第49話討伐隊に志願する少女
「い、いたァ――――ッッッ!!!!」
スミカ達の居所を、冒険者に言って街中探し回っていたのに、まさか同じ建屋内で見つかるとは思いもよらなかった。灯台下暗しとはこういう事だろう。
そんな子供二人はというと――
※
「ぐふふっ!
『むふふっ』
私はユーアの反応が面白くなって、今度は手の甲をさわさわしてみる。
「ぐふふふふふっ!
『…………っ!!』
ヤ、ヤバいっ!!
何言ってるかわからないけど、顔も赤くして笑いを堪えているユーアの反応が超絶おもしろ可愛いんだけどっ!!
はぁはぁ。
な、なんか私変な趣味に――――
「…………なに、やってんだァ? お前らァ」
「はっ!?」
私は誰かの声に正気に戻り、周りを見渡し状況を把握する。
「ル、ルーギルっ!?」
危ない危ない、もう少しで私の知らない世界にいくところだったよっ。
「ふぅ、ありがとうルーギル。今回ばかりは助かったよ」
胸に手を添え動悸を抑えながらお礼を言う。
「…………で、結局、何やってたんだァ? 二人して顔赤くなってんぞォ」
「いいっ!? ちょっとそんな言い方されたらっ! ――」
何かいけないことをしてたみたいじゃないっ!
「べ、別になんだっていいでしょう! わ、私たち何も悪い事してないもんっ! ただユーアの手が小さくて可愛かったから触ってただけだからっ!!」
顔に熱が上がるのを感じながら、子供の言い訳みたいに捲し立てる。
「い、いや、別に悪りぃとは言ってねぇだろォ? ただ気になって聞いただけだぞッ。何やってるかってさァ、だから俺はよォ、別に悪いとは――――」
変な言い訳をする私の剣幕に押されるルーギル。
「な、何でもないよっ! ね、ユーア?」
そう言って手を握ったまま隣のユーアを見てみる。
「え、え、な、なにかな、すみかおねえちゃん」
そんなユーアは、なぜかモジモジしていた。
しかも片言になってるし。
「ハァ、全くお前らは相変わらずだなァ。それでスミカ嬢。ちょっと話があるんだがいいかァ? 時間あんだろッ?」
そう言ったルーギルの両脇には、クレハンとギョウソが並び、その後ろには、さっきまでカウンターにいた冒険者たちが集まっていた。
「?」
一体何の話なんだろう?
※※※※
「と、言う事だァ。どうか手を貸してくれねえかァ?」
私はルーギルから、この街に迫っているだろう危機の話を聞いた。
ビワの森の魔物が減っている事。
そしてトロールという魔物がいる可能性。
サロマ村のオークと全滅した村の事。
そして、その二つの魔物が、次はコムケの街に向かうという推測。
「正直、嬢ちゃんは、この街に来たばっかだろォ?なんも思い入れがねぇとは思う。それでもこの街を助ける為に手を貸してくれねえかァ!ギルドからの依頼として雇うし、それに見合った以上の報奨金も出すッ!だからよォ――――」
「………………」
真剣な目で私に頼み込むルーギル。
その返事はとっくに私の中では決まっている。
だって、この街が危ないんでしょ。
ルーギルはこの街に日の浅い私がなんの思い入れが無いって思ってるようだけど、私はこの数日間で、守る
だからそれらが悲しむのも、壊されるのも見たくない。
それを見て自分の事のように悲しむ少女がいる事も忘れていない。
なので私の返事はルーギルに話を聞いた時から決まっている。
だから――
「別に構わないよ」
端的にそう答える。
「あ、え、いいのかァ?」
「うん、いいけど、条件があるんだけどいい?」
そう、ただしこの条件だけは飲んでくれないと色々正直厳しい。
