第89話お漏らしじゃないよっ!




 三人仲良く?

 ペロペロされた私たちはそろそろ移動しようと腰を上げる。



「それじゃ、もう行くよっ!」



 もう何度目かの掛け声を、姉妹の二人に掛ける。


「はい、わかりましたっスミカお姉さまっ!」

「ううっ~、 ちょっと湿ってるよぉ~」


 姉のナゴタはすぐさま快活に返事を返す。 

 だけど、妹のゴナタ顔をしかめたままだ。



 よく見ると、真っ赤なホットパンツの前が少し濡れて変色していた。

 それはシルバーウルフに舐められた跡だろう。



 なんだけど、それはまるで――――



「お漏ら――――」

「ちょっと、スミカ姉っ! それは言わないでくれよぉっ!」


 私が最後まで言い切る前に、ゴナタが悲痛な叫びで遮ってきた。

 しかも、ちょっと涙目だった。



 まぁ、さすがにこれでは可哀想だけど……


『う~ん、私は着替えはパジャマしか持ってないんだよね? まさかドライヤーを使う訳にもいかないし。他に衣装は持ってはいるけど、それは「ネタ装備」だし』


 

 そう、私は着替えを持ち歩いてはいないのだった。



 普段着はこの「M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)」だけだし、後は寝間着かイベント限定の「ネタ装備」しかない。


 ネタ装備ならば、色々大量に持ち歩いてる。

 ネコ装備以外にも、あんな物やこんな物まで。

 色々なリクエストにお応えできるほどに。



 それと、仮に着替えがあったとしても、

 それはゴナタと私のランク差を思い知るだけだ。


 その圧倒的で、絶望的なランクの差を――――



『………………』

 私はチラっと、まだズボンの前を拭いているゴナタを見てみる。

 


 ズボンの前を拭う、その振動だけでプルプルと揺れている。

 白いシャツの上からも、はっきりとわかるくらいに。


 まるで、私に見せつけるみたいに…………



 もし私の服を貸したとしても、絶対になんか言ってくる。



 『胸のあたりがちょっと、きついぞっ!』

  とか

 『スミカ姉っ! よくこのサイズ着れるなっ!』

  とか

 『背格好はあまり変わらないのに…… もっと胸元が緩いのないかいっ?』

  とか、


 絶対にそんな不満を言ってくる。

 さも、そのサイズが一般的な様に…… 

 そして私のが小さいって思われる。



 そんな事、悪気が無くっても、面と向かって言われたら、私…………



『かなり凹む。そしてまた引き籠る。かも…… うん』



「どうしました? スミカお姉さま」

「えっ!?」


 悶々とそんな事を考えていると、ナゴタが心配して声を掛けてくれる。


「えっ? なんでもないよっ! それよりも他に着替えは持ってないの?」


 何とか取り繕い、誤魔化すように質問する。



 ただこの姉妹は、結構な容量のマジックバッグみたいなものを持っている。


 あの長柄の武器もそのマジックバッグより出していたからだ。


 予備の着替えなら持っていてもおかしくないはず。

 ナゴタはそう言う準備はしっかりとしてそうだし。



「はい、あるのはあるのですが、ここまでの旅で着替えはもうないんです。それと、もう街までは近いと思ってましたから」


「ああ、そうかなるほど。それじゃゴナタはそれで我慢して。それか湿ってるのが気持ち悪いんだったら、タオルを下着の中に入れて、素肌に触れないようにしたら?」


 未だに顔をしかめているゴナタに、そう提案する。



「ああっ! さすがスミカ姉っ! 強いだけじゃなく、やっぱり頭もいいなっ!」


 嬉々として、ゴソゴソと、持っていたタオルを隙間から入れていく。


 すると


 もこっ。



「「「……………………」」」



 なんか、その部分だけ盛り上がっていた。もっこ〇していた。


 女性なのに、そこだけ異常に強調するように。

 上半身も膨らんで、下半身も膨らんでいた。


 これで、素肌に触れない分、気持ち悪くはないとは思う。

 けれど、年頃の乙女としてはNGだろう。



「………………なんか、ごめんね?」



 その姿に居たたまれくなり、自然と謝罪の言葉が出てくる。



「い、いやっ! スミカ姉のせいじゃないってっ! 着替えを持っていないワタシが悪いんだよっ! だから気にしないでくれよっ!」


「そ、そうですよぉ! スミカお姉さまのせいではないですよっ! 元はと言えば、このシルバーウルフなんですからっ!」


「うん、それでも、ごめんね」


 姉妹は何度も謝る私を必死に庇ってくれた。

 私がタオルを詰めたらって言ったのが、そもそもの発端なのに。



「ゴナちゃんっ! 仕方ないから乾くまで我慢しようねっ! それよりもスミカお姉さま、このシルバーウルフはこのままでいいんですか?」



「う~ん、そうだね、一度会わせてみようかな? 匂いの本人に」


 少しの間悩んでそう答える。


 ユーアも知ってるかもしれないし。

 この懐っこいオオカミの事もなんか気になるし。


 それに一匹でいるって事は、群れからはぐれたんだと思う。

 ユーアと何もなければ、また森に返せばいいだろう。

 トロールがいなくなった後の、平和なこの森に。



 そんな渦中のシルバーウルフは、私たちが本人の話をしているのを気付いたように、こちらに顔を向けていた。



「ねえ、ここで待っててくれる? それとも私たちと行く?」


 腰を屈めて、お座りをしているオオカミに話しかけてみる。



「待ってる?」

『………………』

「行く?」

『わうっ!』


 どうやら、私たちに付いてくる意志があるみたいだ。


 シルバーウルフと言う魔物は、随分と賢い魔物だった。

 人間の言葉を理解するくらいに。



「一緒に付いてくるって、このオオカミ」


 話し合いが終わったので、振り返り姉妹にそう伝える。



「……ねえ、ゴナちゃん、これ本当にシルバーウルフなの?」

「う、うん、なんだか、自信なくなってきたよ。こんなに頭いいなんて聞いたことないから……」


 二人とも私のとのやり取りに疑問を持ったようだった。



「まあ、なんでもいいよ襲ってこなければ。それより言葉がわかる方が、面白いし便利じゃん。さすがに、難しい言葉までは分からないとは思うけどね」


「そうですね。スミカお姉さまが、そうおっしゃるなら」

「ワタシも別にいいぜっ! スミカ姉っ!」


「うん」


 よし、決まった。

 このオオカミ(シルバーウルフ)も連れて行こう。



 そんなこんなで私たち三人と一匹は、

 トロールの巣食っている洞窟に暗闇の中を駆けていく。



『そういえば、作戦会議だったのに、何も話してないなぁ』



 今更になってそんな事を思い出したけど。

 

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