第429話救出と生暖かい視線
結局、5人と1匹で洞窟の中に行く事に決定した。
未だ洞窟内で、救助を待っている村人と牛たちを迎えに行く為に。
元の入り口は崩落で潰されていたので、また魔物が開けた中腹から入っていく。
視覚化した透明壁スキルにみんなを載せて運んでいく。
「な、なんだよこれ? なんで地面が飛んでるんだよ……」
黄色に視覚化した、透明壁スキルの上で落ち着かないイナ。
やはりこういった身の危険を感じる時は、本能的に心の拠り所になる、誰かに縋りつきたくなるのだろうか?
イナは父親のラボの背中にしがみついて、恐々と辺りを見渡している。
それに対し、頼りにされた父親のラボは、
「お、俺はもう驚かない、ここまでスミカさんの異常を見てきたからなっ!」
愛娘のイナを背中に、情けないところを見せまいと気丈に振舞っていた。
ただし、その言葉とは裏腹に、娘より腰が引けているのは見ない事にしよう。
で、更にそんな親子の様子を見て、
「ラボさんとイナさんっ! この魔法壁はスミカちゃんの真骨頂ともいえる魔法で、如何なる衝撃にも耐えられ、大きさや形や色も自在で、それに――――」
絶好の機会とばかりに、ロアジムが手振り身振りで説明していた。
自分が贔屓にしている冒険者だと、自慢げに語っていた。
「スミカお姉ちゃん、ここってちょっと寒いんですね」
先頭で、透明壁スキルを操作している私の傍に来るユーア。
そう話す息は白く、ここの気温が低い事がわかる。
「なら、水着を装備したら? あれなら寒さを感じないよ?」
「え? でも、みんなの前で恥ずかしいです……」
モジモジとしながら後ろを振り返るユーア。
私以外の人がいるのを気にしているのだろう。
「うん、まぁそうだよね。なら私とくっつくのと水着、どっちが良い?」
ユーアの態度が可愛いので、ちょっと意地悪して聞いてみる。
「ならくっつのがいいですっ! 水着は恥ずかしいですっ!」
「でしょ? なら私がユーアを暖めてあげるよ。もうちょっとこっちおいで」
「うんっ!」
元気に返事した、我が妹を後ろから抱きしめる。
そして『変態』の能力で装備を広げ、小さな体を包み込む。
「どう? これで寒くはないでしょ?」
「うんっ! 暖かいですっ! ありがとうスミカお姉ちゃんっ!」
振り返り笑顔で答えるユーア。
私は更に体を近づけて、キュっと抱きしめる。
『ふふふ、みんなの前で水着は嫌でも、お姉ちゃんに抱き付くのはいいんだ。まぁ、イナみたいに子供扱いされるのを嫌がる年には早いしね』
ほのかに香るミルクのような甘い匂いと、僅かに感じる体温。
それと、どこか懐かしい温もりを感じて、私たちは先に進んでいった。
――
それから3時間後。
洞窟の中に残された村人と、200頭を超える牛たちは無事に外に出る事ができた。
数か所あった元々の出入口は、崩落の際に埋まって使えなかったので、魔物が開けた高さ20メートルの穴から出る事になった。
運搬方法として、透明壁スキルを数度に分けて、中と外を往復したので、思ったよりも時間がかかってしまった。
その際、村人は問題なかったけど、宙に浮いた牛たちが怯えてしまい、遅くなった理由に拍車をかけてしまっていた。それでも牛一頭も欠ける事なく、救出できたのは僥倖だった。
「本当にありがとうございます、スミカさんっ!」
「スミカ姉、みんな助けてくれてありがとうなっ!」
「「「ありがとうございましたっ!」」」
地面に降りて、落ち着いた頃、ラボを先頭にそれぞれにお礼を言われる。
「うん。それだったら私じゃなくて、ここにいるロアジムのお陰だからね。私は護衛依頼として来てたのに、ロアジムが指示してくれたからね。そうじゃなかったら動かなかったから」
みんなの視線が気恥ずかしかったので、ここはロアジムに振っておく。
この人ならうまく纏めてくれそうだしね、何て期待を込めながら。
「いや、何を言っておるのだ、スミカちゃん。 迅速に行動を起こしたのも、指揮をしてたのも、スミカちゃんだったろう? わしはただ頷くだけで何もしておらんぞ」
「…………え? そうだっけ?」
「うむ、そうだなっ!」
「う~ん、そうだったかなぁ?」
ロアジムの話を聞いて少し考えたけど、何も思い出せない。
人間、都合の悪いとこは直ぐに忘れるように出来ているから仕方ない。
「そうだよ? ボクがイヤな気配がするって言ったら、スミカお姉ちゃんが泊まらないで行こうって言ってたんだもん。ね、ハラミも聞いてたよね?」
『きゃふ~っ!』
人差し指を頬に当て悩む私に、ユーアからも同じ意見が飛ぶ。
そしてその話に鳴いて同意する子犬のハラミ。
「「「おお~~~~っ!!!!」」」
