第6話野盗相手に無双する蝶の少女




『……うっかりじゃ許されないよ? ユーアとの話に夢中で警戒を少し解いてた。 私、なにやってんだろう……』



 本当に迂闊だった。

 守ると決めたそばから油断した。


 私たちを囲んでいる人数は10人。

 その数を索敵モードで確認する。



 それにしても、


『子供二人襲うにしたって、この人数は普通じゃないね』


 どこか疑問に思いながらも、ユーアを守るように前に出る。


「ス、スミカお姉ちゃん……」


 背中に隠したユーアは、震えた声で私の衣装をぎゅっと握る。


『怖いよね? やっぱり…………』

 

 私だってユーアとは違うけど、男たちの登場に些か混乱している。

 子供のユーアなら尚更恐怖を感じている事だろう。


 いや、子供とか大人とかは関係ない。


 いきなり、武装した男たちに囲まれたのでは、それが当たり前の反応だろう。



「――おいおいおいっ! ガキんちょ二人じゃねーかよぉッ! 誰だパーティーで入ってたのを見たのはよぉッ!」


 男たちの後ろから、ひと際ガタイの大きいボサボサの短髪を、獣の皮か何かでオールバックにしている男、多分リーダー格だろう男が前に出てきた。



「す、すいません親分っ! た、確かに冒険者らしき奴らが森に入ってたんですっ! も、もしかしたら奴らまだ森を探索中だと思いますっ!」



 男たちのそんなやり取りから、こいつらは装備や所持金などを奪うために、森から出てくる冒険者を狩っているのだろうと推測する。



「なら、後ろの小っせぇガキんちょは腰の布袋を奪えやッ! 少しは金になんだろ。 前のおかしな格好のガキは身ぐるみ剥いでおけッ! 多少は高く売れそうだかんなぁッ! 後は殺して魔物のエサにでもしろやぁッ!」


 そう言い残し男たちの後ろに下がっていった。



 私はチラと後ろのユーアを振り返って、様子をみてみる。


『っ!』


 顔が真っ青だ。

 私の服の裾をギュッと握ってガチガチと歯を鳴らしている。


「う、う、う…………」


 小さな体の全身が、恐怖でカタカタと震えてるとわかる。

 それが衣装を通して、私にまで伝わってくる。

 もう片方の手は、腰の布袋をギュッと力強く隠すように抑えている。


 きっと奪われたくないんだろう。

 せっかく危険を冒してまで、採取してきた大切な物を。


『――――ユーア』


 ずっと私の前で笑顔だったこの少女が、ここまで怯えている。

 さっきまで私に見せてくれた、無邪気な笑顔の面影もない。


『絶対に、コイツらは――――』


 許さない。



 私は奴らの動きに注意を払いながら大きく深呼吸する。

「スゥ――、ハァ――」多分大丈夫。


 ここに来るまでに、殆ど自分の状態は分かった。

 森でオオカミの魔物数匹を圧倒し、殲滅した事から把握した。


 私の強さはこの世界でも問題ない。

 だからこんな男どもに私が負けるはずが無い。



「――――ユーア、私の背中におぶさって、しっかり掴まっててくれる? 振り落とされないようにギュッと掴まっててね」


 怯えたままのユーアに笑顔で話しかける。

 そしてユーアがおぶさりやすいように腰を少し屈める。


「は、はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」


 戸惑いながらこんな状況でも言うことを聞いて背中におぶさる。


 うん、ユーアはやっぱりいい子だねっ!


『ん?』


 でもものすごく軽い……。

 キチンと食事できてないんだろうか? 体も小さいし。


 って、それは後回しだ。


「それと、私がいいって言うまで目を閉じててくれるかな?」

「は、はい、わかりましたっ!」


 ユーアが背中に強く抱きついたのを確認して、前傾姿勢になる。

 後ろ脚には「グググッ」と力を入れる。


『速攻でっ――――』 


 そして溜めた力を一気に開放して男どもに疾走する。

 ローギアから一気にトップギアに。0~100に。


『――――潰してやる。ユーアの為にっ!』


 シュ―   ン



「「なぁっ!!」」


 奴らは私の動きに驚くだけで、咄嗟に動けるものがいなかった。


 私はアイテムボックス内からあるものを中空に出現させた。



 その瞬間――――



「「うわっ!な、なんだっ! め、目が痛えぇっっ!?」」


 私を中心に膨大な光が溢れ出し、男どもの目を不能にする。



 『閃光手榴弾』


 これも私のゲーム内のアイテムの一つ。


 ただ眩いだけの強力な光を放つだけで音響効果はない。

 それでも一時的に視界を奪うことが出来る。


 奴らは私の動きに驚き、私を注視していた為、中空に投げた閃光弾の光をまともに浴びる事となった。


「よしっ!」


 そのまま私は奴らの目前まで迫り、スキルを発動する。



 【透明壁LV.1】


 1.『自身の半径2メートルの障壁を張れる』

 2.『自身の半径2メートル範囲にて操作可能』



 手を伸ばし、前面2メートルに透明壁スキルを展開する。


 そのまま私は一足飛びで、奴らの間合いに深く入る。

 もちろん背中のユーアを振り落とさないようにだ。


 そして体を捻り透明壁スキルを振り抜く。



「ぶっ飛べぇっ!!」


 ブフォンッ


「がはぁっ!!」


 その手応えで奴らの一人を吹っ飛ばす。

 最初の男は10メートル程吹っ飛んでいった。


「よしっ!」 一人目っ!


 未だ動けない男たちを確認し、更にスキルを振り回す。

 まるでハンマー投げのように。


 それを男たちの中心で独楽コマの様に。


「んんんんっっ!!」


 ブフォンッ!


 そんな凶悪な風切り音をした私の攻撃は――――


 ドッ、ガガガガガッッ!!!!


 近くの男たちを巻き込み横薙ぎに吹っ飛んでいく。

 まるで大型のジープに跳ねられたように。


「これで5人っ!」


 残りの奴らは未だに閃光手榴弾により行動不能な状態だ。

 まだまだ私のターン。


 私は更に追撃をする為、男たちを視界に映しスキルを振り回していく。


「「ごあっ!!」」

「「あがっぁっ!!」」

「「ぐはぁっ!!」」



「――6、7、8、9、あと1人っ!!」 


 私は呟くように打っ飛ばした男を数えていく。

 これでユーアを怖がらせた奴らは最後の一人を残すだけだ。


 ブフォンッ

 スカッ


「えっ!?」


 だがラスト一人への攻撃だけは、後ろに飛び跳ねて躱されていた。



『ああ、そういえばがコイツが残ってたっけ……』


 そこには不敵な笑みを浮かべる、リーダー格の男だけが残っていた。



「……お前、魔法を使うのかァ? だったら高く売れるぜぇッ!」


 そんな下卑た笑みを浮かべる男がそこにいた。



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