第430話SS スミカのいない日常その1(師弟編)




 ※澄香たちが護衛依頼で旅立った後のちょっとしたお話です。




「ラブナ、あなたはもう少し周りを見なさい。ガムシャラに相手に魔法を撃てばいいってものではないでしょう? 牽制に使うとか、相手を誘導するとか、そういった使い方もあるでしょう?」


「そうだぞ、ラブナっ! それと撃つ時に視線でどこを狙ってるかわかっちゃうぞっ! せっかく色んな魔法を使えるんだから、もう少し工夫した方がいいぞっ!」


 Bランク冒険者の、アタシの師匠二人に、今日何度目かの苦言を言われる。



「うう~、アタシだってこれでも頑張ってるのにっ! 鍛錬だってずっと続けてるのよっ! そこまで言わなくてもいいじゃないっ!」


 これが忠告や助言だってわかってはいるけど、魔法を外すたびに注意されてたんじゃ、たまった物じゃない。たまには褒めてくれたっていいじゃない。



「ラブナ。鍛錬っていつから続けていたのですか?」


 悔しがるアタシにナゴ師匠が聞いてくる。


「う、半年前からよ。ユーアが冒険者になった時だから」


 プイとそっぽを向いて答える。

 痛いところを突っ込まれたと思って。



「そう、半年なのですか」

「う~ん、半年かぁ」


「そ、そうよっ! 悪いっ!」


 師匠の二人はアタシの答えを聞いて、お互いの顔を見合わす。

 


『うう…… これきっと怒られる流れだわ』


 二人の表情からはわからないが、きっとそうだろう。


 なにせナゴ師匠もゴナ師匠も、小さな頃から鍛錬してるし、あっという間にBランクまで上がってるんだから。

 それがたった半年の鍛錬くらいで、大口叩くアタシなんて許せないだろうし、アタシが逆の立場だったら魔法を撃ち込んで黙らせているところだ。



『はぁ~、まあいいわ。今回はアタシが悪いからお説教を受け入れるわ……』


 クルと師匠の二人に向き合い覚悟を決める。



 そんなアタシは、今日は冒険者ギルドで鍛錬をしている。

 師匠たちが行っている、コムケの街の冒険者との訓練に参加している。


 ユーアもスミ姉もいないし、本当は来たくなかったんだけど、意思とは関係なく、半ば無理やり師匠に連れ出された。


 ただ普段なら、そんな強引に連れ出す事なんてしない。

 今までだって、アタシの意思を優先してくれてたから。


 だから好きな時に、師匠に教わっていたし、必要な時には相談もしていた。

 そんな師匠の二人は、孤児院の事もあるからと気遣ってくれてたんだと思う。


 でも今回は聞き入れてくれなかった。

 ゴナ師匠に担がれて、この訓練場まで連れてこられた。


 きっとその理由は、慰労会で聞いた、スミ姉の話が原因だと思う。

 ジャムの腕輪をしている、おかしな魔物の話を聞いたから。


 あのスミ姉でも警戒する程の、強力な魔物があちこちに現れている事を。

 その話が師匠たちのやる気に火をつけてしまったんだと。



『そんな訳で、アタシも嫌がる振りして付いてきたんだけど、さすがにずっと怒られっぱなしじゃ凹むわよっ! アタシはアタシなりに頑張ってきたんだからさっ!』


 師匠の二人に向き合いながら、内心ではそんな愚痴を吐く。

 お説教を受ける覚悟はあるけど、正直あまり叱られたくない。


 なんて、半ばヤケクソ気味で師匠たちの言葉を待っていると、



「そうですよね、ラブナはたった半年なのに、ここまで魔法を扱えるなんて、本当は褒めるところですよね。さっきから叱ってばかりですいませんでした」


「え?」


 ナゴ師匠は、アタシの肩にそっと手を置いて、笑顔でそう言ってくれた。


「そっか、たった半年かぁ。ワタシたちはそんなラブナが凄いから、きっと勘違いしちゃったんだな。まるで駆け出しだなんて思えなくてさ、ごめんなっ!」


「ええ?」


 ゴナ師匠は、腕を頭の後ろで組み、ニカと微笑んでそう言ってくれた。

 アタシはそんな二人の予想外の言葉に、一瞬思考が固まる。



『え? なに? もしかしてアタシ褒められてるの? 叱られたんじゃなくて、今までの事を認めてくれたの? たった半年でも凄いって?』


 アタシは師匠の言葉に内心ほくそ笑み、グッと拳を握る。

 