パチパチパチパチパチパチ――――
パチパチパチパチパチパチ――――
更に、今の話を聞いて拍手喝采を始めた村の人たち。
私を見る目がさっきよりも真っすぐ過ぎてなんか恐い。
『うう、こういう反応が苦手だから、だから忘れた振りしてたのにっ! まさかユーアに暴露されるとは…… これからもずっとこんな目で見られるかと思うと、正直居心地悪いんだけど…… なら』
スゥ――――
「「「き、消えたっ!?」」」
『にやぁ』
なので、透明化になり、そっとここから離れる。
一先ずはこれで、私の話題も
なんだけど、
「どこいくの、スミカお姉ちゃん?」
『きゃふ?』
『え?』
なんだけど、探知能力に優れた、我が妹とそのペットにすぐに見つかってしまった。
「う、うんとね、私はお花摘みに行きたいんだっ!」
なんて、それらしい言い訳をして透明化を解き、ユーアの前に姿を現す。
これで誤魔化せるとは思えないけど、咄嗟に出てきた言葉がそれだった。
「え? あ? ボクも洞窟の中で冷えちゃって…… だから一緒にいいですか?」
「へ?」
それに対し、内股をモジモジとさせながら聞いてくるユーア。
その返答と態度を見て、何か変だなと、小首を傾げる。
『なに? もしかしてユーアもみんなに注目されるのが恥ずかしいって事? ここから直ぐに離れたいって事? 珍しいね、コミュ力が高いユーアにしては』
何かを探す様に、ソワソワと辺りを見渡しているユーアを見てそう思う。
「あ、あのさ――――」
そんなやり取りを聞いていたイナが口を開く。
「だ、だったらさ、アタイの家においでよっ! ハラミに乗って行けばすぐだし、そこまでだったら我慢できるよなっ! なっ!」
私とユーアの顔を覗き込んで、急かす様におかしな提案をしてくる。
『ん~、なんでイナの家に行くの? そもそも我慢ってなに? ストレスの事? それにこの話を聞いて、なんでみんながニヤニヤしているの?』
声を掛けてくれたイナは、何故か心配そうな表情だ。
それに対し、他の村人たちは、クスクスと肩を震わせている者もいる。
私はその正反対の態度を見て困惑する。
クイクイ
「あのぉ、スミカお姉ちゃん。ちょっとお耳貸して下さい」
「ん、なに?」
袖を引き私を呼ぶ。
なので、少し腰を落として、ユーアの口元に耳を近づける。
「あのぉ、ここに快適お家、出しちゃダメですか?」
耳元なのに、もの凄く小声で話すユーア。
「え? ここに泊りたいって事? ならみんなと話が終わってからにしようか」
なので、私も合わせて小声で話す。
「ち、違うんです、泊まるとかじゃなくて、今すぐに出して欲しいんです」
「え? なんで?」
珍しく我儘を言う、ユーアの顔を覗き込む。
「だって、スミカお姉ちゃんもお花摘み行きたいんでしょう? ボク、もう我慢できないんだもん。だからすぐに出してくれるのかなと思ったんだけど」
そう言って、また顔を赤らめ、モジモジと内股を擦る。
まるで何かを我慢するかのように。
「あ」
私はそれを見て察する。
そして今までのやり取りを思い出し、ポンと手を叩く。
『お花摘み』
これって、女子がトイレに行きたい時の隠語だったって事を。
この言い訳のせいで、ユーアが勘違いしたって事も。
しかもこんなやり取りが、前にも会ったような気もする。
「ほら、早くしろよな、スミカ姉っ! ユーアちゃんが漏らしちゃうだろ?」
そんな私とユーアを見て、心配そうに催促するイナ。
「スミカお姉ちゃん、出来れば早く快適お家出してくださいっ!」
そして恐らく限界が近いユーア。
すぐにでもレストエリアのトイレに行きたいためか、
もう小声でもなく、辺りを気にせず叫んでいた。
『はぁ、みんなの視線がお礼を言ってた時よりは柔らかくなったけど、今度は子供を見るような、微笑ましい笑顔で見られるのも、結局イヤだなぁ』
なんて愚痴をこぼしながら、少し離れた所にレストエリア出した。
その際にユーアも含めて透明にして、みんなには見えないようにしておく。
「ユーア、あっちにお家あるから、早く行ってきな」
「は、はいっ!」
タタタ――――
そうしてユーアも透明なまま、急いでレストエリアに入って行った。
そんなこんなで一応の解決を見せた今回の事件。
明日はその後処理と、みんなの話を聞いて一先ずは終わりだろう。
『明日の夜には帰れそうだけど、他のみんなはどうしてるのかな? ナゴタやゴナタ、ラブナやナジメ、そして孤児院とスラムの人たちは』
雲が晴れた夜空を見ながら、コムケの街のみんなが気になった。
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