第88話ぺろぺろ魔物に全員完敗!?




「ね、ねえっ、ナゴタとゴナタ、二人とも、こっちに来てくれる?」



 シルバーウルフに覆い被さられ、揉みくちゃにされながら、二人を呼ぶ。



「え、はい、承知しました」

「うん、わかったよっ!」


 二人は返事をしながら、私の近くまで来てくれた。


 途端、


『!? ばぅっ!』


「きゃっ!?」

「あ、ナゴ姉ちゃんっ!」


 シルバーウルフは、近付いてきた姉妹に気付いた途端に、姉のナゴタに覆い被さり、私がされたように至るところを舐められてしまう。



『わうっ! はっはっはっはっ!』


 ペロペロ ペロペロ


「あ、あなたは、一体何をっ! って、どこを舐めているのですかっ!? そ、そんなとこまで舐め上げないでくださいっ!? ちょっ、なぜ、そんなところに、か、顔をっ!? ま、待ってっ!あまり調子に乗ってると、痛い目に合―― あああああっ! そ、そこは、私っ弱、いっ! んんんんんっ!?――――」



「……………………」

「~~~~~~っ!」



 なぜだろう。


 やられている事は私と同じはずなのに、何故かいけない気持ちになるのは。

 一瞬にして、そんなアダルトな空間が出来上がってしまう、なんて。


 私の場合はきっと、大きな犬にじゃれられる子供みたいな感じなんだろう。


 だけどナゴタがやると、思わずモザイクカラーの透明壁で覆い隠したくなる。

 もちろん、視聴制限年齢ありで。



「………………次は、ゴナタね」



 そんなナゴタの光景を見ながら、そわそわしている妹のゴナタに声を掛ける。



「えっ? えええええ――――っ! ス、スミカ姉っ!?」

「なんて、冗談だよ」



 私の言葉に焦っているゴナタに、そう返事をしながらアイテムボックスより、先ほど顔を拭ったタオルを出して、ナゴタに覆いかぶさっているオオカミに近づけてみる。



 すると―――


『ばうっ!』


 そのオオカミはすぐさまナゴタより体を浮かし、そのタオルに顔を近づけ、匂いを嗅いだり、顔を摺り寄せたりしている。


 相変わらず、フサフサの尻尾はブンブンと振られたままだ。



「ふぅ~、ふぅ、助かりました。スミカお姉さまっ。はぁ、はぁっ」


「……………………」

「~~~~~~っ!」


 そう言って、オオカミのペロペロ攻撃から解放されたナゴタは、顔や首筋、胸元まで、テロテロに濡れ光っていた。

 胸元なんかドレスがちょっと乱れてるし、胸の峡谷が深いのも見えるし、きれいな顔も上気してるし。



『ま、まあいいっ、そ、それよりも、これでなんとなくわかったよ』



 未だに嬉々としてタオルにじゃれる、シルバーウルフを見てそう呟いた。



※※



「スミカお姉さま、ありがとうございます」



 ナゴタはお礼と一緒に、使い終わったタオルを差し出してくる。

 タオルはシルバーウルフの唾液でベトベトだった。



「それとも、洗ってお返ししましょうか? そんなに、汚れてしまって……」


 受け取ったタオルを、指先で摘まんでいたのを見て、

 申し訳なさそうにしている。



「ううん、別にいいよ。ナゴタを呼んだのは、私だから」


 私はそんなナゴタに、そう返事を返す。


 レストエリアに入れば、洗濯機があるから洗うのも簡単だし。

 乾燥までして、ふんわりと仕上がるから。とも思ってみたり。



「そうですか、ありがとうございます。それとこのシルバーウルフですが、一体?」


「ああ、多分『匂い』に釣られてきたんだよ。嗅いだことのある匂いに」


「匂いですか? それは一体なんの匂いなのでしょうか?」

「確かにずっと、タオルの匂いを嗅いでいるなっ!」


 未だにタオルをクンカクンカしている、シルバーウルフ。


「私と一緒にいる、小っちゃくて可愛い少女の匂いだと思うよ」


「そんな方の匂いがなぜ、こんなところに?」

「うん、しかも、かなり気に入られてるみたいな感じだなっ!」


「あ、え~とねぇ」


 その二人の疑問に答える為に、もう一枚のタオルを出す。

 もちろんこれも使用済みのものだ。



「この使い終わったタオルに、その少女の匂いが移ってるんだよ。それで、ナゴタもゴナタも、私が渡した時に、顔や首筋まで拭ったでしょ? このタオルで。だからあなた達にも匂いが付いちゃったんじゃないかな? もちろん、私もだけど」


 そう説明をし、再度タオルの匂いを嗅いでみる。


『ふあぁ~』


 ユーアの甘い匂いが微かにする。

 赤ちゃんみたいな、甘い粉ミルクの香りが。



「え、そうなのですか? ならなぜ、その匂いをこのシルバーウルフは気に入ってるんでしょう?」

「あっ!ワタシ。顔だけじゃなく違うところも拭いたんだけど」



「あ~、そこまではわからないかな? でも何かそのオオカミにしたんだと思う。気に入られるような何かをね。それは本人に聞いてみないと分からないなぁ」


 シルバーウルフの、柔らかそうなタテガミを見ながらそう答える。

 触ったら気持ちよさそうだ。色もユーアの髪と一緒の色だし。


『まあ、ユーアはあの性格だから、大体は予想はつくけどね』


 なんて、心の中では思ってみたりする。

 ただ確証も何もないので、ここでは言えないけど。



「それよりそろそろトロールの討伐に向かおうか? このオオカミはこのままでも大丈夫そうだし…… ってあれ?」


 気が付くと、目の前にいたオオカミが消えていた。


「うわっ! ちょ、ちょっとっ!」


 そんなオオカミは、今度はゴナタに襲い掛かっていた。


「もうっ! やめてくれよっ!」


 襲われているゴナタは、内股になって手で塞ぎ、太ももをガードしている。


「うわっ!?」


 だが、全てを隠しきれるはずもなく、執拗な接触に難なく突破されてしまう。



「うんんんっ! ちょっとくすぐったいよっ! や、やめ、内側にその顔突っ込むなっ! って、ベロベロするなっ! ざらざらして気持ち――― んんん~~~ やめろぉ~~っ!」


『がう~~っ!♪』



「…………なんで、太ももをペロペロされてんの? ゴナタは」


 またもや変な空間を見せられる私。

 その原因を姉に聞いてみる。

 


「…………はい。妹は貸していただいたタオルで太ももを拭いていたからです。あの子はホットパンツで素足を出していましたから、汚れが気になって拭いていたんです。それでだと思います」


「………………なるほど」


 その返答に納得し、軽く頷く。

 さっき違うとこ拭いたとか言ってたから。



「み、見てないで助けてくれよぉ~~っ! もうっ! あんんっ!――――」



 これで全員が、あのペロペロオオカミの餌食になった。


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