「わかった。その条件を教えてくれッ。出来る限りの事はするつもりだァ!」
「ん――、クレハンちょっと耳を貸して。皆には内緒の話だから」
私はルーギルではなくクレハンに話す事にした。
「え、わたしでいいんですか? では、失礼します」
呼ばれたクレハンも不思議そうな顔で、私の口元に耳をよせる。
私はルーギルに言うつもりだった条件をクレハンに伝える。
「え、そんな条件でいいんですかっ!? スミカさん?」
「ちょ、クレハン、俺にも聞かせろやァその条件ってやつをよォ!」
それを聞いて驚いたクレハンに、ルーギルがせっつく。
「わ、わかりました、いいんですね?わたしからギルド長に伝えてもっ?」
「いいよ。教えて上げて」
そう言い残し、ルーギルとクレハンはここから少し離れて行った。
誰にも聞かれない為の処置のようだった。
「…………嬢ちゃん、そんな条件でいいのかァ? 正直言うと、被害が減るからこっちとしては逆に有難てえんだけどよォ。けど、まァ、嬢ちゃんの言う事もわかるがァ」
「そうですね、でも余りにも少な過ぎませんか? いくらスミカさんが強いと言っても」
二人が戻ってきて、開口一番そう言ってくる。
「逆に、それ以上だと私が困るしやりずらいんだよ、色々と。その人達とその人数ならば、私は何があっても守れるから。それにやばかったら一度逃げればいいでしょう?その時は私が何とかするし」
私が伝えた条件とは、私の能力を知っている人物と人数。
ここにいて私の能力を知っているのは、ユーアとルーギルとクレハン。
後は、街の外にある集落にいるスバとその数名。
その中で私が信用を置いているのは、ユーアは勿論の事、ルーギルとクレハンだけになる。そして、ユーアを除いたこの二人ならば、ある程度能力を見せてもいいと思っている。
アイテムボックスの中味に関しても、スキルに関しても。
正直スバの事はよく知らないので今回は数に入れたくない。
大丈夫だとは思うけど、一応ね。
「で、なんで俺じゃなく、クレハンに先に耳打ちして話したんだァ?」
なんか訝しげな眼で、そんな事を聞いてくる。
「え、それ、言わなくちゃダメなの?」
「なァんか、前にもこんなことがあったんだよなァ、確かァ、冒険者の登録書類を目の前にいた俺じゃなくて、クレハンに渡したんだっけなァあん時は。クレハンの方がギルド長らしかったとかなんとか。今回も同じなのかァ?」
図体の大きい脳筋だと思ったけど、そんな昔の事を根に持っているの?
なんて思っていたけど、ルーギルはこれでも頭も切れるし意外と思慮深いし胆力もある。私はそうルーギルを評価している。
「臭そうだから」
「はぁ!? なんだってぇ?」
「ルーギルはクレハンに比べて、なんか臭そうだなって思っただけ。見た目不潔だし。だって耳元で話すんだもん、気になるでしょ乙女としては。その点、クレハンは服装も髪型も清潔で話しやすかったんだよ」
私は思っていたことを全部暴露した。
「ハァ――――全くお前ときたらこんな大変な時でもよォ」
「フフフっ。スミカさんありがとうございます。わたしを選んでくれて」
「ス、スミカお姉ちゃん、そ、それは…………」
「うううっ」
だって仕方ないでしょ?
ルーギルは顔は悪くないけど、見た目は野生児で服だって髪型だってボサボサだし。
その点クレハンは、なんかこう気品があるっていうか、いいとこの執事っぽいんだよね? 見た目も物腰も話し方も。
この二択だったら、普通はクレハンを選ぶよね?
私は間違ってないよね?