 たった半年でここまで強くなった自分に自信が持てた。

 そしてそれを認めてくれた師匠がいた。


『なんだっ! スミ姉も師匠たちも凄いと思ったけど、アタシだって充分凄いんじゃないのっ! このまま修練を続けてたら、もしかしてアタシが一番強くなるんじゃないの?』


 一生憧れて、永遠に追いかけるだけと思っていた、背中が近くに感じる。

 アタシが本気を出したら、すぐさま追いつけるだなんて妄想する。



「さあ、師匠たちもアタシばかりに構ってないで、そろそろ自分の修練を始めなさいよっ! もう半年もしたら、シスターズの中で一番アタシが強くなっちゃうんだからねっ!」


 なのでアタシは、褒めてくれた師匠二人に、指を突きつけそう助言する。

 シスターズの中で、一番の有望株はアタシなんだと自信が持てたから。


「ふふん」


「「………………」」


 それを聞いた、師匠たちは、アタシの顔をマジマジと見た後で――――



「…………みなさん、すいません。これから私たちは街の外に行ってきます。数時間で帰ってくるので、その間は自己鍛錬をお願いします」


「みんな、ごめんなっ! ちょっと先にやらなきゃいけない事が出来ちゃったんだっ! ワタシたちが戻ったら続きをしようなっ!」 


 ナゴ師匠は、他の冒険者たちに頭を下げていた。

 ゴナ師匠も同じように話をしながら、アタシの後ろに回ってきた。


 そして、


 ガッ


「え? ゴナ師匠、なんでアタシを持ち上げるの?」


 来た時と同じように、何故か担がれるアタシ。


「それではみなさん、また後で。それじゃゴナちゃん」

「うんっ!」


 ナゴ師匠がゴナ師匠に目配せする。

 するとアタシを掴む力が強くなり、軽々と頭上に持ち上げられる。



「ま、まさか――――」


 アタシは今までに感じた事のない、強烈な悪寒が背中に走る。

 コムケの街の空を眺めながら、冷や汗が止まらない。



「生意気な事を言う新人冒険者は、街の外までぶっ飛べ~っ!」


 ブンッ!


「うわ――――――っ!!」


 そして嫌な予感は的中し、アタシはゴナ師匠に、盛大にぶん投げられた。


「ちょ、ちょっとやり過ぎよっ! このまま落ちたら冗談じゃすまないわっ! そもそも街の外まで飛べるわけないじゃないっ! アホバカマヌケ――っ! 脳みその栄養が全部胸に行っててそんな事までわからないの――――っ!」


 アタシは宙を飛びながら、師匠たちの悪口をこれでもかと叫び続ける。

 いくらアタシが調子に乗ったからって、いくらなんでもやり過ぎだ。


 フワッ


「お、落ちる~っ! って、あれ?」


 地面に墜落する寸前で、柔らかいものに抱きかかえられる。


 これで一瞬助かったかと思ったんだけど、それは――――



「あら? まだそんな事言う余裕があるのね? ならもう一回ゴナちゃんに飛ばしてもらいましょうか? それか本当に街の外まで飛ばしてもらいましょうか?」


 それは、俊敏の特殊能力でアタシに追いついたナゴ師匠だった。

 しかも誰が見てもわかる程にご立腹のご様子だ。



「あ、いや、さっきのは嘘っ! アタシは師匠たちの事尊敬してるから、スミ姉よりも頼りにしてるから、だからもう飛ばさないでっ! あれかなり恐いのよっ! ううう~っ!」


「ほら、ゴナちゃんも追いついたから、さっきの悪口を聞いてもらって、それでダメなら街の外まで何度か飛ばしてもらいましょう?」


 ジタバタと腕の中で暴れるが、全く意に返さず、後ろを振り返るナゴ師匠。

 するとその視線の先には、街中をブーツで滑走しているゴナ師匠がいた。



「え? ええええ――――っ!」


 そうしてゴナ師匠とも合流したアタシは、何度も宙を飛びながら、街の外まで連れてかれて、お仕置きとお説教を受けた。


 スミ姉も凄いけど、アタシの師匠も充分強いんだって、今更ながらに思った。 




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