第4蝶 初めての街探索編
第22話異世界に家を建てよう!
私はユーアの住む家の裏の案内された土地をみて、雑木林の一部が影になって見えずらい場所を見つけた。
ここなら多少は目立たないよね?
夜だけだったら通りから殆ど見えないしね。
私はアイテムボックスより『家』を出した。
正確には住むための家を出したわけじゃなく、ゲーム内アイテムの『レストエリア』を出しただけだ。
このアイテムはゲーム内の通常フィールドであれば、どこでも出し入れ可能で、チームメンバーだけしか入れない。
大きさは隊の大きさによって色々ある。
今回は1班隊(5人前後)入れる位のサイズだ。
このアイテムは、簡易な安全地帯にもなり、中での打ち合わせや、アイテム整理、休息などに使っていたものだ。
外見は現代では工事現場などにあるユニットハウスに似ているかも。
これだったら二人で安心して過ごせる。
中にある設備も問題なく使えると思う。
今まで出したアイテムはこの世界に何故か合わせてあって、レーションとリカバリーポーションは味もあったし使用する事が出来た。
これで私の底辺まで下落した株もV字回復だろうっ!
私の株に投資して良かったってユーアに言わせたい。
私を期待を込めて、そーっとユーアの表情を盗み見る。
どうかな、どうかなっ!
その後にくるであろう、ユーアの行動をなんとなく予想してみる。
予想というか、実際は妄想だけど。
「スミカお姉ちゃん、もう離さない大好きっ!!」
ぎゅっと抱きしめてくるユーア。
「スミカお姉ちゃん一緒に住みたくてこんな物まで……大好きっ!!」
涙目で喜ぶユーア。
「スミカお姉ちゃんボクのお姉ちゃんになってください!大好きっ!!」
はにかむ笑顔で手を差し出すユーア。
全部語尾が『大好き!!』になってたけど気にしない。
ああああっ!
どれだろう、どれで来るんだろう?
『はぁはぁはぁ~~~~っ』
「何してるの?」
えっ!?
「何してるの、スミカお姉ちゃんっ!」
ええっ!!
ユーアを見ると少し悲しいような、落ち込んだような表情をしている。
『な、なんでぇっ~~っ!?』
なになにっ! 反抗期!反抗期!なの!?
もうお父さんの入った後のお風呂は入りたくないっ!てやつなの!?
私は予想と大幅に裏切ったユーアの態度に動転して、
関係ないことを考えている。
私お父さんじゃないし。
見た目子供だしっ!
「あ、あのぉ、ユーアさんいかがなさいましたか?」
そんなユーアに恐る恐る聞いてみる。
「わ、わたくしめが、ユーアに何かお気に召さない事でも?」
「だって」
ん?
「だってボクがスミカお姉ちゃんを、おもてなししたかったんです! それなのにこんな凄いの出されたらボクはどうやってスミカお姉ちゃんに……」
「――――――」
私はユーアをそっと抱きしめて、頭をゆっくり撫でる。
やっぱりこの少女は優しすぎる。
自分が喜ぶことよりも私を喜ばせようとしてたんだ。
「いいのよ、ユーア、私はあなたに助けてもらったんだから」
『そう、この世界で自分らしさでいられるのもユーアのお陰』
「スミカお姉ちゃん、でもボクはスミカお姉ちゃんにいっぱい貰ってるし……」
『私はユーアにこの世界で生きる理由を貰った』
「スミカお姉ちゃんは、二回も命を救ってくれて……」
『私はユーアにこの世界で心を救って貰った』
そう私はユーアにたくさんのものを貰っている。
こんなアイテムなどより価値のあるものだ。
でもきっと私がそう言ってもユーアは納得しないだろう。
『だったら――っ!』
私はポンっと手を叩く。
「ユーア、明日はこの街を案内してよっ! 初めてだから何もわからないの。お店とか観光名所とか、色々教えてよ。あとギルドも案内してくれるんでしょっ!」
「はいスミカお姉ちゃん! 明日はボクが案内しますっ!!」
ユーアはいつもの無邪気な笑顔で元気に返事をしてくれた。
※※
「それじゃ中に入ってみようか?」
「は、はいっ!」
せっかく出したという事で、ユーアと二人中に入る。
「…………………」
「ふあぁ~~~~」
中は少し広い1LDkに近い間取りになっている。
右側と左側とでキッチンと居住スペースに分かれている。
ゲーム内ではただの景色だったキッチンには、冷蔵庫、オーブンレンジ、炊飯器などの一通りの生活家電があって、カウンタテーブルから居間を見渡すようになっている。
キッチン手前の扉の奥にはトイレ、洗面所、お風呂と続いている。
「…………うんいいね」
「み、見た事ないのばっかり……」
左側の居住スペースの奥にはクローゼット。
そして4人掛け位のテーブルが部屋の真ん中に設置してある。
「ユーアちょっと使えるか確認するから待ってて?」
「は、はいっ! わかりましたっ!」
ユーアには一度カウンターに座って貰い細かく部屋を物色してみる。
その際にドリンクタイプのレーション(イチゴ味)を渡してあげる。
『さて、何か使えそうな物あるかな?』
私の予想では殆どの物が使えるはずだ。
外から明かりが漏れていなかったから心配したけど
部屋に入ると灯りが点いていた。