「はぁ、まあいいやっ――――」
ルーギルはガシガシと頭を掻く。
「条件はそれだけでいいんだなァ?なら後からコイツらにどうなったかを話しておく。それでユーアも連れて行く。それで間違いねえなァ?」
ルーギルは私に確認と、そして集まっている冒険者への説明をしてくれるらしい。
「うん、それでいいよ」
「で、出発はいつにするんだァ?準備とか必要だろォ?」
「え、私たちは今からでも大丈夫だよ。荷物の全部はマジックバッグ? に入っているから。それに、この人数なら食料も寝るところも用意できるし」
そう、私は食べ物も住むところも全てアイテムボックスに収納してある。
いつでもどこでも行けるのだ。でもさすがに他の世界は無理だけど。
何て心の中で皮肉を言う。
「そ、それは、さすがスミカさんと言うべきなんでしょうか……」
「はぁ、もうお前たちはなんでもいいやァ。だが、一時間だけ時間をくれねえかァ? コイツらへの説明もあんし、俺らの装備とかも用意しなくちゃなんねぇ」
「う、うん、わかったよ」
言われてみればそうだった。
私たちが異常だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれっ! ルーギルさんっ! 今の話を聞いてると、ユーアも含めて4人で行く話に聞こえたんだが」
そう割って入ってきたのは、冒険者たちを纏めているギョウソだった。
「ああ、その通りだァ。それがスミカ嬢が出した条件だったかんなァ」
そう言ってルーギルは一呼吸置く。
「ここにいる、スミカの嬢ちゃんたちと、俺とクレハンの4人が討伐隊となって奴らを根絶やしにしてくるッ! お前たちは、もし俺らに何かあった時や、討ち漏らしがでた場合はここも危ねえ、その時はギョウソを先頭にこの街を守ってくれやァ! 頼んだぞォお前たちッ!」
ここにいる冒険者たちに、大声でそう宣言する。
「いいいっ!?」
い、いやっ、それじゃ秘密にしてた意味がないじゃないっ!?
絶対に私たちが、新人のくせに調子に乗ってるって思われるよねっ!
こんな小娘に、こんな重大な事を任せられないって言われるよねっ!
そうなるのが嫌だったから、私はこの場は秘密にしたかったのにっ!
『たく、相変わらずこの男はっ!』
私は感情が表に出ないよう、だけど視線はルーギルだけを捉える。
もう何度目になるだろう。
空気の読めないルーギルを睨むのも。
私のその目に気付いたルーギルは、
「うっ、スミカの嬢ちゃん。多分お前が思っている事にはならねぇ。何故ならお前は既に証明しちまったんだからなァ。その強さも心の根も、コイツらによォ」
「そうですよスミカさん。あなたはその年齢でありながら、Cランク冒険者を素手で4人も圧倒したり、殆ど知り合いでもない、潰れそうだった店を家族もろとも救って上げたりしてるのを、ここの冒険者たちもわたしたちも見ているんですから、自信を持って下さい」
続いてクレハンも私に向かって諭すように話す。
「そ、そうだよ、スミカお姉ちゃんっ! スミカお姉ちゃんは凄い事をしたんだよっ! ボクはスミカお姉ちゃんを信じてるから、だからスミカお姉ちゃんも自信を持ってっ!」
ユーアは私にも自信を持って欲しいと言う。
「そうだぜスミカの嬢ちゃんっ! 正直言うと俺も、いや俺たちも付いて行きてえんだっ! 俺たちの街だからな、でも俺たちは足手まとい。それも悔しいが、嬢ちゃんの強さも知っているから、俺たちは嬢ちゃんたちに任せられるっ! そうだろ!お前たちっ!!」
そう言ってギョウソは多くの冒険者たちに同意を求めるように声を張り上げる。
その途端に――――
「っ!!」
「「「うおおおおぉぉぉっっっ!!!!」」」
私たちはこの建物が割れんばかりの大勢の歓声に包まれる。
「嬢ちゃんすまねえ、俺たちが弱いばっかりに危険な事に突っ込む事になって」
「お、おれたちの代わりに奴らを根絶やしにしてきてくれっ!」
「ヤバかったらすぐに逃げてこいよっ! 生きてればなんとかなる!」
「ユーアちゃんは置いていってくれないかなぁ?」
「スミカさん、ユーアちゃんっ! 帰ってきたらご馳走するから、無事に帰ってきてくれよ!」
集まっている冒険者たちは口々に、声援や励ましや私たちを気遣う言葉を掛けてくれる。
なんか
「ね、スミカお姉ちゃんっ!!」
わかるでしょ?
みたいな目でユーアはニコニコと私を見ている。
私はそんなユーアの頭に手を置きながら、
「そうだね、私もまだまだ
そう自然と笑顔が出てくるのだった。
さあ、お姉ちゃんっ!
頑張っちゃおうかなっ!!
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