒険者に絡まれた時のルーギルの戦いで見ている。
「まァな。一対一なら下手をしなければなんとかなる。でも今回は群れだかんなァ」
ルーギルは胸の前で腕を組みながら、そう悔しそうにそう話す。
「まずは、減らせる魔物を先にって考えなんですよ。スミカさん」
隣に座るクレハンが次いで説明してくれる。
「オークでしたら、わたしでも相手はできますが、トロールともなると引き付けるので精一杯かと。となると、戦えるギルド長とスミカさんが標的にされて、必然的に二人の危険度が上がってしまいます」
「うん、なるほどね。良く分かったよ」
トロールと言う魔物は、大きさが2メートル以上、10メートル未満の巨人で、力は強いが鈍重で知能は低いらしい。
厄介なのは治癒能力を持っていることで、斥候だったクレハンの攻撃では中々倒せないらしい。 それと夜行性との事。
なので、今日はできればオークを先に討伐して、夜は休み。
次の日の朝に、活動が鈍っているトロールを相手にする。
トロールの数や状況によっては一時撤退も視野に入れてる。との話だった。
『トロールって魔物は大体は私が知っている現代の知識と殆ど一緒だね。』
だったら、私の今の能力でもちょっと面倒かな? 大型の魔物は。
なら
まぁ数にもよるんだけど。
※
タタタタタタタッ――――
「まァ、そういう事だからァ、先に『サロマ村』に向かってくれやァ嬢ちゃん」
ルーギルがボサボサの髪を風でなびかせながら、そう纏める。
「わかったよ。私もそれでいいよ」
私は特に問題もない。
寧ろ都合がいい。
「それでよォ、嬢ちゃん大丈夫なのか? あり得ないスピードで走りっぱなしだけどよォ」
どうやら、並走して走る私を心配しているようだ。
「そうですよ、スミカさん。そろそろ休んだ方がいいんじゃないですか?」
「スミカお姉ちゃん、大丈夫ですか?」
クレハンもユーアも心配して声を掛けてくれる。
私はある程度スピードは落としてはいるが、それでも時速60キロ位はでているだろう。
でも、時間的にはもう少しで到着の筈だ。
その証拠に私の視界にも一度行ったことがある森が見えてきた。
そう、ユーアと初めて会ったビワの森だ。
そして、その森の向こう側がサロマ村があるらしい。
「ありがとうみんな。でもそろそろ着きそうだから心配しないで、それに――」
アイテムボックスからドリンクレーション(ソーダ味)を咥えながら、
「回復しながらだから大丈夫。それで、何処に行くの?」
まさかこのまま敵陣に突撃はないだろうと思い、
ルーギルに聞いてみる。
タタタタタタッ――――
「あァ、それなら森を左に迂回してくれ。それならば森が村の方まである筈だかんなァ。そこで一度様子を見る事にしようぜぇ!」
「うん、わかったよ」
ルーギルの言う通りに左に迂回し、森の外側を走り、オークたちの集落になったであろうサロマ村が遠目に見える森の中まで辿り着く。
元々は、村を守る柵であったであろう、今は大小の木屑になり果てた、その周りを、2メートル程の巨躯の猪に似た顔の口端に牙が生えた、オーク数体が見えた。
さて、私の『
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