その為か電力を使用しているものは全て使えた。
キッチンの蛇口からは水が出たし、浴槽からはお湯も出た。
次に私は一度外に出て建物を見てみる。
やっぱり、窓があるのに灯りが漏れない。
しかも部屋の中も覗けない。
多分ゲーム内では安全地帯の部類に入っていたからだろうか。
「よし、思った通りっ」
私は小さくガッツポーズをした。
ただ、クローゼットと食器棚と冷蔵庫は空っぽで何もなかった。
『布団とか肌着とかタオルが全くない。食器ももちろん無いよね……。布団はアイテムボックス内のシュラフ(寝袋)があるけど他は街で購入するしかないかな?』
探索を終え部屋の中に戻る。
そしてキョロキョロしているユーアに声を掛ける。
「ねえ、ユーア、タオルとか持っている?」
「は、はい持ってますっ!」
「それじゃ、貸してもらえるかな? あ、今日からここに泊まるからユーアの荷物も持ってきてもらっていい? 多いなら私も手伝うけど」
「だ、大丈夫ですっ!」
ユーアはいそいそと外に出て行った。
「さて、それじゃユーアが戻ってくる間にお湯でも張っておこう」
私はお風呂場に向かった。
※
すぐにユーアが大きな布袋を抱いて戻ってきた。
とりあえず部屋の片隅に置いておいてもらう。
「それじゃ、ご飯にしようか。ユーア先に手を洗ってきて」
「はい、スミカお姉ちゃん」
ユーアは外に出ようと扉に向かう。
「あ、ごめん、手はこっちで洗えるから」
私は洗面所に案内する。
「これを下に回す押すと水が出て、上にあげると止まるから」
「スミカお姉ちゃん、ボクだって知っています。」
「あれ? ごめんね、余計な事だったね」
なんだ。この世界でも水道はあるんだ。
ちょっと馬鹿にしちゃったかも。
「こんな、貯水の樽も井戸も無いのにお水は出ないんですっ!」
「ええ――っ!」
無いじゃんっ!!
水道も蛇口もないんじゃんっ!!
ジト目で疑惑の眼差しで見ているユーアの前で蛇口のレバーを押す。
すぐに透明な水が勢いよく出た。
「ほら、出るでしょう?」
私は先に手をゴシゴシと洗う。
「…………本当だっ! お、お家の下に井戸があるんですか?」
「ごめん、それはわからないな……」
本当にわからない。
異世界のご都合チートとして無理やり納得するしかない。
色々おかしすぎて考えるのも疲れるし。
私の存在だってきっと似たようなものだし。
そうして二人で手を洗い居間のテーブルの席に着く。
※
「テテテテッテテ~♪ 今日はユーアが好きなお肉だよっ!」
某国民的アニメの真似をしてレーションを取り出した。
「ビーフステーキ。それとグリルドチキンも付けちゃうっ!!」
「お肉ですか! やった~っ!!」
「それと、デザートはパウンドケーキ!!」
「ケ、ケーキですかっ!? ボ、ボク食べたことないですっ!」
「そう? いっぱいあるからお替りしてもいいよっ」
私もどれも実食はしたことないんだよね。
ゲーム内では味覚なかったし。
「それじゃ、食べよう。せーのっ」
「いただきますっ!」
「いただきま~すっ!!」
ユーアは行儀よく両手で持って、時折「んん~おいしい~っ!」「これもおいしいよぉ!」なんて感想らしい物を言って笑顔で食べている。
「ほら、口の周りにソースついてるよ」
私はユーアの持ってきたタオルで拭いてあげる。
「ありがとう、スミカお姉ちゃんっ!」
「足りなかったらまだあるから言ってね?」
「はいっ、それじゃ――!」
アイテムボックスにはまだ大量のレーションがある。
元々使用頻度が少なかったのもあり、ログボアイテムだったのと、簡単にドロップする事もあって、まだまだあるのだ。
そう売れるほどに。
当面食糧には困らないにしても、私的には少々物足りない。
食卓に並ぶのがこんな味気ない保存食では。
『まあユーアは喜んでいるけど、ここいらも明日以降改善かな?』
※
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした~っ!!」
食事も終わって二人揃って挨拶をする。
「それじゃ、お風呂にするけどユーア着替え持ってる?」
「お風呂ですか!? ぬ、濡れタオルや、川じゃなくて!?」
ユーアはお風呂って聞いてびっくりしている。
「この世界……、じゃなかった、この街の家にはお風呂はないの?」
私はさすがに「川は嫌だなぁ」なんて思いながら聞いてみる。
「普通のお家にはないです。多分貴族街のお家だけだと思います」
「ふ~ん。そうなんだ」
確かに上水道とか下水道とかないんじゃ簡単には入れないよね。
水もそうだけど、薪とか湯を沸かす魔石とかの燃料費が馬鹿にならない。
庶民に位置する人たちには、きっとお風呂は贅沢なものだろう。
「この家にはお風呂もあるから一緒に入ろうか?使い方も教えてあげるから」
「はい、よ、よろしくお願いいたします」
ユーアは着替えを持って恐る恐る私の後をついてくる。
「あ」
「?」
そういえば私は着替え持ってないや。
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